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Capture Oneは前バージョン[12]でマスク指定グラデーションツールを一新するなど、以前からの「こうだったらよいのに」をかなり実現した。今バージョンでは13という数字を嫌ったのか、新たな目論見があるのかバージョン[20]になった。Capture One 20はどこがどのように変わり、現像ソフトとして新たな何かがはじまったのか、この記事に書いていこうと思う。
ざっくり書くなら、今まで通り使えるし、私の環境ではいまのところ不具合はなくまともなバージョンアップだ。ただし、この[20]でのマイナーバージョンアップや[21]以降で、いままでの路線と違う進化が始まるかもしれないと感じた。
主だった変更点を列記する。
・ハイダイナミックレンジ効果(HDR)を得るための調整方法とUIが変わった。
ハイダイナミックレンジ効果(HDR)が様々なRAW現像ソフトに実装されはじめた段階では、明部にリミッターをかけるスライダーと暗部を持ち上げる(ブーストする)スライダーで構成されるのが一般的だった。ハイライト、シャドウともに起点0から効果をあげて行くスタイルの操作系だ。
リミッターとブースターなのだから効果0から最大へ向けて動かすスライダーなのだ。
Capture One 12までも前述のUIだった。Capture One 20ではLightroomやDxO PLに実装されている[ハイライト][シャドウ][ホワイト][ブラック]の各スライダーを使うUIに「ハイダイナミックレンジ」の名称が与えられた。
そしてスライダーのデフォルトの位置は中立を示す中間点に置かれている。

このスライダーは[ハイライト][シャドウ]といった特定の範囲に含まれる明るさを一律に暗くしたり明るくする[露出]のような効果を与えるものではない。
画像の極端な色調値(色のみではなく明るさを含む値)を圧縮して、より広いダイナミックレンジをシミュレートするものであるとCapture One公式が明言している。[ハイライト][シャドウ]の領域をRAWデータから分析して、つぶれているディティールを回復させるための効果を与えるのだ。
[ホワイト][ブラック]はシャドウ領域の最も暗い範囲とハイライト領域の最も明るい範囲を適切化するツールだ。両領域は[ハイライト][シャドウ]の範囲より狭く、明るさの最小値付近と明るさの最大値付近に効果を集中させると考えてよい。
他のRAW現像ソフトでも、この操作系の[ハイライト][シャドウ][ホワイト][ブラック]の意味を理解しないまま感覚的に使用している人が一定数いるような気がする。
明るい側から[ホワイト][ハイライト][シャドウ][ブラック]の領域なのだが、使い方から[ハイライト][シャドウ]/[ホワイト][ブラック]の並びになっていると考えると理解しやすいかもしれない。
・カラーエディターのUI変更
カラーエディター内[基本]設定のUIがカラーホイールから各色の範囲を示すタブから選択するものに変わった。[詳細設定]と[スキントーン]は以前のままだ。

これもまた他のRAW現像ソフトや画像ソフトで使用されているものへの変更で、操作について特筆すべき点はない。
・ノイズリダクションの高度化
これまでCapture Oneのノイズリダクション調整は効果が薄いまたは穏やかなものだった。Capture One 20からより効き目がわかりやすく、強くかけたときも自然さがあるものになった。
・マスク調整UIの変更など

以上がCapture One公式によってプッシュされている変更点だ。
使用して特に混乱する点はない。むしろ13から20へ番号が飛んだのに大変更・新機軸はないのかという空振り感が若干ある。
ただし、けっこう思い切って路線変更をかけているのではと思われる。
ハイダイナミックレンジ効果のUI、カラーエディターのUIに見られる他のRAW現像ソフトのUIへ寄せた点、あるいは他のRAW現像ソフトの機能に寄せた点は新規のお客さんを積極的に取って行く意志の現れだろう。
路線変更についての考察をする前に、ハイダイナミックレンジ効果のUIについて思うことを書いておく。
かつてほとんどのRAW現像ソフトでハイダイナミックレンジ効果を得るための操作系は、既に説明した通り「ハイライト、シャドウともに起点0から効果をあげて行くスタイルの操作系」だった。やがてハイダイナミックレンジとは別の呼び名を使うDxO PLのようなソフトも登場し、実態をトーンカーブ操作に近いものへ変更するソフトが増えた。
こうした変化はハイライト、シャドウともにドロドロにハイダイナミックレンジ効果を与える絵づくりに皆が飽き飽きして、これを物珍しいと思うエントリーユーザーのおもちゃに成り果てた結果だろう。
トーンカーブを直接編集する操作より、スライダーを動かしながら結果を見て暗部、明部の調子を整えディティールを出すほうが楽ちんという人が多かったとも言えそうだ。こうして(HDR効果が効くか、あくまでトーンカーブを操作するようなものか問わず)[ハイライト][シャドウ][ホワイト][ブラック]のスライダーが実装されたのだろう。
Capture One 12までのハイダイナミックレンジ効果の操作も、古臭いドロドロ効果のために使われるより、隠し味としてハイライトへのリミッター、シャドーへのブーストをかけるために使われるほうが多いだろうから時流に従ったのはとうぜんかもしれない。
と、したうえでこれだけではない部分をどうしても感じずにいられない。
Capture Oneは中判デジタルカメラPhase OneのRAW現像ソフトとしての立ち位置があり、Phase Oneを使用している人もライカ判など他のフォーマットのカメラを使用しているし、こうした他のフォーマットからPhase Oneへ誘導するためにも様々なRAWフォーマットに対応していた。
同社が中判カメラPhase Oneをプッシュするのは変わりないが、最近はFujiの中判に対応したりといろいろ事情があるのだなあと感じさせられるものがあった。そして今回Capture One 20では以前からある機能のなかから、「DNGファイルをキャプチャするすべてのカメラモデル、ドローン、スマートフォンから最も正確なカラーと鮮明なディテールを取得できます」と一眼レフやミラーレス一眼に限らない機材への対応を訴求している。
ご存知の通りPhase Oneのボディーは高価でデジタルバックは高画素化が著しく、こうなるとデジタルバックを買い換えると言っても高額の出費になり、そうそう容易に市場を拡大できるものではない。もしかしたら他社製中判カメラとともに中判市場は飽和状態にあるかもしれない。
いっぽうデジタルカメラの市場でドローン、スマートフォンは無視できない存在になっている。専門性が高そうなことで新規使用への敷居もまた高くなっているCapture Oneは、エントリーユーザーやドローン、スマートフォンユーザーを呼び込みにくいとPhase One社が考えても不思議ではない。
ノイズリダクションの効果がはっきりわかりやすくなったのは正常進化だとしても、これからCapture Oneへエントリーしてくる層にはもしかしたら重要なポイントなのかもしれない。
Phase OneやPhase Oneと他のカメラを併用する人、これまでCapture Oneを使用してきた人たちはそうそう無茶な高感度設定を使用しないだろうと思われる。スタジオでの撮影はもちろん風景撮影でも感度をやたらに上げる前にあれこれ別の方法で対処するだろう。もちろん高感度に設定して撮影することだってあるけれど。
しかし、こうした対応が取れない人たちや、もともとハードウエア側の制限が大きいスマートフォンでは強力なノイズリダクションは必須だったりしそうだ。
こうした推測が正しいかまったく確証はないけれど、Capture One 20を実際に使っていると「いままでより広い層を獲得する方向を目指すのだなあ」と思わずにいられないのだった。

© Fumihiro Kato.
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