皆さんの日常の視覚は超広角ですか?

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私は日常の視野が年齢相応に少し狭くなっているかもしれないと感じる。このように思ったのはいまから10年ほど前で、当時はライカ判ならキヤノンを使用していたので100mm、いまはニコンなので105mmの画角が妙にぴったり肉体とシンクロするようになった。若いときから中望遠は大好物だったけれど、ちょっとかしこまって緊張していないでもなかった。もともと何mmのレンズがついても「何とかする」という意識もないまま何とかしている鈍感なたちなので、緊張といっても「あー100mmか」くらいだけど。

と同時に、あるいはずっと前から私はライカ判なら20mmをカメラに付けっ放しにしていた。写真について何もわかっていなかった段階で135mmを質流れで買い、次に意識的に手に入れたのが28mmだった。この28mmも付けっ放しレンズだったが、次に買ったのが20mmでますます広角レンズが好きになった。この辺りから遠近感の誇張によって被写体や背景が歪むのが嫌で、だからこそいつの間にか付けっ放しにしていても何ら困ることがなくなったのだろう。中判がなくては二進も三進もいかなくなったとき、こうした超広角は中判カメラのシステムにあったとしても大変高価なためちょっと苦しい思いをした。ところで超広角という単語は、何が「超」なのか曖昧なところがある。私のように、さも標準レンズのごとき使い方をしていると疑問はかなり大きなものである。

さていったい何が「超」なのだろうか。人間の視界は臨機応変に意識の働きとリンクして変化する。このとき眼球内にズーム機能があって視界の広さが変わるのではなく、脳内処理でトリミングして視界の広さを変えている。人間の視界は水平方向にライカ判のレンズ20mm相当以上の広がりを持っている。ただし、単玉の水晶体一個なので周辺部は使い物にならない映像しか脳神経に送れない。でもここはよくできたもので、脳内の短期記憶をステッチしてある程度満足行く像が見えているような気になる。気になるというか、そこに何がどうなっているか記憶を交えて人は状況判断の助けにしている。だから、人間の視界は超広角相当と言ってもそれほど間違いではないだろう。こうしたところからすると、ライカ判で20mmより短い焦点距離を「超」広角と呼ぶのに違和感が生じる。これは想像だけど、技術的につくるのが難しく、さらに用途が限られていたから「超」広角と呼ぶようになったのではないだろうか。もちろん標準レンズから数えて広角側の端っこだから超広角と呼ぶのではあるけれど。

超広角の難しさは、被写体との距離、アングルによって構図が激変し、物体の形状がなかなか正しく描写できないところにある。世の中に出回っている「!」と感嘆符から入るような超広角使用の写真はたいがい何かの形状が誇張されているもので、逆に言えば誰にでも撮影可能なものが多い。ほら、シフトレンズを正しく使って撮影された建築内部の写真などは超広角の画角であっても「!」とならないでしょ。これは私見だけど、「超広角すげー」とまず感じる写真はこれ以上の中身が希薄なものが多いというかそのものである。だから魚眼レンズが難しいのであって、円周魚眼と対角魚眼の別を問わず魚眼レンズで撮影された名作が乏しいのだろう。「!」ときて「超広角すげー」で撮影者も鑑賞者も終わっている。これでも耳目が集まるからいいという解釈もあるだろうから人ぞれぞれでも、高さ(低さ)方向にパースが強調されるのはまだしも、奥行き方向にある平行だろうと推察されるものにパースの強調がかかって平行に見えないものは撮影者としていらっとしないだろうか。「しないね」なのか、ああそうかい。

Fotopro T63Cを手に入れたことでこのところ三脚づいた記事を続けて書いてきたなかで、超広角を使うから三脚の全高はなるべく高いものにしたいとも書いた。これは私の身長176cmなりの高さから景観を見て発見したものを、130cm程度の高さでは再現できないからだ。もちろん身長なりの高さのアングルだけで撮影しているわけではなけれど、見た、興味を惹かれた、撮影するの流れでは重要。超広角に限らない話だが、超広角ではわずかなアングル差で空と地面の割合が激変する。身長より圧倒的に低い130cmの高さになると、とうぜん足元がどーんと画角内に大きく入る。それでなくても足元から中景までの下側地面成分の処理が問題になりやすい超広角だ。さらにある程度の焦点距離なら多少仰ぎ見るアングルになっても被写体などのフォルムに影響は小さいが超広角となると神経質にならざるを得ない。年とともに視界がカヴァーする範囲が狭くなった気がしていても、だいたいにおいて私は超広角の感覚で世界を見ながら、超広角で再現される様子をシミュレーションしながら被写体を探しているのだ。で、皆さんの日常の視覚は超広角ですか?

視覚ばかりは他人がどのように世界を見ているかわからない。だから私の感覚で語るほかないのだが、超広角だからといって満遍なく広い範囲を有効に写し込めるものではないと感じる。こうした意識がかなり比重を占めながら私は撮影地をほっつき歩いている。先に挙げた「下側地面成分の処理」は大問題で、高さのある被写体は超広角でも画角内に収まらず仰ぎ見ればフォルムが崩れる。「だったらシフトレンズ使え」だ。ニコンには19mmのシフトレンズがある。うん、知ってる。問題というか課題がいくつかあり、一つめは使用している15mmでももっと画角が欲しいくらいで(とともに15mmのパース感を求めると)19mmとの差は大きく、またキヤノンに17mmがあっても2mmの違いはかなり大きく、二つめはいずれであってもフードが使えずハレ切りなど道具だてが複雑化するのは痛くもあり、三つめは悪天候の海辺で海景撮影を考えるとニコンはフッ素コート採用だがキヤノンにはなくべたっと塩分と砂が付着したとき撮影に復帰するのが難しく、共にぎょろりとした前玉ゆえフィルターが使えない。ま、私の撮影対象とこうしたレンズが満たそうとしている撮影対象が違いすぎるのである。LAOWA 15mm F4 Wide Angle Macro with Shiftという中華製レンズが7万円代で存在していて、名前の通り接写領域から無限遠までピントが合わせられるのだが、ゼロディストーションをうたいながらかなり歪む。そして複雑な陣笠形の歪みなのでプロファイルがない限りRAW現像時に補正することで更に泥沼にはまる、というか気持ち悪い(このほか色々気になるところがあって手を出しにくいものになっている)。

だったら三脚のセンターポールを上げて背が高い人になったつもりで構図を取ったほうがよいだろうと、現在はこのような手を使う。視点の在り方がシフトレンズのライズとは違うとしても、力ずく人力ライズといったところだ。ただこうして高さ方向を適切化しても、私たちが正確なフォルムを容易に想像できる奥行きを持った建築や工業製品や見慣れた植物は、あれこれやっても奥行きがやたら長い先細りになって違和感が強い。したがって超広角で撮影できるアングルは限りなく少なくなる。ああ愚痴っぽく聞こえるかもしれないが、愚痴ではなくこの世にあるものを見ているとき私はこんなことを考えている。

このほか、超広角を使う際は情報の取捨選択と整理が同時進行したなかなか忙しくも楽しい状態になっている。いくら閑散とした海景だとしても、超広角の画角には多様なものが写り込む。単純な海と空だっとしても、波ひとつひとつの情報がものすごい量になって、これは面積比だけでなく波それぞれがたくさんあるものとして画像化される。波それぞれの情報が大量にあるとかなり煩い。こうした特性に、それぞれが存在する位置の距離もまた誇張されてまばらにまとまりなくたくさん何かが存在するように描写される特性が加味される。主たる被写体を可能な限り大きく取り込むため接近しろが広角画角を扱う鉄則になっているけれど、超広角に限らず被写体のパース描写の誇張が大きくなってうるさい画面構成になりがち。むしろ超広角は閑散としたままに、散らばっているままに、でも何かが主題になる程度に注目される構図が向いているように感じる。ほら、人間の視界がこうであるように。

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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