いつもENOについて考えながら現像している

写真や写真の現像の話であり、真意はもっと広い範囲について意見を述べたいと考え告知を含む記事を書こうと思う。

現像中は集中、没頭しているから目の前の変化だけを追っているのだけど、脳内を行き来する考え方はブライアン・イーノ的なものだろうなと思う。といってもブライアン・イーノを知らない人はちんぷんかんぷんだろうし、知っていても「?」かもしれない。ブライアン・イーノはロキシー・ミュージックのキーボートというか変な音担当でデビューし、その後ソロとなり環境音楽を創造した人で、デヴィド・ボウイ、ディーヴォ、トーキング・ヘッズ、U2、コールドプレイ等々をプロデュースした人だ。

ロキシー・ミュージックのメンバーとしてデビューしたときブライアン・イーノがどのような人か理解できた人はいなかっただろう。白塗りメーク、宝塚みたいな羽を背中につけてシンセサイザーで変な音を出す人がロキシーでのイーノで、イギリスでは同バンドのリーダーでダンディなブライアン・フェリーとともにセクシーな人として受け入れられていたらしい。グラムロックが死んだあとにロキシー・ミュージックは登場しているが、いかもにもアートスクール卒っぽい(最近の言葉だし大嫌いな分類だけど)いわゆるヴィジュアル系といったところだ。音楽性については当初はヘタウマならぬ下手くそであったし、どこにもないヘンテコ感いっぱいのバンドだった。そのバンドでもっともヘンテコだったのがブライアン・イーノだ。

ロキシー脱退後、ブライアン・イーノは奇妙でポップなアルバムを立て続けに発表した。ロキシー・ミュージックとともにイーノのポップな作品を私は嫌いではない。ブライアン・イーノの正体が世間に知れ渡ったのは、キング・クリムゾンのロバート・フリップとアルバム「(No Pussyfooting)」を発表したときだ。ブライアン・イーノは少年時代からテープレコーダーが大好きな人で、このときオープンリールのデッキを2台つなげるアイデアを発案していた。1台目のデッキから送り出されたテープは録音ヘッドを通過して2台目のデッキの再生ヘッドを通ったあとこちらのリールに巻き取られる。ここまではエコー装置のような状態だ。2台目の再生ヘッドで読み取られた1台目で録音された音は、1台目の入力に再び送られてまた録音される。これを演奏の装置として使う場合、演奏音はマイク収録かライン入力で1台目のデッキで録音され、2台目のデッキで読み取られて再び1台目のデッキに戻る。最初にリズムパターンを演奏したなら、このリズムパターンが延々と繰り返されることになる。このリズムに乗ってメロディーを演奏したら、リズムパターンの上にさらにメロディーが録音されて再生され繰り返し再生される。こうしてバックトラックが繰り返される状態で1台目への入力を切るなら、リズムとメロディーが延々と反復するなか(録音再生で繰り替えされない)別の音を演奏することができる。こうした理屈を実現する装置を使って誰も聴いたことのない音楽を二人は創造した。

ロバート・フリップはファズで美しく歪んだギター音でロングトーンを演奏し、これが繰り返される中に新たなトーンを追加して、現代なら環境音楽と呼べるような音響を生み出した。ドローン的な音響世界であるし、単なる音響ではなく音楽と呼べるものだ。「(No Pussyfooting)」は環境音楽のスタート地点となった作品で、この後ブライアン・イーノは文字通り環境音楽を追求するようになったし、ロバート・フリップは現在に至るまでフリッパトロニクス、サウンドスケープと名付けた活動をキング・クリムゾンと並行して続けている。ともに機材はテープからデジタルに変わり、つい最近まで断続的に共演アルバムをつくってもいる。21世紀なら比較的あたりまえの表現形式だろうが、「(No Pussyfooting)」は1972年録音、翌年発表のアルバムだ。

ブライアン・イーノは音のディティールに命をかける人で、これはU2のアルバム「The Joshua Tree」を聴けば端的にわかる。ブライアン・イーノがプロデュースしたことで、U2は音の奥行きと立体感、音のディティールが実に鮮明に豊かになった。U2といえば残響を伴ったギターのクリーンなカッティングが思い起こされるだろう。カッティングひとつで独特の世界観が浮かび上がるようにプロデュースしたのがブライアン・イーノだ。ロバート・フリップとの仕事では、デヴィド・ボウイの「”Heroes”」でのイントロと間奏の印象的なギターに特徴がよく現れている。プロデュースと言われて思い浮かべるのは胡散臭い商売人だったり、誰をプロデュースしても金太郎飴のように一本調子な人だったりするかもしれない。ブライアン・イーノはプロデュースするミュージシャンの本質をもっとも端的に表現できる方策を見極め、音楽の方向性と質を決定する仕事をしている点で胡散臭い人種とは別次元なのだ。

広告等のプロジェクトなら別だが、個人の写真作品をつくる際は撮影者がディレクターでありプロデューサーでなければならない。一人でやるからうまく行く場合は案外少なく、自分を客観視する姿勢が狂ったままなら間違いを続けるばかりになる。ブライアン・イーノの視点は、自らの客観視、方法論の再点検をするうえで私にとっては重要な意味を持つのだ。ブライアン・イーノは音楽家なので直接彼の方法論を取り入れられないのだが、いまのところ私は空間表現についてイーノ的エッセンスに触発されている。

ブライアン・イーノは前述のように余計なものは捨て必要なものを生かす最善の道をまず読み取る。アイデアが出ないとき、何らかの問題で煮詰まったとき、何が問題かさえわからないときブライアン・イーノは「オブリーク・ストラテジーズ」(Oblique Strategies)と呼ばれる100枚程度のカードを使っている。彼が考案したカードには「TAPE YOUR MOUTH(口にテープを貼って黙れ)」などと抽象的な言葉が印刷されている。カードをトランプのように切って一枚選べば「英雄的なことを疑ってみる」「そこにセクションがあるか?移行を検討せよ」などのカードが現れるので、これを自問自答したり共作者たちと解釈について討議するのだ。偶然に選ばれたカードには現状への打開策が示されてはいないが、唐突に虚を衝く言葉によって自分または場に風穴をあけるのだ。ブライアン・イーノでさえこうした偶然から与えられるきっかけを使うほど、人間は「我に返ったり」「道を見直すのが困難」だったりする。ちなみに同じ趣旨のOblique Strategiesアプリ(英語版)がiOS/Android用に複数存在しているので試してみたらどうだろうか。

ということで、Oblique Strategiesを日本語でできる仕組みをつくった。リンクはこちらだ。(ご利用ありがとうございました。サイト整理のため一時的に中止しています)本来ならこうしたお知らせは文頭に大きく掲載するものだが、試したいと思う人がそうそういないだろうからそっと告知するに留める。ちなみにリンク先は無料で日本語版Oblique Strategiesを実践できるようにした。

考え方だけでなく、写真作品のテイストというか成り立ちについてブライアン・イーノもしくはロバート・フリップとブライアン・イーノの「(No Pussyfooting)」以来の共作から私が得たものは大きい。写真は撮影者の世界観を表すものであるであるとする立場もそうであるし、ディティールについても、アンビエントな何かもそうで、このあたりの事情について以前にも書いたし、あとでもっと詳しく書きたいと考えている。またそろそろ作品をまとめたいので、2019年に電子書籍として作品集を出そうかと計画している。これもまた宣伝すべきことだろうけれど、したところで大した影響はないなのでひっそり書くに留めておく。過去作はすべてリミックスつまり新たな方針で再現像して、新作と未発表作も加えて1000円以内の価格にしたい。というのも、これで儲けたところで現在の(アイドルものではない)写真集冬の時代にどうなるものでもなく、そんなことより電子書籍のメリットである価格の低減に務めたほうがよっぽどよいと思うからだ。

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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