浪江町再訪へ

作品「311への旅」の一環として宮城県を目指そうと考えていた。これは前回の相馬、南相馬、浪江町(一部双葉町)の撮影を決める前からの計画だった。これらの場所を撮影したあとも、つい数日前まで宮城県についての勉強をしていたが、感じるものがあり次回は再び浪江町を訪ねることになるだろう。これが「311への旅」の続きになるか「海景」としての撮影になるかいまのところはっきり決断できないなか、漠然と「海景」の作品をつくりたいと思いはじめている。なぜなら浪江町があまりに美しいからだ。

私はロケ準備の初期段階から衛星写真を参照している。GoogleMAPが手っ取り早く情報が新しい。目的地だけでなくかなり広い範囲、撮影と関係ない地域を含めて地理と交通と人の暮らしを観察する。今回かなり驚いたのは、東日本大震災後の防潮堤工事が昨年の10月からかなり進みほぼ完成の域に達していたことと、理由はこれだけではないが砂浜がそうとう減っていたことだ。強固かつ巨大な防潮堤が造られている様子は昨年発表の「311への旅」に記した。防潮堤は将来に向け安全に欠かせないものであり一時の感傷から悪し様に言ってよい対象ではないことも書いた。これからこれらの地に生まれてくる人にとって、防潮堤を含む風景が原風景になるのだから彼ら彼女らにとって安全性が高い故郷になるのがもっとも大切なのだ。だが、良し悪しの問題ではなく様々なものごとが防潮堤によって変わらざるを得ないのも事実である。

ロケ準備の衛星写真観察のついでに、私はかつて暮らした新潟市小針の海岸線を見た。20年ほど前、現地を訪れ何もかも様変わりしているのを目の当たりにしたが、さらに整備が進み砂丘は猫の額ほどになって代わりに駐車場とトイレ、護岸のため埋め込まれたコンクリートブロックによってまるで違う風景になっていた。つまり私の小針海岸は記憶のなかにしかないのだった。既に土地の人ではない私は、海岸整備の是非を語る資格はない。小針海岸近くに暮らす人には防砂林だけで防げなかった吹き寄せる砂が減り、様々な災害への不安も減り、余暇を楽しむのに駐車場などの整備は大切なことだったろう。私だって撮影地の海岸に駐車場があればホッとしトイレもあるなら万が一のとき便利に使う。撮影地のこうした設備だって30年、40年前に存在していたかわからないもので、たぶんこれらの場所はもっと違う景観だったはずだ。小針海岸が見知らぬ浜に変わったのに愕然としたけれど、この衝撃から批難の声を私があげるのは間違っている。

私は諸事情から「311への旅」を始めるのが遅れた。1年早く着手できていたら防潮堤の建設をはじめ新たな時代への変化をかなり微細に記録できただろう。宮城県の沿岸部の復興はまだこれからで人の暮らしは震災以前に戻っていない。現在、遅々として進まないものごとがあると同時にダイナミックに変化しようとしているところもある。だからちゃんと見ておきたい、写真に残したいのだが、浪江町の現況にあるかつての風景の一片を感じるまま残したいとも思うのだ。もし時間と資金の余裕が潤沢にあるなら私は東北に移住して、これら一切合切にアクセスし写真を撮るだろう。だが限られた時間と自分の人生を使う他ないのだった。

私は浪江町の風光に惹かれている。津波によって痛手を負い原発事故によって避難地域に指定されたことで民間の復興が遅れている状態で、当事者にとってつらい景色が放置されていると感じられる場所かもしれないが、これらをものともしない力強い美しさに浪江町は満ちている。防潮堤工事は終わったけれど、(勝手に幸いにもと言いたくないのだが)防潮堤が立ち塞がない浜が残っていて、いくらか津波によって壊れたところはあっても数十年間変化がなかったと思われる場所が残っている。宮城県を知らないだけでこうした場所は当然あるはずだが、私は浪江町の一端を見て触れたためどうしても舞い戻りたい気持ちになるのだった。震災の被害があったから美しく見えるのではない。根っから、この世にこの土地が生まれた時からきっと美しいのだ。

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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