80年代のレンズ、フィルムそして現在のスキャニング

ギャラリーに新作をあげる作業の流れから、過去に撮影した膨大なフィルム群の一部を整理することになった。これまでにスキャニングしてデジタル化したカットが重複しているが、品質に満足いかなかったものは再度作業をやりなおした。またかつて捨てカットに分類し、記憶からも抜け落ちていたカットのなかに下手くそではあるけれど興味深いものがあり今回は一手間かけて画像化した。

これらデジタル化したカットはすべて1980年代半ばのもので、個人史としてはドタバタ期のものだ。撮影アシスタントから始まり今から考えると奢りの極致とはいえ仕事をもらっていた時期かつ、若輩者ならではのすったもんだを経験した時代である。機材はMamiya RB67、同 C330、Minolta XD、同 X700、Canon F-1、同 new F-1を使用していた。いずれもレンズは純正。カメラの導入時期順としては、XD、X700、C330、RB67、new F-1(と同時にMinoltaはほぼ引退)、 F-1である。Canon F-1と new F-1が発売期と逆になっているのは、いろいろあってMinoltaでは足りないものがあってnew F-1でCanonにシステムごと変えたのはよいものの、支払いを待ってフィルムやら印画紙やら薬剤やら機材を買っては仕事をもらっての自転車操業状態でライカ判カメラが2台必要なのだが新品のnew F-1は買えなかった事情による。

で、若気の至りのさまざまな記憶や撮影にまつわる拙さについて思うことが多く貴重な体験をコンテンツのデジタル化作業で感じられ得難い体験になった。また当時の機材について、ようやく客観視できたり、デジタル化の恩恵について感じるものが少なくなかった。

作業はスキャニング、Photoshopでの簡易的なトリートメント、Capture Oneでの調整と完成形づくり、Photoshopでの最終状態づくりといった手順で行った。まずスキャニングだがフィルムスキャナーを持ってはいるが、明らかに時代遅れになっていて数年前に買い替えたフラットベッド式のほうが圧倒的に気が利いているのでこちらを使い、パーマセルで直接フィルムをガラス面に貼ったほうが結果がよいのでフィルム固定用の枠は使わなかった。こうするとニュートンリングが発生するケースがあるけれど、後の作業で容易に消せるし、気になるならざらついている乳剤面をセンサー側に向ける裏焼きのかたちでスキャニングしてPhotoshopでひっくり返すやり方だってある。

こうしてデジタルデータにして、当時のレンズは性能を全発揮できなかったのたのだなと感じた。80年代のレンズをデジタルカメラに装着すると不満が多いのだが、フィルムで撮影し引き伸ばしていたときに解像していなかったものや消えていたトーンがスキャナーによって掘り起こせた。デジタルカメラが一般化する21世紀以前、80年代以降もフィルムの時代は続いていたので最後までこれらのレンズの真価を引き出せないままだったのだ。とはいえ、古いネガは(ちょっとした事故ですべてを失うデジタルデータ以上に堅牢であったが)一部劣化がひどく万全な体制で変換作業ができた訳ではない。

ちょっと驚いたのはMinoltaのレンズが素晴らしいものだったことだ。私がMinoltaを使用していた理由はカチカチな描写にならず紙焼きで本領を発揮するところで、当時から好きなレンズであった。なのだけれど、やや不満もあってCanonに鞍替えした。ではCanonで撮影したネガはMinoltaを数倍上回る描写かとなると、上回るというより「あの時代の雰囲気が的確に反映された」レンズだった。うーん、ここは難しいところだ。Minoltaはウェットで、Canonはちょっとドライ。サバサバしているというか。自分が撮影したものに限らず80年代の写真を見ると、言葉では言い表しがたい時代風のナニカを感じるけれど、あれはライティング等の影響だけでなくレンズの描写も関係していたというのが発見だった。現在どちらのレンズが好ましいかなると、いまどきの感覚(私感)ではMinoltaだ。中判に通じるゆとりがある。これがMinoltaを継承したSonyのレンズにあるのかどうか、私はSonyを使用していないのでなんとも言えないない。どうなんだろうか?

もちろん当時だってNikonは横綱であったけれど、試しに撮影させてもらったとき自分の現像や焼き付けスタイルにあっていない気がしてCanonに行った。ところがカメラを本格的にデジタル化する際、私はNikonにしたのだった。この経緯は割愛するが、高画素機にフィルム時代のAi-Sレンズを使うとなかなかどうしてよいもので、かつての印象を一変させられた。しかしフィルムではどうだったか試写の現像焼き付けのみなのでなんとも言えない。一つだけ言えるのは、私の暗室レシピに合っていなかっただけでよいものだったはずだろうと。はっきり書くと、解像と像のしっかり感、複数のレンズの統一感など私が知っているCanonより上である。まあ好き好きという面があるので、他の人は別の印象を抱いていることだろう。

80年代から90年代へ私の現像焼き付けの技術は進歩したし、あとで掲載する写真のうちスタジオ調の緞帳のある場所で撮影したものはほんと極々初期のもので20代前半の小僧だったときのものなのでいろいろ比較するのは無理なところがある。しかも撮影場所の環境が望み通りにできず、やや増感しなくては微妙に動く人物を写し止めることができなかった。いまだったらストロボ一発、二発、三発と使用できるのだけれど、あの時代に300W超のストロボはとても高価で私は手に入れられなかった。でも、掲載分に限らずMinoltaのよいところは出ていると思う。ただし、微妙な被写体ぶれがあるのでこれを見て解像感が低いと思わないでもらいたい。

Canonは85mm F1.2開放のほか50mm辺りを使っている。洞窟的な場所の写真は85mm F1.2開放で、あのときは紙焼きにするのに苦労した。現在でも85mm F1.2ともなると開放はゆるい描写であるけれど、これはFDレンズのF1.2で「うーむ」なのだった。この試写で「開放の使い所は狭いよなあ」となったけれど、デジタル化の恩恵によって締まりを微妙なところまで調整できるようになってかなり面白い感じにデータ化できた。ここもまた当時のレンズは性能を全発揮できなかった思うところだ。ただし、FDの85mm F1.2をデジタルカメラに装着してよいことがあるかとなると、面白さを狙うなら別だがたぶん満足行く結果は得られないだろう。きっと中古品がどこかで売られているだろうが、コレクション目的以外つまり実用しようと考えないほうが吉だ。悪い条件ながら結構写っているし、まじめに造られたレンズなのだろうけれど、Nikonが85mm F1.2を製品化しなかったのはマウントの問題だけでなく品質のうえで価値あるものになり得ないと判断しただろうことがわかる。だいたいF1.4、F2で十分なんだし。今回掲載しない135mm F2は屋外でテストしたが、やはり開放はきつい。現在、私はZeissのMilvus 135mm F2を使っていて、これは硬すぎないのに開放からキリッとしている。バリバリに解像している。時代が違う点も合わせて、デジタル化によってレンズに対する要求がとてつもないく高いところに至っているのだ。

面白い点その2というか、すべての写真に共通する話として「私の写真は何も変わっていない」のだった。「わー、どうしよう」である。構図とか技能とか、冒頭にも書いたように不満があるし、掲載したものはすべて20代のせいぜい半ばまでのものだ。あれから何十年も経っているのに、根本は変わっていない。こればかりはデジタル処理でどうなるものではないし。おいおいギャラリーの方へ過去作を反映させたいとは思っている。

【80年代 / 20代前半の写真】

 

Fumihiro Kato.  © 2018 –

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Profile

F.Hiro.K
加藤(文)文宏 / Fumihiro Bun Kato a.k.a Hiro.K
写真家・作家 / Photographer Author
・北海道北見市生まれ。
・大学卒業時までに詩集「無題あるいはサラバ」、同「Cadenza」発表(共に絶版、在庫なし。「Cafebza」別装丁私家版のみあり)。
・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。
・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他)
・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。
・不二家CI、サントリークォータリー企画・取材、Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告、武田薬品工業広告、他。アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材、MIT Museum 収蔵品撮影 他。
月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。
・長編小説「厨師流浪」で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」他、小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。
・獅子文六研究。
・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。
・各メディアにおけるスチル撮影。
・オリジナルプリントの製作、販売。
・JSAHP正会員
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