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難易度
実用記事です。当サイトや撮影などの場で長年提唱してきたセオリーの2020年総まとめ版です。
Standard line upとは、私が提唱し続けている最小構成で最大効果を得るためのレンズ選択法で、中心・中核に位置付けるレンズ、広角側、望遠側と3本に絞ったとき、使い所がある広角側と望遠側の焦点距離を決めるセオリーです。少ない本数のレンズで汎用性を持た選択はどうしたらよいか、もし汎用性を問わないならどのようにセオリーから逸脱させるかStandard line upを解説し、セオリーの問題点と新たな使い所についても当記事で説明します。なお文末に私からの大切なお願いがあります。
Standard line upとは何なのか
どのようにレンズを揃えれば、最低限どのレンズがあれば仕事ができるか、過不足なくいろいろ撮影できるか知りたかった。
Standard line upは、機材はたくさん必要なのに資金が足りなくて二進も三進もいかなかったとき発想した方法を数十年後に整理しなおしてセオリー化したものだ。
いまどきはライカ判フルフレームのデジタルカメラが一台あればどうにでもなるけれど、30年前は中判、ライカ判、なんだったら大判まで含めてカメラとレンズが必要だった。
印刷原稿用の写真にライカ判は小さいため中判はどうしても必要で、私はMamiya RB67を中古で四苦八苦しつつ買ったがレンズを買い揃えるのに更に苦労した。そのうえライカ判もまた体制を万全にしなければならないのは当然だ。
中判の使用シーンと撮影目的からレンズの選択肢はそう広くない。ところがライカ判は何でも屋さんのフォーマットなので、なるべく効率のよいレンズ構成にしたい。カメラメーカーのレンズカタログの一覧表のようにレンズを揃えてなんていられるはずがない。
アシスタント仕事をしていた頃からRB67のレボルビング機能(カメラを据えたままフィルムバッグを回転させて縦構図・横構図を切り替える機構)をつかっているとき画角を狭くしたい欲求と画面を縦構図にしたい欲求はどこか似ているという感覚があり、これはレンズの選択に使えるのではないかとぼんやり思っていた。
正方形に近い6×7判のアスペクト比でさえレボルビング機能が便利だ。つまり横構図から縦構図にすると(実際には画角は変わらないものの)横幅が詰まることで画角を狭く整理したい欲求と結びつく。アスペクト比が3:2で横長のライカ判では、横構図から縦構図にしたとき(画角はまったく変わらないものの)6×7判より水平方向が詰まって画角が狭く整理された感が強くなる。
20代の私はここでレンズの水平画角と垂直画角の関係に思い至った。大判、中判、ライカ判と機材を買わなければならないのはしかたないが、水平画角と垂直画角の関係に注目するならレンズの本数を絞れるかもしれない。汎用性が高い融通がきく焦点距離を検討してみようと思った。
たとえばライカ判50mmの垂直画角は85mmの水平画角相当で、これは50mmを縦構図に構えたとき85mmの画角に似た感覚になる。
横構図と縦構図では表現がまるで違うし、そもそも横または縦の構図が必要で撮影する訳だから同じようには考えられないが、ここにヒントがあるような気がした。50mmと85mmはレンズラインナップのうえで隣り合っているというだけでなく、もしかしたら本質からして代替可能な焦点距離なのではないか。同様の位置付けとも言えそうな35mmはどうか。
50mmと明らかに画角が違う広角側・望遠側の焦点距離で、撮影の実務を広範囲にこなせる焦点距離は何mmなのだろう。そもそも50mm以外の焦点距離を中心に据えてレンズラインナップはつくれないものなのか。と、考えていった。
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ひとまず50mmを中心に据えてみる。
50mmと前述の85mmでは画角とパース感(遠近感)圧縮の差が小さくて広角側で言えば35mmとの差に近い。100〜105mmにすると50mmとの差がはっきりしそうだった。
広い画角が欲しいときどのくらい広くなればよいのか考えると、対角画角が垂直画角相当になる焦点距離のレンズで「目的がはっきり達成」できるのだった。ライカ判50mmに対して35mmではなく28mmがこれにあたる。
これがStandard line upの元になる考え方が生まれた瞬間だった。
私はミノルタユーザーだったとき85mmを使っていたが、仕事機材へ切り替えて行くとき中望遠はまずキヤノンの100mmマクロを買った。優先順位をつけるうえでStandard line up的な考え方は有効だった。
Standard line upの画角差は以下のような具合になる。
この比率がなかなか便利なのだ。
6×7判では使用目的の違いやライカ判とアスペクト比に差がありすぎてStandard line upをそのまま適用するのは得策ではなかったが、機動力を活かせる645判ではアスペクト比の違いいからくる広がりの少なさを考慮すればStandard line upが使える。
いまどきならライカ判フルフレーム以外のフォーマットとして中判デジタルなどにも適用できる。
もちろん余裕があるなら50mmに対しての35mm、85mmがあったほうがよいに決まっているが、そうそう機材を揃えられないとか、荷物を絞って撮影に出たい、組み写真をつくるとき視覚的にまとまりをつけたいときなどにStandard line upのセオリーをもとに検討する。
以後ライカ判フルフレームの焦点距離で説明するが、28mm、50mm、100または105mmがあれば特殊な用途以外すべての撮影が過不足なくできるはずだ。なぜ撮影可能か、次に説明する。
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最小の構成で最大の効果を得ようとするのがStandard line upだ。最小の構成とは、たとえば標準レンズを中心に広角側と望遠側へ1本ずつ計3本でどうにかなるようになることだ。「どうにかなる」とは、癖がない描写で融通を優先するという意味だ。
寄ったり、引いたり、アングルの工夫で表現の幅を確保する。3本のレンズで表現されるものの繋がりが唐突でないこと。これらが実現されなければならない。
だから最小の構成で最大の効果を得るStandard line upは汎用性を重視している。
広角側28mmは人の視界の基本の広さで、ばくぜんと風景を見ているときの最大の広さと共通している。広角側として35mmは50mmの対比で画角が狭くパース感の誇張が小さく差が小さい。だからといって24mmになると画角の広がりとともにパース感の誇張が強まり35mmの代わりにするには無理がある。50mmの対角画角が垂直画角相当になる28mmは、28mm特有の描写があると同時に35mm的にも24mm的にも使用できる汎用性がある。
望遠側100または105mmは人がしっかり集中して対象を注目しているときの視界に等しい画角で、ある程度離れた距離にあるものを引き寄せることができ、弱いながらはっきりしたパースの圧縮があり、背景をある程度見せるのもボカすのもともに可能だ。こうした特性から物体の形状を実物に近く見せるのにも向いている。100または105mmはマクロレンズにすると使用範囲が拡大され汎用性が高まる。
この構成があればルポルタージュからポートレイト等々まで仕事に使える。つまり、どうにかなる。
そもそもこれら分野を撮影するため標準ズーム24-70mm、24-105mmを使っている人が多いだろうし、24-70mmの望遠端があと一息105mmまで伸びないだろうかと感じるならStandard line upで望遠側が85mmでも足りないとする理屈通りということになる。
以上のような考え方をするのがStandard line upだが、28mm、50mm、100または105mm以外の選択を否定しているわけではない。汎用性を犠牲にするなら広角側を24mmにしてもいいし、同様に望遠側を85mmや135mmにしてもいい。もっと別の焦点距離だっていい。
Standard line upの定石を外す理由がはっきりしているなら、レンズの使い所や使い方もまたはっきりする。[24mm、28mm、50mm、100または105mm]や[35mm、50mm、100または105mm]には汎用性にとらわれない広角側へのこだわりがあるはずで、[28mm、50mm、135mm]や[28mm、50mm、85mm]は望遠側へのこだわりがあり、そのうえで他がバランスを取っていることになる。
なんだったら両端をともに拡張してもよい。
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さて50mm以外の焦点距離を中心に据えてレンズラインナップはつくれないものなのか、という問いについてだ。
35mmや85mmを中心に据えて、使い所があるレンズラインナップを構成できるなら別に50mmが中心に位置付けられなくてもよいことになる。
いずれであってもStandard line upは以下のように導きだす。
85mmを中心に据えたStandard line up のセオリーを適用すると
85mmの画角/計算値
水平画角 23.91
垂直画角 16.07←
対角画角 28.55←
50mm
水平画角 39.59°
垂直画角 26.99°←
対角画角 46.79°
135mm
水平画角15.18←
垂直画角10.15
対角画角18.20
↓
200mm
水平画角10.28°
垂直画角6.86°
対角画角12.34°
50mm、85mm、180mmまたは200mmになる。
杓子定規にStandard line upのセオリーに当てはめる必要はないが、85mm中心の撮影では広めの画角は50mmを有力候補としてよいだろう。実際に85mmをメインに人物を撮影するなどしていて、広い画角はもちろん35mmでも28mmでもよいのだが50mmくらいの広さを欲するケースがある。
50mm、85mm、200mmの並びは汎用性というより、変化と繋がりのバランスのよさ重視の組み合わせになる。ただし、この組み合わせで撮影できる分野はかなり限られるはずで、現代の感覚ではポートレイトでも35mm以下の広い画角が欲しくなるのではないか。
では35mmを中心にしてStandard line up]のセオリーに当てはめた場合はどうなるか。
35mmの画角/計算値
水平画角 54.43°
垂直画角 37.84°←
対角画角 63.44°←
20mm
水平画角83.97°
垂直画角61.92°←
対角画角94.49°
50mm
水平画角39.59°←
垂直画角26.99°
対角画角46.79°
↓
85mm
水平画角23.91
垂直画角16.07
対角画角28.55
20mm、35mm、70mmまたは85mmになる。
20mmの画角とパース感は特殊すぎると感じる人が多いのではないか。こんな組み合わせは聞いたことがない、と言いたい人もいるだろう。
20mm、35mm、70mmまたは85mmというラインナップはたしかに突飛に見えるし、20mmに汎用性が乏しいのも事実だが、広角寄りの構成としてアリなのは超広角ズームレンズの使用実態を考えればわかる。次の項で実例を挙げて説明をする。
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Standard line upはどこまで使えるか
もともとは50mm標準レンズと広角側、望遠側の計3本で最大効果を得る汎用的な組み合わせをねらって考えられたセオリーだ。85mmを中心に据えても成立するし、35mmを中心にした例が腑に落ちない人もいるだろうが理屈のうえだけでなく使用実態からこれもアリなのだ。
35mmを中心に広角側と望遠側へ拡張すると20mm、35mm、70mmまたは85mmになる。下の画像は20mm、35mm、85mm相当の画角がどのような関係になるかを示している。説明の都合上20mmより更に広い画角の写真にフレームを切ったが、20mm、35mm、85mm個々のレンズで撮影しても結果は同じだ。
この例で言えば、20mmで引きの全景を撮影した位置から35mmで主たる被写体に意識を集中させた構図にしたり、85mmで灯台の特定部分をアップにできる。他の焦点距離でももちろん可能だが、画角の差とパース感の差に違いがあるうえに画角間のつながりが悪くないのがStandard line upだ。
20mm、35mm、85mmと聞いて突飛な組み合わせに聞こえるかもしれないが、特に不自然な組み合わせではないのがわかったと思う。詳しくは後述するが、これは18-35mmとか16-35mmなどといった超広角ズームと標準ズーム等を組み合わせて撮影しているならごくごく普通に選択している画角の組み合わせで、広角側重視ならこうなる。
では望遠レンズではどうか。Standard line upの望遠側への拡張は垂直画角を水平画角に持つ焦点距離を探して、更に一段階長い焦点距離を候補にする。望遠200mmの垂直画角は6.9°だ。6.9°の水平画角を持つ焦点距離は300mmになり、一段階長い焦点距離というと400mmだ。広角側は対角画角を垂直画角とする焦点距離なので100mmまたは105mmといったところだ。
100mmまたは105mm、200mm、400mmというラインナップになり80-400mmズーム1本で十分な撮影ということになる。この焦点距離は私には縁遠い組み合わせだが、105mm、200mm、400mmの画角の比率はこれまでに説明した通りの違いになり、画角だけでなくパースの圧縮にもはっきりした差が生じるので共存と使い分けが可能なはずだ。
以下に様々なStandard line upの例を図示する。
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ではStandard line upがあらゆる焦点距離に万能なのかとなると、実用的なのは35mm、50mm、85mm、100または105mm、135mm、200mmを中心に据えるところまでだろうと思われる。これがStandard line upの限界だ。
「超」がつく焦点域の使用実態から考えてみよう。
超広角は20mmを境にして広角レンズと分けられる焦点距離と画角の領域だ。単焦点とズームレンズを合わせて18mmと15mmなどの焦点域を所有している人はいるとしても、複数の焦点距離の単焦点超広角レンズを所有しとっかえひっかえ使い分けている人や、ズーム比違いなどで複数の超広角ズームを所有している人はめったにいない。
例に挙げた18mmと15mmに限らず超広角レンズは焦点距離ごとかなり特性が違っていても、撮影者は特定の画角とパース感をもとにして構図を発想するので複数を使い分けて撮影しない。
また焦点距離が短くなるほどに、焦点距離1mmあたりの画角の変化が大きくなるのでStandard line upをそのまま当てはめるととんでもない非現実的な短焦点が必要になりかねない。
超望遠は300mmまたは400mmを境にして望遠レンズと分けられる焦点距離と画角の領域だ。強いパースの圧縮感が必要な場合もあるが、被写体に近づけないとき使用するのが基本だろう。野外の状況、スタジアムやホールのサイズ、スポーツの種別や種目、演目、自然環境と動物などの違いがまずあって必要な焦点距離が決まる場合が多いのだから、汎用性をとやかく言う分野ではないし、広角側と更なる望遠側でつながりのよい広い画角が求められている分野とも思えない。
また焦点距離が伸びるほどに、焦点距離1mmあたりの画角の変化が小さくなるのでStandard line upをそのまま当てはめるととんでもない非現実的な長焦点が必要になりかねない。
下図はライカ判フルフレームの焦点距離と水平画角の一覧だ。
焦点距離が短くなるほど1mmあたりの画角の変化の量が増え、長くなるほど変化の量が減るのが一目瞭然だろう。
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ズームレンズとStandard line up
Standard line upが単焦点レンズの選択法として生まれたこともあり、ここまでの説明ではズームレンズは考慮してこなかった。
Standard line upの最小の構成で最大の効果得る考え方は、中心に据えた焦点距離に対して画角の差、パース感の差がはっきり出る焦点距離がズーム比のなかにあるか、それが使い勝手がよいか検討するのに役立つ。
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標準域から望遠域を考える。
上図の最上段は28mm、50mm、100または105mm、2段目が50mm、85mm、180または200mmのStandard line upを図示している。
以下がズームレンズで、▽印は広角端と望遠端への画角変化の中間にあたる焦点距離を表している。グラデーションは単焦点で構成したStandard line upの場合と同じように、広角端・画角変化の中間・望遠端の描写の違いまたは同一性が及ぶ範囲を示している。
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図の考え方と見かたで注意してもらいたいのは、[画角変化の中間にあたる焦点距離]は広角端から望遠端までの焦点距離の中間とは別物だということだ。
たとえば70-200mmの広角端から望遠端までの焦点距離の中間は135mmだが、[画角変化の中間にあたる焦点距離]は100mmあたりにある。既に説明したように焦点距離1mmあたりの画角の変化は、焦点距離が短くなるほど変化の量が増え、長くなるほど変化の量が減るので焦点距離の中間は[画角変化の中間にあたる焦点距離]とは言えないのだ。
つまり広角端から望遠端までの焦点距離の中間は単なる数値上の中間値でしかない。70-200mmで言えば135mmが焦点距離の中間だが、広角端と望遠端の中間の画角ではないので使用感とまったく結びつかない。
広角端と望遠端の中間の画角=[画角変化の中間にあたる焦点距離]は、Standard line upで中心に据えるレンズの焦点距離と同様に考えられる。70-200mmは100mmを中心にして広角側・望遠側に焦点距離を変えられるレンズなのだ。
135mmを中心に考えてしまうと、70mmへの変化量は豊富だが200mmへは微調整くらいしか画角が変わらないがっかりレンズでしかない。画角の中間である100mmへの期待をもとに70-200mmを検討するなら、両端へ豊富な変化を見せる使い出があるレンズとなる。このように考えると、70-200mmで135mmを中心にズーム域を検討する意味のなさが理解できるはずだ。
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24-70mmと70-200mmを組み合わせると便利でほとんどの撮影が可能になるのは多くの人が実感しているはずだ。
これをStandard line upで解釈すると、24-70mmと70-200mmの組み合わせは[28・50・100または105mm]と[50・85・180または200mm]のStandard line upと同じ焦点距離をカバーしていると言える。だから現代の最小構成・最大効果を得られるズームの組み合わせということになる。
ここで見落としてはならないのは、それぞれのズームの画角変化の中間にあたる焦点距離だ。
24-70mmでは画角変化の中間焦点距離が40mmあたりにあり、24-50mmくらいの間で顕著な画角の変化をみせる。40mm前後を中心に画角を広く、狭く画角を調整できるレンズと言える。70-200mmでは画角変化の中間焦点距離が100mmあたりにあり、70-135mmくらいの間で顕著な画角の変化をみせる。100mmを中心に画角を広く、狭く画角を調整できるレンズと言える。
24-70mmは画角変化の中心が50mmから広角側へずれているが、50mmに期待した(標準的な)Standard line upの中心にほぼ等しく画角変化も想定しやすい。70-200mmは標準的なStandard line upの望遠端と、85mmに期待したStandard line upの中心にほぼ等しく画角変化も想定しやすい。24-70mmの40mm、70-200mmの100mmはズームの両端へ豊富な変化を見せ期待を裏切らない。
こうして[28・50・100または105mm]の撮影領域の広さと、[50・85・180または200mm]の被写体に意識を集中させるポートレイト等の要求にも応えられるのだから、24-70mmと70-200mmを組み合わせは万能的なのだ。
と同時に、この組み合わせで撮影をしていると24-70mmのほうがカット数が増えがちな理由が、汎用性が高い50mmを中心据えた焦点域と、意識を集中させたい対象を選別して撮影する焦点域の違いからくるものであるのもわかるだろう。
最近タムロンがポートレイト用をうたって35-150mmズームを発売した。60mmあたりが画角変化の中間焦点距離になり、ポートレイトの寄りカットで使い出がある85〜100mmで画角の変化量が多く135mmまで使い切ったあと150mmまでゆっくり画角が変化するズームと解釈できる。
35-150mmのズームレンジは一般的とは言い難いが、広角端と望遠端がポートレイトに向いているというだけでなく、60または70mmに画角変化の中間焦点距離があるズーム=60または70mmを中心に据えた、Standard line upの(他と同様に以下に図示するような)画角変化を満たす使い所を網羅したレンズと言える。
ズームレンズを評価するときStandard line upのセオリーを応用して、中心に据えたい焦点距離とズームレンズの画角変化の中間にあたる焦点距離が近似か、中心に据えた焦点距離に対してStandard line upの広角側・望遠側にあたる焦点距離がズームレンジのどの位置にあるのかを確認するのがよいだろう。
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超広角域を考える。
焦点距離1mmあたりの画角の変化は、焦点距離が短くなるほど変化の量が増えるので、超広角ズームではめまぐるしく画角と特性が激変する。
上図を見てもわかるように焦点距離10mmどころか1mmの違いで別物になるのが超広角レンズだ。
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人間が目の前の風景をぼんやり見ているとき視界は28mm相当の広さがあるとされ、こうして見たものが脳内で貼り合わせて20mm相当の範囲を「場」として認識しているという。20mmの画角は視界の外まで広がっているが記憶のなかにある見たことのあるものが含まれた領域なのだ。このため20mmは「このような場所を見た、このような場所にいた」と説明するのに向いた画角で、撮影者は把握済みの広さを撮影するため扱いが容易、写真を見る人も比較的すんなり受け入れられる特徴がある。
こうした特性とパースの誇張によって、広角レンズは24mmと20mmとの間で[日常の感覚と親和性がある]焦点距離=画角と[非日常的感覚]の焦点距離=画角に分けられる。
18mm以下は首や眼球を固定した視界では見えない、記憶にすらないものが写り込む。さらに横方向以上に縦方向の広さに、人間の視界とかけ離れたものが感じられる。
さらに、35mmから24mmあたりは画角の変化がめまぐるしいとしても連続性が感じられるが、20mm以下は焦点距離が短くなるほど変化が目まぐるしすぎて別物から別物へころころ変わる。
18mm以下の広角端を持つズームでは、18、16(15)、12、11と広角端へ向かうほどに画角とパース感が変化する。こうした特性のためズームレンズを画角変化の中間焦点距離を使って特徴づけるより、特性が違う焦点距離がいくつ含まれているか検討するほうがよいように思う。
では、それぞれのズーム比、広角端・望遠端を考えてみる。
かつて存在した24-35mmズームと現在軽量小型超広角ズームにありがちな18-35mm近辺のズームレンズは、標準ズームを広角側に補完する性格がはっきりしている。超広角の入り口たる20mmより広い画角をカバーしているが、日常の感覚と親和性がある範囲を網羅できているからだ。
同様に35mmまたは30mmを望遠端にもち、広角端が15mm前後あるいは11mmなどと極端なズームレンズは日常の感覚と親和性がある焦点距離と非日常の感覚、まったく性格が異なる焦点距離域を兼ね備えていると言える。
そして望遠端が24mm以下のズームレンズは、汎用性を切り捨てたレンズと言える。28mmは24mm的にも35mm的にも使える画角を持っている。同様に35mmは50mmへ続く。28(30)mm終わりの超広角ズームは、エキセントリックになりがちな超広角ズームの性格にわずかでも汎用性を持たせようとしていると言える。
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超広角域ではStandard line upの画角拡張セオリーはそのまま通用しないが、超広角ズームの使い所がどの焦点距離にあるか見当をつけようとするとき考え方を参考にできる。
使用実態と実感から、超広角ズームは24mmあたりで超広角側と広角側にわけてから考えるのがよいように思う。
標準ズームと望遠ズームでそうだったように、中心に据えたい焦点距離とズームレンズの画角変化の中間にあたる焦点距離を見て行くのだが、24mmより狭い焦点距離域を[日常の感覚と親和性がある焦点距離]の1本目のズーム、24mmより広い焦点距離域を[非日常の感覚の焦点距離]の2本目のズームとする。
16-35mmを例にして説明する。
16-35mmではレンズを24mmで区切って24-35mmの領域と16-24mmの領域に分けるところからはじめる。
24mmより焦点距離が長い[日常の感覚と親和性がある焦点距離]の1本目のズームは、30mmあたりに画角変化の中間焦点距離があり、24mm、30(28)mm、35mmとしてStandard line up的解釈ができる。よく似た焦点距離に思われるかもしれないが、それぞれ特徴がある使い分け可能な画角だ。
[非日常の感覚の焦点距離]の16-24mm側は、16mm、18mm、20mmから24mmに分けられる。20mmから24mmと幅を持たせた理由は、20mmと24mmどちらかを選択するというより特徴や使い勝手に共通項があって一体の領域に感じられるからだ。似ている、連なっているという感じだ。
16mm、18mm、20mmから24mmのうちもっとも使い出がある焦点距離を撮影者が選択して意識する。なぜなら、画角が変わるごと性格が激変する超広角域では望遠ズームのように寄り引きのためズームしていては構図だけでなく撮影意図さえ不明確になるからだ。そもそも単焦点の超広角を数種類使い分けている人はいないに違いない。
仮に16mmを意識して使う焦点距離にしたとすると、16-35mmズームは16mm、24mm、30mm、35mmが画角変化の使い所となるズームレンズと解釈できる。超広角側に焦点距離がひとつおまけについたズームレンズだ。
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16-28mmの場合は事情が違う。16-24mm側の扱いは同じでも、24-28mm側はほぼ28mmのみ想定して使用することになるだろう。超広角域は16mm、18mm、20-24mmのうちもっとも使い出がある焦点距離をメインに据えるだろうから、使う焦点距離は超広角と28mmに二極化しやすい。
18-35mmのように超広角域の変化幅が狭い超広角ズームは、実は24-35mm側がメインで、18-24mm側は超広角側に焦点距離がひとつおまけについた状態と考えるべきだ。そうだとしても、前述の16-35mmなども超広角側のすべての焦点領域を満遍なく使える訳ではないので16mmや15mmが必要ないなら18-35mmと条件は変わらない。むしろ、24-35mm側をメインにする割り切りもできて使い勝手がよいかもしれないくらいだ。
14-24mmになると、これまでに説明してきた超広角ズームとだいぶ事情が変わる。超広角域のうち特定の焦点距離をそれぞれ使い分ける使用法になる。
なお誤解してほしくないのは、[非日常の感覚の焦点距離]側の焦点距離をひとつ選ぶと言っても他を使うべからずという話ではない点だ。複数本の超広角を自由に選択できるのが超広角ズームの美点なのだが、特定の目的で撮影をしているときやたら多くの焦点距離は使うのが困難だし、そもそも使う意義がかぎりなく薄いから使い所を限定させたほうが結果がよいというだけだ。
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日常接する機会が多い焦点距離ごとのStandard line up的解釈はほぼ書き尽くしただろうから、50mmを中心にしたら、85mmを中心にしたらといった例はそのまま活用できるだろう。とはいえStandard line upは万能ではないので、最小の構成を意識しないで済むなら贅沢な選択で使用する焦点距離やレンズの本数を拡張してもらいたい。
中心に据える焦点距離の対角画角を垂直画角にする広角側。中心に据える焦点距離の垂直画角を水平画角にして、あと一段焦点距離を伸ばす望遠側。これによって得られる広角側・中心に据えた焦点距離・望遠側の画角の差=最小構成で最大効果を、現実に即して応用すればよいだけだ。
レンズの購入を迷ったときや、荷物の多さに辟易したときだけでなく、さまざまなレンズをつかって写真がとっちらかった印象になっていたり、画角とパース感を反映させた作風を模索しているときStandard line upを思い出してもらえたらと思う。自分では必須と思い込んでいた焦点距離が実は不要で、下手をしたら表現の足を引っ張っている可能性に気づくかもしれない。
Standard line upを使って考えたり、変形させて応用するのはご自由にどうぞ。ただし、今までこうした発想をシステム化して発表している例をみたことがないし、けっこう長年培ってきたものでもありStandard line upという呼称やセオリーを広めるときは私のことと当サイトを紹介してもらいたい。たぶんそれくらいお願いしても過ぎたる要求ではないだろうしバチも当たらないと思うので。
© Fumihiro Kato.
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