GODOX V1問題のこれからとユーザーと

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追記 2019.3.27 ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)は3月22日、中国の江鈴汽車を相手取って起こしていた「コピー車」を巡る裁判において勝訴したと発表した。Profoto A1を模倣したとされるGODOX V1を巡る権利侵害裁判が中国で行われた場合、本文で指摘済みだがGODOXに厳しい判決が出る可能性が高いのではないだろうか。

情報がすくないなか断定的にあれこれ書くべきではないし、私が聞いた話だってどこまで本当か知れたものではない。したがって確度が高そうだったり同じ考えだったもの以外はここには書かない。でも大躍進中の会社の(仮に裁判によってシロ判定されたとしても)大きな失敗であるし、写真を撮影している人が気にしている話題で、私もいろいろ思うことがあるので日記のような形で記事にする。

そして書くのは、なにを焦ったというかトチ狂ってProfotoのA1のそっくりさんをつくろうとしたのか、これから売る人はいるのか、売る人は法的にどうか、どこかで売っていたら買う選択はアリなのかなどだ。

なお私もあとから出てくる誰かさんも状況をみたうえでProfotoの主張は正しくGODOXが権利侵害していると仮定したうえでの発言だ。もしからした真相はまった違うのかもしれないと思っている。こうした企業間の紛争は外野があれこれ言えるほど単純なものではない。

どう見てもProfoto A1を模倣した機種V1をGODOXが開発し販売した遠因となる同社の動向について前記事にまとめた🔗。これがわからないとV1とは何かすら見当がつかないだろう。

リチウムイオンバッテリーによる高速チャージと発光可能回数の多さ、ラジオスレーブによるコントロール性、価格競争力でGODOXは一躍世界的なストロボメーカーになった。GODOXが知られる端緒となったのは、たぶんクリップオン型のV系だろう。またクリップオンストロボに大型ストロボの発光部を載せたようなAD180、AD360がV系と相乗効果を挙げたとも言える。いずれも多少不満があったとしても価格優位性があり、使い方は工夫するから安いのは大歓迎という層に受けた。

たいがいのユーザーは初期のバッテリートラブルのほか、ストロボに搭載されているUIの不出来や使いにくさ、ファームウエアのアップデート方法やアフターケアに疑問を感じているだろう。近距離でラジオスレーブが効かなくなるトラブルだけでなく、電池残量が減ったとき発光が不安定になるなど詰めが甘いところがある。それでも使いどころがあると感じる人が使い続けたと言える。

アメリカではブライダル写真が一大市場であるのを前記事に書いた。結婚写真が日本とはかなり異なった商売のされかたと受け取られかたをしているのだ。

日本では写真館が撮影したり本業を別に持つ人が副業・パートタイムで撮影するケースが多いブライダル写真だが、あちらはブライダル写真家の看板をどーんと掲げて地域ごと有名で人気のブライダル写真家がいる。もちろん無名であったり駆け出しの人も多い。以前はスポーツ写真で稼いでいたけれどブライダル写真に転身するとか、日本では考えられない層の厚さがある。撮影内容は式だけでなく各種ポートレイトを構成したちょっとした写真集的なものになる。ただ一般市民から受注する場合は常識的に考え得る範囲の料金になり、荒稼ぎするほど高額な撮影料を請求できる仕事ではない。また毎日結婚式が何件もある訳でもない。中国でもブライダル写真市場は大きく、好まれる写真は違ってもなにかと似た業界のようだ。

(余談だが、RAW現像ソフトにナニナニ調のプリセットを組み込むのが最近の傾向だ。フィルムみたいだったり映画のトーンに近いものだったり。RAW現像の間口が広がって演出効果を簡単に施したい人が増えた結果だが、こういうエフェクトの大口顧客がやはりブライダル写真分野だったりする。GODOXが受けたのも日中シンクロなどを使いドラマチックだったりどこかで見たような写真に仕立てるためもあり、ブライダルは写真界で無視できない勢力になっている)

そして前記事で指摘したように、世界的に景気が低迷していて写真がデジタル化されたことも合わせて撮影予算がかなり厳しい状況にある。企業が自社サイトで使用したり会社案内のパンフレットに使用する写真は、カット数が少なければ2万円くらいで発注できたりする。高くても10万円以内に収まるケースが多いかもしれない。こうした格安料金でカメラマンを派遣する会社もある(手取りいくらになるのだろう?)。これは日本の例だが、世界的に見ても似たり寄ったりだ。

こうなると雇われているか青色申告のフリーランスか問わず、写真家はそうそう機材にお金をかけられない。しかも減価償却期間が過ぎたらカメラは即旧式になり、フィルムの時代のように長期間使い続けにくいのも昨今の事情だ。ハッセルやマミヤRZ67を数年ごと買い換えるとかありえなかった話で引退するまで使い続けたのだ。Phase Oneのデジタルバック数百万円を更新するなんて、大先生だってそれなりのやりくりをしなければならない。このためリースで使う人も多い。感材代ならクライアントに請求できたのだがカメラ代を見積もりに入れられるはずがない。GODOX製品は安いうえに、ラインナップされている機種がこの手の仕事にぴたりとはまる。売れないはずがないのだ。GODOXは素人が買うブランドと思われているかもしれないが、日本でも結構な数で写真館に売れていたり、ここに書いたような仕事用として売れている。

以前より厳しさがあるとはいえ、予算規模が大きな撮影なら人手も機材もどうにだってなる。電源車とオペレーターを雇ってガンガン発電して、レンタルした大型ストロボを何機も動員して、アシにそれぞれの世話をさせてパーンと発光させて撮影できる。こうした仕事では特別な理由がないかぎりGODOXは選択されない。

対するProfotoは大型ストロボの大手であり、ユーザーはもちろんかぶっているけれど価格帯からしてProfotoを選択する人はGODOXは眼中にないとも言える。とはいえバッテリー駆動の大出力機では両社は完全に競合している。

GODOXはあらゆるカテゴリーのストロボをリチウムイオンバッテリー化し終えると次の一手でつまずいた。そして市場をマーケティングしてみると、けっこうな数の既存ユーザーがProfoto A1を気にしたり買ったりしていた。実際のところ日本でもV1の噂を聞きつけた人は、これであのA1っぽいストロボが買えると思ったみたいだから気にしていたことになる。

Profotoは名言していないが、そもそもA1はブライダル市場を狙った製品だ。光の品質にこだわった持ち運べるスタジオ品質を訴求するA1はブライダル市場にぴったりなのだ。ブライダル以外の(エディトリアルやコマーシャル、ファッション)ポートレイトの屋外撮影に使う需要もあるけれど、こちらはなんだったらもっと大出力のストロボを使う選択肢もある。つまりブライダル全般より手間も予算もかけられる仕事だ。

GODOXが次の一手を模索していたのと同時に、中国で人件費が高騰し続けていたり景気の先行きがかなり不透明になったり、これまでの低価格とリチウムイオンバッテリーの戦略が成り立ちにくく続けにくい状況が顕著になった。素性不明だけど安いから買うブランドから脱却したかっただろうし、こうなると品質とブランドで選択されるストロボを出さなければならない。そしてブライダル市場などでシェアを失いたくないと考え、A1そのまんまの機種をつくればよいと決めた。このように誰かさんが言っているし、私もかなり正解に近いように思う。

A1と直接競合しているのはクリップオンのV860-IIだ。しかしV860-IIには光がきれいという付加価値はない。またAD360やAD600も、ちょっと凝ったこの手の写真を撮るケースでProfotoの製品と競合している。A1へスイッチしたのを契機にAD360やAD600の市場も奪われる可能性がある。そこでGODOXはA1の要とも言える発光部周りをパクることにした。「これが企画のスタート地点でしょう」と誰かが言っているし、私もたぶんそうだろうと思う。

Profotoが出した例のリリースではV1の磁気式のアタッチメント着脱機能とLEDモデリングランプが申請中の特許を侵害しているとされたが、GODOXがまずコピーしたのは本格的なフレネルレンズとDome Diffuserと名付けられた拡散光用アタッチメントだった。より自然な配光のためA1は発光部の開口を円形し、同様の理由でGODOXも丸い開口部をコピーすることになりますます見た目が瓜二つになっている。そして磁気式着脱やLEDモデリングランプまで真似たという順番だ。なるほど……。

Profotoのマーケティングは以前からGODOXの動向を注視していた。それと別のルートでV1の存在を知った。「バイヤーへのプレゼン資料に神経をとがらせていたのは当然ですね」、と誰かが言っている。いつ、どこでV1の詳細を知ったかまではわからない。GODOXがAD200用にA1のフレネルレンズ を真似たヘッド用アダプターを発売した段階で意識のしかたが変わったという話も聞いた。

いずれにしろProfotoとしてはA1のコンセプトとインダストリアルデザインのそっくりさんぶりにまず「ヤバイですな」となり、回避すればよいものをわざわざ真似た磁気式着脱とLEDモデリングランプの特許侵害で警告を出した。これはProfotoの嫌がらせではなく当然の措置だ。あたりまえだがGODOXの国内正規代理店や大口の販売点にもリリースと同じ内容が伝わっている。

特許出願中に他人が特許を侵害した場合、つまり模倣品を販売した場合は警告状を送付することによって特許が登録された後にライセンス料相当を請求することができる。補償金請求権である。保証金請求権を請求できるのは出願公開後で、すくなくとも日本では出願から1年6ヶ月後になる。諸外国も同じかわからないが、Profoto A1の発売が2017年9月であり2019年3月に例のリリースが出されたところを見ると同様の期間が経過したのと、V1の発表・発売がぶつかったことになる。

出願公開まで出願中の特許の詳細は公開されないため、出願中であることを宣伝媒体や取説などに示したり、製品そのものにプリントしたりする。前回の記事ではアメリカの楽器会社ギブソンがエレキギター用ピックアップにシール貼りした”PAF”を例に挙げた。PAFはPATENT APPLIED FORの略で、特許出願中を示す”PAF”シールでパクらないでねとしたのだ。

Profotoは検討のうえ特許権の侵害であるとしてリリースを出しているだろうから根拠のない言いがかりとは考えにくい。根拠なく特許権侵害であると警告を出し、これによって販売が自粛され、言いがかりであったなら警告を出した企業は逆に訴えられ賠償金を請求されるだろう。

ではProfotoが申請した磁気式着脱とLEDモデリングランプは特許として認められ登録できるのか、だ。こればかりは特許の核心部分がわからないかぎり何とも言えないだろう。格別凝った新機軸でなくても特許になり得るのだから、これまでの照明装置になかったアイデアとして登録されるのはなんら不思議ではない。磁力でアタッチメントを取り付ける方法は普遍的なものだが、形状などに工夫があれば間違いなく新しいアイデアである。いくらなんでもProfotoの法務部はバカではないと信じたい。

ではGODOXは特許が申請されているとは知らずV1に磁気式着脱とLEDモデリングランプを実装したのか、だ。そうかもしれない可能性は、A1の外見そっくりのインダストリアルデザインを見る限りほとんどないだろう。確実にA1を知っていただけでなく、A1を手元に置いてリバースエンジニアリングしている。好意的に解釈して特許出願中であるのを見落としたとしても、丸パクリで結果的に申請中の特許に触れたなら言い逃れはできない。

GODOXはV1の生産を止め販売を中止するのか。丸パクリではないとして訴訟に勝てる公算なら販売し続けるだろうが、負けた場合は販売した分だけのライセンス料が請求され、ライセンス料がどれほどになるかわからないのだから勝つ公算がないまま売り続けるのは得策ではない。こればかりはGODOXの中の人に聞かないとわからない。

日本にはGODOX製品を扱いProfoto製品も扱う販売店がある。すくなくともこれら大手はProfotoのリリースを無視したり軽んじてGODOX V1を販売するリスクを負わないだろう。ProfotoはV1以外のGODOX製品まで売るなと強制していないし強制できる立場ではないので、既存のGODOX製品は流通し続ける。とはいえ、いろいろ不安がある人は消耗品のバッテリーやチューブを買うのもいいだろう。

では正規代理店ではない弱小輸入業者はどうするか。GODOXがV1を出荷し続けるなら販売したい人はいるだろう。では法的にどうか。今回Profotoは大々的にリリースを出しV1が特許を侵害した模倣品であり、これから法的措置を講じるとして周知させた。特許権は生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為に及ぶため、特許権の侵害が明らかになればV1を輸入したり販売した者がProfotoから訴えられる可能性が高い。こうなるとリスクを負って販売する者がどれだけいるか、だ。

(まあ海外には危ない橋ばかり渡る怪しい業者とか個人がいるから売れるものならなんでも売るだろうなとは思う。そしてこうなると、手に入れにくいV1を売る売る詐欺が登場しそうだ)

GODOXは「権利侵害はしていない」とリリースを出し、バイヤーを納得させることができる。しかし未だなんら公式リリースを出していない。また(しばらく見ていなかった)私が見落としているのか公式サイトにV1に関する情報がないようだ。消したのかな? この状態のまま放置ではV1を扱って販売しようとするバイヤーは限りなく減るはずだ。「Profotoはどこよりも先にGODOXに警告を伝えているはずだから、3月20日の時点で確実に知ってますよ。法務が対応を考えているとしても週末までに何かあってもいいんじゃないですか」と誰かが言っている。その通りだし、非がないなら遅くとも週明けには動いてしかるべきだろう。

ではパチモンと知っていて、どこかから買うユーザーはどうか。Profotoは使用に関してまで訴訟を起こさないだろうが、これもまた特許権の侵害ではある。現実的な問題としては、GODOXの権利侵害が確定したらV1の不具合対策やファームウエアのアップデートができなくなる。確定まえに不具合等が発見されても、それでなくてもアフターケアがお留守の会社なので対策は消極的になるのは目に見えている。つまり完全にシロとなる前に買うのは得策ではない。

というか、ここまでA1のパクリだとプアマンズA1そのものなのでダサすぎるのではなかろうか。私はダサいかイケてるか以前に、オリジナルが優れているならA1を買おうと思う。GODOXに求めるものは安さというより、安さを含めて使える機能性だ。

では、いつシロクロはっきりするのか。もしGODOXが非を認めず正当性を主張するなら訴訟が終わるまで結論は出ない。中国の特許関係の訴訟は判決までの時間が他国より短いので1年くらいで答えが出るかもしれない。なお今時は中国だからといって自国に有利な判決ばかり出すとは限らない。それでなくても知財にまつわる不公正な競争がアメリカから叩かれまくっているのだし。

A1そっくり機種V1が発売されることは、あたりまえだが国内の代理店や販売店はかなり前に知っていた。しかしKPI(ケンコープロフェショナルイメージング)は発売予告を掲載していない。他の有名どころの販売店も同じだ。つまり、現状ではこれがすべての答えなのではないだろうか。Amazonなんかより、これら企業のGODOX関連ページを見守るのがよいと思う。

© Fumihiro Kato.
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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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