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追記。
下の記事を書いたあと、ふと思い前回と同じく仕事部屋でライトスタンドのブームをD800Eで撮影した。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dを絞り開放で使用している。フォーカスはU字型左の下側に置いた。するとD850では大甘だった絞り開放が、D800Eでは実用上なんら問題のないキリキリに締まった像になった。近距離から絞り開放で撮影しているのでフォーカスが浅くボケが大きいが、より絞っていけばフォーカスの範囲が広がり、像の締まりも出てくる。つまりD800Eの画素数では十分な性能だが、D850ではセンサーの要求に完全には応えられないということだ。D800E=有効画素数3630万画素、D810=有効画素数3635万画素、D850=有効画素数4575万画素なので、3600万画素程度以下と4500万画素の間に越えられない壁があることになる。画像をクリックすると長辺6000pixel相当の画像になる。
———–追記ここまで。
AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dについて特性がわかる画像を二回にわたり掲載してきたが、実際のところどうなのか自分でも手探りなところがあった。そこで出先でさらりと簡単に試し撮りをしてみた。ほんの短い時間しか取れず、さまざまな状況を試すのは無理で、これといって面白い被写体はないのだが、そこは頑張ってみた。本撮影に持ち出す前の、お金をいただけるレンズなのか性格を知り尽くすための試写だ。これまでの撮影は機械的なもので現像時にまったく手を加えなかったが、今回は欲を出して実際の撮影気分でカメラを操作して現像時に調整を加えた。未調整の画像は既に得ているし、現像の余地がどこまである画像を記録できるか試す目的もある。
結論としては、おもいのほか(つまりこれまで評価していた以上に)AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dはよいレンズだった。絞り開放では逆光時にパープルフリンジが出て、パープルフリンジの発生がなくても甘い像であるのはわかっていたが、今回の撮影では簡単な後処理によって良好な像が得られた。
まずススキの写真を見てもらう。F2.8で撮影する際、試しに撮るけれど結果は甘いだろうと思っていた。実際のところもRAWデータを展開しただけではシャープと言い難いものだったのだが、Capture Oneの[構成]をほんの少し上げてみるとたちまち次のような画像になった。照度が乏しい夕暮れのためISO感度を上げているのでノイズが出ている。画像をクリックするとかなり拡大された画像になる。
ほら、ススキの穂が完全に分離されて種子がひと粒ひと粒見えている。もちろんF2.8なので背景のボケは大きい。作例以下でも以上でもないあくまでも作例なので、それ以上の意味はないけれど、ここまで写っていれば何ら問題はないだろう。フラットというには抑揚がない光線で撮影しているがコントラストは上々だ。この写り方はAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDと明らかに違う。AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDの絞り開放でAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dの甘さはないが、かといってほんの少し[構成]を上げただけでこの感じにはならない。かなりマクロ的にキレている描写だ。Cpture One以外のソフトではアンシャープマスクの[半径]を小さく取れば似たような感じになるだろう。
次の写真は一見するとストロボをシンクロさせたように見える。ストロボはシンクロさせていないが、あまりに平坦な光だったので現像時にコントラストをやや上げている。竹製の柵がレンズの歪曲で曲がっているように見えるが、これは元からの形状にすぎない。
絞りは安定のF8。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dでもっともキレキレの絞り値F8では、曇天の日陰といえどコントラストをややあげるとここまでになる。前記事で考察した「のっぺりしているモノは更にのっぺり描写される」のも端的に表れている。
竹林をF2.8で撮影し、ススキと同程度[構成]を上げて現像した。
F8で撮影し、現像時の操作なしが次の画像。
この撮影ではススキほど顕著にシャープネスが向上していない。だが、甘くベールを被った印象からだいぶ変わっている。
F8で枯れた葉ばかりが着いた木を至近距離から撮影。現像時に操作なし。
この解像感と塊感は、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDと明らかに違う。
似たテクスチャーとして落ち葉。F8で足元を撮影。手前と奥にボケの領域がある。
この画像を見ると、画角内の隅まで均一な写りであるのがわかる。
空間周波数が高いとまで言えない不規則な線形として、大木を見上げた画像。F8で撮影。トーンカーブを逆S字にしている。
空間周波数が高いと言える竹の枝と、空のトーン。F8で撮影。マスク処理で空のトーンをU字、トーンの幅を詰めて実際より雲の陰影を出している。
モノクロ化したときの階調性を確認。F8で撮影。曇天の完全な日陰。
調整をしても、しなくても階調は十分に表現できるし、階調の調整幅はかなり広く取れる。モルタルに塗料吹き付けの壁、板、ブロック、金属製の取っ手付き箱それぞれの質感描写は十分なものがある。
ここまでで、開放F2.8からF5.6までは扱い次第でかなりシャープ感が変わるのだが、被写体のディティールの在り方、光線状態次第のところが大きいと感じた。わずかにヘイズがかかっていたり、光線が乱反射しがちな明るい空間を、絞り開放のAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dは苦手にしている。もしかすると後玉とセンサー感の光の反射問題もからんでいるかもしれない。
F8に絞るとすべての問題が解決される。だがF5.6でも状況次第で十分な描写をする。
これは高いフェンスを見上げて、からまった蔓にフォーカスを置いて撮影している。F5.6はまだ甘い絞り値のはずだが、この画像では殊更に言うほど甘い描写ではない。フェンス手前のボケも悪くない。
最後にトーンの検査のための雲と空間周波数が高いものの組み合わせ。すべてF8。
癖を理解したうえで使うなら十二分にOKだろう。F2.8開放からF5.6までは甘さの領域、F8で安定、F8からF16までまったく大丈夫といったところだ。条件と現像しだいではF2.8でもキレのよい像を得ることができる。現代のレンズからしたらクセ玉なのだろうが、使ってみると「じゃじゃ馬」と表現するのが適切なように思う。Dタイプの60mmマイクロはGタイプの60mmマイクロが出たあとも現在までカタログに残り、AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8DのようにAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDの発売後1年で消えてはいない。絞り環つきの60mmのマイクロとしてベローズなどで使用機会がまだあるのも残されている理由であろうし、こちらAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dが早々に消えたのはデジタル高画素でこのじゃじゃ馬ぶりだからなのかもしれない。
クセがあるかないかだけでなく、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDとはまったく異なる描写をする。描写については前記事に散々書いたが、これまで別メーカーのマクロ100mmをいくつか使用してきた中に似た描写のレンズはなかった。
Dタイプのレンズなので手ブレ補正はついていない。常用している(直前まで使用していた)ISO64のまま日が傾く曇天のもとに出たため、実は最初のカットから数カット手ブレを起こしていた。背面液晶の像と現像時の像を見て手ブレが目立つ印象があった。うまく説明できないので適当に書くが、アホなレンズはブレが目立ちにくく、生真面目に写るレンズはブレが目立つので、このレンズは優等生ではないが生真面目なのだろう。絞り開放で甘いのだが、甘さの原因になっている光のモヤをはいでやるとススキの写真のようにしっかりした像を結んでいる。元から解像が甘いレンズでは、[構成]を上げても出でてくる像は団子のような固まりでしかない。また歪みや手前や奥へフォーカスポイントがへこんだり膨らんだりしている様子がなく、板のように真っ平らな面にピントが合っている。これはファインダーを覗いただけでもわかる。
私としては買ってよかったと思うAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dだが、価値観はひとそれぞれなのでまったく使い所がないレンズと評価されるかもしれない。今回は人物を試写しなかったが独特の解像感を生かしたポートレイトが面白いのではないかと感じた。
Fumihiro Kato. © 2019 –
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