機材車、ロケ車の話

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いまどき車は頭痛の種筆頭とも言える消費財ではないだろうか。もしかしたらいつの時代も、そういうものだったかもしれない。だとしても、税制がころっと変わり一車種に長く乗りたくても買い換えへ背を押されるのには辟易だ。景気が絶好調とは言えないし、同車格と思しき過去の車と比較して値段が高いしね。なのだが、車の買い換えを真剣に考えざるを得なくなった事実が消えてなくなる訳ではない。車は値段がつく時期に売るなり下取りに出して次を買うのがベストなのかもしれないけれど、私は好きな車をできるだけ長く乗りたい質で、これまでの車は廃車または遠い国の中古市場に流れるほかなくなるまで使った。ここに前述の古い車への増税があり、「もうね、仕方ないね」で乗り換えなのだ。そうそうカーナビも死にそうだし。あれこれ追加投資するのはどうか、なのだ。

環境がらみをお題目にする税制つながりの話だけれど、ここ一、二年の状況を見るにハイブリッド車の時代が(かなり?)続き、燃料電池車は随分先の時代にならないと主流になれそうにない。で、だ。EUは内燃機関を動力にする車をしばらくしたら廃止させると言っているけれど、易々と燃料電池車のエネルギーを供給するインフラが整備できるとは到底思えない。これは日本も似たり寄ったりの状況であるし、ましてやバッテリーが飛躍的に能力向上しないかぎりEV車だけの世界になるというのにも無理がある。私はディーゼルに興味津々なのだが、下手をすると今後は締め付けが厳しくなるかもしれない不確かさを感じる。ディーゼルは効率がよいのだけれど、粉塵(スス)の問題は簡単には解決されそうにない。粉塵対策として尿素を用いる排気システムがあるとはいえ、現状ではバスなどに装着されているだけであり、メンテナンス性やサイズの問題から一般の乗用車においそれと追加できるものではなさそうだ。実際のところディーゼルエンジンの乗用車が大いに普及しているEU圏は、粉塵公害がなかなかにひどいらしい。

私はほとんどすべての物事について心配性で悲観的なのだが、こと車に関する国の政策をまるっきり信じていない。環境対応度の点数シールが貼ってあるガソリンエンジン車だって、いつ増税されるかもしれない。と、するとだ。EVは航続距離が怪しいし、燃料電池車は先行き不透明だし、既に書いたけれどハイブリッド車がもっとも現実的な解ではないのかと感じる。ほら、いま車の話をしようとするとどうしてもすっきりしない何かがひっかかる。ちょっとだけ古い車を所有していて、年々増加する税金による圧迫感に背中をぐいぐい押されている私は、頭が痛いだけでなく消極的な選択をしなければならない憂鬱を抱えているのだ。長年、東京モーターショーの仕事をしてきたけれど、ああいったお祭り的気分とか夢とか破壊し尽くされちっとも残っていないのだ。

だったら車を所有しないで共有するカーシェアリングにすれば、という意見があるのはもっともだ。とはいえ、撮影機材を積んだり、撮影に関係する人を乗せたりといったことを考えるとカーシェアリングは具合があまりよろしくない。大概の機材はどんな車にもほぼ搭載できるけれど、無理やりの状態になったり、長ものが載せられないなんてことになったらどうするのか、である。いつもいつも誰かさんを同乗させる訳ではないけれど、後席の足元があまりに狭いというのは苦痛だろうなあと思ったりする。荷物が積める、誰かさんを乗せて移動しても相手がそこそこ快適、できれば車中泊と言わないまでもゴロンと寝転べる車がいいな、なんて言い出したらカーシェアリングは候補から外れる。機材を運ぶことだけを考えても、車ごと向き不向きがあるのだし。

写真を撮影するための移動に使う車。あるいは写真を撮影するための移動【にも】使う車。こういった需要は世の中からしたら少数派であり、ぴったりくる車種はそうそうない。無茶を承知で書くなら、外周りの寸法は小さく、容積は大きく、シートアレンジの自由度が高いものを手に入れたい。首都圏は幹線道路あり極細道ありで、後者では全幅1800を超える車はストレスでしかない。しかも新宿など都会のど真ん中にある古い駐車場は、全幅1800でも停められないことはないが往々にして窮屈だ。隣の車にぶつけないようそっと小さくドアを開け、荷下ろしと積み込みでまた苦労する。郊外のコインパーキングでも、どうやったら入庫できるのだろうと一瞬考えざるを得ない極小敷地のものがある。こういった時は、全幅全長だけでなく最小回転半径が重要になる。ところが衝突安全性のためやら、世界戦略車化したことによる日本向けサイズとの乖離やらで、年々新車は肥大化している。

日本固有の切実な問題に応えなければならない商用バンは、よく出来ている。いっそ、と思ったのだが「色気とか、かわいさとかないな」と。ここにきて、破壊し尽くされた夢がむくむく蘇ってきた。全幅1700半ばくらいまで、ハイブリッド、最小回転半径はできるだけ小さく、AWDまでは必要なし、四枚ドアで後席はなるべくゆったり、荷室は大きく、シートアレンジが多様でフルフラット化が理想、経済性からタイヤは17インチまでという観点で、ざあっと国産車を見回すことになった。どうせ出費するなら、最大効果を。どうせ乗るなら、夢を。で、ある。

結論すると、ホンダのヴェゼルがかなり良さそうなのだ。ここで「えっ?」という人がいるかもしれないけれど、上記条件を満たした上で機材の搭載性でヴェゼルに勝る車種はそうそうない(ないとは言わない)。それと、後席の足元が想像していたより広い。シートアレンジの豊富さだけでも、ちょっと感動した。「色気とか、かわいさとかあるの?」と怪訝な顔をする人には、「愛とは、他人がどうこうではない」と言うことにしよう。今回はこんな具合だけれど、そのまた次の買い換えでは現行車で言えばジムニー的なものになるとは思う。人生のいろいろなものが、年齢的にとことん整理されるだろうし、整理しなくてはならないだろうから。でも今はまだ軽自動車を機材車、ロケ車にはできないのだ。背景布を積むとなると車載する荷物のひとつの基準である180cm以上の規格外の長さだし、(五名乗車は緊急時だけだし)最大四名が窮屈にならず乗れて四枚ドアが必須だったりする。ジムニーのソリッドさというか男気はお預けなのだ。

ほんと車って、たいへん。

Fumihiro Kato.  © 2016 –

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連絡 CONTACT

・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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