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プロラボ難民地区横浜なんて時代はとうの昔に幕を閉じ、私の写真がデジタルに完全以降してから随分と年月が経過した。なので堀内カラーが内製をやめ現像を下請けに流すだけになった話は人づてに聞いた。このご時世、まあそうなるよね。
ただ正直なところ、大きな感慨はない(小さな感慨も)。デジタルに完全移行したから感慨がないのでなく、同じようなことを写植屋さんの一斉廃業で経験しているから「そうでしたか」くらいの思いなのだ。いまどきは「写植屋さん」とは何か、美大の学生にさえ最初から説明しなくてはならないので、ここでも注釈が必要だろう。DTPの概念が存在しなかった時代、版下はカラス口で線を引き、電算写植(文字を文章として出力した印画紙)を切り貼りしてつくっていた。この文字打ちと出力を行うのが写植屋さんで、今では考えられないだろうが版下入稿の締め切りが迫っていても写植が納品されないのでレイアウトができないなんて事態がしばしばあった。写植屋さんは専用の機械をつかって文字打ちだけでなく文字詰めなんかもしてくれるのだけれど、微調整のためデザイナーは文字ごとばらばらに切って貼り付けたりもした。こういった印刷の文字部分に関わる作業や職能、職種、産業がDTPの登場によってまったく別物になったのだ。
写植とはなにか版下とはなにか、このくらいの歴史というか過去は知っておいてもらいたいけど、いくらそっち方面の人でも若い方が知らないというだけで責めたり馬鹿にしたりする気は毛頭ない。だって私も湿板写真の撮影から現像までのノウハウなんてないし。まずこの時代の中心にあるモノゴトの知識を得た上で、この時代をさらに進めるにふさわしいところまで技能を高めるのが第一なのだし。ただ「現在」は過去から連続したものなので、教養としてひと昔前くらいの技法などは知っておいたほうが伸び代が大きいのは間違いない。私がケミカルな反応で進めるフィルム現像と古典的な焼き付けを嫌というほど行なったことが、デジタルで撮影したり現像する上でとても役立っている。デザインの分野でも同じだろう。
堀内カラーが伝家の宝刀とも言える現像部門を外注するようになったのは、くどくど書くまでもないが、この時代の中心からケミカルなフィルム処理が、より端的に言えばフィルムそのものが消えたということだ。フィルムの現像は産業として成り立たなくなったのだ。産業として成り立たなくなったら即、意味や価値のないものになるわけではない。でも、写真画像(あるいは動画)を扱う上でのフィルムの優位性は無に近いところまで目減りしたのは事実だ。残されたわずかな価値はフィルムを必要としている人それぞれ別のところにあり何ものにも変えがたいのだとしても、時代は逆戻りすることはない。冷たい書き方だとしても、こればかりは仕方ない。いずれ大手のラボだけでなく(あと何年後かわからないが)外注先のラボも店じまいするだろう。フィルムの製造もまた。
絵画の世界では、絵画に求められる実用性が写真に取って代われられた後も、絵の具が製造され続けている。版画の刷り師さんの工房も続いている。こんな感じでフィルムが製造されたり、小規模なラボが存続するかもしれないが、趣味的に関わるには敷居が相当高くなるだろう。DTP登場時の話をもういちどするなら、写植が世の中を席巻する前は活字をひとひとつ拾う活版がほとんど唯一の印刷の手法だった。いまどき活版印刷は趣味的なものとして生き残っているけれど、風合いがどれだけ美しくてもおいそれと発注できるものでも手を出せるものでもなくなっている。電算写植が活版を追いやったように、フィルムは乾板写真を遠い過去に追いやり、どちらも更に新しいものによって駆逐された。ただそれだけのことだ。
ノスタルジーにひたるくらいなら、過去を教養へ、または過去を知識や技能へ高めるほうがよっぽどよい。ポジに限らず、フィルムを用いて撮影し現像し紙焼きにする一切合切を自らのものにしたほうがよい。私はそもそもフィルムにノスタルジーを感じないし、フィルムに対して幻想なんて抱いてないから再び現像・焼き付けの技能を高める気はないけどね(今のところは)。ノスタルジーなんてものは何も生み出さない。実用の分野だけでなく、芸術、趣味いずれにおいても何ひとつ生み出さない。教養や技能へ高められた場合だけ、新たなものを生み出す助けになるのだ。堀内カラーの中の人、かつて中の人だった方々などは複雑な思いかもしれないが、私はこの現実を以上のように受け止めたい。
プロラボよ、あのときはありがとう。
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