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大きなスペースを用意できるなら何のことはないが、小さな空間内で均一な闇(輝度・明度が均一に低い面)をつくるほうがライティングでは難しいと言える。なぜなら、明るさはライトによっていくらでも増減できるけれど、暗さを積極的につくり出し調整する機材はないからだ。闇投射ライトなんてものがあったらどれほど捗るかわからない。
だから小さな空間内では、暗さの表現は光線を遮蔽するほかなくなる。ところが多くの場合、撮影には拡散度の高い光線を使い、拡散させるゆえに広範囲に光がまわるし、拡散する装置や道具立てが大きくかさばるものだ。小さな空間に、拡散装置が大威張りで居座ると遮蔽用の道具立てを作り込むのが難しくなる。仮に背景など暗くする必要がある場所があり黒の背景紙などを使い「黒=闇」をつくるとしても、反射率が限りなくゼロに近い背景でないなら、均一な闇にならず輝度・明度のグラデーションが生じる。
とはいえ、背景だけならなんとかしやすい。ここまでは背景を代表例とする均一に暗い面を意識して書いてきたが、被写体より暗い背景ではない面であったり、被写体そのものに暗い面をつくるときは難儀するケースが多々ある。こうなると大型ストロボの発光部を設置して四苦八苦するより、大光量のクリップオンストロボを活用するほうが拡散も遮光もコンパクトになり楽である。まあこれも、どのくらいの空間を使用するかにもよるけれど。
想定する暗さが256階調の20だったとして、まだらに25、15の暗さがあってもどうにかなるかもしれない。ただし、これが35あたりの輝度・明度になるとまだらがとても気になる。現像時になんとかごまかすことはできても、精密に補正しようとするとけっこう手間だ。なにが手間かと言えば、このまだらが被写体の背景であればグラデーションツールを使っただけでは被写体まで暗さ(明るさ)調整の影響を受けるし、被写体そのものに一様な暗さの面をつくろうとしていたならマスクを切って調整してと……すべてが煩雑化し同時に美しさにも影響する。
こうなるとライティングとは言うものの、暗さから光をつくりあげていったほうが楽である。被写体の明るさと陰影をつくりこんでから遮光しようとしても、既に完成している照明機材の位置、拡散用の道具立てなどが邪魔で、邪魔だからといって取り除いたりしたら元も子もなくなる。したがって暗さが重要な意味を持つときは、どことどこをどの程度暗くするか計画を明確化させ、この暗さを維持しつつ光を置いていくほかない。ただこういった方法は、被写体の明るさや立体感の描写だけで済む撮影のライティングにも共通する部分があるので、「暗さから光をつくりあげる」は特殊な考え方ではない。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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