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追記 2019.7.9 Yongnuo YN200 について追記しました。
ご存知の通りNeewerは写真関連の様々な用品を扱う中華人民共和国の企業で、実態は商社なのだろうと思う。同社はライティングに使用するスタンド類や各種装置からお安い交換レンズまで扱っている。日本国内ではあまり知られていないがクリップオンストロボだけでなく大出力ストロボも販売していて、VISION4はリチウムイオンバッテリーを電源にした300Ws(ネット上に700Wsという表記があるけれど通販サイトB&Hに300Wsとあるのでこちらが正しいはず)・チャージ約 0.4〜2.5秒のモノブロックストロボで実勢価格は日本円で2万円といったところだ。ちなみに日本未発売で、いまのところB&Hでは日本国内からの注文を受けていない。
300Wsでチャージ約 0.4〜2.5秒のモノブロックが2万円台というのは衝撃的な価格ではないだろうか。
欧米および国内のストロボメーカーは高品質路線を外せないだろうし、壊れない、人を傷つけない安全性だって譲れないはずだ。だが、たとえばストロボでNeewerより先行するGODOXが成長した要因は安価であることと安全性やアフターケアより利便性を優先した製品開発をしたからだ。これが写真のデジタル化による撮影層の拡大と、撮影予算の低減や省スタッフ化と合致したのだ。GODOX製品があったから大出力ストロボや多灯をはじめたという人は多いし、予算がないのにProfotoなんて使えるかよという人も多いのではないか。
GODOXはリチウムイオンバッテリー式で競合するProfotoから顧客を奪うためアクセサリーマウントの変換アダプターを製品に付けたり(A1をぱくったV1も発売したし、仁義なき競争ぶりで)、ここに市場があるとみてNeewerはVISION4を展開しはじめた。300Wsで実売2万円という生き馬の目を抜く価格設定なら、多少機能が少なくても何かが劣っていても売れないはずがないし、それだったらGODOXより安いじゃん! と欧米では売れているらしい。
(追記2019.7.9)そんなこんなと書いていたら、YongnuoからYN200というGODOX AD200をほぼパクった製品が発売された。NeewerはYongnuoとブランド名違いの同一製品を扱っているのでもしかしたらYN200も別名で販売することになるかもしれない。もともとラジオスレーブを安価に実現する商品はYongnuoが先行していたところをGODOXが模倣して、ストロボ本体の展開が手薄だったYongnuoに対して豊富なラインナップを揃えていったGODOXが安価なラジオスレーブの覇者となった経緯がある。
(追記ここまで)
Neewer VISION4はB&Hのサイトを見ていて発見したのだが、欧米の通販はNeewer、GODOXといった中華ストロボで埋め尽くされてすごいことになっている。電気を貯めて放電する[だけ]の装置と言うのは語弊ありまくりだったとしても、TTL調光やラジオスレーブ機能も回路さえ基板に落とし込めば出来上がりのところがあり、光ればいいんだよという購入層にうってつけの製品になっている。Neewerが販売しているNeewerブランドのレンズと比べてストロボのほうが格段に性能が高く実用性が担保されているので、仮に色温度の安定性など性能差があったとしても古参老舗メーカーのレンズと中華レンズほどの違いはないと言ってよいだろう。光ればいいどころか、この光で十分という人が多いのである。
新興メーカーのレンズは先日の記事に書いたように、中華メーカーだけでなく多国籍かつファブレスな企業が販売するレンズの実態は把握しにくい。Neewerのレンズはどうみても日本の一流メーカーの劣化コーピーだったりするけれど、HandeVisionはKipon(Shanghai Transvision)とドイツのIB/E Opticsの合弁だとされていて成り立ちに「?」なところがあっても製品はある程度まともだ。ただ、いまどきのレンズと違う古さを感じさせる写りは戦略的で意図的なものなのか、同社の限界なのかちょっとわからない。これを好ましく思い価格が安いと感じる人がいるだろうし、写りと他の要素を合わせてこれでは割高と感じる人もいるはずだ。
意図なのか限界なのか判然としないHandeVisionとKiponの古めの写りだけでなく、高性能とされるLAOWAにも検品の甘さがあるしゼロディストーションを謳い文句にした製品が盛大に歪曲する問題がある。また中華レンズは電子マウント、オートフォーカス、自動絞りといった機能を実装していないものが多い。とはいえ技術力がないから高性能なレンズを送り出せないとまで言い切れないところがある。
これもまた前回指摘したが、新興レンズメーカーは日本のカメラおよびレンズ産業が発展する機会を得た1950年代当時の技術で設計・製造しているのではなく21世紀の技術を基にレンズを設計・製造している。それなりのソフトウエアに変数を入力して設計すれば、(ここからが大変だとしても)それなりの答えが出る時代だ。まじめに製造すれば、それなりの製品になる。
では中華レンズを中華レンズたらしめているのは何かと言えば[ブランド力の欠如]だ。中華レンズメーカーは新興メーカーなのでブランド力に欠ける。硝材から機能まで奢ったレンズを高額で販売できるなら性能はもっと向上するだろうが、ブランド力に欠け高く売れないならコストはかけられない。基礎研究と試作だって必要だ。それなりの価格の中華レンズもあるが価格対性能と、価格対ブランド性の釣り合いが悪く割高に感じられる。KiponがHandeVisionでドイツ企業を匂わせたり、LAOWAはマクロと超広角といった隙間市場で存在感を表したりといった手法を取るのは、まだまだ日独レンズメーカーのブランド力が強固な壁となって立ちはだかっているからだ。
ただし、いつの日か中華レンズの存在感が増して揺るぎないブランドに成長するかもしれない。現在ですらKiponやLAOWAのレンズはVoigtländerでブレイクする以前のコシナや路線変更前のシグマの交換レンズより総じて水準が高いと感じる。コシナやシグマが高水準なレンズを製造販売できるようになったのは高価格帯の製品を販売できる環境を整えたからで、中華メーカーが環境を整えられないとは誰も断言できないのである。
それでもレンズで老舗メーカーと肩を並べるまでになるのは、ストロボより格段と難しいだろう。だが、その他の写真用品はどうだろうか。たとえば角型フィルターはNiSi、BENRO、KANIといった中華人民共和国のメーカーがシェアを伸ばしていて、これらの企業の中にはねじ込み式の円形フィルターを製造・販売しているものもある。いずれのフィルターも使用したことがないのでなんとも言えないが、これだけ販売量があって苦情がそうそうないのだから十分な性能があるのだろう。角型フィルターの老舗は気が気でないだろうが、すでに前記したメーカーに市場を奪われている様はストロボ業界とそっくりだ。
写真のデジタル化による撮影層の拡大と、撮影予算の低減や省スタッフ化の流れと世界の工場としての中華人民共和国の関係が、ストロボ以外の写真用品にも大いに影響している。そして潮目がすでに変わった界隈は、そうそう簡単に以前のようには戻らないだろう。カメラボディを開発しようというメーカーは現れないだろうが、見方を変えればスマートフォンはカメラでもあるしレンズは前述のような状況にある。既存メーカーはデジタル・高画素にふさわしい高品質で隅々まで隙のない製品からはずれたものは製品化できないだろうが、撮影層の拡大と金回りの悪さによって市場にはそこそこでよいから安い製品を求める声があるのを忘れてはならないだろう。
なのだが、仁義なき価格競争にまみれて得るものは少なく体力を失うばかりであり、こうなると高品質路線と別のラインをつくるのは得策と言い難いものがあるはずだ。ほんと商売は難しいのである。
© Fumihiro Kato.
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古い写真。