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TTL調光は便利だし間違いないのだが、大きな明暗差を平坦化する以上のことはやってもらえない。大きな明暗差を平坦化するときは積極的に使えばよいし、日中シンクロでの利用は便利さこの上ないけれど、意図的な表現をしたいとき自由度の幅があまりにも狭い。(とはいえ、確かに便利だ)
室内または暗闇でストロボを使用するときややこしさを感じないのに、日中シンクロという言葉が頭の中をチラチラしはじめるとややこしく感じる人がいるのは、少し大げさにいえば「言葉・用語に意識が引きずられすぎ」なのだ。両者に決定的な違いはない、とのんびり構えた方がよいだろう。室内または暗闇でストロボを使用する場合と、太陽光の影響が強い空間でストロボをシンクロさせる場合の違いは環境光の強さだけだ。このようにどちらも変わりはないと言い切って平常心で撮影するには、ストロボ光の強さと環境光下での影響力の強さをちゃんと理解していなければならないだろう。ストロボと太陽光の光の露出への影響力はどのくらい違うのか、どのくらいの環境光までストロボは補助光や演出のため使えるのかという問いに、明確に「EV○から×××である」と答えられる人は多くないのが現実だ。
こうした日中シンクロの基本を、まず機材から考えてみる。
TTL調光機能がなくても日中シンクロはできるが、さすがに単体露出計(以後メーターと表記)がないと不自由きわまりない。したがってストロボ光を測定できるメーターは手に入れたいし携帯したい。メーターには入射光測光のみのものと反射光測光機能が組み込まれているものがあるが、どちらでもよいけれど反射光式スポット機能がある機種は画角内の各箇所の再現濃度がわかるので便利だ。この辺りの実際については後述する。
ストロボはクリップオンタイプから、クリップオン式の形状をしながら大光量のもの、大型ストロボまでどのようなタイプでも日中シンクロに使える。出力は大きいほうが自由度が高い。既に様々なところで検証されているけれど、ガイドナンバー60程度のクリップオンストロボと300〜400Wのストロボの実光量は大差ない。G No.60程度のクリップオンストロボの出力は70〜80W程度だが、開口部にフレネルレンズがあるため集光度がとても高いのだ。いっぽう大型ストロボやGODOX AD360のようなタイプは通称お釜正式名称リフレクターという電灯の傘と同じ原理のフードを使い光にある程度の指向性を持たせている。リフレクターは側方に向かう光を反射させて前方に向けるだけなので、フレネルレンズに比べて効率が悪いのだ。
ただし、クリップオンストロボのフレネルレンズで集光した光束は、均一またはなだらかに変化する明るさを実現しにくく光がきれいとは言い難い。リフレクターによる集光は光の性質を大きく変えないので、この点ではクリップオンストロボより圧倒的に優れている。また、この特性はソフトボックスなどの装置を使ううえでもメリットになるほか、こうした装置の選択肢が広い。ただし、クリップオンストロボだからといって日中シンクロに向かない訳ではないし、小型軽量である点を生かして数台まとめて使うこともできる。注意したいのは、さまざまな拡散装置はリフレクターに最適化されているので、こうしたものを使うときクリップオンストロボでは効率が落ちたり効果を十分に(といっても程度問題に過ぎないが)発揮されないこともある。比較的遠方にある被写体に対して補助光を与えるような用途では、集光性が優れているクリップオンストロボのほうが効率的だ。
ここまでをまとめよう。
1. クリップオンストロボG No.60程度は300〜400Wストロボと同程度の実出力を実現する。
2. 光の質(均一性やなだらかな変化)を求め、多様なアタッチメントを使いたいならリフレクタータイプ。
3. 高効率で到達力のある光を求めるなら、フレネルレンズを使っているクリップオンストロボ。
4. 最近はクリップオンストロボ用のアタッチメントやアタッメントに接続するブラレット類が豊富。
G No.60くらいのクリップオンストロボを2台使用すると、300〜400Wクラスのモノブロックストロボ1台の効率を上回る。この高効率ぶりはとてつもないものだ。助手を使って撮影できるなら別だが、単独で何もかもやる必要がある場合は小型軽量であるだけでもありがたい。しかしリフレクタータイプの美点は前述の通りであるので、自分の撮影実態や求めるものをよく検討すべきだろう。
日中シンクロの実践に話を移しつつ、もう少しだけ機材について述べる。
G No.60くらいのクリップオンストロボが300〜400Wクラスの大型ストロボ1台と同じ仕事をするのは前述の通りだ。では、日中の環境光のもとでG No.60または300〜400Wのストロボはどのくらいの影響力があるのか、だ。これはなかなか難しい問題をはらんでいて、光源と被写体の距離、集光度やアタッチメントの使用など状況によってかなり効率が変化する。ここで私がこれまで幾度も提示してきた図を見てもらう。
光源から1mを基準にすると、1.4m、2m、2.8m、4m、5.6m、8mと遠ざかるごとそれぞれ1EVずつ光量が減衰する。1EVは1絞りに相当し、シンクロ時はシャッター速度によって露光量を増減できないのでストロボの出力だけで光量の減少をカバーしなくてはならない。先に例示したG No.60くらいのクリップオンストロボまたは300〜400Wクラスのストロボを(ともにフル発光で)、クリップオンタイプはそのまま、大型ストロボは一般的なリフレクターを装着した場合、カメラ側がISO100の設定では1mでF22、2mでF16、2.8mでF11、4mでF8、5.6mでF5.6、8mでF4と理論上はなる。
常識的に考えてポートレイトであれば光源と被写体の距離は1m〜2m程度だろうし、景観や風景などでは奥行きの最大は8.0mを超えることもあるだろう。ポートレイトなどではソフトボックスやアンブレラなどを使用して光量が減ったとしても、かなり明るい状況でも環境光とストロボ光の比率から言って有効に日中シンクロが有効に機能すると言える。対して、景観・風景に補助光を与えたり演出を加える場合は(目的から比較的絞り込んで撮影する点も考慮すると)4mを超えた辺りから効果が曖昧になり、下手をすると発光させる意味を失いつつある。失いつつあるが、環境光があるためスタジオのような暗黒で奥行きのある物体に光を照射したときのように被写体がいきなり暗くなることはないし、影を持ち上げてコントラストを平坦化することはできる。だとしても期待通りにならない場合があるのだ。
このため私は、GODOXのV850または860を2台使用して総効果を1.4倍にする機材構成を取っている。これでも環境光が強い場合は、近景は別だが中景以上は焼け石に水になりかねない。GODOX限らずストロボの台数をもっと増やせばよいのだが、単独行の取材や風景撮影では機材の量で行動範囲が制限されるのがもっとも馬鹿馬鹿しい。先に挙げた光の減衰の図と理論値は、開放空間で周囲が無反射のときであって、室内さらに壁などが白色ならより奥深くまで光が回る。こうした空間に豊富に外光が入っているなら条件は更によくなる。とはいえ、なかなかこうした状況には出会わない。などなど考え併せ、撮影を組み立てなければならない。蛇足ではあるが、ISO感度設定を上げればストロボ光への感度もまた上がるが、環境光との比率が変わる訳でない。
では、日中シンクロの実践に入る。
日中シンクロは2つの目的に分けられるだろう。
1. レフで光を起こすのに相当する補助光への期待。
2. 特定の被写体を環境光以上に持ち上げる演出。
(1)はレフで可能な効果の範疇をやや超えるとしても大出力が必要な訳ではない。
(2)は環境光が乏しいか、対象にする被写体が前述のように4m以内くらいにあるなら比較的容易だが、これ以外のときストロボの出力や効率次第になる。
どちらの場合も基本となるのは、環境光に対するストロボ光の比率だ。二つの比率が重要なのは日中シンクロだけではなく、スタジオで多数のストロボを使う場合もまた同じで普遍的な課題に過ぎないと考えよう。いつも通り光量のバランスを取る撮影法のまま臨めばよいのだけれど、どうしても気になるのはフォーカルプレンシャッターのシンクロ上限速度だろう。FP発光もあるので気にしない人は気にしなくてもよいかもしれないが、FP発光が使えるストロボばかりではないので同調速度の上限があるものとしてここでは考えていく。
1/250程度が現在のカメラでは同調速度の上限ではないだろうか。ストロボは出力があがるほど発光時間が長くなり、このため上限が1/250の機種でも1/60を使用するのが基本になっている。とはいえ日中シンクロで1/60以下しか使えないとなると制限が大きすぎるので、上限の速度までいっぱいいっぱい使ってなんら問題はない。以下、ISO100 シャッター速度1/250を基準にして日中シンクロの可能性を例示する。もちろんこれらの条件は実際の撮影で変更可能だ。
環境光がISO100 EV12程度(曇り空の環境)だと、ISO100 1/250 F4が標準的な露光量になる。このときシャッター速度を落として行くと、1/125 F5.6、1/60 F8、1/30 F11、1/15 F16だ。ここにG No.60程度(あるいは300〜400Wのストロボで)フル発光のストロボ光を与えようとするとき、光源との距離を加え考えると1mでF22、2mでF16、2.8mでF11、4mでF8、5.6mでF5.6、8mでF4で標準的な露光量となる。理論値であるが、8m離れても十分に被写体の影を消したり暗部を持ち上げる効果を得られる。近距離であるなら、発光量を落とす余裕がある。ただし、拡散効果があるアタッチメントを使用するなら光量が落ちるため8mは無理だ。
環境光がISO100 EV14程度(晴れの環境)だと、ISO100 1/250 F8が標準的な露光量になる。このときシャッター速度を落として行くと、1/125 F11、1/60 F16、1/30 F22、1/15 F32だ。先の例と同じ出力のストロボ光と距離の関係は、1mでF22、2mでF16、2.8mでF11、4mでF8、5.6mでF5.6、8mでF4で標準的な露光量となる。4mが効果の限度であるのが理解されるだろう。
次に環境光がISO100 EV15程度(快晴の環境)だと、ISO100 1/250 F11が標準的な露光量になる。このときシャッター速度を落として行くと、1/125 F16、1/60 F22、1/30 F32、1/15 F64だ。先の例と同じ出力のストロボ光と距離の関係は、1mでF22、2mでF16、2.8mでF11、4mでF8、5.6mでF5.6、8mでF4で標準的な露光量となる。2.8mが限度だ。
仮に同条件のストロボ(G No.60程度あるいは300〜400Wのストロボ)を2台使用したとすると絞り1段光量が増すので、環境光がISO100 EV15程度(快晴の環境)のとき4mまで効果的に使用できることになる。
ポートレイトのように近距離から補助光を与える用途では、かなり環境光が明るくもストロボは効果的に働くし出力を加減すれば絞り値の自由度は高い。この場合は演出を目的にした背景を暗めにして被写体を浮き立たせる撮影もまた難しくない。しかし、中景への効果を対象にするケースが多い景観や風景撮影では EV14程度(晴れの環境)辺りから光量の不足が課題になる場合が増え、補助光は別にして演出効果を与えるのが難しいのが理解されるだろう。
とはいえ、メリットへの可能性が無ではないので私は景観や風景撮影でストロボ2台体制で臨んでいる。常に「もっと光を!」の心境なのだ。したがってGODOX AD360に集光レンズをつけたいものだと渇望しているのだ。
冒頭でメーターの使用を挙げ、スポットメーターについて後述するとした。ここまで読んでいただければ、日中シンクロは異なる光源の光量比が最重要課題とわかってもらえたと思う。TTL調光で実現できる明暗差の平坦化は、簡単にいえば影を薄くしたり消したりする内容である。演出的な効果は、逆に明暗差をつけることを意味する。明暗差は、写真では画像の濃度の差となって記録される。世の中が皆同じ質感をした彩度を伴わないモノクロの世界であったなら、入射光式メーターの出た目だけで撮影者は写真で記録される濃度を完全に理解できる。ところが実際は、すべすべピカピカしたものからザラザラしたもの、赤から青までの波長を反射するさまざまな物体に満ち溢れている。被写体の反射率が違えば、あたりまえだがレンズを通過してセンサーに到達する光の量が変わる。色は人の視覚を騙し、実際の反射率より明るく暗く見える場合がある。さらに近距離に被写体がある撮影ばかりではないのでスポットメーターが役立つ。モノクロだけでなくフルカラーであっても、被写体または画角内の固有の部分がどのような濃度で再現されるか、この記事のテーマで言えば日中シンクロでどのような濃度にするかを、光量を知るだけでは把握しきれない場合は少なくないのである。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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