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カメラRAWの一形式であるDNGはAdobeによって制定されたものだ。カメラRAWはカメラメーカーごとに独自のファイルフォーマットで、さらに同じ拡張子であっても内容が違うケースがあり、もしカメラメーカーが過去の形式をサポート外にした場合やサードパーティー製現像ソフトがサポート外にしたとき現像不可能になる可能性がある。こうして写真資産や歴史的価値などがある写真が現像できなくなるのを防ぐため、AdobeはRAWファイルの統一を提唱しDNG(デジタルネガティブ)フォーマットを普及させようとした。しかし、カメラメーカーでDNGを採用する例はすくなく、依然として独自フォーマットが乱立する状況は変わらなかった。10年ほど前既に1000を大きく超える独自フォーマットが存在していたので、現状はさらに増えているのは間違いない。
DNGとは何かを考える前にカメラRAWとは何か整理する必要があるだろう。カメラRAWはメーカーごと機種ごと互換性はないが、文字通り「生データ」でありセンサーが出力したアナログデータをデジタル化しただけのものである点は共通している。
一般的なセンサーはR(赤)GG(緑)B(青)計4個の受光素子を一区画としていて、これらが規則正しく整列している。RGGBいずれの1受光素子も、それぞれ赤、緑、青フィルターを経たモノクロ階調しかデータを出力しないため、このままでは1画素ごとに色が確定されていない。カメラ側でJPEGやTIFFを書き出す設定にしていれば、撮像エンジンによって生のデータは現像され、1画素ごと色が確定されフルカラーが実現される。1画素ごと色を割り当てるにあたっては隣接(したり近くに位置)する複数の受光素子が記録したモノクロ諧調を利用するのだが、これら複数の素子から得られた情報の解釈のしかたは撮像エンジンごと違う。カメラRAWで記録した場合は、現像ソフトが撮像エンジンとして機能し、編集を加えた後にJPEGやTIFFに書き出す。カメラに内蔵されている撮像エンジンはファームウエアのアップデートがなければ購入したままであるし、機種ごと与えられている撮像エンジンが違えばメーカーは同じでも出力に差が出る。対して現像ソフトを用いれば、最新の、ソフトベンダーが最善とする出力が可能になる。カメラRAWがセンサーに配列されている受光素子のRGGBの並びそのもの(のモノクロ諧調データ)だけを記録していれば現状ほど規格が乱立することはなかっただろう。
DNGは既存の画像フォーマットであるTIFFをベースにしたTIFF/EP(電子静止画の画像-リムーバブルメモリ-パート2:TIFF / EP画像データ形式)によって記録されるフォーマットである。TIFFはデジタル画像形式としてはかなり古いものだが、記録できる内容に柔軟性が高いため、ファィル容量は大きくなりがちだが現在も様々な場面で使用されている。TIFF / EPはカメラRAWデータを記録するためのTIFFの拡張様式で、センサー個々別個のデータを識別できるようにカラーフィルターアレイの構成についての情報を格納できるようにしている。カラーフィルターアレイの構成は、データ内に「CFA(CFARepeatPatternDim、CFAPattern)から始まるタグで記述される。タグとタグ名は以下の通り。
014A 16 / SubIFDs
015B 16 / JPEGTables
828D 16 / CFARepeatPatternDim
828F 16 / BatteryLevel
83BB 16 / IPTC / NAA
8773 16 / InterColorProfile
8829 16 / インターレース
882A 16 / TimeZoneOffset
882B 16 / SelfTimerMode
920D 16 / ノイズ
9211 16 / ImageNumber
9212 16 / SecurityClassification
9213 16 / ImageHistory
9216 16 / TIFF / EPStandardID
圧縮は未圧縮、ロスレス圧縮、JPEGベースの不可逆圧縮が利用できる。
RAW現像ソフトの出力オプションとして汎用フォーマットであるJPEGやTIFFのほかDNGを選択できるものがある。RAW現像ソフトが出力するDNGは、カメラRAWを展開し(編集を加える場合もそのままの場合も)TIFF/EPに準拠したデータに書き直されたものだ。TIFF/EPはTIFFの拡張形式だがTIFFそのものではないので紛うことなきRAWデータである。カメラRAWであるので、一画素の色は確定されないままのRGGB各モノクロ諧調であり、現像または加工時の柔軟性が高く、現像ソフトの機能と現像品質をフルに活用できる。JPEGベースの不可逆圧縮をしなければ、画像の劣化はないと考えてよいだろう。ただし元のカメラRAWに格納されていた画像以外の撮影情報がそのまま継承されるとは限らない。撮影時のホワイトバランス、レンズ識別情報などといったものが、RAW現像ソフトで展開し書き換えた時点で現像ソフトが認識したり編集を加えた後の情報に置き換えられたり、レンズ識別情報が抹消されたりすることがある。
以前にも書いたように私はDXO PhotoLabを現像の事前処理に用い、PhotoLabでパース修正等をしてDNGを書き出し、このDNGファイルをCapture Oneで現像することがある。私はカメラはニコンを使用しているためカメラRAWの拡張子はNEFである。NEFには他のカメラRAW同様に、受光素子から得られた画像そのものものの素となるデータだけでなく、サイドカーなどと呼ばれる撮影情報を格納する領域があり撮影時のホワイトバランスやレンズ識別情報などが含まれている。PhotoLabでパース修正等をしてDNGを書き出すとき、PhotoLabがカメラRAWを解釈したり編集を加えたのだから当然であるが不要になった付随情報は抹消されてDNGそのものに含めないことになるのだ。しかしすべて抹消される訳ではない。
画像の回転方向など撮影情報はDNGに継承されるか、あるいは別体のファイルとして書き出される。このため他のソフトウエアにDNGを持ち込んでもシームレスに作業が可能になる。現像ソフトが未対応の新形式のRAWを、これに対応している現像ソフトやAdobe純正のDNGコンバータで変化する手法があるが、ただしすべての場合に使用できる方法ではない。PENTAXやFUJIの中判デジタル機が記録したカメラRAWをPhotoLabで展開しDNGとして出力したものを、Capture Oneに持ち込もうとしても両機種はCapture Oneが不対応で認識すらしない(Capture Oneは中判デジタル機PhaseOneを販売しているPhase One社の製品のため)。これは私が実際に行ったので間違いない。つまりカメラの機種情報は継承されていることになる。もしPENTAXやFUJIの中判デジタル機のデータを海賊行為としてCapture Oneで現像したいなら、機種データを消したり偽装したりするソフトウエアをつくればよいことになる。FUJIは知らないがPENTAX用にはこの種のソフトウエアが存在する。
DXO PhotoLabに限らずDNG出力を実装しているソフトウエアのメリットは、Adobeが想定した記録物として真に永続的なカメラRAWを保存する点だけでなく、汎用フオーマットに丸めずRAWのまま他の現像ソフトやPhotoshopに持ち込める融通性にある。JPEGは論外であるがTIFFなら劣化のない状態で画像を操作でき、上書き保存さえしなければ非破壊加工もできるが生データそのものではない。Adobe純正のコンバータで十分であるが、付加的に画像トリートメントするうえでDXO PhotoLabは有効である。ただトリートメントされれば元データと違うものがDNGとして記録されることになり、これを嫌うならAdobe純正のコンバータを用いればよいだろう。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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