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難易度
考察のため難易度の評価はつけません。
(追記 2020.8.31)読むのが面倒な方へ。明瞭度・クラリティーは特定周期の幅内で輝度変化を強調したり曖昧にする機能です。周期がより高周波寄りに設定された機能としてストラクチャ・マイクロコントラストなどと命名された細部の分離感・独立感を強めたり弱めるタイプが用意されている場合もあります。このように考察しています。
ほとんどすべてのRAW現像ソフトに、もやがかったような曖昧な写真の調子にメリハリをつける明瞭度やクラリティー等々の呼び名の機能が実装されている。もちろん自然現象のもやに限らず、明暗(や明暗によって色)が織りなすディティールを強調したいとき、あるいは逆に曖昧にしたいとき明瞭度やクラリティーが使用できることを皆が理解しているはずだ。
明瞭度・クラリティーの効果は一目瞭然だが、なにをどうしているのか、どのような動作なのか具体的に説明している例を私は知らない。私が知らないだけでRAW現像ソフトの教本的なものでは公知の事実かもしれないが、もうご存知のかたは当ページを閉じていただくのがよいだろう。なぜなら、タイトル通りの考察だからだ。
明瞭度・クラリティーはコントラスト増減の機能と似ているが、あきらかに効果が違う。
コントラストの増減とは階調幅の増減で、階調の幅を大きくとって(デジタルでは)暗から明への推移の段階数(ステップ数)を増やしてコントラストを下げるか、幅を小さくとって推移の段階数を減らしてコントラストを上げるかしている。
コントラストを上げる操作をすると、画像の最小と最大の明るさ(もっとも暗い、もっとも明るい値)が変化する。最小と最大だけでなく、暗い部分はもっと暗く、明るい部分はもっと明るくなる。これは見た目だけでなくヒストグラムを観察すれば、どのように変化したか量的に把握できる。階調推移のステップ数を変えていきなり明るさが変わる見た目にしたり、ゆっくり変わる見た目にするとき最小側と最大側の明るさが更に暗い側、明るい側へ詰められた結果こうなるのだろう。
逆にコントラストを下げる操作をした場合は結果もまた逆になる。
いっぽう明瞭度・クラリティーを上げ下げしてもヒストグラムに大きな変化はなく、暗い部分はもっと暗く、明るい部分はもっと明るくなる作用はない。ヒストグラムを見てわかるのは、上げれば各明るさの分布量が増して山が高く描かれ、下げれば山が低く描かれる変化だ。
明瞭度・クラリティーの効き方についてはソフトウエアごと違いがあるが、コントラストの増減との違いは説明した通りだ。
コントラストの増減と違うなら、明瞭度・クラリティーはなにをどうしているのか。
解像度チャートに描かれてるモノサシの目盛りのような細かな線の反復を周波数が高い反復と言う。自然界ではモノサシの目盛りのような均等な反復はほとんど存在しないが、細かな変化がディティールをかたちづくっている。動物の毛並み、布の織り目、人体の皮膚の表面などなどだ。
と同時に、雲の明暗変化、遠景にかすむ山並みと木々、砂の風紋など変化の周波数が低いディティールもある。
これらのうち周期、周波数が比較的低いものからかなり低いものの明暗の対比を強調したり曖昧化するのが明瞭度・クラリティーの機能と言ってよいように思う。このとき画像全体の最小と最大の明るさは変化させない。
モノクロフィルムをスキャニングすると銀塩粒子の粒状感が目立って困ることがある。ボツボツした点の集合体がフィルム感のよさでもあるが、ときには過剰すぎて邪魔になることもある。こうしたデジタル画像に対して明瞭度・クラリティーを下げる操作をすると、ノイズリダクション以上に粒状感が目立たなくなったり、さらに効果を強くすると独特の油を塗ったようなぬめっとした画像になる場合がある。ぬめっとした画像になるのはデジタルカメラで撮影した画像も同じだ。
邪魔に感じるくらいの粒状感なのだから、明暗の変化の周波数が高いとは言えない。明瞭度・クラリティーを下げる操作で粒子が目立たなくなるのは、明暗の対比が曖昧化されたからだ。
こうした大きな銀塩粒子の粒状感から空の雲の調子まで、変化の周波数が低いディティールを強調したり曖昧にするのが説明してきたように明瞭度・クラリティーの機能であり、理屈は別として誰もが操作するうえで目的にしている点と言って差し支えない。
Capture Oneでは旧[構成]、現[ストラクチャ]、他のソフトではマイクロコントラスト、ディティール等々の呼び名をつけられている機能は、シャープ感や物体個々の独立感を際立たせる効果がある。画像中ではっきりしない看板の文字、遠方にある手すりの構造、ニット地の毛羽立ちなどの分離をよくしてはっきりさせる効果だ。
これらはアンシャープマスクに似ているし、アンシャープマスク効果の元になる物体の輪郭外側の高輝度帯(白い縁取り)もつくられるが、物体個々の際立ち感という点で同じものではないのがわかる。
これもまた考察にすぎないが、明瞭度・クラリティーが変化の周波数が比較的低いものからかなり低いものへ作用するのに対して、周波数が高いものと極端な明暗比がある部分に作用するようにした機能ではないだろうか。ではどのあたりの変化の周波数から作用するのかとなるとソフトウエアごと違いがあるだろうが、複数のソフトウエアを使ったうえでの経験からすると前述の目立つ銀塩粒子くらいの画像中のサイズのものにも作用しているのが実感される。フィルムをスキャニングしてデータをつくる人はあまりいないかもしれないが、ストラクチャ・マイクロコントラストなどは荒れた粒子感をさらに強調しがちだ。
このあたり明瞭度・クラリティーとかぶる部分があるが、明瞭度・クラリティーよりもっと変化の周波数が高いものが対象としても特に困ることはないし、誰もがわかったうえで使い分けしているはずだ。
アンシャープマスクは名前の通り元画像をぼかした画像を用意したうえで元画像との差の絶対値を求め、ボケのはみ出し部分を輪郭と認識させる手法をとっている。こうした手順と異なる方法でストラクチャ・マイクロコントラストなど分離感、個別感の強調をしている。
使い分けできているのだから理屈はわからなくてもよいという割り切りもある。しかし明瞭度・クラリティー、ストラクチャ・マイクロコントラストのおおよその理屈を把握しておくと、人それぞれに効果のかけかたや他の機能との合わせ技でメリットが生じるだろう。自分独自の作風に寄与するだけでなく、撮影仕事の諸問題を解決するうえで考える機会を持って損することはないと思われる。
© Fumihiro Kato.
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