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大は小を兼ねるのでストロボは出力が大きいほど正義だ。出力が大きくなっただけ発光部等が比例して大きくなる訳ではないし、価格も比例まではしない。ストロボ2台あるいは発光部2つ設置しなければならないところを1台もしくは1つ設置するだけで済むのは、手間だけでなくスペース確保の容易さから確実性まで段違いだ。
では皆が皆がんばって電源部別体型1200W、2400Wの大型ストロボを買うべきかとなると、とても推奨できるものではない。
まず一般的な事務所や家庭で1200Wのストロボは荷が重く、ブレーカーを落とさないための電源確保を考えなくてはならない。ブレーカーが落ちないまでも瞬間的に電力供給が追いつかなくなり起動しているPC等がシャットダウンする可能性がある。最近の家電はCPUを搭載しているものが多いので、動作の不具合や故障の原因になりかねない。ここまで電源周りを整備できる事務所や家庭は少ないのではないだろうか。300Wくらいの出力を2灯発光させてチャージする瞬間でさえ、かなり怪しくなるだろう。
こうした事情があるので、出力が大きいストロボをこれから揃えようとしている人にはバッテリー型の大型ストロボを勧めたい。たとえばGODOX WITSTRO AD600のような機種だ。あるいはAD 360を複数台でもよいかもしれない。メーカーは別にGODOXである必要はない。
では出力は何Wくらいなら使い物になるか、だ。
AD 360のような機種を複数台あればよいだろうとしたように、1灯あたり300Wから400Wあれば大概は事足りるだろう。となると、AD600はモノブロックストロボであるため筐体が大きいこと、別売り(セット販売されている場合もある)の発光部分離ケーブルとソケットを使っても電源部別体型のように複数の発光部を接続できない点から、300Wから400Wで済む用事ならAD 360がよいかもしれない。ただし「ストロボは出力が大きいほど正義」なので、取り回しと出力を考えたうえで選択すべきだ。
この場で何Wなら何mで絞り値いくつで撮影できると言い切れるなら話は早いが、大型ストロボは拡散装置を使う前提のものであり、拡散装置によって光量が変わるため断定的に値を書くことができない。おおまかな話をするなら、ISO100で300〜400WでF8くらいの絞り値を取れる場合が多いとしか言えない。ブツ撮りでは光源から被写体までの距離が近いのでF11くらいになるケースが多い。デジタル撮影ではISO感度を柔軟に設定でき、画質を大きく低下させることなくISO200以上にできるので300〜400Wもあれば大概の用途に使えると言える。
私は過去の記事で定常光用のフレネルレンズを加工のうえ使っている旨を書いた。冒頭に掲示した画像がApertureが販売している映画用の製品だ。光の集約度を12-42度まで可変できるようになっている。
クリップオンストロボの発光部についているフレネルレンズはサイズと重量の制約から精度が高くない。ストロボ用に特化したフレネルレンズ製品もあるが、大型ストロボに使う前提のものは試験的に使用するには価格が高い。そこでApertureの製品で試すことにしたのだが、このガラス製のフレネルレンズは十分な仕事をしてくれた。また大凡の話になるが、300〜400W級のストロボで絞り値F11程度になるケースでフレネルレンズを使用するとF45くらいまで光量をアップできる。
光は逆2乗の法則=光の強さが光源からの距離の 2 乗に反比例する法則で減衰する。これは光束が広がることで密度が低くなるのを意味している。
フレネルレンズは光束を平行に放つのを理想としている。実際には光束を平行にできないのだが、灯台やサーチライトがそうであるように距離のわりに強い光を届けられる。クリップオンストロボの発光部についているフレネルレンズは、やたらに広範囲に光を飛ばさない程度の集約度であるため逆2乗の法則で減衰すると考えてよい。ガイドナンバー(GN)=距離(m)×絞り値(F値)が使えるのはこのためだ。
映画撮影でフレネルレンズをライティングに使うのは特殊効果であるし、スチルであってもいつもいつも使える訳ではない。しかしスヌートより強い効果が出せ、限られたスペースで光の分離を図りたいときも飛び道具的であるが使える道具になる。ストロボは出力が大きいほど正義なので、絞りを4段絞れるのは光量の確保だけでなくチャージを速くするため出力を絞れる点でも優れている。
ではクリップオンストロボはダメなのかというと、そうでもない。
持ち運びが容易であるし少しくらい落下・転倒させても壊れないので屋外での使用に向いている。またラジオスレーブ式ならブツ撮りでエフェクト用光源として狭い場所にも設置できる。ブツ撮りでは中途半端なフレネルレンズがつくるムラのある光をどう処理するか、大型ストロボとの色温度の違いをどうするか工夫が必要な場合があるとしても、なにかと簡単に使えるので難しい理屈を捏ねて頑なに使用しないのは損するばかりである。
ストロボは出力が命だ。しかしライティングは機材そのままをそのままの特性で使っていては教則本通りのことしかできない。ライティングは工夫が命なのだ。
ライティングがダメな映画も多いけれど、たいがいの作品でスチル以上に神経が配られた照明が施されている。スチルはシャッター速度を可変できるがムービーでは絞り値だけで露光値を決めなければならない。しかもやたらに絞り値を変えては被写界深度がカットごと無意味にコロコロ変わりかねない。こうした制約のもと、天候、時刻、場所の特性、心理効果を照明でつくりあげなければならないのだ。背景との光量を考えながらソフトボックスで「ポンッ」と撮れるスチールとは比べものにならないくらい工夫が必要なのだ。
スチル撮影者が映画のライティングの工夫から学ばなければならないものが山ほどあると言える。また映画もスチルも自然の光や場所ごとの光の特性を日頃から観察していなければ最適解としてのライティングができないのだ。
Fumihiro Kato. © 2019 –
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