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iOS 11から画像の書き出し形式がJPEGではなくHEIFになった。HEIFとは何かについては、「画像形式はHEIFへ。JPEGは一気に古びるだろう」で触れたのでここでは繰り返さないが、JPEGより圧縮効率が高く画像劣化の少ないMPEGで定義された画像形式である点だけは確認しておきたいと思う。これまで長らくWEBを中心として画像形式はJPEGの天下が続いていた。デジタルメディアがWEBと切っても切れない関係にあるのだから、世の中のデジタル画像のほとんどがJPEGで流通していたと言っても過言ではないだろう。しかし、JPEGはあまりに古い規格で、普及しているがゆえにネガティブな面を抜本的に改良できないまま今日に至った。
JPEGを改良する試みはJPEG2000など多数の画像形式を誕生させたが、これらはJPEGと互換性がなく、大多数のブラウザから無視されたがゆえに普及しているとは言い難い現状がある。またJPEGと根本的に異なるファイル容量を小さくできる画像形式も誕生したが、回線を圧迫しないWEBでの画像表示用という当初の目的を、やはり大多数のブラウザから無視されたがゆえに普及していない。HEIFもまた、ブラウザから無視され普及しない結末に至るのだろうか。「画像形式はHEIFへ。JPEGは一気に古びるだろう」でも触れたが、HEIFはHTML5.2で既に定義ずみの形式であり、今日もっとも普及している動画形式であるMPEGから派生したものであるから一般化するのは時間の問題であった。Flash形式の動画が駆逐され、いまどきはWebMが普及しWebMであると意識すらせずブラウザで動画を観ているようにだ。
ここで思い出されるのは、Adobe Flashが落ち目になったきっかけである。それはAppleのiOSおよびOS X(現在のmac OS)からFlashを排除するとスティーブ・ジョブズが宣言した日からのできごとであった。このときAppleは完膚なきまでにFlashを再生する手段をiOSから取り除いた。やろうと思えば再生できるし、OS XではプラグインをダウンロードしてインストールすればFlash形式のコンテンツを再生できたが、いきなりすっぱりとFlashから手を引いたのは間違いない。しばらくはユーザーから不満の声があがったし、コンテンツの制作者やコンテンツを配信するサイトは混乱したけれど、結果は古臭く脆弱性の虫食い穴ばかりであったAdobe Flashは衰退し、HTML5準拠の動画形式であるWebMへとすみやかに移行が促された。
もうすこしAppleにフォーカスして時代を遡ると、初代iMacにおいてフロッピーディスクの廃止と、外部機器との接続をUSBに絞り込んだ一件が思い出される。当時はこうした思い切った戦略に対して、不便だし誰が買うかとまで言われたが、現在フロッピーディスクを読み書きする機器は探しても見つからないほどで、ほとんどの外部機器はUSBによってコンピューターやタブレット等から接続するようになった。切るときは残酷なまでな対応で切り捨てるのが、Appleである。
iOS 11ではデフォルトの画像書き出し形式がHEIFになり、次期 mac OS のHigh sierraからHEIFの読み書きがOSレベルでサポートされることになる。 iOSでは書き出し形式をJPEGに変更する手段があるとしても、「面倒臭がり」で「あれこれ調べるのが嫌い」な大多数のユーザーは写真を撮っても、スクリーンショットを撮っても、これらを写真アプリで加工してもHEIFで書き出し、そのまま誰かに送ったりするだろう。これは初代iMacで書類を保存しフロッピーディスクではなくメールに添付して誰かに送信した「あの日」の再来であり、相手はメール添付の書類に慣れていようとなんだろうとおかまいなしに時代は先へ進んだのだ。つまり、そういうことなのだ。
iOS用のアプリでは、きっとJPEG変換機能をうたい文句にしてあれこれ新顔が登場したり、従来のアプリに新機能として変換機能が実装されるだろう。しかし、時代は元へは戻らないのである。もしiOSを搭載するiPhoneやiPadが取るに足らないものであったら、こうした残酷なまでのJPEGの切り捨ては過去の新フォーマット同様に失敗するし、機種そのものがそっぽを向かれる。でも当時圧倒的少数派であったiMacでさえフロッピーディスクを過去のものにできたのである。フロッピーディスク撤廃はスティーブ・ジョブズによる短気な決定と言われがちだが、そこには時代と技術への的確な考察があったはずだ。同様にHEIFへ舵を切った現状には、HTML5の成功と普及、HTML5.2でのHEIFの定義という背景があるのは前述の通りだ。そして忘れてはならないは、iOS 11から32bitアプリがサポートされず64bitのみになることだ。
ここでもAppleの切るときはすっぱりの姿勢が貫かれているが、要は古いゴミのようなアプリとゴミアプリが提供するサービスを切り捨て、iOS環境を先へ進めようとしているのだ。かくいう私のデバイスにも、たぶんあなたのデバイスにも、かなり以前にインストールしたアプリがあるはずだ。これらのほとんどは現在も動いているかもしれないけれど、ずっとバージョンアップによる改定がなされないままきているのではないだろうか。こんなオンボロがApp Storeにはまだごろごろしていて、誰かが昨日今日あらたにインストールしているかもしれない。こうした過去の遺物を一掃するには、「はい、今日から動きません」としないかぎり他に方法はない。互換性維持のためOS側が不要な努力をするなど人々の未練に同情していては、労多くして得るものなしだ。64bit化へ対応する気のある画像関連アプリはHEIFにも対応するだろうし、JPEGを切り捨てるにはちょうどよいタイミングである。
HTML5.2でHEIFが定義されているから、いずれいつかブラウザも対応しただろう。しかしAppleがこうして動かなければ、いつまでも未練タラタラJPEGを使い続ける画像制作者が生じただろうし、そもそもブラウザの開発陣も重い腰をあげなかったかもしれない。だが、今回 iOS 11がデフォルトでHEIFを採用したことで、誰もが尻を蹴り上げられた。現在JPEGの改良を促す動きがあるのだけれど、これらに参画している開発者は、そんなことよりHEIFに力を注いだほうが実があると思うだろう。HEIFがコンテナ形式のフォーマットでここに新JPEGが格納できたとしても、これまでのJPEGが担ってきた重要な役割はHEIFのMPEG由来の圧縮技術へ移行するし、そもそもユーザー数が多いiOSデバイスがJPEGをパージしているのだ。
これは開発者=プログラマだけの問題ではない。作品としての画像つくりに携わる者も、不自由極まりなくとうてい満足できないJPEGをどう扱うか勉強したり経験を積んだりしたように、HEIFとの付き合い方を学ばなくてはならない。現状ではHEIFを扱えるソフトウエアが皆無に近い状況で、しかもブラウザも未対応ではあるが、変化はいきなりやってくる。あるときフロッピーディスクを使わなくなったように、データのやりとりや保管がクラウドになったように、だ。
Appleは写真に対しても動画同様に4K越えの時代を思い描いてるはずだ。これはAppleがラインナップしている5Kディスプレーの話だけではないし、AppleTVだけでもない。世の中の画像(写真と言い換えてもよい)が、数百ピクセル四方の画像として取り扱われたり配信されたり表示されたりしている現在のありさまが、近いうちに、ちょっと大げさに書けば「明日」から4K越えが求められるとAppleは読んでいるし、そういう将来を牽引しようとしている。そういう明日は、JPEGでは通用しないのである。だから、HEIFなのだ。写真を撮影したり現像したり発表したりする私たちも、いまどきの常識を書き直さないとやっていけなくなるだろう。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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