GODOX AD360IIを万能化する

機材屋さんからお金をもらっていないので常々好き勝手に書いているが、GODOXのAD360IIや同社V系クリップオンストロボを貶す話はこれまで一度たりともしていない。両機のインターフェイスや取扱説明書の欠点は確かに指摘したけれど、これらを克服できるなら両機ほどコストパフォーマンスのよい機材は滅多にない。ただV860IIにはCactus製品が競合として存在するので(もちろん価格差はあるがProphotoのA1だってある)、AD360IIのほうが唯我独尊な存在と言えるだろう。

AD360IIにはスタジオライティング向けの様々なアタッチメントとこれらを接続する用品が、GODOXだけでなく他社からも供給されている。なので、ユーザーは好みのものを一つ二つ所有していることだろう。私はAD360IIをモンスター仕様のクリップオンストロボとして使うため、Aputure COB 120d 用フレネルレンズを加えた。Aputure COB 120d 用フレネルレンズはボーエンズマウントかつ開口部の口径が7インチなので、ストロボ用に限らず定常光用の装置が色々連結可能だ。これでAD360IIはスタジオ的なライティングに縛られない万能ストロボになる。イメージとしてはAD200を2段重ねにしたものに近い(AD200を使わない理由は別記事で説明した)。

AD360II用にフレネルレンズを導入したのは、景観撮影の日中シンクロに使うためなのはこれまで何度か書いてきた。したがって誰もが必要とする構成ではないけれど、GODOXのV系クリップオンストロボを4台くらい動員して、それぞれを設定しながら撮影するより1台で済むメリットは大きい。つまり集光用フレネルレンズがあるかないかが、出力差を除けばAD360IIとV系クリップオンストロボの最大の違いなのだ。また購入したAputure COB 120d 用フレネルレンズはボーエンズマウントなので、使おうと思うならマウント変換アダプターを介して大型ストロボの発光部にも装着できる。Aputure COB 120d 用フレネルレンズを装着したとき照度は7倍上昇し、EV値では3〜4段程度の上昇である。これによって日中シンクロの実用的な距離5m程度を大きく上回る10mから20m先の物体をライティングする可能性が広がる。

いままでのGODOXのV系クリップオンストロボを2台持ち出して撮影していたケースと、AD360II+フレネルレンズの組み合わせた1台は置き換えられるシーンもあれば置き換えられないシーンもある。使いどころの違いは主に照射角である。V860IIの拡散板を使うとライカ判14mmレンズ相当の画角をカバーする照射角が得られるとされている。実際には照射角の周辺で光量落ちが顕著なので、満遍なく14mmレンズの画角相当に光を照射できる訳ではないが、まったく意味がない訳ではない。いっぽうAputure COB 120d 用フレネルレンズの照射角は可変式で12〜42°まで調整できる。42°はライカ判45mmレンズの水平画角に近く、広角または超広角レンズの画角はカバーできない。景観に対して日中シンクロをする場合、画角内の特定の物体に補助光を与えたい場合が多いので42°もあれば何ら問題にならないケースがほとんどだが、対象が大きかったり広範囲に補助光を与えたいときはV860IIで拡散板を使わなければならない。

ではAD360IIにクリップオンストロボの拡散板に相当するアタッチメントがあるかとなると、なかなか難しいと言わざるを得ない。単に光を拡散させるためなら、付属するリフレクターの蓋のような乳白のディフューザーがあるし、ソフトボックスからアンブレラまで選り取り見取りだ。スタジオライティングは問題ないが、景観撮影のため光を広く照射したい場合は複数台を広範囲に設置するほかなさそうだ。なんだったら変則的だがAputure COB 120d 用フレネルレンズが7インチのアタッチメントに対応しているので、7インチ用のディフューザーがある。ただこうしたものは、あたりまえだが拡散作用はあるが光量がかなり落ちる。光量減との兼ね合いで、撮影しようとするシーンに使えるか否か判断すべきだ。広い空間である景観を日中シンクロしようとする場合は、光の美しさより光量が重要なのでなかなか難しいのだ。超広角レンズを使うとき一般的にワーキングディスタンスは詰める傾向にあるから、光量が乏しくなっても光の減衰の影響は減るとも言えるのだが。[コメットにPMTワイドパネル(在庫限り?)という拡散板があり、これがなんとなく流用して使えそうな気がするのだが14mmの画角への配光はとうてい無理だろう。PMT-1200は終了だが、PMT-1200αは現在も販売中で出力1200Wで電源部のみ250,000円くらいで、発光部込みのフルセットにすると400,000円近くなる。]

AD360IIに付属するリフレクターのみ(ディフューザーなし)の使用で、照射角はおおよそライカ判レンズ24〜28mmの画角相当だ(もっとあるようにも感じるが周辺部は使えない)。AD360IIの出力は360Wなので70〜80WのV860IIより出力はあるが、フレネルレンズなしではV860IIの1台のフレネルレンズとズーム機能を使った場合よりEV1かEV2程度照度が高い程度だ(この差ですら貴重なのだが)。AD360II用にフレネルレンズが使えると、図体は大きめだがV860IIを4台以上集めた出力とクリップオンストロボならではの使い勝手が実現できる。これで透過効率よく照射角をさらに広げられるなら言うことなしなのだ。いずれにしろ、リフレクターか定常光用フレネルレンズ装着か問わず、AD360IIの配光はクリップオンストロボと比較にならないくらい光は美しい。美しい理由は、チューブの形状が一直線の棒状でなく、開口部が円形であり、チューブから開口部の形状とサイズに無理がなく、クリップオンストロボのフレネルレンズは出来があまりよくない点が作用しあっている。このためProphoto A1の発光部はお椀型で開口部は円形にし、フレネルレンズは精緻なものになっている。

まとめてみる。
AD360IIはスタジオライティング用の周辺機材が豊富にある。
AD360IIに欠けているフレネルレンズはAputure COB 120d 用フレネルレンズがボーエンズマウントアダプタを介して使える。
リフレクターのみで照射角は63〜73°程度。
Aputure COB 120d 用フレネルレンズは照度を7倍、EV3〜4アップできる。
Aputure COB 120d 用フレネルレンズは照射角12〜42°
いずれの場合も、クリップオンストロボより光が美しい。
といった具合に、AD360IIの使用範囲を格段と広げることができた。

ここからはストロボ全般の話をする。

写真がデジタル化され、比較的高い感度設定でも画質の劣化が少なくなったことで、ストロボの出力がさほど大きくなくてもよい場面が増えた。この結果、適度な出力のモノブロックとクリップオンストロボがあればなんとかなるようになった。これが昨今のクリップオンストロボ流行りの背景だろう。その昔はクリップオンストロボはどうしても大型ストロボが使えないシーンにしか登場しない脇役だった。だから取材にだってジェネと発光部を持ち出す例が多かったし、小型ストロボはクリップオンストロボよりグリップタイプのストロボを選んだ。クリップオンストロボは出力が小さいだけでなく、フル発光時はチャージ速度があきらかに劣っていたし、周辺機材が揃っていないためせいぜいバウンスさせるくらいが関の山だった。

私が小型ストロボに目覚めたのは、30年くらい前にアメリカに出かけてMITの収蔵品を撮影しなければならなかったときだ。機内持ち込み可能な範囲に収まる機材をできるだけ使い、電源が自由に使えないのを想定し、即席スタジオをつくって手早く撮影する必要があった。このときグリップタイプのストロボを使ってあれこれしたが、F22から32くらいの光量を得られたし、かなり光を回すこともできた。いまならあたりまえかもしれないが、当時の私は小さなストロボも使い方次第だと気づいたのだった。

30年くらい前はこうした用途や集合写真ではミニカム一択だったところが、いまはAD360や360IIになった。現在ミニカム・ジャイアントの最小機は350w灯数1灯用で、バッテリーがニッケル水素電池である点を除けばAD360IIとよく似た構成だ。ただし電源部のみで100,000円くらいするので発光部など一式で200,000円コースだ(同様のものは現在コメットもラインナップしている)。ミニカムの価格は高いけれど、配光はきれいだと私は感じる。ミニカム・ジャイアントは私が10代だったときからずっと憧れのストロボだったが、カメラだって満足に買えないのだから買える訳がなかった。私が20代だった1987年の広告には260,000円と書いてあるからミニカムの値段は現在と変わらないが、貨幣価値を考慮するなら現在では500,000円コースといった感じだったかもしれない。ちなみに1988年発売のニコンF4のボディ価格は248,000円だった。で、AD360IIは60,000円台だ。MITの収蔵品撮影は、いまだったら間違いなくAD360IIを使う。

価格だけでなく、ストロボに対する人々の思いも時代とともに変わった。私が10代のときようやくバウンスの知識が普及しはじめていたが、小型のストロボはまだ直射が当然で暗い世界を明るく撮影できる喜びだけだった時代だ。まだ「死んだ太陽」説を唱える人もいたくらいなのである。20代で私は写真の世界に本格的に踏み込んで行ったが、まだまだ一般の人にはライティングは遠い世界の話だった。怒涛のようにストロボライティングが普及したのはデジタルカメラ以降のように思う。理由は、露出計はあるもののどこか一発勝負のように思われていたストロボ撮影が、デジタルなら試し撮りがポラロイドより簡単にコストもかからずできるようになったからだろう。実際にはライティングとしては何も変わっていないのだが、気分が楽になったのだ。そして今、ダウンサイジング化が進んでいる。

モノブロックとAD360IIのどちらが使いやすいか、になると一言では言えないがモノブロックの方が楽なところがある。これは大型ストロボは無段階調光なのに対して、AD360IIや小型のストロボは1/3段階のステップ調光である点に感じる。無段階と1/3ステップではやはり違うのだ。また大型ストロボにはモデリングランプがついている。とはいえ、クリップオンストロボを複数台にしたりAD360IIのような機種は、大出力をどこにでも簡単に持ち出せるメリットが計り知れない。ただしひとつ懸念するのは、こうしたバッテリー式大出力ストロボに使われる専用リチウムイオンバッテリーがいつまで供給され続けるかだ。

V860IIのような比較的出力が大きいクリップオンストロボのメリットは、オールインワンパッケージでチューブがケース内に密閉されていてAD360IIより小型である点で、デメリットは基本的に発展性のないオールインワンパッケージゆえ何か仕掛けをしようとすると道具立てが煩雑になる点だ。でも屋外に持ち出すとき多少天候が悪かろうが足元が悪かろうがオールインワンパッケージのメリットによって大助かりになる。つまり可能な限り小さく出力が比較的大きなストロボから、許容範囲のサイズで出力が十分大きなストロボまで安価に揃えられることと、これらで十分な照度となるデジタル撮影で享受できるメリットを生かさない手はない。まだまだ活用範囲が開拓されていないのだから、もっと実験してみたほうがよいだろうと思う。

 

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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