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何が何でもフィルムで撮影したようにしなければ自然な写真ではない、というのは極論であり、また正しい考え方ではない。ただデジタルカメラが高性能化した恩恵とともに、デジタルっぽいリアルさが鑑賞の妨げというか不自然さにつながっているのも事実だ。
デジタル化された写真の不自然さは様々な状態があり、原因もまた多様だ。このうちのひとつに、あまりによく写りすぎていたり、先鋭化されすぎることで、生々しすぎたり、実際には存在しない状態が記録されるケースがある。
この画像は遠景にある鉄パイプの構造物を、元データから800倍に拡大したものだ。パイプと背景との境に縁取りがあるのがわかるだろう。この縁取りは色収差やパープルフリンジに起因するものでなく、輝度の差が大きな部分に生じたものだ。これはアンシャープマスクをかけなくてもはっきりわかる程であるし、もしアンシャープマスク処理を加えたならさらに強調される。
縁取りは背景が「明」なら白く、「暗」なら黒く描画される。被写体の背景が明部と暗部にまたがっている際は、明暗の境目で縁取りがはっきり反転するので、これだけでもありえない状態だ。縁取りは現像処理の時点でコントラストを低くするほど目立つので、コントラストを下げて調整や加工しやすい状態をつくる際にやっかいなものとなる。コントラストを下げれば目立たなくなるように思うかもしれないが逆なのだ。
コントラストを高めると輝度差が間引かれ、これによって縁取りが吸収される。コントラストを低くしてトーンを生かそうとすると当然の結果として、縁取りが正直に描画される。仮に輝度1、2、3、4、5、6が分布しているとするなら、コントラストを高めると輝度(1、2、3)と(4、5、6)がくくられ、輝度(1)と(6)のみになり、文字どおり明暗比が強調される。縁取りの輝度が「3」であったなら消滅するのが理解されるだろう。
縁取りは3〜5pixel程度で、これがあることでシャープに見える場合がある。また、はっきり縁取られているとわかる場合もあれば、ぽんやりしていると気が付かず違和感だけ感じる場合もある。状態としては先に書いたようにアンシャープマスク処理で見かけ上のシャープネスを増したときと同じである。
では、違和感を取り除くにはどうしたらよいかだ。答えは、「手作業で消す」である。
すこし前に、現像後の画像の最終調整として「1pixel単位で作業する」ことを上掲の画像とともに書いた。現像時に1pixel単位でマスクを切るなどできればよいのだが、この作業はPhotoshopなどに持ち込まざるを得ないし、もともとPhotoshopはこの手の作業をするためのものなので勝手がよい。輝度差がある部分に生じる縁取り、またはアンシャープマスク処理をしたのはよいが部分的にどうしても許しがたい縁取りが出た場合は、現像後に画像をPhotoshopに委ね、スタンプツールで直近の背景をサンプリングして縁取りを塗りつぶすか、焼き込み・覆い焼きツールで背景と同様の濃度に調整する。このときツールの大きさは縁取りと同じかやや大きめに、直径3〜5pixel程度にする。そして、黙々と「手作業で消す」のだ。
たしかに面倒であるし、いくらやり直しが利くとはいえうっかり手が滑れば被写体を塗りつぶしてしまう。必要以上に塗りつぶしたら、その場でundoで、作業に慣れていないなら一歩進んで二歩下がる状態かもしれない。なのだが、これをやるとやらないとでは大きな違いが現れ、過剰な鮮鋭度が和らぎ、不自然さも消える。自然界に鉛筆で書いたような輪郭線は存在しないのだから自然な感じになるのは当たり前と言えば当たり前だ。
Fumihiro Kato. © 2017 –
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