甘やかしたのは誰だ(Foveonに思う)

甘やかすと大切に育むはまったく違う。大切に育むと体罰や精神的に痛手を負わすのも大いに違う。甘やかしは、相手に対する侮辱でもある。あなたは仕方ない、だから多少のことは目を瞑るし、下駄を履かせたうえで評価するという態度が侮辱以外のなんだろうか。よいところを褒めて育てるのと甘やかすも違う。体力と生命力が落ちた人を保護し大切に治療するのと、甘やかすだけで本人に努力を促さないのと同じくらい違う。

こんなことを最近のアメリカの関税問題で思い、同時に身近なあれこれにも感じた。アメリカの鉄鋼業は取り返しのつかないところまで弱体化し、付加価値が高い製品を生み出せない凡庸な、図体だけが大きい競争力がない存在になるのではないか。いつか来た道である。アメリカ車が世間で言われているような無価値なものとは一切思わないし唯一無二の存在ではあるが、詰めが甘いものではあるし、ここに排ガス規制の緩和を米政権が推し進めると欧州勢や日本の自動車産業との差は広がるだろう。こうなる以前から、素晴らしい自動車文化を生んだ国の素晴らしいメーカーは甘やかされた結果、技術革新や国際的な競争力を失っていた。甘やかされる為にどうするかは真剣に取り組むが、製品をどうするか、どう売るかを考えなくなり、売れなければ誰かがどうにかしてくれるとますます思考が後退する。

ところで最近、三層センサーFoveon X3の話をとんと聞かなくなった。RGGBのフィルターを持つ四つのセンサーを一区画として、これをタイル状に敷き詰めたベイャー構造のセンサーがネガティブな部分を解消している一方で、一つのセンサーを三層にしてシリコンの透過特性を利用するグッドアイデアFoveonはいまだ使い勝手が悪いままである。センサーをフィルムに置き換えればすぐわかる話だけれど、グッドアイデアによる新機軸のフィルムが登場しても、色や階調性がいつどのように転ぶかわからないものだったら怖くて使えない。使えないのが登場当初だけならまだしも、長年使えないままだったら衰退して当然である。2000年代はじめのコダックX530から長い道のりの途上だとしても、だ。

Foveonや同じ構造の三層センサーが普及しなかったのは特許権の問題ではない。金を払って特許を使うなり、Foveonそのものを採用すればよいのだから、なんとでもなる話だった。こうなれば生産拠点だって増え、センサーの歩留まりも向上しただろう。しかし、ベイヤー構造から乗り換えたり一部製品に採用する企業はなく、後にFoveon社を買収したシグマの製品にのみ使われ続けた。これといって特筆すべきカメラボディーを製造してきたわけではなく、フィルムの時代はリコーやコシナからOEM調達したボディーにブランド名を変えて売ってきたレンズメーカーのシグマにとって、他社と明らかに異なるアドバンテージをFoveonに求めたのは理解できる。挑戦することはよいことだ。

Foveonセンサー搭載のSD9が登場した2007年当時すでにベイヤー構造のセンサーを使いこなすうえでの調教に各社技術を構築しつつあり、いまから思えばまだまだな性能ではあったがちゃんと写るカメラが続々と販売されていた。ところがFoveon搭載のシグマ製カメラに厳しい言葉をちゃんと届けた人がどれだけ居ただろう。ポジティブな面を褒めるのはよいが、「使いこなしは難しいけれど、使いこなしたときの性能は群を抜いてすばらしい」的な論調ばかりで、あなたはコンスタントに使いこなすノウハウを確立できたのですか? という有様だった。ノイズについては低感度、完璧なライティングでどうにかなっても、突然の色かぶりなどについて誰も究極のノウハウを公開して説明していなのだから、褒めて商売にした人は誰一人使いこなせていなかったのだ。もう一度書くが、どのように反応するかわからないフィルムがあったらどうなるか、である。

「使いこなしたときの性能」なんて書くと、技能優秀な人が使うイメージにもなる。いや違うのだ、豹変させずコンスタントに当たり前のデータをつくるノウハウをメーカーも、お勧めする人も編み出していないのだから当たるも八卦当たらぬも八卦に近いもので、使いこなしではなく消極的対処療法でしかない。そして、こうしたセールストークに何らかの期待を抱いて船に乗る人が現れた。この人たちが「こりゃダメだ」と声を上げればよかったが、これらの人が商売でFoveonセンサー搭載機を使う例ばかりではなかったらしく、ちゃんと苦言を呈する人があまりにも少なかった。「これでは金を取れないぞ」と言う人より、カメラのカタログ好きな人のほうが不幸にも多かったようだ。

何度もなんども書いてきたことだが、メディアでカメラやレンズを語る立場ある人が「次の製品はどうなりますか」と手を擦り合わせ腰を落として企業に擦り寄ってはどうしようもない。苦言を呈すると機材が貸し出してもらえない。苦言を呈するとカメラライターの仕事を失う。だからあばたもえくぼ調の話しか書けなくなり、お座敷がかかるメーカーのヒモに堕ちるのである。そこまでカメラライターを続けたい、これで食って行きたいと情熱が滾っているなら自腹でカメラやレンズを買って仕事をすればよいではないか。このように自腹購入をしてレビューしている素人もいるし、テスト製品は独自購入したものだけと徹底した「暮らしの手帖」のような媒体だってあったのだ。悪口を書けと言っているのではない。食うために、メーカーのヒモになるな、媒体のヒモになるなという話だ。

シグマだって手を拱いてばかりいた訳ではない。現在に至るまで、Foveonは世代交代が行われている。しかし、いつまで経っても現状では状況と偶然に左右されるセンサーを搭載したカメラでしかない。だいぶよくなったとはいえ、ベイヤー式のセンサーはさらに進化し続けている。オーナー社長の道楽だから許されているのであって、だからこそ周囲の甘やかしに輪をかけてブレークスルーに至らないとも言えそうだ。数年前、各社のカメラの初期不良、構造的欠陥が怒涛のように露見した。ニコンの例では、買ったばかりなのにセンサーにグリース状物質が付着するとか何とか。この時期各社はデジタルカメラのラインナップを揃える競争状態にあり、やはり何かがおろそかになっていたのだろう。これらに対するユーザーの失望と反発は(当然ながら)すごいものだった。金を払って期待して買ったのに、期待はずれだったからだ。Foveonセンサー搭載のシグマのカメラは、こういった期待はずれがあっても多くの人はFoveonセンサーだから仕方ない、シグマだから仕方ない、社長頑張ってくださいと言うだけだった。ユーザーの囲い込みには成功したが、囲い込みからはずされるのを恐れた人がごますりになっただけだった。

シグマに限らず、どの企業に対してもユーザーが従順な羊になったらおしまいである。また、羊の中の長になるため人生の貴重な時間を費やしたり神経を遣っている人物はもったいないことをしている。もう一度、冒頭に戻るなら「甘やかすと大切に育むはまったく違う」し「甘やかしは、相手に対する侮辱」であるし、成長を阻害する。私が常々、シグマのレンズはコーティングが変なのではないか、解像度だけではどうしようもなくトーン(階調性)について無頓着なのではないかと書いてきたのは、同社を誹謗するためではない。また正義のため言っているのでもない。(少なくとも私見として)おかしいものをおかしいと書いているだけだ。

これから三層センサーがどうなるか、改良にとどまらない何らかのブレークスルーがあるのか、私にはわからない。もしかしたらシグマが度肝を抜く新たな一手を打ち出してくるかもしれない。こうなったら私は喜んで自分のカメラとして購入したいと思う。だが現状では、誰一人究極の対策法を編み出せない当たるも八卦当たらぬも八卦のカメラに血眼になる時間も金もない。だって精魂込めて撮影したものや、誰かに期待されて撮影したものが、手に負えない状態になったら泣くに泣けない、死んでも悔やみきれないではないか。道具に求めるものは革新性や精神論がけたたましく騒がれるナニカではなく、確実性こそが重要なのだ。これが保守的な態度であると見られても構わない。革新性は道具にではなく、自分自身の中にあればよいのだ。暇で金を持て余している人だけが、飼いならされた羊になればよいだろう。そして経営者の思惑、社の思惑、技術者の思惑なんて関係ない。ちゃんとしたものは買うし、どんどん使い倒す。ただこれだけだ。

 

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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Profile

F.Hiro.K
加藤(文)文宏 / Fumihiro Bun Kato a.k.a Hiro.K
写真家・作家 / Photographer Author
・北海道北見市生まれ。
・大学卒業時までに詩集「無題あるいはサラバ」、同「Cadenza」発表(共に絶版、在庫なし。「Cafebza」別装丁私家版のみあり)。
・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。
・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他)
・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。
・不二家CI、サントリークォータリー企画・取材、Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告、武田薬品工業広告、他。アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材、MIT Museum 収蔵品撮影 他。
月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。
・長編小説「厨師流浪」で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」他、小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。
・獅子文六研究。
・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。
・各メディアにおけるスチル撮影。
・オリジナルプリントの製作、販売。
・JSAHP正会員
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