DCI-P3広色域デバイスの普及とsRGB

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個人的には現像・編集環境の入れ替えが発端になり、あらためてDCI-P3を考える機会を得た。これまで写真の現像・編集はAdobeRGBディスプレイを使い、sRGB変換時はsRGBディスプレイで検討・調整してきた。このときsRGBディスプレイは4K以上のものでなく一般的な解像度のものだった。この環境が、想定されるユーザーの環境と一致していたからである。今回、機材の入れ替えでsRGBディスプレイは5kかつ色域がDCI-P3のディスプレイに変わる。5k化はともかくとして、広色域のDCI-P3に変われば自ずと「見ている色」が変わる。入れ替えの目的は多岐に渡るのだが、DCI-P3採用のディスプレイに決定したのは将来的にsRGBよりDCI-P3が重要になるとみたからだ。sRGBとAdobeRGBの次はDCI-P3とAdobeRGBの時代だ。

DCI-P3とは何か、である。DCI-P3は民生用ではiPhoneが牽引役として普及した色域で、sRGBより25%広い色域を表示でき、これはAdobeRGBより狭い。iPhone、iPad、iPod touch、他のApple社製デバイスの普及具合を考えると、DCI-P3の色域は相当数の人々が日常的に目にしているディスプレイの色域とわかる。だが、DCI-P3はスチル写真の世界でsRGBとAdobeRGBのように語られ考えられていると言い難い。一方シネの世界では、劇場、家庭用テレビ、PC、タブレット等と上映されるメディアやデバイスごと見た目の色が変わっては不都合であるため、スチルよりDCI-P3の色域について語られる機会が多い。いや、Rec.709に代りデジタルシネマ映写の色空間に対する新しい標準になっている。このようにシネがDCI-P3に対して意識的なのは、従来より広い色域を表示するデバイスの普及、DCI-P3とフィルムが記録できる色域が近似であるためのようだ。

比較:DCI-P3とAdobeRGB、sRGBの色域
色域の比較:sRGB/DCI-P3/AdobeRGB/

メディアやデバイスごと見た目の色が変わって不都合なのはシネだけの問題でなく、スチルであっても事情は同じだ。sRGBやAdobeRGBディスプレイだけで現像・編集・検討して決定した画像の色が、まったく違うバランスで見られていると考えるだけでぞっとなるはずだ。この図はsRGBを基準にして、黒線AdobeRGB、グレー線DCI-P3を比較している。顕著な違いは、DCI-P3はエメラルドグリーンの領域がAdobeRGBほどではないが、sRGBより圧倒的に広い点だ。エメルラルドグリーンだけでなく緑から黄色を経てオレンジ色に至る領域も広い。つまりsRGB環境だけで現像・編集・検討をしている際に見えなかった色がDCI-P3の環境ではかなり見えることになる。

誤解してはならないのは、広色域のディスプレイほどリアルで鮮やかな色味に見えるのではない点だ。常に、写真を現像・編集・検討を経て完成形にしたときのディスプレイと、これを見る他のディスプレイの相関関係で考えなくてはならない。もう一度、先の図を見てもらいたい。sRGBでは飽和していたエメラルドグリーンの領域の先に、まだ飽和せずDCI-P3とAdobeRGBの色の領域が広がっている。この先にある領域の色と、この色の階調が織りなしているディティールが見えないままsRGBディスプレイで現像・編集・検討したらどうなるだろう。記録方式をsRGB、後処理をsRGBに限定したとしても、完成形の写真を見る人がDCI-P3を採用するデバイスならほとんど意味がないことになる。一般的な傾向として、sRGB画像をsRGBディスプレイで見た場合より、同じ画像をDCI-P3とAdobeRGBディスプレイで見たほうが派手な色調に感じられるものだ。sRGBディスプレイで現像・編集・検討して丁度よい具合だったのに、DCI-P3(iPhone等)とAdobeRGBのディスプレイではどぎつい色に見えているという現象が発生するのである。AdobeRGBディスプレイは印刷用原稿を手がける人に使用がほぼ限られているが、何度も書いてきたようにDCI-P3採用ディスプレイは少数派ではない。

近い将来、sRGBを基本にするデバイスはDCI-P3を採用するデバイスにとって変わられるだろう。ここまで例としてApple社の製品名を挙げてきたが、他社製スマートフォンやタブレットが採用している色域を公開していないだけで、高解像度のディスプレイはDCI-P3かDCI-P3に近い広大な色域を持っていると考えたほうがよい。こうしたデバイスの普及度と使用実態を考えると、すでにsRGBは少数派なのかもしれない。

これまでもsRGBディスプレイで作業をしてAdobeRGBプロファイルを埋め込み、商業印刷(AdobeRGB)に回したとき意図しなかった色の派手さや色浮きが発生しがちだった。したがってこのような用途では最初から最後までAdobeRGBで一貫させ、とうぜんのこと後処理にはAdobeRGBディスプレイを用いるのが必須だった。同様に普及が著しいDCI-P3の色域を持つデバイスに対応するにはDCI-P3ディスプレイが必要になる。ただPC用DCI-P3ディスプレイそのものが少ないのが難点で、またいずれのディスプレイを使用する場合でもキャリブレーションが適切に為されていなければまったく意味がない。

Fumihiro Kato.  © 2017 –

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・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画、取材 ・Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告 武田薬品工業広告 ・アウトレットモール広告、各種イベント、TV放送宣材 ・MIT Museum 収蔵品撮影 他。 ・歌劇 Takarazuka revue ・月刊IJ創刊、編集企画、取材、雑誌連載、コラム、他。 ・長編小説「厨師流浪」(日本経済新聞社)で作家デビュー。「花開富貴」「電光の男」(文藝春秋)その他。 ・小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・「静謐なり人生展」 ・写真集「HUMIDITY」他
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