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デジタル撮影がごく普通の写真撮影になった現在、デジタル固有の操作系、表示系に多くの人が既に慣れ親しんでいると思う。ヒストグラムもフィルムを使用していた時代には無縁だったもので、グラフ形式であるがゆえに親しみやすいのか頼りにしている人もまた多そうだ。
しかし「ヒストグラムとは何か」「ヒストグラムをどのように見たら何がわかるのか」をちゃんと説明できる人は少ない。
ヒストグラムとはデジタル写真に限らず[分布]を示すグラフである。
たとえば……[A町の住民の年齢分布]をヒストグラムで表現可能だ。「A町には0歳から100歳までの住民がいる。0歳は16人、1歳は10人、2歳は19人……99歳は0人、100歳は2人」であるなら、年齢を横軸、人数を縦軸にとるとデジタル写真でおなじみのヒストグラムそっくりのグラフになる。
デジタル写真のヒストグラムは[明るさの分布]を示している。
光がない暗黒を0、最大の明るさを255として、[A町の住民の年齢分布]のように「この写真(あるいは画角内)には明るさ0が10、明るさ1が12、明るさ3が5……明るさ254が30、明るさ255が10」などと、明るさの値を横軸、量を縦軸にとったのがデジタル写真で使用されるヒストグラムだ。

ヒストグラムを見てわかることは「明るさ(輝度)がどのような量で分布しているか」であって、露出が適正かどうかではない。なぜなら、ヒストグラムには写真内・画角内のどの位置の輝度であるかを示す情報はないので、特定の場所の露光量が適切か不適切かを問う「適正露光」か否かは知りようがないからだ。
屋外でポートレイトを撮影したとする。適正な露光量にしたいのは人物で、人物を意図通りの明るさ(輝度)にすれば「適正露光」と言える。このとき背景にごくわずか白とび、黒つぶれの領域があっても、背景に人物の輝度とは異なる明るさの領域があっても、人物さえ意図通りなら「適正露光」だ。
また人物に対しての意図通りの明るさとは、露出計が示す出目そのままの値のことか、やや明るく、やや暗く、より明るく、より暗くする意図なのかケースバイケースだ。
ヒストグラムからこれらを読み取り適正か否か知ることは不可能なのだ。

この理屈がわからない場合は、もう一度A町の年齢分布を思い出してもらいたい。A町の年齢分布を示すヒストグラムから「A町の人は健康か不健康か」という漠然とした問いに答えられるだろうか。年齢分布を示すグラフには個人の健康状態も、集団としての健康状態も示す情報はないので、この問いに答えるのは不可能だ。
特定の年齢で人口が著しく少ない場合、このような極端な現象は病気の流行が原因かもしれないが、社会的要因で生じたのかもしれない。わかることは「特定の年齢で人口が著しく少ない」にすぎない。
デジタル写真や画像のヒストグラムに話を戻せば、ヒストグラムを見ても「適正露光」か否かはわからないが、特定の明るさ(輝度)の領域の量が想定より少なすぎないか多すぎないか、飽和して表現しきれなくなっている領域(白とび)が多すぎないかなどは一目瞭然で判断できる訳だ。
ではヒストグラムはあまり使い途がないのか。いや、おおいに使い途がある便利な情報を把握できる表示様式だ。
まず撮影段階。
白とび、黒つぶれを避けなければならないとき、ヒストグラムを見て大雑把なりに明るさ(暗さ)が飽和していないかどうか確認できる。これだけでも露出チェックにインスタントフィルム(ポラ)で試し撮りをしていたフィルム時代を考えると実にお手軽になった。
より踏み込んで使うなら、撮影の計画段階で背景などを特定の輝度の範囲に収めたいと意図がはっきりしている場合に有効だ。ヒストグラムには「どの位置がどの輝度か」示す情報がないのは前述の通りだが、撮影しようとしている人にとっては目の前の被写体と前景・背景の関係が把握できているので、輝度の分布を見てどの場所・どの物体の影響が現れているか推量可能な場合がある。
風景等では白く輝く雲、暗く落ち込んでいる影などの存在。よりはっきりわかりやすいのはスタジオでライティング等をつくり込んだ場合で、被写体と背景等が単純化されているし恣意的に照明しているのだからヒストグラムの表示結果の因果関係がわかりやすい。
一例を紹介する。背景を特定の明るさへオーバー気味にしたかったとする。こうしたときあらかじめ単体露出計で背景がどのように描写されるか露光チェックするのが普通だ。こうしたチェックをグラフで検証するのにヒストグラムは向いているし、ヒストグラム上の分布の立ち上がりかたで照明ムラの程度も推察できる。

これはライティングの精度と効果を量の概念で把握できるのを意味するし、撮影場所、撮影時期が異なりながら常に同じ表現をしたい場合にもチェック項目として有効だ。
たとえばカタログ写真では背景の濃度を常に一定にしたいケースがある。背景とライトをつくりあげてモデルが入れ替わり立ち替わりしてすべてのカットを撮影するならよいが、時と場所を違えて撮影を何回かに分けなければならないとき、しかもスタジオのように条件をそっくり揃えられない空間を使わざるを得ないとき、前述のようにヒストグラムをチェックすると撮影の精度が容易にあがる。
テザー撮影をしてPC側でヒストグラムを表示させ、さらに読み込んだデータによる画像上で各箇所の輝度の数値をチェックすればなお精度を上げられる。
この例(分布のピークとばらつき。背景を一定してモデルを撮影するカタログ写真)に限らず、輝度の分布を統計的に把握して客観的な値から露光値やライティングの比率を決めることができるのだ。
まず現像段階。
ヒストグラムは明るさ(輝度)の分布を示している。画像の見た目の傾向は、輝度の分布のしかた(ばらつき、ピークの描き方)と相関している。
ほとんど暗部側に分布が偏っているなら、画像は暗くダークな調子だろう。明部に偏っているなら、画像は明るくハイキーな調子だろう。中間調に著しく偏っているなら、もしかしたらメリハリが弱い調子かもしれない。
暗部側と明部側にふたつ山(ピーク)があり中間調の分布量が少なければ、明暗が際立ち、場合によって極端に分離した調子だろう。
ただし、画像中の何に目を引かれるか、何を強調した構図なのかといった違いによって、人は見たいものを見たいように見るため上記したような印象を受けない場合も多い。
なのだが、画像の見た目の傾向=輝度分布の傾向であるのは間違いないので、現像前のデータと現像操作によって変化した画像がどのような関係にあるのか、制作している画像はどのような傾向を帯びているか客観視するのにヒストグラムは役立つ。
「このような画像をつくりたい」という狙いに対して、現状でどのような画像なのかをヒストグラムが示している。
ヒストグラムが描く輝度分布の線形を過去につくった画像そっくり再現しようとRAW現像するのは、本末転倒であり画像の見た目をチェックしながら意図を反映させるのが本道だろう。
だが、同じテーマで写真を制作し続けているうちに表現がどんどん過剰になって行った経験はないだろうか。たとえばハイキーな作風で何枚もシリーズものを制作しているうち、当初の表現から離れてハイキーさを追い求めるようになっていた等々だ。
また前述したカタログなどの仕事で表現の統一が必要な場合のRAW現像では、撮って出しに近い現像だけでなく、それなりに凝った操作が必要な場合もあり、操作する項目が複雑化することで「表現の統一」が難しくなったりする。
このような場合、ヒストグラムをチェックし輝度の分布を確認しつつ作業すれば客観的な現像操作が可能になる。
「このような画像をつくりたい」のに袋小路にはまってしまったとか、何をどう操作すると望み通りになるのか、ヒストグラムを読むのに慣れると輝度分布の線形を見るだけで解決策が導きだされる。
いずれにしても「この線形のときこのように操作する」とインスタントな答えは存在しない。「……このようにする」と教えてくれる人がいるかもしれないが、その場では画像を整えられても次回以降応用がまったくきかない。こればかりはヒストグラムと画像の輝度分布の実際を自ら経験しなければならないだろう。
現像時に明るさを減らす、増やす操作をすれば、それぞれ暗部、明部に輝度の分布が偏って行く。コントラストを低くすれば階調幅が広く、高くすれば階調幅が狭くなり、階調幅を広くとれば輝度の分布はばらつき、狭くとれば輝度の分布はまとめられる。

トーンカーブをS字、逆S字にすれば、それぞれ高輝度側と低輝度側に分布のピークが二分され偏ることで明暗の比が大きくなったり逆に暗部が持ち上げられ明部が抑制され明暗の比が小さくなる。
多くの人がこうした操作とヒストグラムの変化を経験しているはずだが、もし直感的に理解できないようなら実際に操作して体験することをお勧めする。論より証拠一目瞭然だ。

© Fumihiro Kato.
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