AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dについて

Ai AD Micro Nikkor 105mm F2.8 D
Ai AD Micro Nikkor 105mm F2.8 D

(追記あり)

テスト撮影 : AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D + D850

超広角がないと死んだ魚同様になる私だが同時に中望遠を偏愛している。ニコンの中望遠は85mmを除きマクロ以外は105mm F1.4、Ai AF DC-Nikkor 105mm、同135mmといった具合で、個人的にはちょっとピンとこない状態だ。AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDの使用頻度は高く、ほぼ毎日このレンズで何かしら撮影しているが、作品のテーマである海景、砂景では大柄で取り回しが悪いため苦痛で持ち出す機会が限りなく少ない(というか諦めているところがある)。潮風と飛砂がものすごい状況でレンズ交換は不可能なのでレンズを装着したカメラを複数台使わざるを得ず、必要不可欠なDistagon 15mmが大きく重いのが制約になっているのだ。これまで海景、砂景で長めの焦点距離として135mmと85mmを使い、70-200mmも使用している。ここにできれば105mmを入れたいのだ。ならばズームを活用すればよさそうなところだが、焦点距離が伸びたり縮んだりするのが鬱陶しいのでなるべく使いたくない。そこで105mmで適度なサイズと重量のレンズはないものかとずっと考え続けていた。

ニコンについては前述の通りで、タムロンに90mmのマクロがあるが85mmと大差ない画角であるし、パースのつきかたも105mmとは違う。100mm、105mmの単焦点はツァイスにもトキナーにもシグマにもあるけれど、できれば純正にしたい。こうなると選択肢は冒頭に書いた一連のレンズを除いてAi-Sの105mmマクロかAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dになる。Ai-Sは当時のレンズとしてはすばらしいけれど、カメラ側がデジタル高画素になると能力の限界が早々に現れ、私が求めている画像が記録できない。となるとAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dしかないが、こちらも1993年発売でかれこれ25〜26年前のレンズだ。なかなか悩ましいところである。

年に一、二度お邪魔する機材屋さんにAF Micro Nikkor 105mm F2.8Dの中古品が陳列されていて、人気がないAFのDタイプレンズゆえにお安い値付けをされていた(お高い大径プロテクトフィルター+α程度の金額)。丁寧に使われたか、ほとんど使用されていないきれいな個体で、どこかの店で店晒しされたままだったのではないかとさえ思われたほどだ。Dタイプは使い倒されて消えて行き、ゆえに中古市場を還流せず、程度のよいものはこれからほとんど出てこないだろうと思われる。また近い将来人気が爆発して秘蔵品が一気に出回るといったこともまずないだろう。もしかしたら長年の悩みが解消されるかもしれないと気になったし、程度がよいDタイプのマクロを買える機会はなかなか巡ってこないから買ってみるべきだろうが、105mm F2.8Dがどのような正確か私はまったく知らないのだった。この時代に私はキヤノンを使用していたので、ニコンのDタイプについて知らないにもほどがあり、使っていた人に聞こうにもデジタル高画素での使用実績がないので参考にならない。そこで真剣にAF Micro Nikkor 105mm F2.8Dについて調べ物をした。WEBにはAF Micro Nikkor 105mm F2.8Dで撮影した写真があるにはあるけれど、参考にできそうなものがあまりに少なかった。なんだろうなあ、ピントが合っていないし微妙にぶれている花の写真がほとんどなのだ。これにはほんとうに頭を抱えた。

海外のサイトを調べてみたら、写りがよいのがわかる写真が数多くあった。AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dは現像で苦心惨憺しなくても望む画像が得られそうなのもわかった。国内にアップロードされている本邦の写真からは、いい加減に撮影された絞り開放の写真にパープルフリンジが出ているのもわかった。私の用途ではAF Micro Nikkor 105mm F2.8Dを絞り開放では使わないので問題にならないだろう。90年代以前から2000年代のはじめまでのレンズには、逆光で色のにじみが盛大に出るものがある。たとえば太陽を正面にして海原を撮影すると、本来ありえない赤系やマゼンタ系の光が記録される。AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dで撮影された光線状態が厳しい写真に、パープルフリンジは別としてこのような色のにじみは見られなかった。私は国宝の井戸茶碗を愛でるようにはレンズを愛玩しないのでソムリエ的な語彙に欠けるが、立体感豊富なレンズではなく、ドライなひと昔前のマクロっぽい写真が得られるのもわかった。実際の解像度はわからないもののシャープさはかなりのものだった。ということで、値段がこなれにこなれているので購入することにした。

まずサイズ感や外周りについて。最近のお安いレンズより精度がよいのではないかと思われる外装で、使い勝手も悪くない。見た目より重量感はあるが、長さ、太さともにAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDから大幅に減量化できた。これなら劣悪な環境に大荷物といっしょに持ち出せる。フィルター径は当時のニコンの通例通り52mm。ニコンが推奨するフードはスプリング式で小さめのものだ。フードはいかようにでできるし、無限遠時に前玉がだいぶ引っ込んだ位置にあるのは都合がよい。そこでフードはステップアップ式に増結できる他社製を使用することにして、場合によっては後生大事に保管しているニコン製のねじ込み型を併用して使うかもしれない。レンズは全段繰り出しで距離によって画角に微妙な変化がないのはうれしい。なお海景、砂景の撮影では防汚型のフィルターの装着が不可欠なため、フィルター径が52mmと小径なのは経済的でもある。こうした撮影では使い捨てとは言わないまでもフィルターの消耗が激しいのだ。ここまでレンズが奥に位置していると、むき出しのままでも前玉への塩分と飛砂の付着がすくないかもしれない。

Ai AD Micro Nikkor 105mm F2.8 D 社外品ステップアップ式フード装着
Ai AD Micro Nikkor 105mm F2.8 D 社外品ステップアップ式フード装着

冒頭に掲載したAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dを使用しストロボ光でテスト撮影した静物を再度掲載する。Capture Oneで現像している。トップから1灯をかなり大雑把に当てている。

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D + D850

この画像の部分を切り出したカットを次に示す。

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D + D850

絞り値F11での撮影で、何ら問題は見当たらない。ここにシャープネスを少しかければ、かなりキリキリ、カリカリになるだろう。つまりAi AF DC-Nikkor 105mmは元からシャープなレンズなのだ。約1m程度のワーキングディスタンスで撮影しているのでマクロ領域と言い難いが、大概の静物はこの程度の距離で撮影するはずだ。1m程度ならレンズの繰り出し量はわずかで、もともと前玉が奥まった位置にあるためステップアップ式で増結するフードのかなり奥にレンズがあり、無限遠から1mくらいの距離では効果がかなり期待できる。色調はやや暖色傾向を感じる。

このようにAi AF DC-Nikkor 105mmは高画素機でも十分な性能を持っていることがわかった。フィルムでは能力が完全に発揮できないだろう。90年代に登場したこのレンズは、フィルムの時代には能力を引き出せず、デジタルの時代にはデジタル固有の難しさゆえに早々に次の世代にモデルチェンジされて、長命なモデルではあったが不遇なレンズなのかもしれない。

仕事部屋でありものの光、カメラの設定感度を目一杯あげた手持ちで深い意味もなく撮影したのが次の写真だ。

高感度設定のためノイジーだが、ブームアームの金属パーツの質感と状況がちゃんと描写されている。

定義が曖昧なため使いたくない言葉だが、線が細い傾向はないようで、どちらかというと太くダイナミックな感じがする。いずにしろ25〜26年前に発売されたレンズとは思えない写りだ。

では自然光で一般的な設定で撮影した場合はどうなるかだ。冬晴れの晴天つまり太陽の高度が低く空気が乾燥しているためヘイズが発生しない状態で、手持ち撮影をしてみた。以下に結果を示すが、一部を除き元画像からごく一部を拡大切り出ししている。基本特性はわかったので、かなり意地悪に細部をチェックするためだ。

まず懸念されるパープルフリンジについて。屋外でのテスト(Ai AF DC-Nikkor 105mm+D850)Capture Oneで現像し、トリミング以外はシャープネス等一切の調整を施していない。周辺減光を示したカット以外は、画像から細部を切り出していることに注意してもらいたい。厳しく点検するため画像面積10%以下の部分を下に示すサイズにしている。

半逆光状態。画角隅からの切り出し(画像面積10%以下)。
F2.8ではD850との組み合わせでは画像そのものが甘い。さらにパープルフリンジが発生している。F8では解像、パープルフリンジともに問題ない。

F2.8
F8

パーブルフリンジと周辺減光。この比較カットのみ切り出しなし。
F2.8では周辺減光が大きい。F8では双方ともに問題はない。

F2.8
F8

遠方にある被写体。フォーカスから大きくはずれたボケ部分かつハイライトの描写。画像から細部を切り出し(画像面積10%以下)。
F2.8でパープルフリンジが目立つが、最大輝度部分は別としてハイライトはかなり踏ん張っている。

F2.8

無限遠のシャープネス。画像から細部を切り出し(画像面積10%以下)。
F2.8ではやや甘い。F5.6からかなりシャープになる。F8で完全な描画。F11では回析現象はまだ感じられず十分にシャープ。無限遠にある物体がこれくらいシャープに撮影できれば十分だろう。

F2.8
F5.6
F8
F11

樹脂コーティングされたバナーを撮影。画像から細部を切り出し(画像面積10%以下)。
布に樹脂コーティングされているため直射する光を照り返している。フォーカスと布目とトーンに注目。

もっとも安定した描写と思われるF8で布目が端的に描写されていると同時に陰影のトーンも適切。赤の発色は見た目と相違がなくかなり正確。

F8

同バナー別カットから更に拡大した切り出し。シャープネスが不十分に見えるだろうが拡大率がかなり大きい。JPEG圧縮前の元画像では甘さはなく、まったく問題ない。

F8

同バナー、同カットのフォーカスの外にあるハイライト部分。ピントの位置の外にあり、さらにハイライトだが布目を十分に描写している。ハイライトに対して踏ん張りがあり、フォーカスがきていない箇所に関わらずバナーの凹凸による陰影を正確に描写している。

F8

以上から、絞り開放以外は高画素機であたりまえに写るよいレンズだと言える。かつて所有していたAi-Sの105mm F1.8も当時のものとしてはよく写るのだが、やはりどこかもどかしい部分があり、D800Eまでは面白いレンズだったがD850ではネガティブな側面が強く出る。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8DではAi-S F1.8のような曖昧さはなく、F5.6から問題のない感じになりF8では十分な描写をする。逆光時の色被り、色のにじみは同年代から2000年代の初頭に発売されたサードパーティー製単焦点でけっこう顕著なものがあるが、こちらも問題にならないだろう。鬼門は絞り開放時のパープルフリンジだけだ。次の世代にあたるAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDのほうがとうぜん万能であり新しい酒は新しい皮袋に盛るべきなので、特別な理由がないならAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dを買う必要はまったくないが、サイズ感が手頃でDCレンズのように余計な装置がないプレーンな105mmとしてはよいのではないだろうか。25〜26年前のレンズとしてはさすがニコンであるし、やはりマクロは解像が命なのである程度古いものでも安心できる。

ご存知のようにDタイプレンズのAF駆動はカメラ側モーターで、MFとの切り替えはレンズ上のノッチを押し込みリングを操作する。いずれにしてもよほど特殊な状況でなければAFは使用しないので速度などはあまり関係ないし、むしろフォーカスリングの操作感が良好な点のほうが重要だ。遅いとは言われているが、あれだけ動けばおおよそ不満はない。フォーカスを決めるためヘリコイドを繰り出す手応えはマニュアルフォーカスのレンズのようにグリスのねっとりしたトルク感はないが、最近の安いレンズにありがちなスカスカなものではないのはよい。動かし始めからちゃんとレンズが動き、微妙な動きにもちゃんと対応できる。絞り環があることが特にメリットにはならないが、これを必要とする人にとっては重要なものになるだろう。

描写そのものは硬質だが固すぎるとは思わない。AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dはカリカリなレンズと言われているようだが、ちょっと大げさな表現過ぎる気がする。ただし立体感に富んだ描写ではない。比べる相手ではないだろうがMilvus 135mmに感じる色気を伴った立体感とは別のベクトルを目指したものだろうし、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDのあまりに普通の立体感描写とも違う。では平面的とまで言えるかというと、これもまた違うのだがマクロらしい描写なのだろうと思う。

Fumihiro Kato.  © 2019 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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