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なんだかんだでJPEG撮って出しの納品を迫られる人もいるだろうが、大概はRAW現像して写真を納品しているのではないだろうか。写真は撮影したらすぐ画像が手に入ると考える一般の人が大多数なのだけれど、撮影者にしてみれば撮影も本番、現像も本番でどちらも慎重に作業をしたい。現像でどの程度手を入れるか人それぞれ仕事それぞれだろうけれど、この前記事にしたスキントーンなどなど調整と検討をするくらいはやっておきたい。写真に限らずモノをつくる仕事は、偶然ではなく必然によって最善の結果がもたらされるからだ。
ラブレターは翌朝読み返してみろ、と言われる。熱い思いのたけをぶつけて書いたはよいが、翌朝読み返してみると相手をまったく思いやっていない様や恥ずかしい態度などに気づくものだ。偶然ではなく必然によって最善の結果がもたらされる、というセオリーはこのラブレターの一件とまったく同じである。納品は、一晩寝かす、数日寝かしてチェックするべきなのだ。
小説家のキングは「書き上げた原稿は机の引き出しに入れておけ」と言っている。机の引き出しの中で、数年間寝かしてもよいのだ。つくりあげたものに対して客観的になるには、これくらいかかるのである。馬鹿馬鹿しいやっていられないと言うなら、あなたは作家性のある作品の作者にも職人にも向いていない。すぐくれ、すぐ見たいというお客に対して、どうしたら自分の力を可能限り発揮したうえで納品できるか考えるのが、作者であり職人だ。
仕事はやっかいなもので相手の都合が優先とばかりに無言の圧力が四方から押し寄せてくる。妥協せざるを得ない点もある。なのだが、納期は作業終了いっぱいいっぱいで設定すべきではない。したがって話と理屈がわかる相手には、一晩寝かす、数日寝かすことによってクオリティーが格段とあがることを説明したほうがいい。「時間をかけたら誰だってよいものがつくれる。短時間で最高のものを仕上げるのがプロってものだ」的なことを言い出したら、「ああ、この人はクオリティーについて、ものをつくることについて何もわかってないのだな」と判断しよう。これ以上、なにを言っても無駄な相手なのだ。
納期の鯖を読め、ではない。納期とは、納得できるものを仕上げて収められる日数のことだ。一日または夜をまたいだ半日でもよいから、脳を再起動してリフレッシュした後に、検討と微調整が可能な日時を設定すべきである。そのためには自分自身のスケジュールも管理しなければならなくなる。
脳を再起動してリフレッシュするのに最適なのは眠ることだ。ただし変なこだわりや不安があると、これらは眠っただけではリフレッシュされない。思い込みというのはしつこいもので、方法論の間違い、ちょっとした作業ミスに気づくのは校正刷りがあがったときなんてことはしばしば発生する。一方で、ぶらっとお茶を飲みに出かけて戻ってきたら凡ミス発見なんてこともある。つまり、インスタントにリフレッシュできた例だ。このあたりは自己管理とスケジュールづくりのため、自分にとっての自分の再起動法を試行錯誤してみたらよいと思う。「あわわわわ」と慌てるなんて、誰だってごめんだろうから。
余裕については、着手の前後のあれこれを書かなければならないだろう。場所Aに出かけて撮影するとして、たとえAの中に入場できる時刻が決まっていたとしても30分は余裕をみたい。慌てて現場に入って、ヨーイドンで仕事をしても何もよいことはない。もし他に同行者がいて、その人のスケジュールに合わせなければならないなら、事前に脳のモードを切り替えておこう。脳のモードを切り替えているのに、同行者がうるさく邪魔をする場合がある。これは以前からのあなたと同行者の関係性が影響しているのだから、初見のときからあなたの仕事スタイルをお客などに無言のうちに示しておかなければならないことになる。仕事を準備したり着手しているとき誰かがうるさいなら、はっきり「静かにしてください」等々と口にしてよいのだ。相手が地位のある人であっても「仕事中なので」云々と言ってよいのだ。
だから「巨匠」風にしていろ、と以前書いたのだ。巨匠が無理なら職人の棟梁風に常にふるまうべきだ。さらに私生活は他のスタッフやお客に知られるな、である。あなたがいくら集中して仕事をし、脳をリフレッシュするためあれこれしていても、Twitterなどでぺちゃくちゃおしゃべりしていると「遊んでいる」と見られ、無駄な時間が納期まで費やされていると相手は感じる。またやたらに自分の仕事場へ相手を入れてはならない。適度にブラックボックス化させておいたほうがよいのだ。聖域である。
そのうえで、納品は一晩寝かす、数日寝かしてチェックする。計算でいうところの検算は、なんどやってもやりすぎというものはない。では、ここでもう一度。「写真に限らずモノをつくる仕事は、偶然ではなく必然によって最善の結果がもたらされる」
Fumihiro Kato. © 2016 –
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