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Mac OSのシステム環境設定 > ディスプレイ > カラー [補正]をoptionキーを押しながらクリックすると詳細調整ができるようになる。以下のような具合だ。
まずネイティブガンマ。調整しようとしているディスプレスそのものの基本特性がネイティブガンマだ。ディスプレイはディスプレイが設計されたときの性能通りにつくられているとは限らず(公差)、出荷されたときの性能が持続しているとも限らない。このためカタログに書かれている数値を鵜呑みにできないし、数週間前に調整したままの状態が維持されているとは限らない。だから「調整しようとしている段階」の、「ディスプレイそのものの」の基本特性がどのようなものか明らかにするところからディスプレイの調整は始まる。これが「ネイティブガンマ」「ネイティブな応答を決定する」の意味だ。
では「応答」とは何か。もっとも暗い明るさからもっとも明るい明るさまでの連続した繋がり=グラデーション=階調を、等しく変化する量で表しても人間の眼には等しく変化しているように見えない。
中間の明るさが幅広く見え、急激に暗く、急激に明るく見えるのが人間の眼の特性だ。
ディスプレイに入力されたデータが均等に変化するグラーデーションでも、このままディスプレイに映し出す(応答させる)と人間には不均等に変化するグラデーションに見えてしまう。そこでディスプレイを人間が均等に見えるように応答の特性を変えてやらなくてはならない。ディスプレイに信号を送るコンピューターは応答特性を変えるようにプログラムされている。これは音楽CDに記録された音の情報そのものとアンプやスピーカーの特性の関係に似ている。CDに記録されたままの音を再生できるのが理想だが、アンプやスピーカーはそのままの音として再生できず、低音が足りなかったり高音が強すぎたりする。このようなとき、オーディオ装置のイコライザーなどを調整して「応答特性」を変えられるようになっている。
最近のPCとOSは、応答特性をガンマ2.2にするのが基本になっていて、これといった操作をしなければガンマ2.2の特性でディスプレイに像が映し出されるようになっている。数年前までMacはガンマ1.8をデフォルトにしていた。これはDTPに特化した特性で、商業印刷の印刷機がガンマ1.8を基準にしているため一貫した見え方でディスプレイを調整しておく必要があったからだ。ガンマ1.8は、ガンマ2.2より中間調が広く見える値だ。現在も印刷機はガンマ1.8を基準にしているが、ほとんどすべてのOSのデフォルトがガンマ2.2に統一されている理由は後述する。
冒頭に書いたように、[ディスプレイはディスプレイが設計されたときの性能通りにつくられているとは限らず(公差)、出荷されたときの性能が持続しているとも限らない。経年劣化だって生じる。このためOSがガンマ2.2の信号をディスプレイに与えても、ディスプレイがガンマ2.2で応答しているとは限らない。このためディスプレイを調整する第一歩は、ディスプレイの実際のガンマ値=ネイティブガンマ=ネイティブ応答を知るところから始まる]
ディスプレイを調整するとき、ディスプレイのネイティブガンマのままにするか、その他の値にするか選択できる。選択できない調整ソフトもあるが、Mac OSのシステム環境設定を詳細設定にするなら可能だ。
ネイティブガンマを選択して、つまりディスプレイの現状そのままにして、ガンマ値が2.2ぴったりである場合は稀だ。なぜ稀なのかここまでに説明済みだ。この2.2から若干ずれた値を選択しても、ほとんどの人は大勢に影響はない。影響があるのは、専門的に映画製作などをしている環境で複数の人が統一した基準で作業しなければならない場合くらいである。しかし、ネイティブガンマは日毎すこしずつ変化する可能性が高いので、あるとき製作した画像や動画と、後日製作した画像や動画を異なる階調性で操作していたことになる場合がある。写真をRAW現像する場合を例にすると、(応答特性がふらふら動くことで)過去に作業したとき十分に中間調が明るい画像をつくれていたが、別の日の作業では中間調が暗めになっている可能性などもあり得る。なので、ネイティブガンマを適用するより、2.2や1.8など割り切りがよく業界標準になっている値を選択したほうがよいかもしれない。
次に2.2以外の値を選択する場合を考えたい。(OSがWindowsの場合は知らないが)自由に無段階にガンマ値は選択できるとき、一般に2.2と1.8以外の値を選択する積極的な理由は一つもない。なぜなら、WEB用の画像、印刷への適応を圧倒的に一般的なガンマ値以外にして、WEBで画像を見る人、印刷物を校正する人、印刷物を見る人の環境と別物にしてもトラブルの元だからだ。2.2と1.8の差は小さくない。主に印刷物を対象にした画像をつくっているなら中間調が緻密に再生される1.8を選択するのも悪くない。ただし1.8にするなら、応答特性だけでなく印刷と印刷所の対応について熟知していなければならないだろう。また1.8の環境でWEB用の画像を調整すると、インターネットで画像を見る圧倒的多数、ほとんどすべての人に、調整して出力したままの画像として届けられない。
ガンマ値2.2が多くのOSでデフォルトにされているのは、人間の眼の特性に近い物であるのと同時に、インターネット用に画像や動画が使われる機会が増えて、多くの人がWEB画像や動画を観る機器(PCやタブレットなど)のデファクトスタンダードであるガンマ値2.2に統一したほうが無難だからだ。ガンマ値1.8も、人間の眼の特性に近いが、Mac OSは無難ほうへ歩み寄ったと言える。
ただ、ネイティブ応答が日々刻々変わる可能性だけでなく、調整されていない無頓着なディスプレイを使っている人のほうが多く、また応答特性だけでなく色についても同じことが言える。自分の環境がいくら正確なものでも、相手の環境が不正確なら、せっかく丹精込めて画像や動画を調整しても水の泡になりかねない。また、ディスプレイに固有の特性があったように、プリンターなどの出力機器にも固有の特性がある。プリンターだけを考えても、様々なメーカーが製品をつくっているし、普及機からプロシューマー用の機器まであり、さらにインクまで別物だ。こうしたバラバラな環境で応答特性や色を一貫して管理するのはほんとうに難しい。
人間同士のコミュニケーションでも、「赤い色」と誰かに伝えても、別の相手が想像する色は伝えた人が想定した色とまったく違う可能性が高い。伝言ゲームを間違いないものにするには、カラーチップを添付するくらいしなければならないだろう。被写体、カメラ、RAW現像ソフト、画像編集・加工ソフト、ディスプレイ、プリンター、別の誰かのディスプレイやプリンターと伝言ゲームを滞りなく正確にするため、画像にはプロファイルを埋め込むのが必須になる。またプロファイルを解釈できる機器やソフトを使うべきだ。カメラやRAW現像ソフト、ディスプレイ、プリンターなどはプロファイルを解釈して、それぞれが持っている固有の特性と照らし合わせることができるが、インターネットブラウザはプロフィルを無視する仕様のものが多い。
MacはDTPとともに発展したシステムなので、初期からOSの基盤部奥深くにプロファイルをつくったり解釈する能力を持っていた。これが「ColorSync」テクノロジーだ。Mac用のソフトは、(機能が実装されているなら)OSの深部にあるColorSyncに自由にアクセスできる。プロフィルに「ガンマ値2.2のディスプレイを使って、このディスプレイの色味はこういうもので、色空間はAdobeRGBである」と書き込まれているなら、この画像を開いたソフトはColorSyncに連絡してディスプレイに対して適切な階調や色を表示してもらえるようにし、このソフトからプリントするならプリントユーティリティーもまたColorSyncと連絡しあって自らの固有の特性とのすり合わせをする。
Windowsは事務機としての特性が強かったため、MacのようにDTPに強いOSとは異なる発展をした。しかし、これではDTPに対応できないため後年ICM2という階調と色の一貫処理のためのシステムを実装した。これがMacのColorSyncに相当するものなのだが機能はやや劣るものだ。また、Windowsのソフトの(すべてでははないが)多くがいまだにICM2になぜか準拠していなかったり、独自のカラーマネージメントを実装している。何れにしても、プロファイルを使って機器同士の伝言ゲームを行う。
こうしたプロファイルを使った伝言ゲームなら、画像や動画を作成するのに使ったディスプレイが多少おかしな階調性(ガンマ値)や色味であっても、このズレの量がプロファイルにちゃんと記述されているなら、異なるディスプレイで見ても、プリンターに情報を送ってもなんとか作成者が見ていたものに近いものをアウトプットできる。「赤い色」と言葉を伝えつつオレンジ色のカラーチップを手渡せば、言葉よりチップを優先するというルールがあるなら、伝言ゲームの最後まで色がぶれることはない。前述した、ガンマ値2.2でも1.8でもなんとかなる理由である。しかし、複数の人がひとつの作品に関わる場合や、一貫性と正確性を担保したい場合は環境の統一が必要になる。
写真についての例を挙げる。写真は色温度D50を基準して、印刷の校正が行われる。まずストロボの色温度は5000K、現像や加工する際のディスプレイも5000K(D50)、印刷機の基準も5000K、校正刷りをチェックする際の照明も5000Kと一貫させるのがもっとも誠実な作業だ。ここでもっとも重要なのは校正刷りの際の照明で、いくら装置が高度なものになっても印刷の評価は人間が行わなければならず、校正時の照明の色温度を軸に運用されている。印刷所はこうして印刷物の品質チェックをするが、アートディレクターが印刷所以外で校正をする場合は5000Kから大きくはずれた環境で行いがちで、デジタル撮影ではRAW現像時に白色中点を修正でき、さらにプロファイルが埋め込まれているならディスプレイ上のチェックを5000Kにこだわらなくても大きな間違いは生じないようになった。ただスチル写真ではストロボ光がおおよそ5000Kの色温度であり、商業印刷の校正基準が5000Kなので、作業をするディスプレスは5000Kにするのがふさわしい設定だろう。D65=6500Kも代表的なディスプレイの色温度だ。D65はD50より青みがかった高い色温度であるが、紙の白を比較的正確に表すとされている。確かにD50では白がアンバーがかって見える。
タブレットやスマートフォンは実測7200〜7500Kの色温度で表示している。PCのディスプレイも一般に同程度の値だ。したがってWEB用に画像をつくる場合は相手が使用する色温度を想定し、当たらずも遠からずの7400Kくらいでディスプレイを運用する必要がある。これは相当高い色温度であり、印刷を前提にした値とかけ離れている。D50で作業をしてプロフィルを埋め込み、これをWEBに掲載したらどうなるのか。WEBで重要なのは画像の軽量化であり、たかだかプロフィルの容量でさえ無駄とする風潮がブラウザをつくっている開発者にあるので、プロファイルを無視するブラウザが多い。こうなると、いくらプロフィルを埋め込んでもまったくの無意味であり、場合によってはWordPressなどCMS(Contents Management System)に設定を施したりプラグインを使いアップロードされた画像からプロファイルを取り除くケースもある。もし自分以外の第三者がCMSを管理していて、納品先の相手もCMSの設定を知らない場合、ブラックボックス化した管理体制のなかで思惑と異なった画像の扱われ方をされているかもしれない。むしろこうした扱われ方を前提にして、プロファイルに頼らず、一般的なディスプレイの色温度設定に合わせた作業環境をつくるほうが現実的といえる。
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