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追記 2019.7.3 いまのところProfoto側からの新しい情報はない。したがってGODOXに瑕疵はないとする人もいるだろうし、V1を購入した人もいるだろう。ただ私の見解は相変わらずであり、この点を含めGODOX製充電器の発火問題などについて本日別記事をアップロードした(リンクは新しいタブで開く)。[GODOXの小さな不便から不安が生じる問題]
追記 2019.3.27 ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)は3月22日、中国の江鈴汽車を相手取って起こしていた「コピー車」を巡る裁判において勝訴したと発表した。Profoto A1を模倣したとされるGODOX V1を巡る権利侵害裁判が中国で行われた場合、本文で指摘済みだがGODOXに厳しい判決が出る可能性が高いのではないだろうか。
[2019.3.21 特許出願中の権利侵害について追記しました]
既報だが、Profoto社は同社のA1を模倣したストロボを発売したとしてGODOX社に法的な措置を取ると声明を出した。どう考えても当然だろう。GODOXの新製品V1の姿形、特徴から誰もがA1のパクリだと思うはずだ。過去のGODOX製クリップオンストロボのプロダクトデザインと機能は近年各社が採用していたものの延長線上にあったが、こうした一般的で見慣れたものに対してProfoto A1は明らかに異なっている。デザインだけ独自なのではなく、新機軸の機能があってこそ造形されたデザインだ。しかも特許を出願中であった。
では円形のフレネルレンズを他社は一切採用できないのか? となると、これはOKだ。最近は見かけないが円形フレネルレンズのストロボはパナソニックなど過去に存在している。アナウンスにもあるマグネット式のアクセサリー・システムとヘッド内蔵のLEDモデリングライトが、Profoto A1そのまんまだった点が問題だ。それにしてもProfoto A1そのまんまは悪手であるし知財について脇が甘すぎる。過去にGODOX製品に関する記事を書いてきた私が此の期に及んで手のひら返しする意図はなく、懸念が予想外の展開になったのをとにかく驚いている。
パクリ上等の中華ストロボだからとうぜんの成り行きと見る人もいるだろうが、たしかに某社のナニに似た何かがあったとしてもリチウムイオンバッテリーと大出力の分野でGODOXにはオリジナリティーがあったのだ。安価なだけでは、ここまで広範囲に支持されなかっただろう。
GODOXは中華人民共和国のストロボメーカーで、リチウムイオンバッテリーを使用するクリップオンストロボ、同じく大型ストロボをともに製造し安価に販売したことでたちまち知名度が高まりユーザーが怒涛のように増えた。地味なストロボ界では久々のトレンドだった。世界的な景気の後退と写真のデジタル化で、最小限のスタッフ構成か写真家単独での撮影が珍しくなくなり、ライティングはしたいが予算と人手がない場面にフィットしたとも言える。アメリカで一大市場のブライダル写真業界ではGODOXのストロボはかなり浸透している。
大光量。チャージが早い。安価なので複数台使用して、しかもラジオスレーブでシンクロできる。まさに安い、早い、うまいだ。これだったら自前で5台、10台と発光できるじゃないかと盛り上がったのだ。
GODOXがリチウムイオンバッテリーを採用した理由は、バッテリーの製造工場が中国に集中していたことと、単三乾電池だろうと積層電池だろうと電灯線から電力を取ろうとも電源問題がストロボの急所だったからだ。誰もが従来からのストロボの電源にもやもやした思いを抱いていたはずなのに、既存ストロボメーカーがリチウムイオンバッテリーに先んじて飛び込んでいかなかったのは安全性に懸念があったからだろうし、GODOXはまあ大丈夫だろうと突き進んで一躍有名どころになった。だが、あらゆるストロボのカテゴリーで電源をリチウムイオンバッテリーに置き換え終えるとGODOXは次の一手を見失った。これがProfoto A1そのままのV1に至った原因だろう。
GODOXはAD200発売時から成長モデルを見失った感があり「どうするのだろうね」と思い、AD200を選択しなかった理由を過去に記事化した。クリップオンストロボかつリチウムイオンバッテリーかつラジオスレーブに邁進するV系、クリップオンストロボの形状をした大出力360WsのAD360、大出力600Wsをバッテリー駆動にしたAD600(どちらもラジオスレーブ対応)の次の一手がAD200で、どうにも詰めが甘い機種だった。私が「どうするのだろうね」と思っただけでなく、矢継ぎ早に新製品を出していたGODOXがAD200以降はAD600の改良型を出したもののしばらく新製品を発表していない。
AD200は羊羹型の筐体に200Wsの出力を収めた機種だ。出力が中途半端なことから発売当初からAD200を2台たばねるアダプターがラインナップされていたが、それだったらAD360でよいのではないかとなりかねない。なんならAD600もあった。では小さい点、羊羹型である点はメリットになったか、だ。ズボンのポケットに押し込めば入るサイズそのものより、羊羹型にすることで運搬時に整理整頓しやすいメリットはあった。フレネルレンズとチューブヘッドを取り替えられるアイデアもよかったが光の質に関して詰めが甘かった。小型化するため発光部を小さくせざるを得なくなり、かなりいい加減なフレネルレンズしか搭載できなくなったのは最大の失敗だろう。フレネルレンズのアダプターを使用したときカメラのホットシューにマウントできる訳でもなく、工夫してマウントしたとしても使い勝手のよい形状ではない。こうしたネガティブさを是正するかのように、後にA1の影響を受けたと思われる円形の別売りヘッドを発売した。
つまりAD200とはどのような機種なのか、どこに使い所があるのか答えにくいストロボということだ。売りにくいし、買いにくい。初動というか話題性はあり買った人も多かったようだが、他の機種のような長期間続く広がりがない。初物好きであったりスタイルが好みで買える人ならよいが、ライティングそのものを考えると二の足を踏まざるを得ない。
V1がそっくり真似たProfoto A1が支持された理由は、76Wsの出力はたいしたことがなくても圧倒的に扱いやすい従来型のクリップオンストロボ型の筐体にスタジオストロボなみの光の質を詰め込んだからだ。A1はなかなかよく考えられたシステムを持つストロボであるし、クリップオンストロボの光の質について真剣に考えた点が評価されたのだ。光の質と本当に使えるシステム構成は、リチウムイオンバッテリーと大出力を売りにしてきたGODOXが訴求してこなかったものだし製品化してこなかったものだ。あらゆるストロボのカテゴリーをリチウムイオンバッテリー化したあと、GODOXが製品化すべきだったのはAD200ではなくProfoto A1的なものだったのだ。だからパクったとも言える。
Profoto A1は一大勢力ブライダル市場をターゲットにした製品だ。もちろん屋外ポートレイト撮影をする分野に向けた製品と考えてもよいが、どのカテゴリーを落とすためにあるか見誤るとGODOX V1問題の本質もまた見誤るだろう。
Profotoの戦略は明快だ。これまで手をつけていなかったクリップオンストロボをつくる以上ブランドへの信頼に応える高品質な光にして、他のクリップオンでは満足できない層に的を絞っている。ブランド力を守るだけでなく、成熟した市場で価格競争で優位に立たなくてはならない製品を同社が今更つくってもしかたないのだ。企業体質、同体力からいって価格競争に勝ち目がないとも言える。
さて、AD600旧型にはアクセサリーマウントがGODOX形式とボーエンズマウントの二機種存在した。AD200がぱっとしないように、あたりまえだがGODOX形式のマウントを搭載したAD600を進んで買おうという人もいなかった。特筆すべきGODOXマウントのアクセサリーがこれといって存在しないうえに、ボーエンズマウントなら現在のみならず将来的にも多数のアクセサリーが選り取り見取りだからだ。GODOXはマウント縛りの欲をかいたのだろうが、冷静なみなさんは安価なリチウムイオンバッテリー式の大出力ストロボが欲しいだけでGODOXのブランド性や将来性に期待なんてしていなかったのだ。AD200での迷走だけでなく、ここにも舵取りの誤算が見て取れる。そしてAD400proにはProfotoマウントとへの変換アダプターをもれなくつけている。
クリップオンだろうと大型だろうとストロボは数年で飛躍的に技術革新される分野ではない。だからこそGODOXはリチウムイオンバッテリーによる小型大出力しかも安さで他社の間隙を縫えた。しかし考えられるカテゴリーすべてをリチウムイオンバッテリー化したら、飛躍的に技術革新されない分野そのものに取り込まれるのだ。そこでAD200の開発とAD600の独自マウントという答えを出した。前者は類型がないストロボ、後者は成熟しきった分野で末端用品までユーザーを囲うブランド戦略。しかし、どちらにも市場はなかった。
ではどうするかの答えが、A1丸パクリしかもネーミングも酷似させてProfotoなみの光の品質をGODOX価格でというのでは虫がよすぎる。(ここまで似せると、プアマンズA1そのもので使う側も悲しくなるのではないかという気がする)
Profoto A1そのまんまのV1を企画したことで、現在のGODOXには新機軸のアイデアがないのがわかった。外部に向けたプレゼン資料もA1そのものだったとProfotoが言っているので独自性は皆無なのだろう。V860は全部載せ志向、AD360は大型ストロボで想定される出力をロケ先でも使える利点、AD600は大型ストロボそのものの出力を場所を問わず使える利点を目指したが、AD200と例の独自マウントはニーズを見失っている。さらに禁じ手の丸パクリでは、ユーザーだけでなく中国の外にある世界が見えていないと言わざるを得ない。
どう考えてもProfotoの申し立てに正当性がありそうで、提訴から判決までの期間にGODOXがV1を売ってくれと懇願しても正規ルートの代理店は手を出さないはずだ(正確に書くなら[出しにくい]し、[出した結果どうなるか考えなくてはならない])。非正規の輸入業社は扱うかもしれないが後々Profotoから訴えられる可能性が高い。こうしたリスクがあることを周知させるのが、今回のProfotoのアナウンスの目的だ。
[(追記)特許では、出願中に他人が特許を侵害した場合、つまり模倣品を販売した場合は警告状を送付することによって特許が登録された後にライセンス料相当を請求することができる。特許が確定していないからGODOXは無罪とはならないのだ。
アメリカのギターメーカー・ギブソンのピックアップに通称”PAF”と呼ばれるものがある。PAFはPATENT APPLIED FORの略で、特許出願中であるのをビックアップにシール貼りで表していたことからこのように呼ばれている。なぜ出願中であるのを示していたかと言えば模倣品を売れば権利侵害になると警告していたのだ]
中国といえば、訴訟をしても自国企業の権利侵害にたいして大甘な判決を下すのではないかと疑念が浮かぶ人もいるだろう。しかし現在、中国は特許侵害訴訟を提訴するのに魅力的な場所とされているそうだ。特許訴訟の審理期間が他国の同訴訟の審理期間よりも短く費用がかからない。製造拠点である中国で権利侵害が止められると中国での販売が不可能になるだけでなく海外へ輸出できなくなるメリットもある。ということらしい。
この一時でGODOXが凋落して消えてなくなるとはまったく思えないが、戦略の行き詰まりとアイデア枯渇によってProfoto A1まんまの製品を売ろうとしていたのだし、しばらく画期的な製品は出てこないのではないか。昨今ケンコー・トキナーも実装した自動首振り機能はとうぜん特許で固められているので、ここでまた丸パクリは無理だ。地味なストロボ市場で苦しい戦いをしてきた国内メーカーは、そうやすやすと技術移転はしないだろう。中国の不公正な競争姿勢が問題視されている現在、逆風ばかりである。ほんとうに愚かなことをしたものだ。
A1もそうだし、首振りも、最近のニッシンの動向も含め、もしかしたら代わり映えしなかったストロボ業界が変わる予兆なのかもしれない。ミニカムやサンパックがほぼ消え去って随分さみしい限りだが、国内外問わずよい製品が出てくることを切に願う。
© Fumihiro Kato.
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