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Apple CarPlayは2014年3月にiOS 7から実装された機能で、クルマに搭載されたカーナビゲーション上でiPheneの中核機能を使用できるようにするものだ。カーナビゲーションとの接続はUSBケーブルやBluetoothで可能。ハンズフリーによる電話、メッセージ、ブック、マップによるカーナビ、ミュージック.appによる音楽再生のほか、サードパーティー製のアプリも使用できるが現在のところApple製以外は音楽再生やストリーミングラジオなど限定的だ。
限定的な理由を推測するなら、クルマを運転しながら使用する前提ゆえに安全が確保されるもの以外はAppleが認めないからだろう。運転中に何らかの操作が必要になったり運転動作への集中を妨げる可能性があるものは当然排除されている。こうなると誰に取って得があるのかとなりがちだ。そもそもカーナビが搭載されたクルマならオーディオだって組み込まれているだろうし存在意義を疑問視されても仕方ない。専用カーナビと比較して、iOSのマップを使用するナビゲーションが優れている訳でもない。
iOSのマップを使用するナビゲーションと、世間一般のカーナビアプリを比較した場合もやはり国産のカーナビアプリのほうが気が利いている。Google Mapを使ったナビとの比較ではiOSのマップのほうが「道ではない道」「使い物にならない道」がない点で一長一短はあれど実用性は上とも言える。iOSのマップは登場当初にかなり質が劣ったものだったことで毛嫌いして起動すらしない人が多いようだが、iOS 12ではちゃんと機能するものになっている。また交差点での分岐表示はけっこう視認性がよい。国産の有名どころのナビアプリとの相違は地図情報の詳細さ、渋滞等の実勢が的確に反映されるかどうかだ。もし今後、Apple CarPlayで国産カーナビソフトが使用できるようになったらCarPlayのメリットがかなり明確になるだろう。
先日、ソフトバンクの通話とモバイル回線が4時間以上に渡って使えなくなった。私はソフトバンクとの契約はなく他回線を使用するSIMをiPhoneに刺しているので障害の影響を直接受けなかったが、カーナビはソフトバンク回線でデータ通信を行っているのでデータセンターとのやりとりが不可能になった。これははじめての経験ではなく、ソフトバンクの基地局の配置がDocomoやauと比較して圧倒的にまばらなため場所によっては情報の取得に失敗するケースがあるのを知っていた。情報の取得に失敗しても地図データはナビ側にあるし経路検索も可能なのでカーナビが使えなくなりはしない。渋滞、規制等を鑑みた最適なルートが選択できなくなるだけで、クルマが走り出してソフトバンク回線が拾えれば即座に交通の実勢にあったコースが提案される。ただ、ソフトバンクの回線にはけっこう問題があり脆弱なのは今回の例をみても明らかで、もしもの場合を考え保険をかけておいたほうがよいだろうと考えるようになった。まじめにApple CarPlayを試したのは、こんな理由があったからだ。
Apple CarPlayにスマホを接続してナビとして使わなければならいケースとは、カーナビそのものが機能しなくなった場合に限られとてもレアな状態だろう。でも災害時、緊急時には代替できる手段の有無が命に関わるので事前に試しておいたほうがよいと思う。そして結論としては、iOSのナビ機能をメインに据えるのは他にもっと優れたものがあるからどうかと思われるが、ちゃんとナビとして使えるものだったということになる。
Apple CarPlayはiOS 7以降に対応しているiPhoneを、Apple CarPlay対応のカーナビと組み合わせて使用する。とうぜんiOSは現時点で最新のiOS 12であるべきだろう。もっとも簡単なのは、Apple CarPlay対応のカーナビにUSBケーブルで接続する方法だ。USBケーブルで接続してからでも、イグニッションキーまたボタンが既にONの状態で接続してもよい。iPhoneの機能設定(歯車アイコン)を開いて、「一般」→「CarPlay」を開くと接続状態がわかる。Bluetoothを使う場合は、まずBluetooth接続を確立させる必要があるほかはUSB接続と変わりない。USBケーブルで接続している場合は同時に充電でき、無線接続のBluetoothと違いもしものとき接続が途切れたりしない。Bluetooth接続では運転者以外の人が接続されたiPhoneを使ってアプリを操作できるので、同乗者が走行中に車内で聴きたい音楽やストリーミング番組を選べるメリットがある。(後述するが、USB接続とBluetooth接続では音楽や音声の品質に差が出るが運転中はロードノイズのほうがよほど影響を与えるだろう)
Apple CarPlayを使用するとカーナビのタッチディスプレイがiPhoneやiPadで見慣れたものに限りなく近い表示になる。このUIでどの機能を使用するかアプリを選択でき、もちろんカーナビは使わずミュージック.appでiTunes機能を使用するといったことも可能だ。UIは洗練させれていて使い勝手は悪くないし、iPhoneやiPadを使っている人なら戸惑う要素は一つもない。だったらApple CarPlayではなくiPhoneを使えばよいだろうとならないのは、運転中にiPhoneを操作するのは危険極まりないからだ。Apple CarPlayはカーナビのタッチパネル、カーナビの物理ボタン、ハンドル周りの操作系、Siriで操作できる。接続中であってもiPhoneの側からも操作できる。電話機能はハンドル周辺にあるマイクを使い、ハンドル周りの操作系でフック操作などすべてできるので考えられたつくりになっている。他のアプリも同様だ。
ただし問題になるのはご存知の通り「通信量」と「通信費」だ。音声通話は通常の電話回線を移動しながら使っているだけだが、データのやりとりが発生する機能やアプリを使うと契約しているデータ使用量と使用料がとうぜん関係してくる。ミュージック.appはすべての機能がApple CarPlayで使えるので、iPhone内のストレージに楽曲が保存されていて保存されている曲を再生する分には関係ないが、iPhone内に保存されていない曲をストリーミングで聴く場合は曲をダウンロードしなければならずデータ通信が必要になる。曲によってデータ量はまちまちだしアルバム1枚あたりの曲数も異なるが、アルバム1枚で40〜50Mくらいダウンロードされると考えておいたほうがよい。一回のドライブがアルバム1枚相当の40分程度で終了するとは思えないので、曲数が多いアルバムを再生したり複数の曲をストリーミングで途切れなく再生し続けると100MB以上をダウンロードすることになる。これは音楽再生だけでなくストリーミングラジオにも言える。ちなみに1000MBが1GBなので、数日間このような再生を続けると3G程度の契約では瞬く間に通信量の上限に達するだろう。すでにiPhone単体でこれらのサービスを利用している人にはあたりまえの話だろうが、データ通信を頻繁に使っていない人は注意したい。カーナビのマップデータの転送量もそれなりだから、併せて使うとけっこうな通信量になる。
ここで勘違いのもとになりやすいのが、Apple CarPlayでiTunes機能を選択した際にダウンロードしていない曲、アルバム、アーティストも一覧に表示される点だ。これはアプリの不備ではなく、そもそもストーリンミング機能を持っているiTunesとミュージック.appだからあたりまえでもある。iPhoneのミュージック.appに表示される曲、アルバムを見て雲(cloud)マークがあるものはダウンロードされていないもので、常にAppleのサーバーからデータを落としながら聴いている状態だ。データ使用量に頓着しないならApple CarPlayでいつものようにダウンロードしながらストリーミングとして聴けばよいだろう。もしデータ転送量と料金が気になるなら、事前に雲マークをタッチしてiPhone内のストレージに曲を保存しておくべきだ。こうしてストレージに保存した曲はストレージから削除できるし、削除してもストリーミングで聴け、その後またダウンロードすることも可能だ。このようにミュージック.appでは楽曲のダウンロードとストレージの管理ができるが、他のストリーミングアプリでもできるとは限らない。ストリーミングラジオは文字通りデータ通信しながら聴くものなので、事前にダウンロードできる番組があるとは限らない。
面倒な話かもしれないが、とはいえミュージック.appで音楽を再生するメリットもあるのだ。
私はPC上に200〜300GBの音楽ファイルを持っている。すべてをクルマで聴くわけではないが、できれば運転中に気の向くまま聴けるようにしたい。以前はiPod classic 150GBモデルいっぱいにアルバムを放り込んで、カーナビのオーディオからアルバムやプレイリストを選択して聴いていた。とはいえ無駄が多いのは事実だ。SDカードやUSBメモリーにアルバムを放り込んで接続する方法も取った。でも問題だったのはカーナビのオーディオ機能のUIが使いにくいもので、しかもSDカードやUSBメモリーを使用した場合は複数のアルバムをアーティストごとまとめて再生させる機能が欠けていた。これはオーディオファイルに適切にアーティスト情報のタグが埋め込まれていても、フォルダー階層で明示しても無理だった。まあ私の音楽の聴き方が人と違うからしかたないのだろう。でもApple CarPlayでミュージック.appを使用するなら、iPodを接続したときと同様であるし、カーナビのタッチ画面に表示されるUIはiPhoneとほとんど違いがなく使いやすい。昨今のiPhoneは64〜256GBの容量があるので、車内で聴きそうな曲をある程度詰め込んでおいてもストレージのやりくりに苦労がない。なんだったらiPod classicも車内にあるので、私はほとんどの楽曲を常時携行しているとも言える。クレージーかもしれないけれど、私はリッピングした曲をまるごと所持していたいのだ。
余談だが、デジタルデバイスからカーオーディオへの音楽データの入力はデジタルとアナログどちらかという話をしたい。私はナビはGathersを使っていて、iPod、WALKMANから可逆圧縮形式、高サンプリングのデータを再生でき、SDカード等からは再生できないことから前者はUSB接続であってもアナログ、後者はとうぜんのことデジタルなのだとわかる。iPodやWALKMANを接続したときはこれらに内蔵されたDACでデジタルデータがアナログ化され、このアナログ信号をオーディオが増幅している。したがってiPhoneをApple CarPlayで使う場合も同じと言いたいところだが、USB接続ではアナログ出力入力でBluetoothではデジタル出力入力になる。デジタルと言ってもiPhone内の音楽データをBluetoothに乗せるにはBluetoothの規格に沿った不可逆圧縮データにしなければならず、いくつかBluetooth規格の圧縮方法があるもののどうしても音質の劣化は避けられない。ミュージック.appが対応している可逆圧縮形式のALACや人によっては(ミュージック.appでは未対応だがVOX.appではたぶん対応している)FLACデータをデジタルのまま転送して再生したいところだろうが、運転中のロードノイズ等を考えたらこれでもしかたないところだ。そもそもカーオーディオでALACやFLACを生かしきるのは難しくACCで十分な場合が多いのではないか。もちろんもっと高機能、高音質のカーオーディオを使っている場合は話がちがってくるだろう。ただBluetooth接続での音質劣化はかなり大きいので、私もそうだがBluetoothイヤホンですら気に入らない人はUSBケーブルで接続したほうがよい。
本題に戻る。Apple CarPlayは緊急用途では十分すぎるくらい使えるし、そうでなくても電話、メッセージ機能をiPhoneから拡張する意味でとても実用的だ。過大な期待をせず、運転中にiPhoneが使えたらいいなと思うくらいの気持ちで導入するなら落胆することはないし、たぶん気に入るだろう。ただデータ通信については契約状況とコストを鑑みて使うべきだ。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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