内容が古くなっている場合があります。
Distagon T* 15mm F2.8をMilvusに更新した。
DistagonとMilvusの違いは鏡胴デザイン、フードが組み込み固定から花型脱着へ、デジタル高画素への本格的対応だ。デジタル高画素への本格対応の中身はアナウンスされていないが、前段階の試写でも現在進行中のテスト撮影でも光線状態が過酷なときの安定度が増しているためコーティングと鏡胴内の構造の見直しが主だろうと思われる(光学系の微調整もあるかもしれない)。このため基本的な性格は変わっていない。
Distagonを手放して基本の性格を継承して大きな違いがないMilvusに更新した理由は、画角内に太陽が入り込む可能性が高い超広角として、より安定した描写を求めたからだ。またフードが脱着式になったことで、当面は使用を考えていないが角型のフィルター等アタッチメントの装着が可能になった。
なおフードをはずした状態でMilvus 15mmにねじ込みフィルターを装着するとフード内側の段差のためフードをつけられない(もしくはフィルターの枠の微妙な肉厚の差によるものかもしれない)。[追記 フィルター枠の肉厚=フィルターのスクリュー部からやや外側に出ている部分とフード内側が干渉する。したがってフィルター次第なのだろう]フードを装着したままねじ込みフィルターをつけるほうが確実だ。なおフードは逆付け可能だが、フード内径とマウントに遊びが少ないのでやや手こずるかもしれない。
手放したDistagonはフードの先に小さな塗装のハゲ、ヘリコイドリングに同様のハゲといったツァイスの15mmを使っているなら誰しもが経験している外観になっていた。光学系はまったく無問題。使い込んでいるレンズで愛着ひとしおのため手放すほどではないかもしれないと逡巡したけれど、やはり太陽が画角に入り込む逆光のみならず手前側から差し込む光に強くなった点に代え難いメリットがあり下取りに出した。
使用頻度が高く、どこへ出るにもいっしょだったレンズだが深窓の令嬢(死語だね)のように扱ってきたため下取り価格が高くつき大層な出金もなくMilvusに乗り換えられた。いずれ中古市場に旅立つだろうから、誰かさんの手元でまた活躍すると思われる。
Distagonの15mm F2.8は理由があって手放したが完成度が高いレンズなのは間違いなく、かなり立派なものだ。私はDistagonに心から感謝しているし、基本設計が同じレンズがMilvusにラインナップされなかったら、べらぼうな性能差まで進化していない限り乗り換えなかった可能性が高い。
DistagonとMilvus双方の15mmは、現在販売されている単焦点15mmでは別格の性能を持っている(そもそも15mm単焦点は少ない)。超広角では焦点距離1mmの差で画角がまったく違うので、18mmや20mmでは代えが効かない。ただし優秀な超広角ズームや単焦点が現れてきていて、コストパフォーマンスやなかには解像度が勝るものが存在しているかもしれない。でも潮風と飛砂のなかで撮影する私には防汚コートでは足りずフィルターが装着できる超広角でなければならないし、解像度の数値だけでレンズは決められないところがある。
同族のMilvus 135mmは開放からカミソリのようにキレのある解像感と芳醇な階調再現性がある。Distagon、Milvusの15mmはここまで解像しないし、超広角の常だが四隅はどうしても解像感が落ちる。しかしファインダー像を見ただけで抜けのよさがわかり、写りが端正なため私にとっては他に選択肢がなかった。
超広角に慣れていない人には歪曲が大きく感じられるかもしれないが、ズームはもっと強烈に歪むものが多いし、焦点距離からしたら正方形をきっちり正方形に描写できるものがないなか真っ当な歪曲ぶりだ。周辺光量落ちがかなり大きいのは、やはり超広角だからでDistagonとMilvusに限った話ではない。
解像、歪曲、周辺光量などなどフランジバックが短いミラーレス用の超広角に素晴らしいものが出てくるだろうと思われるが、コスト度外視でまじめに設計されたレンズゆえのバランスのよい性能なので、ミラーレスボディーに鞍替えしてもアダプター経由で生涯使い続けるだろう。
ちなみにDistagonもMilvusも(コシナ・ツァイスのCPU内蔵レンズは)ニコンZ系にアダプター経由で装着して操作から表示まで何ら問題がない。これはあれこれやってみたので間違いない。
私は超広角好きなので超広角ズームも持っている。そのうえで皆さんにはたくさんの焦点距離を一台にまとめたコストパフォーマンスが高い超広角ズームもよいけれど単焦点の超広角(もしろんDistagonとMilvus)のほうが圧倒的にいいよと書いておく。
超広角ズームの焦点距離(画角)を微調整できる点は便利だが、こうしたかなり広い画角ではむしろ割り切って被写体を探したり被写体に向かったほうが話が早く、特殊な画角を違和感なく写真に落とし込めると思う。数値性能に表れない「端正さ」という点でも単焦点のほうが数段上のメリットがある。写真を見ただけでズームと単焦点の違い、更にツァイスかどうかを見分けられる人はそうそういないだろうが。
では、端正さとは何か。
端正さとは、コシナ・ツァイスの出来のよいレンズに共通するツァイス的なものだろうと思う。各社各様に基準や価値観が存在しているが、私としてはツァイスの価値観が好きだというのに尽きる。キレッキレのOtus、Milvus 50mm、Milvus 135mmなどと同等または凌駕する解像度のレンズが存在しているけれど、解像度だけで写真が成立するほど単純なものではなく、空間の描写にレンズの性格の違いが現れ、空間の描写は写真にとって大きな意味を持っている。
空間の描写は空気の層の状態を描写する能力と関係し、光の状態を的確に固定できれば空気の層もデータに残せる。
空気の状態を的確に像に落とし込めると立体感の描写が豊かになる。立体物の描写のみならず空気で満たされた空間の立体感(奥行きと大気の密度、湿度などの相関描写)も変わる。
超広角ともなると、その画角を実現するためだけでレンズづくりのハードルがかなり高くなる。DistagonとMilvusの15mmは同135mmと等しいとは言えないが、ともに空気の層の状態が手に取るようにわかり、こうしたレンズとの出会いは他に経験がない。
私は作品をつくる際に、空間の空気感をごっそり切り捨てることがある。ごっそり切り捨てるとしても調整結果を見ながら空気感を少しずつ増減できるのは、空気の層の在りようがデータに余すことなく保存されているからだ。もちろん空気の密度をそのまま生かす場合は表現に直結する。
今回は私の大好き度合いをそのまま書いたが、別の価値観から別のレンズのほうがよっぽどよいという人がいても不思議ではない。人それぞれ価値観があり、価値観に合うレンズを手にすべきだろう。私もすべてのコシナ・ツァイスの性格が好みな訳ではなく、また純正レンズを中心に他のサードパーティー製レンズも所有している。
2019年3月段階でコシナ・ツァイスの納期は最長で3ヶ月だ。コシナ・ツァイスは受注生産と明言していないが実際にはほぼ受注生産と考えたほうがよい。即納できる店舗は、売れると見込んで発注して在庫しているのだ。在庫している店舗もツァイス全種を数多く抱え込んでいる訳ではないので、タイミングを逸すると納期が長くなる場合がある。
コシナ・ツァイスは月2回出荷されている。月初と月の半ば以降だ。またラインナップされているレンズが等しくラインに乗る訳ではなさそうなのと、検品が厳しく検品時に跳ねられる個体が少なくないため出荷数に限りがある。これが納期が長くなる理由だ。
私のMilvus 15mmは納品まで2ヶ月くらいかかった。発注が出荷直後だったためで、その場で店がコシナに問い合わせて4月まで掛かると即答されたので時間がかっても焦ることはなかった。4月半ばにならなかっただけでもよかった。
最近コシナ・ツァイス・クラシックの廃番になったレンズが新品しかもお安め価格で某店の店頭や通販サイトで販売されている。これは前述の理由からコシナが在庫していたものを放出したのではなく、どこかの店で流通在庫になっていたものを持ちこたえられず流したものではないかと思う(もちろん違うかもしない)。いずれにしても新品なので保証書がつくし、古くさくなったオールドモデルではないからお買い得かもしれない。
市中に多数の在庫品があるとは考えられないので買いたかったが買わないままだった人は機会を逃さず買うのが吉だと思う。また現行品も即納ならよいが、数ヶ月待ちの場合いがあるので気をつけたい。
検品が厳しいためハズレレンズを引かされることはほとんどない。それでもハズレだったり故障した場合は速やかに修理に出すのがよいだろう。大型店でも店員さんの質に波があり、まして正規のディーラーではない店では修理伝票に的外れなことを書くケースがある。コシナに修理に出さず、他の修理会社に回され何も改善されないまま返された人がいるので、コシナ・ツァイスを買う店、修理を取り次ぐ店はちゃんと見極めたい。
© Fumihiro Kato.
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.