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露出計に反射光式と入射光式があるのは皆が知っているところだ。カメラに内蔵されているのは、レンズが透過した光量から露光量を計測する反射光式で、文字通り被写体が反射している光量を測っている。入射光式の露出計は被写体に入射している光の総量を計測するもので、被写体に近寄らない限り計測できないのでカメラに内蔵させるのは無理だ。どちらの方法であっても、適正露光量を知ることができる。なのに両方法があるのは、被写体の反射率が物体によってまちまちで、反射光を計測するだけでは事足りない場合があるからだ。
「黒い布とアルミホイルはとうぜん反射率が違い、同じ条件で光を受けていても反射する光の量が異なり、反射光式露出計で測光すると黒い布は露光オーバー、アルミホイルは露光不足になる」と説明すればわかってもらえるはずだ。こうした場合、入射している光の総量を計測すればよいわけで入射光式露出計の出番と言える。したがって、被写体に接近して被写体が受ける光の総量を計測できる条件では入射光式露出計を使うのが間違いない方法で、人物を撮影したり静物を撮影するとき入射光式露出計を使うけれど、これがスナップや被写体が遠くに存在するケースになると反射光式に頼らざるを得なくなる。(とはいえ、撮影するポジションと被写体が存在している場所の光線状態が同じか似通っているなら、入射光式露出計で計測するほうが確かだったりする)
反射光式露出計がカメラに内蔵されているので、内蔵されていないクラシックな機種以外では単体露出計として使い途がないように思われるかもしれない。なので、最近は高精度のスポット式露出計は単体では製品化されていないか一般的ではない状況で、大概は入射光式の単体露出計に組み込まれた形で売られている。だがストロボ光はカメラ内蔵のスポットメーターでは計測しようがないため、ストロボ光を使う際に反射光を計測するなら単体露出計を使わざるを得なくなる。このように説明すると、「ストロボ光を単体露出計で測光するような場合は、被写体に接近して被写体が受ける光の総量を計測できる条件ではないのか?」と疑問が生じるかもしれない。こうしたケースで反射光式のスポットメーターを使うのは、撮影によって記録される被写体の濃度を知りたいからだ。
花を撮影する場合を例にする。以下の図のように、花の位置で入射光を計測すればほぼ間違いなのない露光量がわかる。しかし、次の2点は(経験から直感的にどのように描写されるかわかったとしても)正確な数値は入射光式露出計だけではわからない。まず、花びらと蕾、茎といった反射率が異なる部分ごとの描画。次に、光源に近い場所にあるハイライトと他の描画。各部が画像に記録されたときの濃度がどのくらいになるか、明暗差を知るためスポットメーターを使う。
記録される画像(データ)と、これをRAW現像した後の結果は必ずしも一致しない。応答特性(ガンマ値)やコントラスト等を操作するなら、表現される濃度=明度・輝度はいかようにも変わる。しかし、白飛びしたり黒潰れしてディティールがなくなった部分にディティールを生み出すことはできない。また、RAW現像の方向性がわかっているなら計測した結果から、画像化しやすいかしにくいか、適切か不適切か理解できる。人間の視覚は状況に応じて融通無碍に物体の状態を把握する特性がある。なので、私たちが何かを見るときいちいち露出計を使わなくてもよいのだ。こうした優秀な能力があるゆえに、機械に過ぎないカメラとセンサーと回路が記録する物体の濃度を把握しきれない。フィルムを使って記録していた時代と比べ、写真がデジタル化され成熟した現在はかなり融通が効くようになったが、それでも太陽光やモデリングランプの光で人間が見たままに再現するには高度な技術が必要だ。繰り返しになるが、記録される濃度をあらかじめ知るのに頼れるものはスポットメーターくらいなのである。
いまのところスポットメーターが組み込まれている単体露出計は比較的高価で、入射光式露出計の光球をスポット用レンズに交換するアタッチメントなら安価に入手できる。使用頻度が少ないなら後者でもよいかもしれないが、入射光と反射光を取っ替え引っ替え計測する場合は面倒か2台持ちにならざるを得ない。セコニックのメーターではスポットメーターによるストロボ光の計測はノンコードで可能だが、2018年2月現在ケンコーはシンクロコードが必要だ。どちらが便利かといえば、とうぜんコードで結線しても使えるノンコード式の機種だろう。ノンコードでスレーブする例が増えているので、セッティングがノンコードなのに測光時のみコードを結線するのは無駄が多い。いずれにしろ受光角1°は文字通りピンポイントで部分ごとの濃度を知るのに適しているのだけれど、とても神経質にならざるを得ない角度で、遠距離を測光する風景撮影ならまだしも中近距離にある物体を計測するには神経質にならざるを得ない。スポットメーターを使うか否か、露出計のボタン操作でテスト発光と測光ができるコード式がよいのか否かは、目的と状況と、これらに対する人それぞれの考え方と対応次第ではある。
ここまでストロボ光の使用を中心にスポットメーターについて説明したが、自然光による風景撮影など他の場合でもスポットメーターは「記録される濃度を知るための露出計」と考えたほうがよい。スポットメーターを製造しているメーカーのホームページを見ると、遠くの被写体の限られた部分の露光量を知るための機材として説明されるのがほとんどだ。もちろんこれで間違っていないけれど、いまどきはカメラ内蔵の露出計がスポット測光に切り替えられたり、分割評価測光が優秀になって補正を加えなくても中庸かつ暗部明部のディティールが残る塩梅のよい結果を示す。メーカーが例示するような使い方では、往々にして暗部明部のディティールは問題ないが他の部分が露光オーバー・アンダーになるだろう(写真の仕組みと使い方がわかっていれば問題ないとしても)。このように使うのだったら、アンセル・アダムスのゾーンシステムを触りだけでも頭に入れておきたいものだ。
アンセル・アダムスのゾーンシステムもまた、露光量を知るというより「部分ごと記録される濃度を知って、写真の狭いダイナミックレンジの中にいかに無駄なく輝度の散らばりを収めるか」に主眼が置かれている。ゾーンシステムを使わないとしても、暗部として潰れてもよい部分、明部として飛んでもよい部分、中間調のディティールを余さず残す部分を検討し、全体の露光量を決める際に「記録される濃度」を知るためスポットメーターを使うのだ。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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