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連休中の「おいちゃん」との会話で説明した雲のトーンの出し方について操作例を示そうと思う。これは雲に限った操作ではなく、あらゆるものの調子に適応できるものだ。雲を例にしたのは前述の記事で触れたことと、雲は実際に撮影して練習するのに最適だからである。
なお今回はとことんトーンを出して見た目上の変化を大きくする操作だが、内容を理解したなら様々な効果を得られるようになる。
なお作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出している点を注意してもらいたい。
1.元データの調子
曇天での撮影だ。ここに示す画像は実際の天候の見た目をかなり的確に記録している。ただし、実際の現地での明るさは画像よりもやや暗い。曇り空で、雲は単調に見える。
この状態の操作パネルを含むスクリーンショットを掲載する。(クリックで拡大可)
ヒストグラムは最大の明るさがまったくなく、最小の明るさもない状態を示している。つまり写真画像を見たままの眠い調子だ。
2.初手の操作
あくまでも私の方法論に過ぎないが、後々の操作を考え、コントラストを下げ、カーブを逆S字にしている。このため、ヒストグラムを見るとますます中間調の狭い幅だけに明るさ(輝度)が分布する状態になった。(クリックで拡大可)
今回はほとんど抑揚のない雲について、とことんトーンを出すことを目的としている。上の状態のままでは目的と一致していないように思われるかもしれないが、逆S字で変化をなだらかにした中間調こそ雲の明暗の抑揚が詰まっている範囲なので、この部分の明暗差をなだらかにした(グラデーションの幅を広げた)ことで、後の作業でトーンが緻密に(さらにどのような状態にも)操作できることになる。失ったものをつくることができないのが写真で、もし不要ならあとで捨てればよいのが写真である。コントラストを下げたのは、この明るさの領域を幅広く取るためだ。ここで明暗差をつけようとS字カーブにしたりコントラストを上げると、なだらかに変化する雲の明暗差がなくなり暗さから明るさへいきなりトーンがジャンプする状態になる。これはトーンが豊富な画像とは言えない(ただし目的がトーンのジャンプなら問題はない)。
2.トーンカーブを探る操作
作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
(1)でのトーンの応答性がはたして最善か探る操作をする。雲の階調が集中している「中間調」をなだらかに変化させるカーブを前段階で施したが、雲がつくるグラデーションの実態に合っているか、これからつくる画像に合っているか、トーンカーブの描き方を変えて適切な値を求めるのだ。以下、操作パネルのUIを含む画像はクリックで拡大できる。
A.
まだ完成形ではないので最終的にアウトプットしたい画像、あるいはこの後の操作をしやすくする状態のカーブを探し出せばよい。今回は雲のトーンをとことん出す目的のため、Bを採用することにした。
ここでBのカーブをよく見てもらいたい。中間調でも暗い部分から平坦になり、中間調の明るい部分へは速やかに上昇するカーブだ。ただし、元の明るさより暗い部分をカーブは通過している。これが意味するところを考えてもらいたい。
BはAよりも雲の明暗がはっきりしていると同時に、だからといって暗くつぶれがちになっていたり明るく飛んだ箇所がない。
3.基本形をレベル操作でつくる
レベル操作とは、暗さから明るさまでの輝度の分布を再マッピング(再構築)する操作だ。この操作は一部の現像ソフトにのみ実装されているもので、実装されていないソフトでは効果の内容はまったく違うが「コントラスト」「露出」「明るさ」とモノクロなら後述するフィルター効果で見た目上だけ近づける操作をすることになる。
レベル操作をまず言葉で説明して、その後に実例を示す。
このとき使用するUIには、元画像のヒストグラムが表示されている。ここでヒストグラムとは何か説明しておこう。ヒストグラムとは分布を示すグラフだ。画像を扱う場合は、明るさ(輝度)の分布量を示している。分布については「ある集団の年齢分布」と言えばわかりやすいだろう。「ある県の0歳は何人、1歳は何人……100歳は何人、101歳は何人」と年齢ごとの人数を一覧表示するグラフをつくるとヒストグラムになる。画像では「この画像内の0の明るさは示すドットの数はX個……255の明るさを示すドットの数はY個」とグラフ化される。
最も暗い輝度0から最も明るい輝度255までの間に、様々な明るさと明るさそれぞれの量があって画像はできあがっている。(1)で示したヒストグラムがまさに明るさの分布量を示していた。ヒストグラムは横軸が最も暗い輝度0から最も明るい輝度255を示し、縦軸はそれぞれの明るさが画像中にどれだけあるかを示している。山が高いところは、その明るさの値が画像中に多いことを示している。
「暗さから明るさの分布を再マッピングする」とは、だ。今回の画像では、明るさの最大値255は存在していない。中間調の明るさの位置が、この画像でもっとも明るかった。だから、目を引く明るさがなく眠い画像なのだ。この画像の中間調のもっとも明るい部分を、最大の明るさ255にするように全体の明るさを置き換えるなら、原理的には眠さがなくなることになる。中間調のもっとも明るい部分だけを255に位置づけるのではなく、それ以下の明るさについても明るい側にスライドさせるのが、このレベル操作の例だ。わかりやすいように「化粧下地」をつくる途中の状態=コントラストだけ低くした段階での操作を示した。実際の手順では(1)のトーンカーブを施す前に行っている。この手順については、この(3)の最後に説明する。
まず、中間調のもっとも明るい部分を255の明るさ最大値にしてみた。この操作で、真ん中の明るさの位置は暗い側に自動的にスライドしている。この操作によってヒストグラムは、値255からはじまるもの変わった。ヒストグラム上の赤、青、緑の線は、波長ごとのヒストグラムだ。青が、明るい部分で顕著に分布しているのは、この画像の明るい部分は「空」で青の波長成分が多いからである。
次に示すのは、(2)で採用したトーンカーブに先ほどのレベル調整を加えた状態だ。作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
次に自動的にスライドした明るさの真ん中の位置を、移動量を探りながら明るい側にスライドさせた。明るさの真ん中が右=明るい側に移動すると、暗い領域側にトーンの分布が増える。UIのグラフを見たまま解釈すれば、明るい側が詰まって、暗い側が幅広くなったとうことだ。ヒストグラムを見ると、この状態がどのような明るさの分布か容易に理解できる。
この操作の目的は、雲に限って言えば、画像の中心近くにある明るい雲をはっきり明るく(明るい部分を255の明るさ最大値に)して、他の部分は暗い側に明るさを移動させて、めりはりはあるがトーンが損なわれない状態をつくったと言える。この結果、画像の中心近くにある明るい雲だけでなく画面右側の山の上あたりの雲も明るくなって、そこに点在している暗い雲との対比がはっきりした。これだけでも、のっぺりした元画像の雲とはかなり違う様相になっている。
(1)からここまでの作業を、私は「化粧下地をつくる」と呼んでいる。化粧下地の目的と効果は、この先で続ける色についての作業あるいはモノクロ化、マスクを切って部分調整する作業、さまざまな操作の最終段階としての総合的な微調整をするのが容易だったり効果的な準備段階だからだ。
本来の意味の化粧下地は、ファンデーションを整え、シャドーやチークを入れるための下地づくりだ。化粧下地そのものではメイクとは呼べないかもしれないが、いきなりシャドーやチークを塗ったのではきれいな仕上がりが期待できない。つまり、こういう意味の操作をここまでやったことになる。
操作はカーブが先か、トーン(明るさの分布の仕方を変える)が先が、コントラストの変更が先かだが、もっとも操作しやすい、もっとも基本的なものだと思うものから手をつければよいと思う。今回は説明のためここまでのような順で説明したが、私はまずカーブを操作してからコントラスト、最後にカーブという手順を取っている。しかし、撮影時の調子次第では最初にトーンを整えることもある。
4.色の操作、モノクロ化の操作
今回はトーンをとことん出した雲が目的なので、トーンの在り方が端的にわかるモノクロ化に作業を進める。ここまでの操作の意味がわかったならカラーの操作は特に悩むものではないだろうし、カラーの操作は別の知識が必要なので話を複雑化させないため機会を改め説明したいと思う。
(3)の状態から、フィルター効果を適応してモノクロ化する。空はシアンと青で明暗が形作られていることから、より強い明暗さを生むためシアンと青をやや暗めに操作した。同種の効果を色に頼らず行うなら、トーンの明るさの最小値をスライドさせ、元画像の曖昧な暗さの位置を明るさの最小値0にしてもよい。やりやすい方法を採用すればよいが、カラーフィルター効果はどの現像ソフトにも実装されているし、任意の色に適応される使い勝手がある。作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
Capture Oneには「colorバランス」と名付けられた操作項目があり、マスター(画像全体・基本)、シャドー、中間調、ハイライトの色相と明るさをコントロールすることができる。モノクロにしたときシャドー、中間調、ハイライトを操作すると、モノクロ画像に色のついたフィルターを乗せたように色づくだけなので、ここでは元画像のカラーバランスを操作するマスターを使用した。この操作はかなり劇的なので、必要なときだけ使用すればよいだろう。この他Capture Oneでは、全体のカラーバランスと色かぶりを変えるだけでなく、マスク指定した場所ごとのカラーバランスと色被りを変更でき、これもまたフルカラー時だけでなくモノクロ化したときも使用できる。モノクロ化した際にこうした色のバランスを変えると、コントラスト等の操作をせず明暗の状態を変更することが可能だ。以下はモノクロ化を一旦解除して、フルカラーの状態でどうなっているかを示した。
そして上記操作のまま、またモノクロ化すると以下のようになっている。
この状態は明らかにおかしい。おかしい状態を面白いと評価するならこれでよいが、彩度の上げ幅が過剰なためこのようになった。だが、このことで彩度のコントロールをモノクロでも使用できるのがわかるだろう。なぜ、このようになったかと言えば、水平線に近い空はもともとトーンが豊かではなく一様な明度だったからだ。さらに、ここまでの処理で水平線に近い空のトーンを最大限豊かにする方針を持って操作してこなかった。なので、画面中央近くにある太陽の光が円周状に減衰する様子が強調され、もともと暗かった水平線近くに凹型の変な暗がりができたのだ。今回は、水平線と画面上端との中間にある雲の様相に注目してトーンの出方を検討した。もし水平線近くのトーンを最大限出そうとしたら、中間の位置にある雲の描写はここまで緻密に整えられなかっただろう。
また拡大すると、電線と電柱に白い縁取りまで発生している。これは色フィルター効果を補色関係で反対側に大きく作用させたときや、前述の操作のように彩度を上げた場合に生じる現象だ。特に輝度の差が大きいとき生じやすい。これは元の画像にあった大きな輝度差が接するところに生じる光の縁取りが原因だったり、シャープネス等による縁取りが悪化の原因になるものだ。
そこで、次のような状態に整え直した。雲の描画とともに、山の描画も変わっている。こうした部分ごとの調整をマスクを設定して変更することもできるし、今回の場合も雲を整えた後にマスクで山や陸地の調整をしてもよいが、できればマスクを複雑化したくないのでひとつの調整で異なる場所も最適化できる状態にするのがベストだ。作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
彩度は+1、明るさは+17、レベルの最大の値を元画像の228に適用、中間値は-0.53だ。
5.仕上げ
作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
ここまでの可変要素を画像を見ながら微調整して行く。以下の画像の変化とともにヒストグラムの変化を見てもらいたい。彩度を再び変えたり、レベルを調整し直している。また明瞭度も操作している。明瞭度を変えるだけでヒストグラムの状態が変わる点も注意してもらいたいところだ。どれが正解ということはないので、このように調整しながら好みの状態にすればよいだろう。実際の画像づくりでは、このとき雲以外の要素の明るさや表現も検討することになる。
6.最終形の例
作業の効果を示す以下の画像は、操作の意図を反映させるため効果を大げさに出しています。
もう一度、元画像を掲載する。
今回の目的は、とことん雲のトーンを出し切ることにあった。したがって他の要素については成り行き仕上げだ。前述のようにマスクを使って個別に調整してもよいし、雲と同時に他の部分にも注目しながらバランスを取って各要素を操作してもよいだろう。また、ここに示した最終形は「これでなければならない」とか「これが美しい」といったお手本ではない。あくまでも、雲の見かけを変える実験にすぎない。
だから、雲全体をもっと明るく仕上げる、雲の明るい場所の輝度を飽和させて真っ白にする、雲の立体感をもっと別の表現にするなど、ここまでの過程で任意の操作をすべきだろう。「化粧下地」と私が呼んでいる過程での画像のつくり方次第だけでも、また別の表現になる可能性がある。またすべての操作をここに書いた通りに書いた手順のまま行う必要はない。キモとなるのは、トーンカーブとトーンの調整であって、必要に応じて必要量だけ操作すればよいのだ。
Fumihiro Kato. © 2018 –
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