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スタイリストやヘアメイクの方からいろいろ教わっても一向にスッキリしない私だが、ひとつくらいは守っていることがある。ポイントとなるパーツをころころ変えてはならない、である。
東南アジア某国での比較的長いロケが終わり、さあ帰りの飛行機にというとき、ロケ中に伸びた私の口ヒゲについて「伸ばしたら伸ばす。ころころ変えてはダメですよ」とヘアメイク氏に言われた。そう、このときから私はずっとヒゲ男なのだ。これはヒゲに限らず、装飾品など身につけるものにも言える。もし装飾品じゃらじゃら系で行くなら、多少の増減があるのはしかたないがずっと派手めにすべきなのだ。メガネは顔の一部と言われるけれど、ずっとメガネの人がコンタクトにしたり、いつも裸眼の人がメガネをかけたりというとき、何か板につかない落ち着かない感じがする。このようなイメージの混乱は得策と言い難い。
人は見かけじゃないは嘘で、大概は見かけだ。ぱっと見の第一印象がとてつもない影響力を持っている。ハリウッドスターのような見かけでなくても、「あっ、真面目そう」「えっ、気弱そう」「ふーん、強そうに見せかけて弱そうなやつ」なんてそれぞれの風貌が人物を物語る。ほら、思い浮かぶよね。たしかにネガティブな印象は変えたいものだけど、そうでないならイメージを固定したほうが、どこそこの誰とはっきりしてよい。見かけと印象をはっきりさせたら、仕事だろうと私生活だろうと行動の軸がぶれることがない。というか、攻め所の方針も決まる。会社のロゴが変わるのは、会社の何かが変わるとき、変えるときで、気分次第で変えている訳ではないのと同じだ。変えるなら、すっぱり変えろ。変えないなら、守り通せだ。
私だって歳をとってきてポジティブ要素が下降線をたどるばかりだけど、ネガティブな部分を堂々と表に出すと誰も口出しできないものになる。どんな流行りもの好きだって、毛筆体で旧字の老舗ロゴに文句をつけられないのと同じ。清酒の蔵元の堂々たるロゴを、細くて丸い書体にしろなんて誰も言えない。で、もともと額が広い私だけれど、誰かが言った「髪が後退しているのではない。私が前進しているのだ」状態は隠さないし、むしろ髪をガリッと刈り上げている。3mmのバリカンで丸刈り、頭頂部だけ指でつまめるくらい。で、バランスを取るうえで口ヒゲだけでなく顎ヒゲ、モミアゲがつながるようにしている。こうなるとロゴマークのようなもので、初めての人との待ち合わせに「白いヒゲがモミアゲまでつながってる短髪の男が私です」と告げるだけで人間違いなしである。まさにロゴマーク。写真をやっている人なら荒木経惟さんをご存知だろうが、風体のコントロールは実に完璧、誰が見たってアラーキー以外の何ものでもない。
もちろん人にはスタイルの模索ってものがある。髪型には流行り廃りがある。もちろん、変えるのが悪いのでもない。荒木さんも随分変えている。なのに期待を裏切る変わりかたはしていない。これが自分の顔の造作や体つき、やっていることに合うように、ポイントを押さえてナニカを固定するということだ。ヒゲを例にするなら、口ヒゲ、顎ヒゲ、モミアゲとパーツが増えたり減ったりするのはまだよい。しかし、このうちの口ヒゲがポイント中のポイントであるなら大切にしたい。ほら、ロゴマークを変えるCIの際も微調整するだけということがあるでしょう? とCI時のプロデューサーとしての経験が長かった私は思う。ほんと、微調整だけで時流であったり傾向を添えられる。
「私が前進しているのだ」の部分の話をすれば、俳優さんのように固定したイメージを崩せない人は別として、頭の「前進部分」を隠さないほうがポジティブな印象を与える。ようするに丸刈りだ。アスリートたちの影響かスティーブ・ジョブスの偉大さか、大人が丸刈りでも出所してきた人のようだなんて言われなくなって久しい。こういう傾向にはどんどん便乗すればよいのではないだろうか。で、スタイルの傾向はモード雑誌を食い入るように見なくても、アスリートやジョブスの例のようにテレビを漫然と見ていても特徴がつかめる。映画、様々なポスター、道ゆく人をチラ見して、自分と似た体型、風貌の人物がうまくやっているところを真似すればよいだろう。こうして飄々としていれば刷新されたイメージがしっかり根付く。コピーかもしれないけれど、人間の風体の振れ幅なんて小さいものだし、新機軸なんてほとんどないし。
今では某シュークリーム屋さんのマークみたいな私だか、毛深いことやヒゲが濃いことに悩んでいた時期もある。つるっとしていることが賛美される時代は長かったのだ。また若いときはヒゲが板についていなかった。でも結果として押し通してよかったと思う。シュークリーム屋さんのマーク、サンタクロース、大きく出るならアーネスト・ヘミングウェイで、いずれの方々もポイントがはっきりくっきりだ。イメージが分散することがない。やんわりから強面までカバーできるのも気に入っている。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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