望遠の鍵穴効果

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望遠レンズに対して「鍵穴効果」なんて造語を使っているのは私くらいだろう。なんだけど、「鍵穴効果」については一般的な言葉にするくらいどんどん言っていこうと思う。レンズの取捨選択に関して「スタンダード・ラインナップ」の考えがじわじわ広まっているように、ですね。というのも、「鍵穴効果」は「スタンダード・ラインナップ」とも関係しているのだ。

「鍵穴効果」とは(光学的であったり物理的であったりするモノやコトノのような)いかに写るかよりも、望遠系のレンズを使用する人間側の話だ。ズームレンズはひとまず置いておいて、手元にある広角から標準、望遠のレンズを順番に装着してみてもらいたい。もともとファインダーは暗黒の中に四角い明るい領域として対象物が見える。なので広角レンズを装着していてもある種の「鍵穴」から外界を見ている雰囲気がある。しかし、これが標準レンズ以上の焦点距離になると「鍵穴」から覗いている感が強くなり、肉眼だけで世界を見ているときとなにかと違う。人によっては標準レンズあたりでも「鍵穴」感はあるだろうけれど、やはり中望遠以上、ざっくりいえば135mm以上で明白なものになる。

「鍵穴効果」によって、私たちは日常の視界で世界を見ているときと異なる精神状態になる。うーん、写真を撮影し始めたばかりの人はどんなレンズを装着していても非日常性を感じるだろうが、超広角から望遠までいろいろレンズを経験し長らく写真を撮影している人はたぶん前述の望遠域でのみ「鍵穴効果」を覚えるのではないか。私は長くても200mm程度くらいしか望遠系のレンズを日常的に使用しないので、135mmくらいから「鍵穴効果」で気持ちがジワッとしてくる。スポーツ報道の写真家の方などは400mmでもジワッとこないかもしれない。

100mm程度のレンズまでは、肉眼で見えていたものがファインダーでもそのまま見える。当然のこと肉眼の視野より狭いのだけど、ファインダー内の世界と実態(肉眼で見ている世界)に断絶はない。そのまま、するーっと繋がっている。ところがより長い焦点距離になると、鍵穴からナニカを覗いている気分になる。端的に言ってしまえば、画角が狭いからに他ならないのだけどね。で、こういった画角・焦点距離のレンズともなると、肉眼では見えなかったものが見える。それは遠くに存在しているものが見える、というよりディティールであるとか構造が発見される。んー、知っている人、撮影の直前まで見ていた人であっても、クローズアップされることで見えてくるもの、発見されるものが多々ある。こういった発見は撮影者だけのものでなく、撮影された写真にも写し止められる。写真を鑑賞する人の「鍵穴体験」は撮影者ほどではないとしても、だ。

鍵穴から覗く感覚には、ディティールや構造の発見だけでなく、これら以前にファインダー内の世界と実態の断絶がまずある。断絶と言っても、別世界、まるで違う世界があって断絶している訳ではない。鍵穴を覗いたら、アリスのワンダーランドがあったというのとは違う。実際に鍵穴を覗くときと同じく、予想される世界がまず存在しているうえに、予想外の世界が展開されている状態になる。ドアにある鍵穴も、ファインダーという鍵穴も、これを覗く際の心理は似ていて高揚感というか特別な気持ちになるものだ。ちょいとばかし悪い気持ち、変態的だったりして。こういった心の律動は、犯罪を目的にしていないなら、撮影心理として悪いものではない。ただ、非日常の視界の体験、発見によって高揚しすぎるなら気持ちだけで空回りした結果しか撮影できない。

「うわーっ」となる気持ちだけで撮影している人はいないと思うが、強い圧縮感などだけで構成された写真はあちこちにある。「だけ」ではないけれど、ほとんどそれしか意味のないものとか。ほらカメラ屋さんの望遠レンズの作例みたいな。こういうのは広告としては別だけど、望遠レンズが珍しくもない時代に表現としてどうよ、という。

このポジティブ、ネガティブ両面が「鍵穴効果」にはある。で、これは一眼レフやミラーレス機にはあるけれど、レンジファインダー内の画角を示す枠線にはない。

さて、「スタンダード・ラインナップ」との関係について書こう。「スタンダード・ラインナップ」は28mm、50mm、100または105mmマクロだけを使うべしといったものでなく、この3種が広角から中望遠で画角のみならずパースペクティブに変化を与えられると同時に親和性が高いので中核として意識すべきといったものだ。したがって拡張したり、いずれかを排してより特異性の強いものに置き換えることができる。なのだけれど闇雲に拡張しても意味がないので、ここには書かないが「スタンダード・ラインナップ」の本質であるレンズの特性を意識すれば無駄のないラインナップが形成できるというものだ。元となる28mm、50mm、100または105mmマクロには「鍵穴効果」が伴うレンズがない。これが親和性を担保している。また気持ちの新鮮味はないかもしれないが、気分の上でも描写されるものそのものにおいても冷静な視点が得られる。

100または105mmマクロの代わりに70-200mmに置き換えるのは誰でもが行なっていることで、別に不具合は何もない。なのだけれど、「鍵穴効果」が発揮される135mm以上200mmまでの領域は28mm、50mmとナニカが違う。一つの被写体をクローズアップにする場合だけでなく、漠然とした景観を撮影しても親和性はない。ここが突出する意味と突出させる意図ははっきり意識したいね、なのだ。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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連絡 CONTACT

・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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