三脚1台でなにかも撮影できる訳ではない

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この記事はバイヤーズガイドのようなものだが、私が使用していたり経験した三脚の具体名を挙げていても、ぜひもののお勧め品などは紹介していない。これは、自分の撮影内容・スタイルにとって何が必要か理解できているなら、自分で最良の製品を見つけられるからだ。人それぞれ、最良の三脚は異なるとも言える。

この記事は三脚を買ったり揃えたりする際のアイデアを書いている。

三脚は、重さと精度と頑丈さで決まる。新製品でプッシュされる新機軸は便利機能を付け加えているくらいのもので、三脚は精度だけでなく構造そのものが半世紀以上前に完成の域に達している。

真に新機軸と言えるものは三脚本体ではなく雲台に実装されている。それでも基本設計が古いハスキー、ジッツォの雲台が小さな変更を受けただけで現在も第一線で信頼され使われている。

何年間(下手をしたら何十年)も変わらない三脚より、ここ数年で登場した機種に心惹かれるかもしれないが、三脚を選択するとき見るべきポイントはそこにはないのである。

実際のところ古典的な製品の性能を新製品が凌駕するどころか明らかに劣っているものが多いので、こうした古い製品や古い製品のマイナーチェンジ版が延々と製造販売され続けているのだ。

ここ10数年、三脚はカーボンでなければ時代遅れもしくは使い物にならないといった風潮がある。カーボン製三脚以外眼中にない人は「金属製三脚は重すぎる」と言う。ところが三脚の安定性、防振性は重量あってのもので、こうした三脚の本質であり存在意義と軽さはトレードオフの関係で軽くて万全の安定性・防振性の製品はないのだ。と、はっきり言い切っておく。

三脚のカタログには「耐荷重」が明記されていたり、望遠レンズ×××mmまで使用できると表記されていたりする。いずれも業界団体の基準によってテストされ定められたものでなく、それぞれのメーカーが独自に主張するものなので、どこまで信用したらよいのかなんとも言えないところがある。(これについては後ほど実例を挙げる)

かならずしも重量イコール強度(耐荷重であったり防振性であったり)と言えず重ければよいと言い切れないが、ライカ判フルフレームの標準レンズより長い焦点距離のレンズを装着して撮影するなら三脚の重量(雲台こみの自重)は3.5〜4kgを目安にしたい。

というのも、フィルムを使用して撮影するなら別だが高画素化が著しいデジタルカメラはブレ、わずかな振動による悪影響が画質に直結する。レンズまたはボディに高度なブレ補正が実装されて三脚使用時のモードもあるから関係ないという人もいるが、補正があろうとなかろうと、ONだろうとOFFだろうと前述の自重を三脚選択の基準にしたほうがよいように経験から思う。

このあたりの事情は、現在のカメラおよびレンズの技術が更に進化したとき見直せばよいだろうから、とりあえず2020年段階の話として説明を続ける。

3.5〜4kgだなんて……「そんなに重くなくてもブレないよ」と言いたい人もいるだろう。

びっくりするほどはブレないかもしれないけれど条件次第ではブレる(微振動を抑制できない)し、スタジオでも屋外でも誰かが足を引っ掛けたりなんらかの自然現象で動いたりぶっ倒れたりしやすいのが2kg級以下の三脚だ。

私自身が過去から重量級の三脚と2kg級(あるいはそれ以下)を併用してきて、フィルム、デジタル双方の経験からこのように思う。これをエビデンスに乏しいと思うか、それなりに説得力があると思うか判断はみなさんにお任せする。

大地に根を張るというか基礎杭を打ったように不動の三脚なんて存在しないし、重量級三脚でも倒れたり吹っ飛んだりする可能性はあって、三脚にぶつかるおっちょこちょいの誰かさんを常に想定しなければならない訳でもないのだが、「ちゃんとした三脚」というならある程度の重量が必要になる。

ところが助手が荷物を運んでくれるならまだしも、撮影機材を自分で持ち運んだり一切合切持って自然の中へ入る場合、三脚だけで3.5〜4kgというのはけっこうつらいものがある。三脚を使わなくてはならないのに重量を嫌って使わず手持ち撮影をしてよいことなんてひとつもない。こんなときは軽量な三脚を使うべきだ。

撮影条件や撮影者の体力・その他から、かならずしも重量がある三脚を使う必要はないが、3.5〜4kg級の三脚を三脚のメートル原器(2020年段階)に位置付け、目的にあったその他の三脚も必要になると理解したい。

早とちりして私が「重い三脚」しか認めないと誤解しないように。また三脚のメートル原器たる「ちゃんとした三脚」を万能としたい訳でもない。

ここからひとまず私の事例。

私はジッツォ派ではなくクイックセット・ハスキー派なので、メインの三脚はハスキー3段を使用している。ハスキー3段(ジュラルミン製)にハスキーの雲台付きで3.7kgだ。

私は砂丘や砂礫地帯、海岸線で作品づくりの撮影をしていて、こうした環境を歩き回るときハスキー3段の3.7kgは重いと感じる。そしてセンターポールがラック&ピニオン式エレベーターなのは上げ下げに便利でもラック&ピニオン部に砂が噛むと始末が悪い。

軽量かつ非ラック&ピニオン式つまりジッツオが採用している古典的なエレベーター式センターポールの三脚を探し、現在はFotopro T63Cに落ちついている。Fotopro T63Cは1.55kgのカーボン三脚だ。

Fotopro 63C Review

Fotopro T63Cの公称耐荷重は12kg、ハスキー3段は10kg。なのだけれど、大判フィルムカメラの4×5どころか場合によっては8×10さえ載せて撮影されていたハスキー3段と比べてFotopro T63Cはいろいろヤワい。強風に煽られるし、微妙に振動する場合があるし、脚を全段伸ばした状態でデフォルトの開脚度から更に脚を広げると脚パイプがたわむことがある(脚を伸ばしていなければ問題ないし、そもそも開脚度を最大にするケースでは脚は短くしているものだ)。

これがメーカー公称耐荷重の実態である。

強風に煽られるのは自重が1.55kgだからで、微妙に振動する場合があるのも主に自重が影響している。軽量さ、ジッツオと同類のエレベーター、比較的高い伸長、雲台別売りの気楽さといったところで割り切ってT63Cを選び、煽られ安定度が期待しにくいときなどエンドフックにカメラバッグ等をぶらさげるなど対処している。

このように書くと、Fotopro T63Cが劣っているかのように感じられるかもしれないが、三脚そのものの性能、取り付けているハスキーの雲台とのマッチングともに使用目的にあった内容だ。この三脚にカメラを載せたまま転倒させたことはないが、自立させていたとき強風で倒されたし岩礁にぶち当たった経験もある。ひどい倒れかたをしても壊れる要素がほとんどなく、分解して清掃するのが簡単で、劣悪なロケーションに持ち出すので仮に壊れても惜しくないT63Cがベストなのだ。

またFotopro T63Cは雲台別売りの三脚なので、ハスキーの雲台を使用する前提の私にとって使うあてのない余計な雲台がもれなくついてくるわずらしさがないのもよかった。

このほかジッツオのトラベラーがあったり、数十年前買ったベルボンのけっこうしっかりしたエレベーター式テーブル三脚があったり、一脚があったりする。現在中途半端な位置付けにあるのがジッツオのトラベラーで、ベルボンのテーブル三脚はブツ撮り時に被写体を載せて微妙な高さ調整をする装置に転用して結構稼働率が高い。

いずれにしても、ここに挙げた三脚と三脚の使い方は私の撮影実態と好みに合わせたもので他の人の目的と価値観次第では異なる選択になるだろう。しかし、どんな撮影にも使える万能な三脚はあり得ないのに変わりはない。

「ちゃんとした三脚=自重3.5〜4kg説」を否定してもいいし、「そんなに重くなくてもブレない」という立場だってよいと思う。写真がデジタル化して以来、高ISO感度で撮影しても画質の劣化を気にしなくてよくなっているし、ストロボを使うなら(閃光時間が長いケースは別としても)ブレを気にしなくてよかったりもする。

でも経験を根拠にした「自重3.5〜4kg説」なので、重量のある三脚のメリットについて一考したり実際に試したりするのをお勧めする。

ふたたび一般論へ。

「ちゃんとした三脚」という呼び方は、ほぼ万全だろうという意味で、それ以上の意味はない。これは鉛筆やボールペンを買うなら、まずは「黒」を選択すべきだろうというのと似ている。

実際の使用にあたっても鉛筆やボールペンの喩えで説明でき、黒色の筆記具があればおおよそ困らないし、むしろ持っていないことで困ることのほうが多く、これが自重3.5〜4kgの三脚と重なる。しかし用途によっては「赤」や「青」の筆記具が必要になるし、特殊な分野では「黒」は使わないものかもしれない。そこで軽い三脚、その他の用途に向いた三脚が必要になる。

これからはじめての三脚を買おうという人で、写真を基礎から(写真学校のカリキュラムのように)順序立って勉強して行くつもりなら自重3.5〜4kg級の三脚を買いましょうと勧められるが、カッコイイ写真を撮りたいとか漠然と写真趣味に憧れている人に重厚長大な三脚を勧めるのは躊躇われる。

まずどこの何を買ったらよいか選択眼がないから自分で最良の買い物ができないだろうし、そもそも選択眼の基になる自分の撮影スタイルや志向性がはっきりしていないだろう。

写真学校でまず買わされる(買わなくてならない)三脚がクイックセット・ハスキー3段なのは、「ちゃんとした三脚」かつ安価で部品すべてがパーツとして販売され続け修理も容易だからだ。脚がしっかりしているだけでなくスッと動いてしっかり固定できる雲台も、これ以上ない単純な構造でこれ以上の内容を持つ製品はそうそう存在しない。

とはいえ前記した、まだ漠然としている人はハスキーやジッツォにピンとこなかったり価格が折り合わないと思ったら、2万円以下の三脚で心惹かれるものを買えばよいと思う。

第一歩は、三脚を使った撮影の体験を積むことからだ。三脚がブレを防ぐものなのは間違いないが、こればかりではない効果を体験できるはずだ。と同時に面倒臭さの原因と理由も痛感するだろう。

たぶん最初に買った三脚で三脚とは何かを経験から学び、すぐ別の(自分にとって本当に必要な)三脚を買いたくなるだろう。このとき最初の一台が2万円以下の三脚なら買い替えの踏ん切りがつきやいはずだ。

老婆心からアドバイスするなら
1-1.脚の締め付けはレバー式ではなく締め付けリングを回して締め付ける方式のもの
1-2.脚は角パイプではなく丸パイプ
2.雲台は自由雲台ではなくスリーウェイ
を。
レバー式のほうが素早く操作できるというが、そんなに急ぐ撮影なんて存在しないし、すぐ壊れ、すぐ緩むのがレバー式だ。角パイプと丸パイプでは、丸パイプのほうが圧倒的に強度がある。雲台は後々交換できるが、自由雲台は使い勝手が悪く良質(つまり高価)な製品以外は固定力に問題がある。

こうして本当に必要な三脚を買う段になると、結局のところ選択肢はハスキーかジッツォになりがちだ。

その他有名どころのメーカーはいくつもあるがハスキーかジッツォの構造を基にして独自性を出したり、独自なように見せかけてコピーしているものがすべてと言って間違いない。つまり堅実なメーカーの三脚を買うとハスキーかジッツォ、これらの同類になる。

レンジファインダー式カメラは、どれもライカMのコピーか派生型でしかないのと同じだ。

こうした「ちゃんとした三脚」はほぼ一生ものの撮影機材になる。そうそう買い換えるものではないし、(私の用途のように酷使しても)そうそう壊れるものではない。

国内だけでなく海外へたびたび持ち出し、運搬中に空港で投げられたり現場でも使い倒されて20年以上の私のハスキーは(自分でメンテナンスしているが)致命的な故障は一度もない。それでなくてもカメラボディやレンズに神経を使わざるを得ないのに、壊れる三脚とか面倒くさくてやっていられないはずだ。

三脚本体選びは保守的なくらいでちょうどよい。そして、そもそも撮影行為なんてものはカッコ悪いのだし、被写体と撮影結果がカッコよければよいのであって撮影者はどうでもよいのだから三脚にカッコよさや見栄えを求めるのはナンセンスと自覚したい。

新機軸、便利機能、冒険心を満たすのは雲台に任せるのがよいだろう。それでも一周回って結局は古典的で実績豊富な雲台に戻って来がちだが、目的に応じて使い分ける前提なのが雲台なのだ。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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