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日中シンクロを活用して撮影したい、という人は多い。しかし日中シンクロとはどのようなことをすればよいか理解している人は少ない。「光が強い屋外でストロボ撮影することだろ」と反論されそうだが、この明るさでシャッター速度は? 使用できる絞り値は? 両者の選択肢は? どうやって決めるの? となるとあやふやになりがちで、手探りのまま日中シンクロをしてはいないだろうか。実は直感的に日中シンクロを操作するのも不可能ではないのだ。
日中シンクロでできることを理解する
以下の表はISO100のときの明るさの指標EV値と絞り値AVとシャッター速度TVをまとめたものだ。
フォーカルプレンシャッターのシンクロ可能速度がおおむね1/250秒以下なので1/500秒より速いシャッター速度はダークなブルーにしている。絞り値がF16までなのは、常用される絞り値の上限ではないか考えられるからだ。レンズによってはもっとも絞り込んでF16だったりする。
EV12〜16で使用できる絞り値とシャッター速度の組み合わせをオレンジ色で塗り分けた。これは曇り相当から真夏のビーチ相当の明るさだ。なぜEV12以上を選択しているかといえば、曇りの日に撮影するあたりから「日中シンクロ」と呼ぶのがふさわしいと思われるし、もっと暗い場所ではストロボの使用を躊躇う人がいないからだ。
表中のオレンジ色に塗り分けた領域で、それぞれ絞り値とシャッター速度が組み合わされて日中シンクロが行われると言える。つまり日中シンクロで使える可能性がある絞り値とシャッター速度の組み合わせだ。
たったこれだけだ。暗記しなくてもよいが、苦労せず暗記できるだろう。
次の表は出力が大きいクリップオンストロボ[照射角ライカ判50mmの画角相当]を使うときの被写体までの距離と絞り値の関係を示している。クリップオンストロボでは70Ws程度あれば出力が大きいと言え、各社の最上位機種はこのくらいの出力だ。私が所有しているストロボを念のため実測したところ、照射角ライカ判50mmの画角相当、距離1mでF32だったのでガイドナンバーはGN32だった。(最近はISO100 200mmの画角相当でGNxといったGN表示の水増しが多いが、上記のような機種はほぼ70Ws程度で50mmの画角相当でGN32くらいだ。日中シンクロをやろうという人は単体露出計を持っているはずだから自分で計測してもらいたい)
なお後述する内容とも関係するが、ストロボのズーム機能を使って照射角を狭めると「光が集約」されることで照度があがりGNも上がる。逆に照射角を広げると照度は下がりGNも下がる。
光は逆二乗の法則で距離に応じて減衰する。法則に則っているのでGNから露光値が決められるのだ。
では、被写体と背景をバランスのとれた照度にする標準的な日中シンクロを考える。
ストロボ出力70Ws程度、ISO100 GN35、カメラの感度設定 ISO100とする。なお、以下に示すものは条件しだいで値や結果が若干変わる可能性があるので理論値や概要と思ってもらいたい。実際にはさまざまな理由から選択の幅が狭くなり、必要とされるストロボの照度が足りなくなる。
まず日中シンクロと呼べる条件EV12〜16の明るさでは、シャッター速度1/15〜1/250秒・絞り値F4〜16を使って撮影できるのをもう一度確認したい。
EV16(真夏のビーチ相当)のとき光源から被写体までの距離が2mなら1/250・F16で背景とバランスした明るさで撮影できる。被写体のほとんど目の前にはなるが、もっと光源を被写体に寄せることもできる。こうした距離やF16あるいはそれ以上が最適か別として、EV16でも理論上は日中シンクロが不可能ではない。2m以上離れたり、F16より絞りを開けると、背景とバランスした標準的な露光は成立しない。離れれば被写体が暗くなり、絞りを開ければ背景がオーバーになる(このような演出手法もある)。
EV16に限らず明るい場所はスポットライトを浴びたように極一部だけ明るいのではなく、かなり光が回っているケースが大半だ。被写体もまた明るく、顔の隆起などに陰ができている状態だったりする。陰消しや逆光補正として日中シンクロが有効としても、被写体全体と背景の明るさに変化をつけて被写体を浮き上がらせる手法はまず不可能だ。
この点については後述する。
EV15(快晴相当)のとき光源から被写体までの距離が2mなら1/125・F16、3m程度なら1/250・F11でバランスが取れる。
EV14(晴れ相当)のとき光源から被写体までの距離が2mなら1/60・F16、3m程度なら1/125・F11、4m程度なら1/250・F8でバランスが取れる。
EV13(薄日相当)のとき光源から被写体までの距離が2mなら1/30・F16 〜(中略)6mなら1/250・F5.6でバランスが取れる。
EV12(曇り相当)のとき光源から被写体までの距離が2mなら1/15・F16 〜 (中略)8mなら1/250・F4でバランスが取れる。
いずれもストロボ直射したときで、ストロボの発光部に拡散装置をつけた場合は照度が落ちるのでさらに被写体へ近づかなければならない。近づくと言っても、画角にストロボが入り込むのでは意味がない。構図によっては50cm以上近づけることが可能かもしれないが人物撮影の場合は被写体が圧迫感を覚えるだろう。
ここまで読んで気づいたかもしれないが、日中シンクロでは光源と被写体の距離が重要になる。
ポイント1
光源と被写体の距離は、画角にストロボとストロボ周りの装置が入り込まないギリギリまで詰めるの鉄則。2mまで詰められたらEV16のような極端に明るい場合も1/250・F16で背景とバランスが取れ、環境光が弱ければ弱いほど絞り値、シャッター速度、効果の幅の選択肢が増える。
逆に言えば、光源を被写体近づけられない条件では日中シンクロに制限が増え、場合によっては日中シンクロは不可能になる。
ポイント2
露光値を決める手順は、
まず環境の明るさから使いたい絞り値と背景を撮影可能なシャッター速度を決め、
ストロボを被写体と可能な限り近づけて発光させて測光し、
結果をもとに環境光とのバランスが取れる距離(または出力)を調整する。
最大量発光させて強すぎるなら、ごちゃごちゃ言わず光源を遠ざけるだけでよい。日中シンクロの解説だけでなく、実践しようとしてややこしくなっているのは、光源と被写体の距離を軸にして考えないからだ。距離の二乗に反比例して光量が減るので、ちまちま調整しなくてもはっきり照度が変わる。
ストロボの出力が事前に把握できていて、日中シンクロ慣れしてくると「ストロボと被写体の距離はこれくらい」と見当がつけられるようになり確認のため測光するだけで済むようになる。
陰消しや逆光を補正する目的なら、測光しなくても経験値でストロボの効果がわかるようになる。
ズーム機能を使って照射角を狭めればGNは上がる。しかし撮影中にころころ照射角を変えてGNを変えるとややこしくなるので、まずは照射角を固定したほうがよいだろう。照射角を変えるとストロボ光が照明する範囲が変わり、範囲が変わればストロボの位置も変えなくてはならない。ライカ判50mm相当の例を示してきたが、それぞれがもっとも適切と思う照射角を決めればいよい。
実際には「被写体をF5.6で撮影したい。すると背景はF5.6、1/***になる。ストロボは*m以内に設置できそうなので目測で移動させる」または「私(撮影しようとしている人)より後ろにストロボを置くと扱いが面倒だ云々。*mの距離に設置して出力で調整しよう」などとなる。
ポイント3
環境光が強く、被写体が陰になっているとしても光がかなりまわっているときは、日中シンクロの効果はレフを当てるのと大差ないか、被写体の直近にレフを立てるより弱い場合も多い。ストロボ光の特徴をはっきり出すには距離を縮め、背景をややアンダー気味にしなければならない。
ポイント4
TTL調光は便利だ。しかしTTL調光で可能なのは背景とバランスを取り、しかも被写体が陰になっているなりに自然なバランスに調整することだけだ。多少の ± をつけられるが環境光がある程度強いとき増減で得られる効果の差は小さい。TTL調光が生かせる場合は使えばよいし、演出意図があるなら単体露出計で測光して設定すべきだろう。
日中シンクロの運用
撮影地の環境光と構図次第でストロボをどのくらい離したらよいかわかるレベルになったら、前述の方法を発展させればよいだろう。距離で調整としたが出力を操作したり、ストロボの台数を増やしたり大出力ストロボを使う手もあるし、ISO100ではなく他の感度にもできる。
距離で照度を調整できる限りは距離を軸に行い、ストロボの出力調整で調整しないほうがよい。ライトスタンドの位置やストロボを持つ助手を移動させたほうが圧倒的に速いし、なにかと忙しい現場で設定や操作を間違えにくい。つまりフル発光を前提にする。ストロボがカメラに固定されていて、構図と画角の関係から被写体の至近距離で発光できない場合については後述する。
データなしに日中シンクロを試みるのは馬鹿げている。照射角とGNの関係、なんらかの装置を通したときの照度、この2つが事前にわかっているなら光源と被写体までの距離を直感的に決めることができる。
構図とレンズの画角選択の自由度を取るなら、クリップオンストロボをライトスタンドに設置して被写体のそばに置くか、助手にストロボを手持ちさせるかの二択から選択するほかない。道具立ての単純さを優先したり、助手がいないことでスタンドの転倒を防げないならカメラのホットシューにストロボを載せる他なくなる。
カメラにストロボを載せて撮影するなら、画角が広いレンズほど被写体に寄れるので光源を被写体に近づけることができる。広角系のレンズを使用しても画角内すべてにストロボ光を行き渡らせる必要がなければ、照射角を狭くしてGNをあげることができる。(背景を暗く落とした日中シンクロの演出で広角ぎみのレンズが使用されているのは、背景を見せるためでもあるが、クリップオン状態で光量を距離で稼ぐためだったりする)
では、被写体より背景を暗くする日中シンクロはどうすべきだろうか。
この場合もまず背景の明るさを決め、そのあとに被写体側の照度を最適化する。条件はさらに厳しくなり、環境光がある程度暗くないと実現しにくい。1EV落とすためにストロボの照度と被写体の距離、絞り値をどうしたらよいか前景の表を参考にして検討してもらいたい。2EV落とすあたりから効果が目に見えて劇的になるのだが、ストロボの出力がかなり大きくないと条件が限定されるのが理解できるだろう。
こうした演出が容易なのは今回例示したEV12以上の環境光ではなくEV12以下だ。曇り空の下、雨空、さらに暗い状態である。より明るい環境光で実現させるならストロボの光量を増すほかないとして割り切るべきだ。
日中シンクロは効果的なのか
ポイント3に書いたように、ストロボ光の比率が環境光を上回るか上回って見える場合以外はレフの効果を超えた描写にはならない。ストロボではなく銀レフや鏡レフを使うほうがシャッター速度の選択肢が圧倒的に増え、さらにアクの強い表現もできる。
レフを使わずストロボを使用するメリットは、レフを設置すれば風に煽られ、誰かにレフを持ってもらいたくても助手を手配できないときに限られるかもしれない。かたやライトスタンドは倒れるし、撮影地に運んで組み立てる一部始終でやっかいな代物なのでどっちもどっちのところがある。
日中シンクロはストロボの機動性が生かせ、レフでは効果が期待しにくい照度が低い場合かつストロボ光のアクの強さを出したいときが使い所と言える。EV13〜12の落ち着いた明るさや、早朝や夕暮れの太陽そのものや太陽周辺等は輝いているがぐっと暗い部分が多い条件で効果が期待できる。あるいは撮影者が被写体とともに動きまわりながら撮影したり、人物撮影以外での陰消しで本領が発揮されるだろう。
陰消し効果で十分な人も多いとはいえ、撮影慣れしてきた人は日中シンクロに演出的効果を期待したり夢見たりするのではないだろうか。しかし、撮影時刻や気候条件など整ったうえではじめて演出的効果が有効なのだ。
呼称は「日中シンクロ」でも、太陽の光の下で光の演出ができるとは限らないと認識しよう。
人物撮影ではソフトボックスやアンブレラなどの拡散装置を使いたい人がいるかもしれないが、70Ws程度のストロボでは光量そのものが足りず、足りないことで装置の特色も出しにくい。装置を持ち出すと、さらに道具立てが複雑化するし風に煽られやすいので扱いに苦慮する。拡散装置を使うには300Wsでも焼け石に水なので500〜600Wsくらい欲しくなる。そして気が利いた助手の手も欲しい。簡単便利なはずの日中シンクロが大げさな話になりがちだ。
FP発光のほうが自由度が高いので、一発ポンのシンクロかFP発光か現場で判断するのではなく撮影計画を立てる段階で決めておくのがよいだろう。FP発光に限らず現場で方針を変更したり、こまかな操作をするのはトラブルの元だ。早朝や夕暮れでないなら日中シンクロはFP発光と割り切るのも考え方しだいだ。
FP発光はストロボにとって負荷が大きく、発熱のため連続して撮影できる回数に制限がある。たいがいのケースで問題にならないが、小刻みな閃光を比較的長い時間繰り返すため手ブレ、被写体ブレが発生するかもしれない。こうしたデメリットをメリットと天秤にかけて撮影計画を練るのがよいだろう。
© Fumihiro Kato.
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