モノクロ化の実例

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実例だなんて大げさで偉そうなところは気に入らないが、実例なのだからしようがない。私が直感的に作業している内容を、自分自身のために整理して文章化する。最終的に以下のような画像を生成させた。

まずRAWデータを展開する。私は現在のところフィルムと印画紙で実現していた調子をデジタルでなぞる方法を採用している。フィルムと印画紙が最善なのではなく、フィルムと印画紙が最終的に到達した画像の調子は古くから多くの人が努力した上に成り立っているので、やはり良いものは良いと感じるし説得力がある。

船体のサビによるディティールが特徴的で、船体は元々美しいフォルムなので立体感を大切にしたい。画面に大きな割合で占める埠頭のコンクリート面も疎かにできないので十分に質感を出したい。このとき、埠頭の描写が写真の印象を大きく左右することになるだろう、と感じた。これらを追求すると空と海がきっと暗すぎて汚れた調子になるので注意しようと思う。空のトーンの追求は、私のテーマなのでぬかりなく行いたい。

なお一連の画面キャプチャはクリックすることで拡大できる。また、UIのヒストグラムに注目することで操作によって生じる効果を画像変化からだけでなく画像中の階調を統計処理したグラフとして明確に把握できるだろう。

部分ごと課題はそれぞれだが、最初に全体を構成する基本のトーンをつくる。これは基本であると同時に作業がしやすいトーンでもある。デジタルカメラが出力するデータは硬調なのでフィルム並みに穏やかな調子にする。トーンカーブは逆S字と決め、ディティールを構成し各所に無数に点在する暗く微細な要素がつぶれないようポイントを探りながら暗部を持ち上げる。次に中間調がたっぷり残りつつも平板化して質感が失われないよう注意しながら明部を落とす。このままの状態ではかなり軟調だ。

ここで更にコントラストを落とす。以前から何度も書いてきたが「基本的な調子はトーンカーブで」つくり、コントラストはあくまでトーンの調整役にすぎない点を忘れてはならないだろう。もし明るさが満足いかないなら、「露出」ではなく「明るさ」で増減する。「露出」と「明るさ」の違いはスライダーの1目盛りで増減できる量の違いだ。なお、ここまでの調整はあくまでも基本形づくりなので、いずれかの段階で操作の方向性を変えなければならなくなる場合もある。

さて、ここからがつくり込みだ。このままではハイライトが立たず切れ味が悪いのでレベル調整を行う。なにをやったかは画像内に説明を書いた。

モノクロ化に取り掛かる。以下はカラーフィルター効果をかける前の状態だ。これはこれで悪くない。なぜなら、ここまでの過程で基本的なトーンを整えているからだ。古い時代の写真屋さんが紙焼きした際のトーンのようだ。

カラーフィルター効果を使用する。

ここまでの作業でものにした色に由来するモノクロの濃度を、彩度の調整で完成させる。カラーフィルターだけで必要な濃度を追求すると、どうしても過剰に効果を効かせがちになる。ともすると、自然界にある色のバランスを超えて特定色のみ暗くなったり明るくなったりして、周囲の物体との境に不自然な輪郭が生じる。また通常ではありえない黒つぶれ白飛びなどが生じる場合もある。したがって、おおよその濃度特性をカラーフィルター効果でつくり、あとは彩度に任せる手順になる。ただし、彩度を上げる場合は前述の「過剰なカラーフィルター効果」と同じ現象が発生する。不自然な描写にならないように、画像をくまなく点検しながら調整しなければならない。

詰めの段階に入る。ディティールを明瞭にするためクラリティーを上げ、ディティールを構成する個々の要素の分離をよくするためストラクチャーを上げる。ストラクチャー効果が掛けられない現像ソフトでは、シャープネスの半径を小さめに取り効果を加える。ストラクチャーを使用したとき、物体の輪郭に輝度が高い縁取りができる場合はシャープネスで同様の処理をして結果がよいほうを選択する。

埠頭部分をマスク指定し暗部側に比重を置いたトーン特性にして、明暗を強調した。なお部分指定した箇所のトーンカーブを変えられない現像ソフトは別の方法を考えなくてはならないだろう。1つ前の段階で画面全体にクラリティーとストラクチャーを加えたが、全体に同じ強さを与えるより部分ごと効果の度合いを変えたほうが最善なら、トーンと同時に効果を与える。

先程のようにマスク箇所を赤く塗りつぶしていないが、船体を一様に指定してメリハリを出しつつドンシャリにならないトーンを探った。結果として、画像に示したようなカーブを描くことになった。これで当初の目的である船体の立体感と同時にサビの描写を満足させた。クラリティーとストラクチャーについては前述の通り。

微調整のため船体のコントラストを上げた。

とりあえず完成。

で、冒頭の画像となる。

作品化した画像は別カットで、エグさを五割増しにしている。基本形はここまでの画像とほぼ同じで、さじ加減を変えていると理解してもらいたい。

モノクロ化は色が形づくっている対比を、すべて明暗の対比、明暗の階調に置き換える作業だ。これは自然界にはありえない調子だが、写真独特の技法でもあり、フルカラーでは表現できない格別な味がある。自然界にはないのだから、どのような明暗の対比、明暗の階調に置き換えるかは現像者の好みや目的次第だ。したがって、ここに示したものは「解答」ではない。ご参考までに。

 

 

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なる人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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