デジタルでモノクロ、なにをどうしたらよいのか

デジタルフルカラーの画像データから彩度を抜くだけで、自分が求めているモノクロ表現になるとは限らない。今回はこうした問題について書いて行きたいと思う。

なおトーンカーブ等の操作にも触れるが、これらの詳細説明は本論からはずれ複雑化しかねないので複数ある過去記事を参照してもらいたい。
実際にはトーンカーブのみでなくトーンの幅も工夫したいところであり、
コントラストをどう扱うかに特化した記事をまず読んでいただくのが話が早いかもしれない。🔗(新しいタブで開く)

なお今回は概論を書くだけで精一杯だ。モノクロの調子は作風であり世界観を端的に表すものなので、独自のトーンを獲得したり、トーンに嫌気がさして新たな調子を開発するなど各自が研究と実験をするのが大前提である。

現代はフルカラー画像があたりまえで、モノクロはかなり意識的につくりあげるものになっている。「意識的に」といっても、なにをどのように意識したらよいのかわからない人がいるはずだ。かつてはモノクロフィルムで撮影する手法、モノクロ印画紙で表現するための手法を詳しく学ぶ機会があったが、いまどきのデジタルモノクロ化については付け焼き刃のマニュアルが多い気がする。

まず最初に知っておくべきなのは、
色の対比がなくなると見かけ上のコントラスト比が小さくなりがちで、
これは分離して見えていたものが一体になって見えるのを意味している

赤も青も緑もグレーで表現されるのがモノクロなのだから、あたりまえと言えばあたりまえだ。

また、
往往にしてモノクロ化された写真は元となるフルカラー画像より暗く見えがち
である。

次に示すカラー画像を、特定の色調を明るくしたり暗くする操作をせず単純にモノクロ化してみる。

結果は以下の通りだ。

フルカカラー画像では色の対比で分離できていた領域が同一グレーまたは差があっても分離がよくない状態になっている。またモノクロ化したものは元のカラー画像と印象がだいぶ異なって見える。

上図は模式図にすぎないが、自然界を撮影してもモデルさんを撮影しても静物を撮影しても同じ問題がついてまわる。

これが思い通りにモノクロ画像をつくれない原因だ。

色の対比で分離できていたものがモノクロ化でうまく分離できないなら、細部を構成しているディティール描写が不十分かまったく表現できなくなる。またより大きな面で分離が不十分になるなら、立体感の表現に難が出る。さらに全体の印象がぼんやりした見た目=ローコントラストに感じられる。

次にモノクロ化でディティールが失われる例を示す。ディティールとは細部の色調、彩度、明度の変化でかたちづくられている。ディティールまたは質感とは、こうしたとても小さな変化の集合体なのだ。

たとえば……自動車の塗装にソリッド(単色のみの塗装)、メタリック(金属粉が混ぜられた光沢)、パール(見る角度による変化がメタリックより多様)といった違いがある。メタリック、パールは金属粉等で小さな変化の集合体をつくりあげて質感を独特なものにしている。

もっと身近なものでは肌のキメ、布地の質感、動植物の見た目などなどを思い浮かべれば、「小さな変化の集合体」で質感がつくられている理屈が理解できるはずだ。

模式図で実験してみよう。

上掲の模式図をモノクロ化すると、ディティールを構成していた色の対比のうちいくつかが識別不能になる。

これはカラーではディティール豊富だった写真がモノクロ化されてディテールが足りない写真になり得るのを表している。カラーでは描画されていたディティールがモノクロ化されて消えることはあっても、質感が豊富になることはないと憶えておこう。

ディティールはレンズの解像性能だけで決まるものではないのだ。モノクロ写真でもレンズの演色性(多様な色を記録する能力)は重要で、演色性は色の見た目だけの問題ではない。

また色の濃度が高く(濃く)描写されるレンズでは、状況にもよるが濃度が高いことでモノクロ化したとき暗く描写される傾向がある。だが、どのようなときどうなるかわかっていれば、演色性が乏しいレンズが描画できないディティールを余さず記録できるのだからメリットが大きいと言える。

ここで一旦まとめよう。

フルカラーの写真をモノクロ化すると、

  1. 見かけ上のコントラストが大きく変わる
  2. コントラスト表現が変わることで被写体の立体感描写が変わる
  3. 細部を構成するディティールが乏しくなりがち
    といった問題あるいは課題が浮上しやすい。

では、どうしたらよいのか。

まず、撮影時にモノクロ化した状態を想定する「モノクロ勘」とも言うべき能力を養うべきだ。このあとにRAW現像時の操作について説明するが、撮影時に色のコントラストを明暗(モノクロ)のコントラストに置き換えて理解しておかないと現像時の操作だけでは十分な効果が得られない

もう一度、前掲のディティール消失の模式図を見てもらいたい。カラー画像の「赤い」地色はビビッドであり色の濃度は高いが特に暗い印象を与えるものではない。しかし単純にモノクロ化されたときとても暗いグレーになった。この濃度は実際の写真ではほとんど真っ暗に近いグレーである。

このような変化を想定できないまま撮影準備を進めシャッターを切るのがいかに無謀なことか。後述する方法でRAW現像時にグレーの濃度を変えられるとしても、この単純で簡単な操作でかなり大幅に変更を加えることになる。いっけん不都合がない画像っぽいのだがグレー化した各色のバランスが危うくなった写真をときどき見かけるのは、無理な操作が原因なのだ。

上図の「赤」をモデルさんの口紅の色と想定してみよう。モノクロ化によって得られた暗いグレーが目論見通りならよいが、肌色との対比がけっこう強烈になりフルカラーの状態よりメークの主張が強くなる。

想定よりメークの印象が強すぎてRAW現像時に調整を加えたくなったとする。マスク指定で唇を抜き出して調整せず、画面全体を調整するなら背景や衣装、小道具などの色バランスとグレー化の結果が大幅に変わる。唇または顔、あるいは人物全体をマスクして部分調整すると、他の部分や要素とのカラーバランス=グレーの濃度との関係を気にしなければならない。

そして冒頭に書いたように、モノクロ化した写真は元画像より暗く見えがちだ。色彩設計/モノトーンになったときの濃度設計をしないままだと、RAW現像時に画像を明るくしたくなり、暗部の閉まりや明部の飛びの問題、全体の明暗バランスの問題などに直面しかねない。

あらかじめ色とグレー化後の濃度の関係がわかれば、スタジオならメイクや背景や衣装などの色彩設計に活かせライティングの比率も変わってくるし、風景撮影でも構図の取り方や露光量などで工夫できる点が多い。そもそも、RAW現像でモノクロ化して「がっかり」なんて事態はあり得なくなる

モノクロ化によってどの色がどのようなグレーになるか例示可能だが、これらを頭で理解し暗記しても撮影時に生かすのは難しい。「モノクロ勘」はやはり撮影の場数をこなし、撮影結果とモノクロ化の結果から体感へつなげて身につけないとならないだろう。

難しそうに思えるかもしれないが、意識して取り組めば1ヶ月もあれば身に付くだろう。

では、モノクロ勘を生かして撮影したデータを現像するとき、目論見通りのモノクロ写真にする方法を考えていきたい。

RAW現像ソフトには次の機能が実装されている。

・色フィルター効果機能
・コントラストを強弱する機能
・トーンカーブ機能
・明瞭度・クラリティー効果の機能
・細部のコントラストやシャープネスを強める機能

これらと別に
・特定領域にだけ効果を与えるマスク機能
がある。

色フィルター効果は、モノクロフィルム撮影時にイエロー、オレンジ、レッド、グリーン、ブルーのフィルターを使い、色域ごとの感度を変えていたのと似た効果を得ようとするものだ

イエロー、オレンジ、レッドの3種のうちもっとも効果が劇的なのがレッドだ。レッドのフィルターをレンズに装着してモノクロフィルム撮影をしたとしよう。赤の補色である青が暗く(黒く)描画され、赤は明るく(白く)描画される。結果としてはいコントラストな写真が得られる。

青空が暗く落ち、白い雲との対比がダイナミックになり、地上にある赤みを帯びたものと他の色との対比も大きくなる。1960〜1970年代のハイコントラストな写真には、こうして撮影されたものが多い。

グリーンフィルターは人物撮影で肌の赤みをやや暗くしてトーンを出して白塗り感を消し、印象の薄い淡いグレーの唇になるのを防ぐため使用されることが多かった。また新緑の木々を明るく描写するのにも使われた。

なぜモノクロフィルム撮影でこのようにコントラストを上げたくなったのかと言えば、すでに説明した通り色の対比がなくなると全体がぼんやりした印象になりがちだからだ。1960〜1970年代は更に力強い表現が好まれたので、モノクロフィルムと印画紙が持つデフォルトのトーンよりハイコントラスト化する人が多かった。

この実物の色フィルターの使い勝手を、アルゴリズムに落とし込んだのがRAW現像ソフトの色フィルター効果である。

RAW現像ソフトの色フィルターは効果を+側にも-側にも、それぞれ無段階に調整できる。実物のフィルターと違うのは+側にも-側にも自由に効果がかけられ、フィルターでは補色側への影響が大きかったがソフトウエアでは選択した色域にだけ効果がかかる点だ。

空の青さを暗くするためブルー領域に効果をかけても、同一画面内にあるモデルさんの赤い唇は影響を受けない。赤い花を明るく描画するためレッドの効果をかけても、青の色域は変化しない。

こうした色フィルター効果は、RAW現像時に「色のコントラストをモノクロのコントラスト」に置き換えるうえでもっとも手っ取り早い手法と言える。ただし効果を求めるあまり、過剰な操作や各色の明暗のバランスの崩れで不自然な階調表現にならないようにしたい。

前述のメークの色と背景等の関係のように、口紅の色はなんとかできても他の部分でグレーの分離や関係性が破綻することがある。破綻を救おうと、赤以外の色域をこまごま調整するとバランスがめちゃくちゃになる。

他の弊害としては、たとえば空の青さを暗く(明るく)するためブルーやシアンの色域にフィルター効果をかけた結果、自然だった空のグラデーションが段付きで変化するおかしなものになるケースが挙げられる。これは空にかぎらない現象だ。

なぜこのように段付きになるのかと言えば、青空等の特定の色だけで構成されていると思われる部分にも他の色(レッド、マゼンタ、イエロー等)が含まれていて、青を増減した結果他の色とのバランスが崩れたからだ。

これをJPEG化すると、圧縮時のサンプリング効果によって段付きが異様に目立つこともある。

これら意図せぬ結果を招かないためにも、特殊で劇的な効果を目指すのでなければRAW現像ソフトの色フィルター効果のスライダーは微量ずつ動かし、できるかぎり変化量を小さく扱いたい。

RAW現像ソフトには色フィルター効果のほか、モノクロ時に活用したい
・コントラストを強弱する機能
・トーンカーブ機能
・明瞭度・クラリティー効果の機能
・細部のコントラストやシャープネスを強める機能

がある。

もっとも単純な操作は、コントラスト効果を増減するスライダーを使う調整だろう。ひとまずこれで想定や目論見通りになるか試してみるのがよいと思う。

トーンカーブ機能の使用は、フィルムで喩えるならフィルム現像時のコントラスト操作や紙焼き時に印画紙の号数を選択するのと似ている。

フィルムを現像するとき薬剤の希釈度、温度、撹拌のしかたで柔らかなトーンから硬く強烈なトーンまで変化させられ、自己現像している人はこうしたアナログ的な操作を常に行なっていた。また印画紙には号数というグレードがあり、号数の数字が増えるごと軟調から硬調になっている。

軟調か硬調かは、フィルム・印画紙とデジタルの違いなく暗から中間調、中間調から明までどのように明るさが推移するかによって決まる。これを応答特性の違いと言い、数値としてガンマ値で表現することが可能だ。

色の対比によって見た目上のコントラストが高くなっていて、色ごと分離がはっきりしているフルカラーから、画像をモノクロ化することで対比が減るのは前述の通りだ。このため(好みの違いはあっても)一般的なモノクロはコントラストを高めに、明暗の対比を大きくしたほうがカラーとの見た目との差を小さくできる。

モノクロの紙焼きで3号以上、4号など硬調印画紙を使うのは、明暗の対比が大きいトーンカーブを描くのに相当する。

・明瞭度・クラリティー効果の機能
・細部のコントラストやシャープネスを強める機能

がモノクロ化したときどのように有効か疑問に感じる人もいるだろう。

これらは比較的広い面積か小さな単位内かの違いはあっても、色の対比を失ってディティール・質感が欠如しがちで、立体感も失われがちなモノクロ表現を救うのに効果がある。

前記したコントラストスライダーの操作やトーンカーブの操作だけで、メリハリを出そうとすると効果が過剰になったり、(マスクで部分を指定しないなら)メリハリが不要な箇所まで効果が現れたりする。

明瞭度・クラリティーや細部のコントラストやシャープネスを強める機能だけ操作しても意図せぬ場所に意図せぬ効果が出てしまうのだが、コントラストスライダーの操作やトーンカーブの操作と併用するとネガティブさを減らせる。

[細部のコントラストやシャープネスを強める機能]はマイクロコントラスト、構成などと呼ばれるもので、RAW現像ソフトごと何をどの程度強調するか内容はまちまちである。

内容はまちまちでも、面積が小さな陰影のエッジを強調した見た目になるのはほぼ同じで、モノクロ化されて色の対比を失い消えかけたディティールを浮き上がらせる効果がある。

たとえば、上図では完全に埋没したディティールへの効果は期待しがたいが、かろうじ目視できるディティールのエッジが強調されることになる。

これもまた効果を過剰にすると不自然さが出るので慎重に効果を見極めたいし、アンシャープマスクを使うほうが不自然さやエッジの縁取りが目立たない場合もある。

ディティールを構成する部分へ擬似的にエッジ強調効果をかけた画像が以下だ。あくまでも擬似的効果であり例なので処理本来の状態と違う点はお許し願いたい。

ここまで読んでいただけた方は、フルカラーとして破綻なく成立している画像からモノクロ化する際は全体の見た目を調整するだけでなく、特定の部分ごと意図を反映させるRAW現像が求められるのを察したかもしれない。

部分調整マスクを活用したくなるのだ。

ただしRAW現像ソフトには部分調整マスクの機能が不十分なものや、機能が実装されていないものもある。Photoshopなどと併用すればよいとはいえ、部分調整マスク機能が充実した現像ソフトで一貫した作業するほうが圧倒的に効率的だ。

フィルムを自己現像し紙焼きまでやっていた人は、焼き付けのとき覆い焼きや焼き込みをやっていたし、多階調印画紙を使っていたなら部分ごと分割して異なる階調フィルターを適用していたかもしれない。RAW現像ソフトの部分調整マスクに恐れをなして使用しない人もいるようだが、かつてアナログでやっていた操作より確実かつ簡単にパワフルな効果を得られれるのだから試みない手はない。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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