内容が古くなっている場合があります。
人工光源を使用して静物を撮影する際、厳密にアングルを決定した上で露出計を使わないと思いの外に想定通りの露光量が得られない話を書こうと思う。当たり前だろと言う人、そこまで言うかと首をひねる人、どちらも存在するのが想像されるけれど、やはり「厳密に」アングルを決定しアングルに従った測光をしないと狙い通りの輝度として撮影結果が得られないのである。ことは太陽光で風景など撮影する場合も同じであるけれど、気になりやすいのは静物(ブツ撮り)だろう。
入射光式露出計を使っているなら、測光するとき光球をレンズの光軸に直交させなければならないのは誰しもが知っている。反射光式露出計もまた、レンズの光軸通りに被写体へ向けなければならない。多少の誤差は許容範囲のズレになるだろうし、反射光式露出計を使用する状況の大半は前述のようなシビアさはないが基本はこのようになる。静物では入射光式露出計を主として使用するだろうから、ここでは入射光式露出計を例にして説明する。なぜ露出計の向きが重要かと言えば、入射光式露出計は図のように半球形の光球の正面頂点から角方位90度つまり光球が向けられた側全周180度の範囲に入射する光を測光し、これは光軸から見た面に照射している光の量を意味していて、ここから露光量を割り出すからだ。
以下の模式図の下段中央が、レンズの光軸に直交させた状態を示すものとする。左右のように、光軸に対して角度がついたとき中央の測光値と異なる露光量が示される。光源向きになっていたり、逆になっていれば測光値が異なる値になるのは当然だ。
模式図ではかなり大げさに表現しているが、わずかな角度の違いで1EVからそれ以上の差が出るのはざらだ。1EVは1絞りに相当するが「わずかな違いではないか」と言えない差となって撮影結果に現れる。弊害が顕著なのは均一な輝度を表現したい面において明暗差が生じた場合だ。
例えば、静物の背景である。1EV差がどのくらいの輝度の差となって生成する画像に反映されるか応答特性(ガンマ値)やコントラストの設定で変わるので絶対的な値を示せないが、以下の各色面の差くらいに表現されても何ら不思議ではない。RAW現像時に全体を暗く明るく調整することで差が救済できるならよいが、主たる被写体と背景が別個に光を与えられているときなど、この方法で必ずしも救済できるとは限らないし、マスク指定などして別個に調整するなら自然で綺麗な仕上がりにするのは厄介な作業になる。
もう一度、角度違いの模式図に戻って更に厄介な状況を説明する。模式図では面の中心の測光値だけを取り上げたが、この面のすべてを均一な輝度に収まるように目論んだ場合を考えたい。これは特殊なケースではなく、背景つきの静物では日常的に発生する事案だ。均一な輝度にするとはいえ、実際に測光するのは中央と中央周辺、四隅と四隅周辺などを計測するはずだ。これらを前述のように角度を違えず測光して均一な値を得たとしても、撮影する際の光軸とずれが生じると想定した輝度となって記録できない。記録できなくてもRAW現像で全体を調整して均一な輝度にできればよいが、輝度の分布がまだらになる場合がある。なぜこんなことになるのだろうか。
ここまで露出計の向け方を中心に考え、光軸と角度がズレることで測光値が怪しいものになる問題を説明してきた。これをレンズの光軸を中心に考え、測光時の露出計と角度がズレた場合に置き換えればまだらの発生に合点がいくだろう。模式図の下段中央の角度を維持して面の隅々を測光して均一な値になっていたとしても、レンズの光軸が測光時のものと異なればカメラから見て面は均一な明るさにならなくてもまったく不思議ではない。測光時と光軸がずれるのは、測光時に想定したアングルを撮影時に修正したときだ。大判カメラでは蛇腹を使って撮影範囲を変えられるが、これらの機構がないカメラではレンズとカメラごとアングルを変えて撮影範囲や構図を変化させることになる。測光前に構図が確定されていればよいが、測光後に構図替えや微調整をすると測光時の光軸の想定から大きくずれる可能性大だ。輪をかけて、測光した範囲外が映り込めばなおさらである。もし測光後にアングルを変えたなら、アングルに応じて測光し、ライティングを修正すべきだ。どれくらいの違いが生じたとき、どれくらい測光値と差が出るかは、変化の差とライティングしだいである。いずれにしても、まだらになった輝度の差をRAW現像などで手直しするのは困難である。
とうぜんこの問題はポートレイトや風景撮影でも発生する。ただし、人工光源をメインにした静物(ブツ撮り)撮影ほど気にならなず邪魔な感じがしないのは、画角内に均一な輝度の面が広く存在することのほうが不自然な状況だからであり、こうした気にならないケースにまで神経質になる必要はないだろう。それでもポートレイトの背景が無地の色面や無彩色の面のとき、(意図が反映されているなら別だが)面の中に輝度の差が大きく生じた場合、特にまだらな加減が不自然な場合は一目見ただけで違和感が生じがちである。表現次第、求めるものが何処にあるか次第で厳密さの程度が変わるので、ここは判断すべきところだ。特に出力された画像の周囲が余白になるレイアウトやベタ塗り状であると、ほんのわずかの輝度の違いがはっきり認識される。あるいは画像サイズが縮小されると目立つ度合いが大きくなる。例えば以下のような例だ。例では均一に推移するグラデーションなのでコレはコレな判断もできるけれど、意図しないまだらが生じるとかなり目につき気になる。これを逆手に取ったものがグラデーションやまだら化によって奥行きを想像させるライティングだ。
Fumihiro Kato. © 2018 –
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.