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写真がデジタル化されてフィルムを使用していた時代より後処理で露光の補正が容易になったし、補正できる幅がとても広くなり更に他の現像機能を使って不自然さのない画像をつくれるようになった。とはいえ厳密に狙い通りの露光値で撮影したほうが結果がよいし、後処理でできることの幅が大いに広がる。
写真がデジタル化されてもフィルムの時代に確立された露光値の決め方まで変わっていないが、前述のように現像時の処理を含めての「狙い通りの露光値」が自分にとっての最適解になる。
これまでも[スポットメーターは濃度を知るためにある]と各記事に書いてきた。
カメラ内蔵のメーターとマニュアル露出や様々な露出オート機能か、単体露出計を使った測光か問わず、被写体周りの測光だけで露光値を決める人が多い。これで十分な場合だってあるし、カメラの分割評価測光はとても賢い判断を下してくれるけれど、なかなか思い通りにならない撮影もまた多い。
たとえば撮影後にデジタルカメラの背面液晶で撮影画像を確認してしまうのは、明部の白とび、暗部の黒つぶれ、これらのバランスが不安になるからだったりする。つまり被写体周りの測光だけで露光値を決めると、大ハズレはしないけれどツメが甘くなって想定した理想の状態を記録できない可能性が高いのだ。
それなら撮影前に明部・暗部をスポット測光しておけば、各部がどの程度の濃度になるかわかり、撮影してみなければ結果がわからない不安が解消できるし、測光結果をもとに何らかの操作をすれば意図通りのRAWデータを手に入れられる。
ではスポットメーターの活用法へ話を進めよう。
■ 基本
スポットメーターを有効に使う方法は大きく2通りに分けられる。
1 すべて反射光式のメーターで測光する
2 メインの測光を入射光式で 各部のバランスを反射光式で見極める
カメラ内蔵の露出計は分割測光、中央重点測光、スポット測光いずれであっても、被写体が反射している光をレンズを通して測光しているので反射光式の測光だ。単体露出計では、白いドーム状の半球を使うのが入射光式、望遠鏡のように被写体の一部を目視し指定して測光するスポット測光は被写体が反射している光を測光するので反射光式の測光だ。
1 すべて反射光式のメーターで測光する
a.カメラ内蔵の露出計で測光した値と、スポットメーター(カメラの露出計をスポットに切り替えたり単体露出計のスポットメーター機能を使う)で画角内の明部・暗部を測光した値を比較する。
b.カメラ内蔵の露出計を使わず、単体露出計のスポットメーターで主たる被写体から明部・暗部に至るすべてを反射光式のメーターで測光する。
いずれも主たる被写体の測光値と、他の箇所をそのまま比較するだけだ。主たる被写体の測光値でカメラのシャッター速度と絞り値を決めたとき、他の箇所が何段オーバーかアンダーかわかれば白とび黒つぶれだけでなくどの程度の濃度になるかわかる。
もし白とび黒つぶれする値が出て不本意なら、その箇所が望む濃度になるようにカメラに設定する露光値を増減する。あるいはRAW現像時の調整を前提にして、より明部中心、より暗部中心の露光値で撮影して現像で完成形をつくる。
上のグレースケールの[V]が、反射光式メーターで測光した場合の出目の濃度だ。反射光式露出計では、メーターが示した値のまま撮影すると明部だろうと中間的な明るさだろうと暗部だろうと、白だろうとグレーだろうと黒だろうと[V]の位置の「ほぼこのくらいの濃度]になると把握しておこう。
先ほどのa、bいずれの方法であっても、主たる被写体を測光した値をまず[V]に位置付ける。
明部を測光した値と主たる被写体の測光値との差が1段なら[VI]、2段なら[VII]……の位置であり濃度の差もだいたいこのような感じになる。逆に暗部を測光した値と主たる被写体の測光値との差が1段なら[IV]、2段なら[III]……の位置であり濃度の差もだいたいこのような感じになる。
部分ごと測光して出た値を元にして、被写体を脳内で濃度分けして見る習慣をつけるのをお勧めする。
0からX(10)までの明るさの幅と、それぞれの段階の位置付けは以下のような意味がある。
0から10までがフルレンジとすとるとき、
このうち2から8が「テクスチャーレンジ」で質感を表現するのに適している。
1から9が「ダイナミックレンジ」で両端は質感を表現するのに向いていないが、完全な白とび黒つぶれを除いた範囲。
a、bいずれの方法であっても、気になる明部・暗部を「テクスチャーレンジ」に収めれば質感は記録できる。(主たる被写体の測光値はとりあえず無視して)明部・暗部の測光値を[V]に位置付けカメラに設定して露光すると、明部か暗部の採用した箇所でもっとも質感が豊富に記録できる。このとき明部または暗部の測光値を採用した箇所は[V]の位置の濃度になる。
ただこうやって撮影すると、主たる被写体だけでなく(測光値を採用しなかった)明部または暗部いずれ側が極端に不適当に濃度になりがちだ。とはいえ、RAW現像で不適当な濃度になった箇所を適切に補正できるならトライしてみる価値はある。
一般的には、明部・暗部いずれかの問題になる箇所にどのくらい質感を残すか、白とび・黒つぶれ回避が目的でさほど質感を残す必要がないなら「テクスチャーレンジ」に収まる塩梅を加減する。
これではシステマチックではないと感じるなら、次の方法を採用する。
画角内の明暗のうち、暗い側でぎりぎり質感を残したい箇所をスポット測光する。とうぜん測光した値は[V]の位置になり、この箇所の濃度はスケール上の[V]の濃度になる。これでは暗い側でぎりぎり質感を残す露光値ではない。
そこで、質感を十分に残したい最も暗い箇所をスポット測光した値を「-2」する。つまりシャッター速度または絞り値を2段暗い側にした値を露光値として撮影する。これは暗い側で質感を残したい箇所を「テクスチャーレンジ」の下限より一段明るく位置付けているのだ。
以下に概略を示す。
主たる被写体の重要な箇所や明部は測光しないのか、と思うはずだ。
暗い側でぎりぎり質感を残したい箇所の見極めには慣れが必要なのは事実だが、案外これでなかなかよくできた写真が撮影できる。
もちろん暗い側でぎりぎり質感を残したい箇所の測光値から2段暗くした値で撮影したとき、主たる被写体の重要な箇所や明部がどのような濃度になるか、「テクスチャーレンジ」に収まるかチェックすると万全だ。
風景撮影に革命をもたらしたアンセル・アダムスのゾーンシステムのとっかかり部分を拝借した露光値の決め方なので、風景・景観の撮影に向いているし、ブツ撮りで質感描写が気になる場合にも使えるけれど、ポートレイトは被写体の顔の皮膚濃度をどうするか問われるためこのままでは不向きだろう。
2 メインの測光を入射光式で 各部のバランスを反射光式で見極める
入射光式露出計は被写体が反射する光ではなく、被写体に照射されている光を測光するので、被写体の反射率で露光値が左右されることがない利点がある。カメラ内蔵の露出計が賢くなり評価測光が正確になったので、反射率違いで露光値がばらつくデメリットはかなり減ったとはとはいえ、ストロボライティングなど入射光式露出が不可欠なシーンは多い。
ライティングするか環境光任せにするか別にして、場の照度を知るには入射光式露出計が必要だ。
入射光式露出計で場の照度を頼りに露光値を決めれば、ほぼ見た目のままの濃度として被写体を撮影できる。ポートレイトに限らず、風景・景観を撮影する場合も明暗差が小さいなら入射光式露出計だけの測光がよい結果をもたらす場合がある。
ライティングを施す際は、入射光式露出計の半球を平板に替えてライトからの照射、レフからの反射のみを測光して照度比を知る。これでライティングの組み立てを適切化してほぼ間違いないのだが、肌と衣服の反射率違いによる描写の違いや、試し撮りせずカメラ位置などから各部がどのくらいの濃度として記録されるかチェックするのにスポットメーターを使う。
風景撮影で撮影位置と実際に画角に入る場所の照度差が少ないなら、基準とする露光値を撮影者がいる場所で入射光式露出計を使って測光して知り、あとは[すべて反射光式のメーターで測光する]で説明したように各部を測光した値と比較するのもよいだろう。
■ 自分なりの近道へ
だいぶ以前はスポットメーターでストロボの閃光を測光できなかったし、照度から被写体がどのように描写されるか想定するのがライティングなので入射光式露出計を使うのが当然で常識であり続けた。
現在はスポットメーターでストロボ光を測光できるので、手慣れた環境や条件で光源と被写体の位置関係、光源の出力を決められるなら、各部の濃度・描写を知り、光源の微調整をするのに最初からすべてスポットメーターでもよいかもしれないと感じるケースがある。
その方法は、スポットメーターで18%グレーの標準反射板を測光して基準にする値を知り、その値と画角内各部の測光値を比較する。あるいは標準反射板を使用することなく、各部をスポット測光してそれぞれの濃度を知る。
ライティングされた環境ではセオリー化されていないが、風景・景観を撮影ではアンセル・アダムスのゾーンシステムや従来の方法にあるように特定の箇所、あるいは特定の箇所と気になる箇所の比較をスポットメーターを使うだけの撮影は珍しくない。
では、なぜ「最初からすべてスポットメーターでもよいかもしれないと感じるケースがある」のか。
撮影者が知りたいのはどのような濃度で被写体が撮影されるかで、どのような濃度で描写したいか欲求があるのであって、適正露光や標準的な露光とされるものはほとんどどうでもよいからだ。
前述のように風景・景観をスポットメーターだけで測光するのはよくあることなので、ライティングされた環境や静物撮影に限って説明する。
手慣れた環境や条件下では、脳内にデータがありライティング方法がすんなり決まって照度比なども大はずれしない。だったら、塗り絵の各部を埋めて行くように濃度を決められればよいので、スポットメーターで各部の反射を測光しながらライティングを調整したり露光値を決めればよいことになる。
こうした反射光式露出計/スポットメーターのみの測光について考えるようになったのは、ある人から次のように言われたからだ。
「あなたに教わった通り入射光式露出計でライティングを決めて、背景をスポットメーターでどんな濃度になるかチェックしてブツ撮りをしたら、被写体の商品の一部分が予想外に露出オーバーになって色が薄くなった」
だったら余すことなく各部を測光しなさいという話になるが、彼は「入射光式露出計の出目と、スポットメーターの出目を比較するときそのまま比較してよいのか戸惑いが生じ、何EV(何段)操作したらよいか直感的に把握できない」とも言っていたので、もっと簡単な手法と理解しやすい説明はないものか考えた。
そこで「塗り絵」式だ。塗り絵を塗るとき私たちは、あらかじめどこをどのような色で塗るか大まかに決めるだろう。画角内の各所を塗り絵の枠内として、塗り絵の各部を埋めて行くように濃度を決めるためスポット測光して行けばよいことになる。
場の照度とか、入射光と反射光とか、反射率の違いとかすっとばして、スポットメーターが示す値を横並びに比較して濃度を知り、ライティング環境下なら部分的に出力を上げ下げしたり、レフによる反射や遮光を駆使して望みの濃度になるようにすればいい。
この方法に限らず、「露光値の決め手は濃度」をキーワードにして自分なりの手法、自分なりの近道をつくりあげたらよいと思う。
■ 現像で最終的な濃度を実現する
適正露光がどうでもよいのは、写真が暗かろうと明るかろうと意図通りなら何も問題ないからだ。そんなものより、意図通りの濃度を実現するほうがよっぽど重要なのは繰り返し説明した通り。
ひとつだけ説明を省いたのは、冒頭に書いた「写真がデジタル化されてもフィルムの時代に確立された露光値の決め方まで変わっていない」理由と、現像との関係だ。
フィルムであってもセンサーと回路であっても、写真に記録できる輝度の範囲には限りがある。記録できる輝度の範囲とは白から黒のフルレンジの範囲であり、白とび黒つぶれを超えた輝度(ラティチュードを超えた輝度)は、どれだけ輝度が高かったり低かったりしても記録上は白と黒でしかない。
さらに質感が記録できるのは、テクスチャーレンジの範囲内である。
いくら「写真が暗かろうと明るかろうと意図通りなら何も問題ない」とはいえ、記録できなかった質感(ディティール)を現像やプリント時に復活させられないのだから、仕上がりだけでなく後処理の自由度を高めるためテクスチャーレンジまたはダイナミックレンジ内に輝度のばらつきを収めて記録したくなる。
あとから明るくも、暗くも、中庸にもできるRAWデータにしておけば、たとえ後処理の方向性がひとつであっても微調整で表現を詰めて行くときの可能性が格段に広がるのだ。
あと少しだけ○○の効果をあげたいけれど、そうすると白飛び・黒つぶれしてしまうとか、質感があと一息表現しきれないという事態を回避できる。
「だったら、ここまでのスポットメーターを使う説明は何だったのか」と言いたい人がいるかもしれない。
これについても冒頭に書いたが、現像時の処理を含めての「狙い通りの露光値」が自分にとっての最適解になるのだ。そして狙い通りの露光値の決め方は、自分なりの近道をつくればよいのだ。
最後に。
現像時にコントラストを上げる操作は、階調幅を狭めて、階調のつながりを詰める操作なので、テクスチャーレンジまたはダイナミックレンジに収まっていたものがラチチュードの範囲からはみ出す可能性がある。つまり白とび・黒つぶれしていなかった箇所が白とび・黒つぶれする。
またトーンカーブを逆S、S字に操作するなどしても階調のつながりが変化する。
現像を見据えて「狙い通りの露光値」にするとは、こうした変化を想定することを意味している。
テクスチャーレンジまたはダイナミックレンジの両端の濃度域は、デジタルカメラやレンズの特性、1/3段以下の微妙な露光値の違いで容易に範囲外に出てしまうことが多い。
こうした点を踏まえると、暗めに撮影しておくほうが扱いやすいデータをつくれると言えそうだ。なぜなら暗い側に質感がより多く残り、白とびやハイキーな箇所の濃度を下げるより、黒つぶれやダークな箇所を持ち上げる処理のほうが違和感が少ないからだ。
© Fumihiro Kato.
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