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これはworkshop向きの話かと思いつつ。
フィルムのスキャニングと後処理は、小さなフィルムフォーマットからより、大きなフォーマットのほうが圧倒的に楽だ。以前は4×5、8×10を自宅でデジタル化するなど考えられなかったが、フラッドベッド式スキャナーが高度化し実売価格6万円ほどの機種を使えば135(ライカ判)から大判まで外注するのと遜色ない品質でデジタルデータ化できるようになった(遜色ないであって業務用はやはり業務用ではある)。ライカ判しか過去の資産がないとしても将来的にフィルム回帰するかもしれない可能性や、あと一息の性能差に泣かないためにも大判が取り込めるフラグシップ級のスキャナーを買うべきだろう。
自家スキャンのメリットはコストだけではない。業務用スキャナーと比較して何かがやや劣るとしても、自分にとって必要なデータづくりを追求できる点で創造性が高い。自分にとって必要なデータとは応答特性であるとか濃度とかであり、これはフィルムを自家現像するのと似ている。手間暇がかかるけれど、写真はそういうものではないのか。
これまでフィルムをデジタル化してきた経験から、ポジはやはり階調性と色の豊富さでネガに見劣りし良好なデータがつくれない。各チャンネル16bitで記録できるカメラと、そんなものがあるか知らないが8bit以下のカメラの違いと言えば想像していただけるだろうか。「ぜったいダメ」と断言はしないが、どうもポジは好きになれない(昔から)。デジタル撮影しRAW現像を日常的に行っている人ほど共感してもらえるような気がする。
しかしネガだからといってインスタントに良好なデータがつくれる訳でもない。カラーフィルムの銘柄ごと発色傾向やガンマ値が異なり、R、G、B各チャンネルの応答特性が独特だ。これは当たり前の話であって、だからフィルムの銘柄を指名して買い、それぞれに見合う撮影をしていたのだ。とはいえフィルムの向き不向きに合わせて撮影するより、焼き付け時の苦労のほうが大きかったように、やはりR、G、B各チャンネルの特性の違いは大きな壁となって立ちはだかる。もしかしたらスキャナーによっては「○○フィルム──銘柄用設定」のごときものがあるかもしれないが、思い出してもらいたい私たちはロットごとの乳剤番号を気にかけラボが発表する実感度等をチェックしていたはずだ。つまりフィルムの濃度にしろ色味にしろプリセット可能なものと、やはり微調整を要するものがあるのだ。
またカラーならオレンジ、モノクロなら青いフィルムベースの色調、濃度ともに銘柄ごと違いがある。スキャナーとドライバに「透過原稿」「カラーネガ」または「モノクロネガ」の設定をしても、このベース色を完全に取り去れない場合がある。これはもう仕方ないと割り切るほかないだろう。色の各チャンネルごとの応答特性のばらつきがある点を前述したが、データ化した後に「色が変かな? 」と感じたらベース色がかぶっている可能性もまた疑ってみるべきだ。
しかし、こうなると修正と設定のためあまりに作業が煩雑化し「だったら外注のほうが」となりかねない。そこで私は次のようなワークフローを実行している。
1.スキャン。スキャナー推奨値よりやや高いdpiで取り込み。このときシャープネス等のエフェクトはすべてOFF。異論はあるかもしれないが、なるべく取り込みbit数は高く。
2.こうしてつくられたTIFFデータを「Capture One 9」で開く。Capture One 9 は全体、シャドー、中間、ハイライトの色味の傾き、彩度、指定色の明度を可変するインターフェイスがある。また、部分指定した箇所のガンマ値(全体とRGB各色)を変更できる。つまり大きな画面で画像を目視しながら気になる色の不具合を緻密に修正できる。モノクロであれば(カラーでも)、後者を利用し紙焼き時の操作をシミュレーション可能だ。この段階ではゴミ取りやキズ修正は行わない。
3.(2.)を経て「書き出し」したTIFF画像をPhotoShopに持ち込む。ここで修正ツール、スタンプツールなどを用いゴミ取りやキズ修正を行う。スキャナーにこれらを任せると完全に仕事をしないくせに画質が落ちる可能性が高い。現像ソフトでやらないのはPhotoShopの手作業のほうが美しく仕上がるからだ。修正完了後のデータを画像として見て、もし気になる点があればこのままPhotoShopで作業を続行してもよいし、現像ソフトに戻ってもよいだろう。
Fumihiro Kato. © 2016 –
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