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さっきざっと計算したら、私は1977年ごろから写真を撮影していたらしいとわかった。10代になったばかりから、ということになる。そして写真をはじめてすぐ、自分でフィルム現像と焼き付けをしなくてはどうしようもないと焦りみたいな気持ちに囚われた。当時はモノクロフィルムのほうがカラーより安く、現像焼き付け代も安かったのでモノクロばかり撮影していた。こうした経済事情からモノクロ撮影をしていたわけだけど、カラー写真を撮りたいとはちっとも思わなかった。DTPに出して焼き付けられた写真の、いまだから難しい言葉を使うけど「応答特性」が気に入らなかったのだ。当時はこんな言葉を知らなかったので、あんな感じこんな感じにしたい思いとてもくやしかった。
私がフィルム現像と焼き付けをやりはじめたのは大学入学で上京してからだ。アパートを借りて暮らしはじめて生活のペースが落ち着いてくるや、あり金はたいて現像タンクやらを新宿西口のヨドバシカメラ地下売り場で買った。ラッキー製の引き伸ばし機をどうやって買ったか忘れてしまったが、これが135フィルム専用で四つ切り以上に伸ばせない機種で、すぐ中古の引き伸ばし機を高輪カメラで買った。この当時に撮影した写真が紙焼きで手元にあるので、スキャンしてみた。なにぶん時代がかった紙焼きなので汚れているのは大目に見てもらいたい。1984年撮影だ。
もし現在の私があの時代に戻って私自身の前に登場できたら、この写真について言いたいことが山ほどあるのだが、テーマやテーブルが傾斜してみえるところに不思議な納得をしている自分もいるのだった。しかもこれ、20mmで撮影しているという。
この写真、好意的に言えば「もしテーブルが傾いた様子にならず、手前と奥の角を中心に置いていたなら、とてもつまらない写真になっていた」となる。また順光で撮影していたら、やはりまるでダメだったろう。実は撮影しようと思ったとき、私は果物や野菜が盛り上がる様のみをボリューム感たっぷりに写し取りたいと完成予想図を思い浮かべていた。経験値がすくなかったから、それだけで写真になると信じていたのだ。いざ被写体をレイアウトしていたら、どうにもこうにも絵にならないのだった。スーパーの青果コーナーのイメージ写真だこれ、とずっこけたのだ。そこで「あっそうだ20mmあるじゃん」となった。あとは、この状態をファインダーで確かめて構図を取った。いまなら言いたいことが山ほどあるけど、さ。
「あっそうだ20mmあるじゃん」と構図を決めたあたりの気持ちの動きと選択が、何も変わっていないのである。20mmとか超広角は好きなんだけど、そこの部分ではないのだ。しょっちゅう静物を撮影していことにはじまって、安定を崩した構図の上に逆三角形の要素でまとまりをつけようとしたとか、このトーンの出し方とか。写真屋さんの紙焼きにいらいらしてた10代はじめの私が見たら、こういう風に焼きたいと思っただろうとか。常々思っていたから自分で現像・焼き付けをするようになったのだし、あたりまえだけどね。
ということは、現在の自分は写真を撮り始めたばかりの自分と何も変わっていないと言えるだろう。40年間ずっと、だ。これはほのぼのストーリーではなく、少しくらい変われよ! なのだ。私としてはスタート地点や経由地といったポイントから遠くへ行こうとしていたし、別の方角に向かう道だって試してきたはずなのだ。この写真のあと、私は助手仕事を経験したり、映像関係、広告関係の仕事をして自分にはない才能をたくさん見たし、知らなかった方法論や技法をたくさん吸収したはすだった。なんだけど、人生の時間の折り返し地点を過ぎた年齢なのに「何も変わっていないじゃん」なのだ。
青果コーナー写真から1年後に撮影したのが次の写真だ。この写真からテーマがバロックになって90年代まで続くのだけど、テーマ設定した割に青果写真と「変わらないんじゃね」である。勝手に想像したバロック的世界観のため、バイト先で知り合った芸大の方に背景をつくっていただいて撮影したのに! だ。バロック的世界観を、もうやる気満々だったのだ。ちなみにスタジオを借りる予算は背景の制作費として旅立っていったので、これは6畳一間キッチンスペース付き風呂なしアパートで撮影し、当時は大出力のストロボを買う金さえなくフラッドランプでなんとかしている。そうこう以前に、これもまた言いたいことが山ほどあるけど、二十歳の自分の一世一代の撮影だった。
人は変われないので変わろうともがくのだ。では、明日撮影する写真を私はどうしたらよいのだろうね。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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