内容が古くなっている場合があります。
ライティングをあれこれする撮影でテザー撮影は便利ですね、という話をしようと思う。
そんなことをして得するのか、そうまでしないとならないのかと言われれば確かに必須ではないかもしれない。でも、使い所を見極めるとかなり精緻なコントロールが可能になる。
(2020.3.21 記述追加、その他改定)
テザー撮影の定義とタイプ
写真のデジタル化でフィルムの使用が趣味性や芸術性を求める撮影分野に限られるまでに使われなくなったのは、デジタルデータを扱うほうがなんといっても簡単、便利、早い、安いとメリットがあったからだ。なんらかのデメリットがあったとしてもメリットのほうが大きい。
デジタル化で実現された機能のひとつにテザー撮影がある。
テザー撮影は文字通り[連結撮影]で、ライブビュー情報や撮影データをカメラからPC等へ送り、PC等からカメラを設定したりシャッターを切ったりと相互通行させる撮影法だ。ただしライブビュー情報をPC等のディスプレイで確認できないソフトウエアがあるし、カメラへ設定できる項目も様々なので、前述の定義をすべて満たすものばかりとは限らない。
テザー撮影ソフトが最低限満たしていなければならないのは、カメラのシャッターを切る、カメラから撮影データを転送させ保存する、転送されたデータをディスプレイに表示するの3点かもしれない。
Adobe Lightroomに実装されているテザー撮影機能は、ほぼこのタイプでライブビュー情報をディスプレイに表示し構図やフォーカスを取る機能は省略されている。撮影者によってはAdobe Lightroomのテザー撮影機能は物足りないと言うかもしれないが、他のソフトとの使い分けで利用価値があると私は思っている。
なにより相互通信をはじめ様々な機能を使うところまで簡単・確実なところがよく、ポートレイト撮影かつ撮影者以外のスタッフが現場にいるときなどLightroomタイプのほうが向いているのではないか。
撮影者はファインダーで被写体を追って、カメラのシャッターボタンでレリーズして、現場にいる各スタッフは転送され表示された撮影結果をチェックして何かに気づいたり安心したり場が盛り上がったりというケースだ。
あらゆるコントロールをPC等が担うタイプは、テザー撮影用のソフトウエアがカメラの操作を乗っ取っているので、カメラ側ではレリーズさえ不可能になる。ボディーのレリーズ、その他ボタン、ダイヤルは直感的操作が可能なのでPC等から行う操作の隔靴掻痒感は苦痛でもある。
この苦痛や不便を避けるためカメラ側で操作できるテザー撮影用ソフトを使うかテザー撮影しない選択肢があり、たとえ不便だったとしてもデジタルの恩恵を最大限に利用しメリットを得るため使う必要もあるのだ。
テザー撮影でチェックすべき項目
大きなディスプレイでライブビューが確認できたり、同様に撮影結果が確認できるのは静物撮影(ブツ撮り)でかなり便利だ。動体撮影向きとは思えないが、人物込みの撮影にだって活用できる。
デジタルカメラではライブビューのチェックをカメラボディ背面のディスプレイに表示できるし、それはファインダー内で見られる像より大きく、ファインダーより構図等を客観視できる心理的効果がある。
テザー撮影でライブビューが大型ディスプレイで可能になると、あたりまえだが背面液晶より像が大きく、また構図等を客観視できる心理的効果も高まるのだった。
さらに重要なのが撮影結果が転送されディスプレイに表示される点だろう。
人によっては、転送され表示されたものは「ちゃんと撮影できたことの証」にすぎない扱いかもしれない。
つまり目視して安心しておしまい。こうなると、ライブビュー機能がないタイプのテザーソフトは使い途がないと言いたくなるだろう。
しかし重要なのは、ディスプレイに表示される像の見た目ではない。撮影結果から読み取れる客観的な数値が大切であり、ここにテザー撮影ならではの便利さがある。
露光量、ライティング、色温度などを数値でチェックしないなら、見た目で安心しても意味がまったくない。テザー撮影する必要さえないかもしれない。
次はライティングとの兼ね合いに話を進める。
なにをどのようにチェックできるのか、するのか
撮影の目的や撮影に要求される精度は様々なので皆が皆、常にチェックしなければならない項目なんてものはない。なので、一般論を書く。
通常撮影でもヒストグラムをカメラに表示できるが、テザー撮影ではヒストグラムとともにディスプレイに表示された撮影結果上にカーソルを置いて特定部分の輝度もチェックできる(こうした機能があるソフトなら)。
ヒストグラムから白とび、黒つぶれを知るだけでなく、輝度の分布がどの範囲に集中しているか知ることができる。
こうした輝度の分布だけで撮影結果をどうこう言えたものではないが、ヒストグラムの全体像を見て傾向を把握するだけでも有益だ。特定の傾向を帯びた写真を撮り続けるとき(カタログ写真撮影等)や作風を一定させる場合は、ヒストグラムで描かれる輝度の分布の全体像も似通ったものになるし、ライティングに何か間違いが生じているときは輝度の分布にいつもと違う傾向が現れる。
これは「ぱっと見てもすぐわかる」くらいに便利だ。
もう少しヒストグラムを注意深く見ると、輝度の分布がピークを迎える線形からライティングのムラがわかる。
(以下、模式図はわかりやすさのためポートレイト撮影を示しているが、対象は人物にかぎらないし、静物撮影のほうが向いていると思う)
主題である主たる被写体が中庸な輝度・明度なら、白背景、黒背景あるいは明度が高い色、低い色の背景の輝度のピークは主たる被写体の分布と別の位置にあるはずだ。
背景(あるいは前景等いわゆる余白)の輝度を完全に均一にするのは不可能だが、ばらつき幅が少なければ分布の幅(裾野)が狭くピークを迎える線形は鋭角的になり、逆ならば分布の幅(裾野)が広くなる。
これは構図内の背景(余白)と主題・主たる被写体の面積比次第でもある。面積で勝っている暗い・明るい背景なら、主題の輝度の分布はヒストグラムの地を這うような線形部分に多く反映されている。ヒストグラムは[分布]を示すグラフなので、画角内に占める面積が大きければ[量]が増え[分布]が顕著に増える。つまり背景(余白)の輝度のばらつき具合を読み取りやすくなる。
主題・主たる被写体が占める面積が勝っている場合は、背景(余白)の情報を読み取りにくくなるが、読み取り不可能ではない場合が多い。
実際にあり得る要求かどうか別にして、例を挙げて説明する。
冒頭でカメラのコントロールを完全に乗っ取るタイプはモデル撮影に向かないと書いたが、いかなるタイプのソフトウエアか特に限定しない「あくまでも例」なのは理解してもらいたい。
白系の背景でウエアのカタログ撮影を何カットも行う必要があったとして、背景の輝度をできるかぎり一定に揃えなければならなかったとする。もしくは同様に、なんらかの商品を撮影すると想定してもよい。
露出計を使って背景の明るさを決めるのは当然だが、このライティングをばらして場を改めたり日を改めて撮影するとき背景の輝度を一定に保てているか気になるかもしれない。時と場だけでなく、様々に条件が変えて撮影しなけばならないとき更に面倒になる。
要求される背景の輝度が8bit単位の値で240くらいなどとわかっているなら、テザーでテスト撮影したデータのヒストグラムのピークが240くらいの位置にあるか、描かれている線形がばらつきのない前回撮影時のものとほぼ同じようなものかチェックしライティングを調整すれば理詰めかつ確実に露光量を揃えられる。
この方法が便利なのは、照度ムラ=輝度のムラが大きく発生しているときピークを描く線形の裾野が広くなり一目瞭然になるところだ。露出計を使ってチェックできる箇所は数カ所しかないが、ヒストグラムには画角内すべての情報が反映される。みなさんは優秀だろうからそうそう照度ムラをつくらないだろうけれど、ミスは想定外・予想外の原因で発生しがちなのだから気をつけるに越したことはない。
表示されている撮影画像にカーソルを置くと、その部分の輝度値が数値で表示されるソフトウエアがある。現像ソフトを兼ねているものは例外なく機能が実装されている。カーソルを置けば輝度値がわかるのだから、どこがどの程度のムラに相当するかわかる。
ヒストグラムには位置についての情報が含まれないがカーソルを使って輝度のムラを調べればライティング照度のムラがつぶさに判明するのだ。ライティングを修正するうえで便利だし、ちゃんと修正できたかチェックする際も確実だ。
またヒストグラムに三原色RED、GREEN、BLUEごとの輝度分布が表示されるソフトがある、というかこれがわからないのは情報表示としては片手落ちだ。この機能は画角内の有彩色かつ特定色域についてだけでなく、無彩色や無彩色に近い部分の色ムラについて情報を得られる。
まずヒストグラムを見る。RED、GREEN、BLUEがぴたりと揃って重なる線形を描くことはあり得ないが、特定の色域が他と異なるピークを描く場合がある。これそのものが異常を示す訳ではないが、場合によっては暗部・中庸な輝度・明部のいずれかで色温度・色バランスが崩れているかもしれない。
ヒストグラムで概要を知ったら、表示されている撮影画像の特定部分にカーソルを置く。カーソルで指定した部分の三原色ごとの輝度値がわかる(これもまた表示されないソフトがある)。
無彩色や無彩色に近い明るい部分ならR:240 G:235 B:245 などとなっているかもしれない。無彩色なら各値がすべて同じになるのが理想だが、ほぼあり得ないので多少のばらつきは問題ない。テザー撮影時のライブビューの見た目ではグレーの明暗に見えても赤っぽいシャドーとか青っぽいハイライト……のような場合もあり、これらは各部のRGB値をチェックすれば数値で把握できる。
前記した、白系の背景でウエア(もしくは商品)のカタログ撮影を何カットも行う例で再び説明する。
背景と人物(背景と商品)・ウエアで色温度・色バランスが大幅に異なると後々修正するとしてもやっかいだ。しかも時と場、その他条件が異なる環境で撮影して、それぞればらばらなら目も当てられない。
背景が赤または青っぽく、人物・ウエア側が正常だったり逆の場合だ。
カラーメーターで色温度を計測すべきだろうが、テザー撮影のヒストグラム表示とソフトウエアの機能で偏りについてチェックが可能だ。カラーメーターより勝っている点は、自由自在にどこにでもカーソルを置いてRGB値を調べられる点だ。
ヒストグラムに画像中の位置を示す情報はないが輝度の分布を量として把握でき、画像にカーソルを置くことで位置ごとの輝度情報をつぶさに知ることができる。全体的傾向だけでなく、色むらと色むらが発生している個別箇所についてもわかるのだ。
あとは許容範囲か、許容できないならできるかぎり現場で対処を取る方法を考えることになる。
フィルムを使っていた時代はインスタントフィルム(ポラ)で試写をして、構図・露光その他のチェックに使ったが、テザー撮影で得られる情報は比べ物にならないほど多様で正確だ。
ここに挙げた例に限ら、テザー撮影の核心部分はディスプレに表示される画像の見た目だけでなく、画像を数値で客観視できるところにある。
天才でないなら秀才になるほかない
写真撮影で根性論を口にしたり人に強いたりする人がかつては存在した。現在もかたちを変えて「ふんわりしたイメージ」で語っていたりするが、そんなものより客観的な数値を直視するほうがよっぽどメリットがある。
これはフィルムを使って撮影していたアナログな写真の頃から変わりないとしても、誰もが自分が直面している撮影を正確・確実に客観視できるようになったデジタル写真ならではのメリットと言える。
この記事に例示したことだけでなく更に多様な活用がテザー撮影で可能だ。ヒストグラムにかぎらず、使用するテザー撮影用ソフトから何を知り得るか隅々まで目を凝らしたい。
ただし、ソフトウエア上に表示される情報が何で何を意味するか、それが撮影や写真そのものとどんな関係があるのかわかっていないとテザー撮影を活用しきれないのは言うまでもない。
客観視とか数値とか関係なく天才は別格なので何をどうやっても独自の正解を叩き出せるが、天才でないなら目指すものへ近づける方法を検討し実行しなければならない。そのほうが早道なのはまちがいない。
直感やセンスを支えるものが理論であるのを確認して、この記事を終える。
© Fumihiro Kato.
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.