2020年10月の館山、南房総

駆け落ち

ことあるたび私が館山、南房総、九十九里浜方面へ出かけていることを、このサイトを常々ご覧のみなさんは知っているかもしれない。率直に言って、これらの土地、風景、人が好きなのだ。そうでなかったら写真を撮ったりしない。

根本 鷺

振り返れば30数年前、はじめてモデルさんを伴って作品づくりのロケに出かけたのが東金周辺の九十九里浜だった。私は大学生で東京の大田区の風呂なし六畳間のアパートで暮らしていた。京急に乗って三浦方面に通って撮影していたけれど、磯ではなく浜を撮影したかった。しかし関東最大の浜と言ってよい九十九里へ通うには交通の便の問題があり、既にはじめていた撮影助手のバイトやあたりまえながら学業があり腰を据えて九十九里と取り組めずにいた。

そんなとき数年間被写体をつとめてくださることになる方と出会い、九十九里へ行くほかないと思い極めたのだった。撮影前日の夜、第二京浜沿いにあったレンターカー屋で白いサニーを借り、未明の高速をモデルさんが住む街まで走らせた。早朝ピックアップした彼女を助手席に乗せ、東金から剃金、白里、不動堂あたりの浜を撮影しつつ移動した。晩秋で、どんよりした天候だった。

片貝

白いサニーをレンタカー屋に戻したのは午後9時頃だった。アパートに戻ると、ここは暗室に寝起きしているようなものだったから早速フィルムの現像に取り掛かった。135と120と、フィルムを何本現像したか忘れたけれど日付が変わってから眠りについたのは間違いない。

そんなこんなの後、房総半島通いが絶えた時期があったけれど、自由に動き回れる残り時間を思うとどうしてもあの海へ、浜へ行って撮影したいと思うようになった。ところが昨年ひどい台風が安房地域を荒らし回り、そして2020年は新型コロナ肺炎の蔓延で房総半島での撮影が思うように進められなくなった。もう出かけていいよね? みんな私が訪れるのを許してくれるよね? と9月から折を見て撮影を再開した。

白浜 大きな枝
根本 鉄柱
片貝サーファー

房総半島の海で感じた開放感は、同時に海を行けなかった期間がいかに重苦しく行き詰まった感覚であったかはっきりさせた。

房総半島は内房、南端、外房とそれぞれ趣きが違うだけでなく、浜ごと、磯ごとに個性が豊かなのだった。それぞれの浜は砂の厚さが違い、起伏が違い、砂の色が違う。海の波、色、空の様相もまた違う。しかし房総半島以外の海沿いの町、浜、磯とあきらかに異なる共通の何かがあるのだった。これは私の勝手な思い込みに過ぎないかもしれないけれど、好きなのだからしかたない。

根本 河口
砂州

いまだに去年の台風の被害は完全に片付いていない。夏場に海水浴場を全閉鎖していた影響は莫大なものだったし、それ以外でも新型コロナ肺炎が与えたネガティブな影響はいたるところに見受けられる。これから観光シーズン到来とはりきっていた3月以来、非常事態宣言もあってずっと人の行き来が絶えていたのだし。陽光が燦々と降り注ぐ安房南端なのに、どうしても災害と病疫の影がちらりと見えてしまうのだった。それは、これらの地域に通い続けているから見えるものなのかしれない。

余計なことを考えなければ、いろいろあっても平和で美しい土地なのだ。たぶんこれからずっと、この先も。私が力説したところで説得力なんてないのはわかっているし、人それぞれの好ましい場所はいろいろ違いがあってとうぜんだ。まあだけど、房総半島を忘れていたら思い出してもらいたいと切に願う。海水浴も悪くないけれど、これからの季節のおおらかでありながら独特の渋みが感じられる内房、南端、外房はいいものだ。

九十九里
波の速度を超えて

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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