ウエディングフォトと海外の事情

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その業界に精通しているわけでも、実際に海外で開業していたわけでもないから、個人の限られた経験と風聞などから[ウエディングフォトと海外(アメリカ)の事情]を書いてみたいと思う。なぜ[ウエディングフォトと海外(アメリカ)の事情]かというと、日本にはない習慣と業態とスタイルなのだが、もしかしたらアメリカや同様の傾向を持つ他国のフォトグラファーの質と量を底上げしているかもしれないと感じるからだ。

ここ数年間、このサイトでもリアルな場所でも私はアメリカのウエディングフォトについてあれこれ指摘してきた。ストロボのトレンドについて説明する際は、ウエディングフォト業界の重要性を説明した。ところが、これがピンとこない人が多い。

アメリカ合衆国には州、地域といった範囲で営業するだけでなく全米をまたにかけて撮影をするウエディングフォトグラファーがいる。このためウエディングフォトグラファーを検索して料金等を調べたり発注したりするサイトがあるくらいだ。またアメリカほどでないとしても世界的にウエディングフォトを重視する国が欧米圏には多いので、国をまたいでフォトグラファー検索ができたり、以下のサイトでは実際に日本への出張が可能か別として日本円で料金が表示されたりする。しかもファトグラファーが使用している言語まで検索条件にできる。

https://mywed.com/en/United-States-wedding-photographers/

このキャプチャを見ただけで、日本のウエディング写真やウエディング写真業界との違いが理解されるだろう。そして、これまで私がストロボのトレンドとウエディングフォトに密接な関係があると言い続けてきた理由もわかるはずだ。

全米各州にこうした写真を専門に撮影する人たちがいる。トップクラスは全米をまたにかけるレベルから、末はご近所に営業をかけるのに必死の人までいる。上掲のサイトを見ると一時間の拘束で20,000〜40,000円くらいは発注側にかかるの相場で、これとは別に移動費、シチュエーション別の実費や特別料金、プリント納品の形態と数ごとの料金があったりする。

発注側はフォトグラファーを指名して、どのようなスケジュールでどのような写真が必要か打ち合わせし、フォトグラファーは実現可能な線をプレゼンテーションし合意を得られたら見積もりに入り……となる。

求められる写真は、日本の写真館が撮影するいわゆる[記念写真]や集合写真ではないし、バイトが撮影する式と披露宴のスナップ的なものでもない。もちろんこうした写真も必要に応じて撮影するが、記録にとどまらない表現があり、目玉は演出が凝った撮影で内容は映画的なダイナミックさであったりアートっぽい雰囲気を漂わせたものだったりする。

時間単位20,000〜40,000円の撮影で助手を潤沢に使えるか、となる。また凝った演出であっても、映画やCMなどのように時間をかけて準備して時間をかけて撮影できないのも明白。当然のこととして機材の構成を最適化しなければならない。

こうなると、みなさんが大好きな大出力のクリップオンストロボとラジオスレーブ、200〜250Wsくらいの持ち運びが楽なバッテリー式大型ストロボ、300Ws以上のモノブロックの組み合わせや取捨選択がどう考えても塩梅がよい。だから、このどこかで見たようなカテゴリーにProfotoが新機軸を打ち出し、これをGodoxが追い安価な製品を売り出すというのを延々と続けているのだ。

そして本邦の撮影者が、いつまでも戦後リアリズムの潮流を引きずったままウエディングに限らず写真撮影をし、ストロボなど機材の使い方も影響を受けたままなのもわかってもらえるかしれない。

上掲のウエディングフォトグラファーの撮影見本が好みか否かどうでもよい話で、見ていただきたいのは土門拳的な田舎臭くて安っぽいリアリズムとか日本の新聞写真の下手さとかとまったく違うものを志向している点だ。もちろん前述のように日本の結婚写真、結婚式写真とも違う。

これは撮影法と演出だけでなく、現像にも言える。

もういないだろうがRAW現像はごまかしと言い張ったり、未だにRAW現像が不得意とかできないと堂々と言ってしまう人がいる。またそこまででなくても、RAWデータを可視化するための手段から先へ進めずにいる人も多い。誤ったリアリズム信仰だ。

また、最近のRAW現像ソフトに実装されている[スタイル]は、ウエディングフォトを意識したものが増えた。機材だけでなく、ソフトウエアにとってもウエディングフォトは無視できない市場なのだろう。

だからアメリカは素晴らしいという話でも見習えという話でもない。それぞれの表現スタイルには元ネタ・出典があるけれどけっこう多様で、こうしたものをちゃんと撮影しきっているところが面白いし、アメリカの商業写真家の下地とか技術とかを知るショーケースになっていると言える。

世の中でいまなにがどうなっている、を知るとき参考にできるだろう。またどのような手法、技術が一般化しつつあるのかもわかる。

そして新型コロナウイルス肺炎の蔓延で本邦もあちらも苦しいし、これから数年と以後はいろいろ変わるだろうと思わされる。写真のデジタル化が要因として大きかったとしても現在のストロボのトレンドをつくった一大業界が変わるなら、機材メーカーもまた変わらないわけにはいかないだろう。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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