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さあ、なぜでしょうね。この記事は[ライティングの発想法と意図の詰めかた]について書いていこうと思う。
ライティングに怖気付く人、三日坊主で終わった人、機材を買うだけで終わった人は自分の家や職場で部屋の電灯さえ点けたり消したりしないのだろうか。バカにするな! と怒らず、撮影用のライティングとは部屋の電灯を点けたり消したりするのと変わらないものだと認識を改めたほうがよい。
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なぜ部屋に電灯を灯すのか。暗くて視界が確保しずらいからだ。撮影用のライティングは露光するに足る明るさがないため人工の光源を使う。
なぜ部屋の電灯に弱・強のような段階があったり、同じ部屋に複数の電灯があるのを使い分けたりするのか。それを難なくこなしているのはあなたではないか。これこそ照明効果の使い分けであり、視界の確保だけでなく「何を、どのように見たいか。その場所をどのような光線状態にしたいか」を選択している。
こうした生活の基本が万事滞りなくできているのに撮影用ライティングができないのは、ライティングが何か特別のことと思い込んでいるからだ。なかには特別のことと誤解したうえで、軽業師的なキテレツな何かや(私見としてだが場末のスナックのカラオケ舞台のような)赤や黄色や青の光が入り乱れた状態をつくらなければならないと思い込んでいるのかもしれない。
こうした誤解はあなたが悪いだけでなく、アクロバティックな軽業師的なライティングや場末のスナック的なライティングをして殊更特殊な技能を持っている雰囲気だけは醸し出したい「見本をやってみせる人」や、こうやって素人を脅かして商売にしている人にも責任がある。ああいう人たちはサーカスのピエロと同じ仕事をしている、くらいに考えておいたほうがいい。
あなたがやりたいのはライティングなのか、それとも軽業師やピエロの芸なのか。
断言するが、自宅の電灯を点けたり消したり、なんだったらデスクライトやベッドサイドのライトを買ってきたり置いたりできる人なら撮影用のライティングは万事滞りなくできるのだ。
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前回、ライティングは[黒い紙に白いチョークで絵を描くように組み立てる]と書いた。[暗黒の世界から被写体を浮き上がらせる白いチョーク=光源]であるとも指摘した。
黒い紙に白いチョークで絵を描くとき、描こうとする人やモノや風景などの色をどうこうするのではなく、明るさを考えて明るい部分を白く、暗い部分は紙の地色の黒を生かしていこうと考えるはずだ。
撮影用のライティングもまた同様で、詰めの段階では色についても考えなくてはならないが、まずは明るさ暗さだけで[暗黒の世界からどのような感じで被写体を浮き上がらせる]か考えるところからはじめる。
[どのような感じで──]とは表現意図をどう反映させるかだ。表現意図と言うと難しそうでややこしそうだが、誰にだって「こんな感じの写真にしたい。こんな感じで写したい」という意図がある。[暗黒の世界からどのような感じで被写体を浮き上がらせる]か=どのようにライティングするかは、脳内にある表現意図を実現するだけだ。
このイメージが曖昧なままだったり、単に「かっこよく」「美人に写るように」などのように具体化できないままでは、ライティングを[黒い紙に白いチョークで絵を描くように組み立てる]ことができない。どのような明暗にしたいか具体像をはっきり思い描こう。
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それでもどうやってライティングしたらよいか見当がつかない人がいるはずだ。ここで二の足を踏んでいるから、怖気付いたり、三日坊主で終わるままになる。
先ほどの室内灯の例えを思い出してもらいたい。
1部屋に対して電灯は基本的に1つだけついている。つまり光源が1つあればライティングできるのだ。そして誰もが自分の部屋の電灯を点けたり消したりできている。
では部屋に複数の電灯を用意しているのは、どのような必要があってのことか。
部屋が広すぎて電灯1つでは明るさが足りなかったり、暗がりができてしまうからだったり、雰囲気や趣味性を高める演出効果を狙っていたりするから、複数の電灯を用意しているはずだ。
これまた自分の部屋なら、あなたは使いこなしているだろう。
撮影用のライティングでも光源は1つだけあれば用が足りる。空に太陽が1つしかないのと同じで、これが基本だ。余計なことを考えずストロボだろうとLEDライトだろうと1つ用意してやりくりするところからはじめる。
多灯ライティングは、部屋に複数の電灯を灯すのとまったく同じだ。なぜ複数の光源を用意するかと言えば、前述の通り1つでは明るさが足りなかったり、暗がりができてしまうからだったり、雰囲気や趣味性を高める演出効果を狙っていたりするからにほかならなず室内の照明と同じ。
ライティングについて見当すらつかない人は、雰囲気や趣味性を高める演出効果から考えてしまうから二進も三進もいかなくなっている。光源1つで[黒い紙に白いチョークで絵を描くように]照明するだけなら、部屋についている電灯と同じ要領にすれば同じ効果が得られる。
アクロバティックな演出なんてものは、基本ができてからじっくり考えればよい。そして基本は、光源1つでのやりくり、部屋の電灯を点けたり消したりするのと同じなのだからそんなに難しい話ではないのだ。
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「部屋にぶらさがっている電灯みたいなつまらないライティングをしても意味がない」と言いたい人もいるだろう。
このような人は部屋の電灯がつまらない理由をはっきりさせよう。ここに、あなたが「どうしたいか、どのようにライティングしたいか]のヒントがある。
天井に埋め込まれたりぶら下がっているシーリングライトというものがある。たぶんどの家庭にも、職場や学校にも似たような照明があるはずだ。これが「つまらないライティング」だとしても、下手くそな撮影用ライティングなんかよりよっぽどうまく照明している可能性が高いのも忘れてはならない。なぜなら、汚い影が顔に落ちたり、手元の本や書類に光のムラができていたりもしないのだから。
シーリングライトは頭の真上についている。部屋中を照らすため、天井の真ん中についている。シーリングライトには乳白プラスチックのカバーがついていたり、光源そのものに乳白カバーがついていて光を柔らかくしている。光を柔らかくする、とはあっちこっちに光を飛ばす、拡散させている状態を言う。
ならば、撮影したいものの真上にアンブレラやソフトボックス、なんだったらトレペやディフューザーを張り巡らした上にストロボ直炊きすれば、部屋のシーリングライトと同じ状態をつくれる。
はい、これで1灯ライティングがひとつできた。取材仕事では、取材先の天井にストロボを発光させバウンス効果を得て撮影することが多い。自動車のカタログ写真の多くは巨大なスタジオの上部に車のサイズを超える光の面をつくることからライティングをはじめるのがほとんどだ。光線にやや角度がついているとはいえ、ブツ撮りの基本もこれ。
でもあなたは、「部屋にぶらさがっている電灯みたいなつまらないライティングをしても意味がない」という。つまらない理由は「汚い影が顔に落ちたり光がムラになったりはごめんだが、もっと明暗の差をつけたい」からだろう。
だったら光源を頭上から別の場所へ移動させればよいだけなのだ。簡単だし、やれない理由はないだろう。
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では、どこに光源を移動させるか。被写体を球体の真ん中に封じ込めた様子を想像しよう。
被写体を取り囲む球体の表面のすべての位置に、配置しようと思えば光源を置くことが可能だ。
ただし太陽が地平線以下に沈んだ状態で地上に光を届けられないように、球体の地平線に相当する位置より下から光を照射すると我々地球に住む人類は違和感を覚える。懐中電灯を顎の下から照らす「お化けライト」状態がこれだ。
特殊な効果を狙うのでないなら、光源は地平線より上に相当する球体の赤道より上(球体の北半球)に置く。この半球上なら横だろうと上だろうと正面だろうと背後だろうと、それぞれの効果を持った1灯ライティングになる。
ライティングは[黒い紙に白いチョークで絵を描くように組み立てる]もので、[暗黒の世界から被写体を浮き上がらせる白いチョーク=光源]である。
上掲の被写体を囲む半球上の任意の位置に光源を置けば、被写体が照らされ陰影が生じる。光源を置く位置によって陰影の付き方が変わり、撮影者側(カメラ側)から見て陰影の位置と比率が変わる。
ライティングとは、陰影それぞれが出る場所の違いと比率の違いをコントロールすることでしかない。ライティングにできることは、これだけなのだ。
もし1つの光源だけでライティングして被写体上の輝度の比がふさわしくないなら、光源と向かい合わせの位置にレフ、鏡などを置いて光を反射させ輝度の比を最適化する。多灯ライティングをしなくても十分だし、よっぽど自然な仕上がりになる。
多灯ライティングは 1.特殊な効果 2.制約によって1灯ではやりくりがつかない場合 にのみ使用する。
特殊な効果には、現実には存在し得ない光線状態をつくるものもあればいわゆる「おかず」=輝きの強調やポートレイトで髪に天使のリングを加える等まで幅広い表現が含まれる。
制約によって1灯ではやりくりがつかない場合とは、撮影場所が狭い、逆に広すぎる、被写体が大きい、手持ちの機材の限界などから1灯でライティングした状態を補助・補強するための表現である。
どちらも、自宅の部屋に複数の照明器具を置くケースをここでも思い出して当てはめてもらいたい。部屋に複数の電灯を置くのは、部屋が広すぎて光が回らなかったり、雰囲気や趣味性を高める演出効果を狙っていたりするからだった。多灯ライティングとは、このようなものなのだ。
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どこに光源を置くか。誰かが教えてくれる[定型]や[定石]通りなんとかの一つおぼえでやるのではなく、このように撮影したい表現したいという[表現意図]から決める。それは複雑な話ではなく、特殊効果を狙うのでないなら前述の半球上のどこかに配置すればよいのだ。
半球上に光源を置く位置は無限に存在する。でも水平・垂直方向に30から45°刻み程度に配置位置を限れば、各位置で陰影それぞれが出る場所の違いと比率が思い浮かべやすくなる。
もっと単純化させるなら、カメラ側から見て水平・垂直側(被写体の左右いずれかの横と上)だけを想定して、これでは大雑把すぎるから少しずつ各方向へ移動させる様子を脳内でシミュレートしてみよう。
さらにレフの効果を加えれば完璧である。
独自にライティングを組み立てて自由自在に撮影している人は、おおよそこのようにして構成を発想している。特殊技能でライティングを操っているのでもなければ、才能もあるだろうが慣れとか経験値の多寡のほうが大きな比率をもった技能でしかない。
大切なのはライティングとは軽業でもカラオケ舞台に乱舞する赤、黄色、青の光が入り乱れる世界でもないということだ。A 地明かりでは光量が足りないから照明する B 自然光では表現意図を完璧に実現できないので露光に足る光を使うのだ。
重要なのは、陰影をしっかり観察して、光量、光源の位置、被写体との距離、角度の違いで現れる効果の差を見逃してはならない点と、そのわずかな差を表現意図にどこまでも近づける努力を怠ってはならない点だ。
最新のカメラやストロボを買ったり、きれいなモデルさんをファインダー越しに見る喜びとか派手さとは無縁な地味な作業だが、写真の根幹を支えるもののひとつがライティングなのを忘れてはならない。
ライティングを詰める作業は、光量、光源の位置、被写体との距離、角度を試行錯誤することになる。直射か拡散か、反射させるか遮光するか、その他さまざまな要素も効果に大きく影響する。これらを整えるのが、シャッターを切り続ける時間よりよっぽど長くなることさえある。
ここさえ乗り越えれば、望み通りのライティングまで詰め切れるのである。
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ライティングが苦手、できない、きっとできないと思い込んでいる人は気を病むほどのことでも、これからもずっと不可能でもない。
この記事に書いた内容を理解し実践するなら、うまくいかない場合もあるだろうがいずれ近いうちに仕事にさえできるほどのライティングが可能になるだろう。
大切なのは
A 丹念に観察してあきらめずにライティングを詰めて行く
B 観察するとき想定する理想像の根拠は、身の回りのあらゆる光線状態を観察して現象が生じる理由をあきらかにした経験に基づく
──この2点だ。
つまり[自然の模倣]と模倣するに足る理由の解明が必須だ。
夜明けから夕暮れまでの太陽光、季節ごと、天候ごとの自然光の様子と、なぜそのような光線状態になり、それによって物体がどのように見えるのか。自然光が入り込む室内、人工照明で照らされた屋内でも同様に観察と分析をしたい。
ここまで読んだ方は理解してもらえたと思うが、これらは光源の位置(角度)、光量、拡散度、集約度、反射といった要因でそれぞれの状態がかたちづくられている。そして陰影の比率、輝度、濃度が見えかたを左右している。すこし考えれば理由がわかるのだ。
理由がわかれば、これをストロボなりLED光源に置き換える発想も可能になる。「無理だ」と思うとしたら実際にやってみたことがないからだ。あるいは考える手立てをいままで知らなかっただけだ。
自然光による不自然さのない陰影を理解したなら、ライティングを詰めて行くときの[正解]がどこにあるのかもわかる。あるいは特殊な効果を狙うとき、どこまでやっても逸脱しないかの自分なりの限界点も設定できるはずだ。
こうした観察と同時に、広告、ポスター、カタログ、素人が撮影した写真もどのような光源を、どのような位置に置いて撮影されたものか考える習慣をつけたい。プロが撮影した写真はむしろわかりやすいはずで、ライティングの構成が理解できるだろう。
「ライティングができない」は様々の思い込みや誤解が原因であると指摘してきたが、もうひとつ[観察と考察がない]を含めるべきかもしれない。
この記事では基本である1灯ライティングについてのみ触れた。なぜなら、これで十分な場合が多く、1灯ライティングの理屈が理解できなければ多灯は到底操れないからだ。
これから本腰を入れる人にはこれでよいはずだし、もし1灯でやりくりできない段階に進んでもどうしたらよいか自分で考えられるように記事を書いたつもりだ。
ライティングは難しくない。ただし理想に近づけるのに手間がかかるだけだ。けっこう力仕事でもあるのだが、角度でわずか数度、出力でわずか数W、距離でわずか十数cmで結果が変わる繊細な仕事でもある。とにかく注意深く。
© Fumihiro Kato.
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