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現像ソフトDXO PhotoLabがDXO PhotoLab 2へバージョンアップした。以前のPhotoLab 1から大きく変わったところはないので2に移行するか迷っている人もいるのではないだろうか。私が主として使用する現像ソフトはCapture OneでDXO PhotoLabはワークフローの一部に位置するにすぎないのだが、あると重宝なので念のためPhotoLabを2へバージョンアップした。マスク処理はCapture Oneで行うのでPhotoLabの同機能U POINTテクノロジーは期待していなかったが1と比較して動作が軽くなったように感じる。
さて本題だが、私はDXO PhotoLabをDNG書き出し用ソフトとして使用している。カメラから出力したRAWデータをDXO PhotoLabで開き、DXOが得意としているカメラ・レンズ補正、パース・水平補正などを必要なだけ与え、この状態をDNG形式のRAWファイルに書き出すのだ。そしてDNGファイルをCapture Oneで開き本現像をする。もちろん、このような手間をかけないケースのほうが多いのだが。
Capture Oneは任意の部分に任意の変化を与える調整機能が微に入り細に入り優れている。こうした調整機能は他の現像ソフトにはないものなので、どうしてもCapture Oneを主軸に据えなくてはならない。いっぽうDXO PhotoLabは独自のカメラプロファイルとレンズプロファイルを使ってさまざまな収差、歪曲、ノイズなどを補正して平均的な画像をつくるのに長けている。PhotoLabで収差、歪曲、ノイズ、パース補正をしてDNGで書き出し、このRAWデータをCapture Oneで現像すると工程がむしろ単純化できるのだ。
ただしDXO PhotoLabの使い方には若干の工夫が必要になる。
人それぞれ好みの調子が異なるので、私の意見が普遍的絶対的なものではないと断っておく。私がDXO PhotoLabに抱く不満は、色調とクリアビューと称するクラリティー(明瞭度)に関する機能のどぎつさ、ノイズリダクションが時折のっぺりした調子になるところだ。ノイズリダクションについては、私がノイズを許容する傾向が強いためきれいに整えられると前述のように感じるのかもしれない。色調に関しては、どぎついというよりクリアーすぎると言い換えたほうがよいかもしれない。Capture Oneを使い慣れていると原色の出方にちょっと驚く。色の渋みが足りないと思う。調整機能についても、 PhotoLabの「PhotoLabが提唱する正確さが何よりも勝る」的な個性または教条主義が鼻につく。
クリアビューはDXO PhotoLabがウリにしている機能で、ヘイズや雪による光の乱反射があるような状況で曖昧になりがちな物体の輪郭や面をはっきり描画させるものだ。他の現像ソフトでクラリティー(明瞭度)と呼んでいるものをワンクリックで適用する自動化、効果の量を微調整できるマニュアルと2つの使い方ができる。これと併せてマイクロコントラストと呼ばれる、Capture Oneで「構成」と呼ぶ機能にほぼ等しいものを組み合わせることで画像各部の見た目を際立たせる。これそのものはよくできでいて、Capture Oneで同様の機能を使った場合に注意深く操作しないと物体の周囲に縁取り状のものが出るケースがあるのに対して不自然なものが描画されることが少ない。だが、あまりにクリアになるのでこの点で不自然とも言える。
では圧倒的にポジティブな印象の機能はなにかと言えば、レンズの歪曲、周辺減光の完全な補正と水平出しだ。レンズ関連の補正はプロファイルを元にしているのは前述の通りで、プロファイルをつくるデータ取りのレンズ分析を経て、DXO MARKのレンズデータベースが公開されている。このプロファイルを当てるのがデフォルト、ここから現像がはじまるソフトなのだ。水平出しについては他のソフトでも慣れれば0.1度未満でも見た目でほぼ適切に手動処理できるが、水平の基準がわかりにくい被写体であったり後述する要素がからみあうと、ワンタッチで効果を得られるDXO PhotoLabの機能をありがたく感じる。
DXO PhotoLabでは水平出しを4つの方法で適用できる。1.オートマチックに水平を検出させる方法 2.水平であるべき箇所にラインの2点を合わせて水平を決める方法 3.オートマチックにパース補正を行い水平を検出させる方法 4.複数のポイントを指定してパース補正を行い水平を決める方法 である。オートマチックに補正する場合はAIが画像内に水平・垂直であるべきものを見つけられず補正できないことがある。またAIに自動補正させると、本来傾斜しているものを水平にしようとして誤った判断をする場合がある。なのであらかじめ自動化するか手入力するか決めてツールを選択する。
自動化された水平を補正であっても成功率は高いほうだ。水平であるべき箇所にラインの2点を合わせて水平を決める方法も、他のソフトより気が利いていると感じる。なぜ気が利いているかと言えばUIがよくできているだけでなく、レンズプロファイルを元にした歪曲補正がデフォルトで適用されているからだ。直線が曲線になる歪曲した画像は、歪曲の程度によって傾きを見誤らせる。たとえば建築物が歪曲で凸型円弧状に描写されていたとして、任意の2点を選択する際に凸の山部と谷部を選んだとしたら、処理結果はとうぜん水平にならず傾きが生じる。水平を出す作業は自ずと垂直にも関係し、ひいてはパースによる形状の歪みにも関係する。パース補正は単に俯角仰角だけでなく左右角による遠近感の誇張を消せるが、正確に補正できたなら水平・垂直も正しくなっている。DXO PhotoLabのレンズプロファイルを元にした歪曲補正、水平補正、パース補正の三者一体感のあるところは実に理にかなっている。
具体的な話をしよう。私は海景と題したシリーズを撮影している。海景では海の水平線が常に問題になる。多少足元が傾いていても、首に角度がついていても人間は水平線を文字通り水平と認知する。水平線が傾いて見える状態または傾いて撮影された写真は、傾いていることで何らかのインパクトを持っているがインパクトには意味が生じるし、中途半端な傾きは落ち着きのなさに通じる。余計な意味が生じるのを嫌うなら水平線はきっちり水平にしたい。と同時に、地球は球形(正確には赤道方向に膨らんだ球形)なので水平線は直線ではなく円弧状の曲線である。50mm標準レンズでさえ水平線の凸は気になり、凸が消えて直線化するのは85mmくらいの中望遠の画角で水平線を切り取った場合だ。超広角で広い範囲の水平線を撮影するとカメラの姿勢を厳密に調整しても地球が丸いのがわかる。これはもちろんわずかな凸だし、地球が球である以上どうしようもないのだが、意図によってはきれいな直線にしたい場合がある。
カメラの姿勢を調整する際に水準器を使うが、外付けのものはもちろん内蔵された電子式の水準器であっても、水平垂直が合致したと表示された状態でわずかな誤差が生じている。そこまで神経質になるなよと言いたい人もいるだろうが、超広角を使用する際はわずかな誤差による水平の狂いが写真に微妙かつ確実に妙な雰囲気を与える。また俯角仰角をつけずに撮影したいのだが、アングルを決めるうえで選択の余地なく上下方向の角度をつけざるを得ない場合がある。こうなると水平線はあきらかな凸または凹に描写される。これは超広角に限らず中望遠以下の画角のレンズで生じる。数ピクセルの傾き、同凹凸であっても人は画像を見てちゃんと違いを感じる。海景のような自然界を相手にする場合は「神経質になるなよ」かもしれないが、建築物を正確(というかできる限り理想的に)撮影しなければならない際は無視できないポイントだ。
水平線が傾いているときCapture Oneなら角度入力(直感的にスライダーを操作しても可能)で直すが、直感的に0.1度の違いがほぼわかるとしても自動化できるならAIに任せたほうが便利だ。ここに歪曲やパースの誇張が複雑に絡み合っていると、なおのことAIに理想像にしてもらったほうがよいのは前述の通りだ。そこでDXO PhotoLabでトリートメントしてDNGで保存し、これをCapture Oneで現像するワークフローを採用する流れを取る場合がある。DXO PhotoLabも完全ではないのでうまく余計な要素を補正しきれない場合もあるが、これは画像のサムネイルを見た段階でたいがいは判断がつく。
DNGはRAWデータである。DXO PhotoLabはカメラメーカーや機種固有のRAWデータを人間が理解できる画像としてディスプレイに表示しながら別のRAW形式に書き出す。RAWデータと他の画像形式の違いは、RAWはカメラのセンサー1ピクセルごと色と濃度が決定されていない状態(人間には画像と認知されないもの)のままであるのに対して、画像データは見たままそのままで1ピクセルごと色と濃度と形を含めて画像が画像として認知できる状態になっている。このためRAWデータは現像時に可変できる余地が大きく、可変する際に劣化がほとんどない点がメリットになる。もしカメラ固有のRAWデータをそのままDNGに変換したいならコンバータがAdobeから配布されているし、こうして変換したデータはデータ形式が違うだけである。DXO PhotoLabで補正した後にDNGで書き出すと、あたかもカメラ固有の個性やレンズの収差が消えたうえで、その他が補正された状態のRAWデータになる。
DXO PhotoLabはカメラとレンズに対する独自のプロファイルを利用して画像を整えるので、たとえ解釈できるRAW形式であっても未知の組み合わせでは現像できなかったり、完全な補正ができない場合がある。たとえばAdobe LRでパノラマ合成しDNGで書き出したファイルを開こうとしても解釈できないので開けないといったケースだ。またPhotoLabが書き出したDNGはXMPファイルが同時に別ファイルとして書き出されても、カメラの機種、レンズ名などは無視されるため他の現像ソフトでDNGを開いたときこちら側ではどのカメラ、どのレンズで撮影したものか未知のものとして扱われる。これはPhotoLabで完全に近い補正を施したのだから、もとのカメラ、もとのレンズによる画像とは違うのであってあたりまえだ。(ただしCapture Oneが競合製品であるペンタックス、ハッセルの中判のRAWを敢えて読み込めなくしている点は克服できず、どこで判別しているか不明だがPhotoLabでDNGに変換してもやはり開くことができない。なおフジの中判は最新のCaptere Oneで対応している)
DXO PhotoLabで補正後のDNGファイルに、他の現像ソフトが持っているカメラ、レンズのプロファイルを当てる必要はないのでこれはこれで構わないだろう。他の現像ソフトが持っているプロファイルが必要な場合は、そもそも非破壊プロセスでPhotoLabがRAWデータを扱っているのだから元のRAWファイルを使えばよいだけだ。
歪曲、パース、水平、周辺減光、ノイズをDXO PhotoLabで理想的な状態にするとカメラやレンズ、撮影時の手グセといった個性が消える。このときあたりまえだがPhotoLabのアプリケーションソフトとしての個性がDNGファイルに付加される。あたかもDXO PhotoLabがカメラそのものレンズそのものになったようなものだ。冒頭に書いたが、こうしたPhotoLab的な個性には好き好きがあるだろうし、あとでCapture Oneで現像するとはいえPhotoLabの個性を私は全面的に支持できるわけではない。なので自動化されている部分を敢えてOFFにしたり、補正効果を与える場合も過剰に感じるものは弱めにしている。
現像ソフトの個性への好みだけでなく、ワークフローもまた人それぞれだし、何を求めて現像するかも大きく異なっている。したがって私のワークフローが他の人にとって有益とは限らない。だがアイデアのひとつとして使える可能性もあるので紹介した。ここで紹介したワークフロー以外では、ある程度まとまった数の画像を、主観的な現像を必要としない場合にCapture OneではなくDXO PhotoLabで一気に現像するやりかたを私は採用している。色彩やトーンの表現はCapture Oneのほうが圧倒的に好みだが、ここを多少工夫したうえでカメラやレンズの個性(もしくはネガティブな要素)を消し去ったほうがよい場合が数を現像するケースで多いからでもある。
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