2015-09-29

workshop15. 三つの応答性が写真の性質を変える(恣意性とγ値)

1.
肉眼で見たままの像を写真で再現するのは不可能と言ってよい。
たとえレンズの諸収差がゼロになっても、どれだけ完璧なライティングや露光を与えても、肉眼が見たものそのものの画像は生成できない。限りなく肉眼が見たままに近いものを記録できるだけであり、ここまで撮影できるとしたら相当の手腕の持ち主と言える。

なぜ見たままに記録することが困難かと言えば、人間の目が光を感じ、神経によって脳に情報が伝達されたとき、脳は実際に存在する物体と異なるものとして像をアウトプットするからだ。
人間は形状はもとより階調すら、脳の働きに左右されたものを元にし、さらに脳が恣意的に描いた像を「実際に存在しているもの」として感じているのだ。
今回は階調性に着目し、写真について考えたいと思う。

私が撮影した植物の写真に対して、しばしば「どのように撮影したのか」「Photoshopで加工しているのか」と質問される。Photoshopを使用し同様の描画を実現するのは不可能ではないだろうが、かえって手順が複雑化すると思われるため撮影とRAW現像時の処理でギャラリーに掲載している写真の類を制作している。

冒頭で「目で見たものは、実物そのものでなく脳の特性に左右されたうえに、脳が恣意的に変えたもの」だとしたが、これを踏まえ私が行っている階調への「恣意的」働きかけを、階調の在り方と写真表現の関係の例にしたい。

図中の1.は私がストロボライティングを調整している段階を表している。
contrast1モデリングランプでおおよその見当をつけるとき、私が見ている被写体や背景は主観的な像として脳内に再現されている。
実際はなだらかな階調によって明部から暗部に推移しているはずの被写体や背景を、私は実物と違う階調の特性を持ったものとして認知している。被写体を太陽光で見たときの印象や、そうあるべきと脳が勝手に描いた像を「見たままのもの」としている状態だ。
このためストロボを発光させ露出計を使い被写体と背景それぞれの中心、上下左右の位置の照度を計測しなければ、実際の像がどのように光を反射しているかわからない。等しい照度に見えても、1EV(1絞り)〜1/3EVくらい違っているのはライティングを組み立てる初手では珍しくない。
1/3EVは下図に示すほどの違いで、人間が容易に感知できる差なのだが、これがわからなくなっているのだ。このため露出計の数値を見てどの程度の差があるか理解しライティングの微調整を行うことになる。
exposure2私は明暗差が極端にならず、ぎりぎりで白とび黒つぶれしないようライティングを決定しているが、これはRAW現像に持ち込む中間素材をつくるためであり、最終的にアウトプットする画像そのままの状態をストロボ光でつくりこんでいるわけではない。
contrast図中2.は撮影段階を表している。
前述のように光源を調整し、被写体や背景が反射する光をぎりぎりで白とび黒つぶれしないようにしている。このときレンズによって、ボディによって差が出るので機材自身の特性を把握しておかなければならない。
可能な限りライティングを忠実に反映させるよう撮影し、テザー撮影であれメモリーカードへの保存であれRAWファイルをつくる。RAWファイルにはテザー撮影時にモニターに映し出された像や背面液晶にライブビュー像として映し出され像以上の階調が記録される。ディスプレイなどで確認できるのは保存されたデータの極めて一部にすぎない。

図中3.はRAW現像を表している。
白とび黒つぶれを避けることで明部にも暗部にもディティールが残ったRAWファイルを元に、被写体の特徴に応じ階調の暗部はより暗く、中間部はそのまま、明部はより明るくし変化をつける。明部、中間部、暗部それぞれから任意の明度(明るさ)だけ選択し、基本とする色を1もしくは3程度まで減らしデータをつくる。すると、階調と色は相互に関係している──
明度彩度2──ので、このような操作を経てデータは下の画像のようになる。
2015_17858-2これは日本画の顔料が混色に向かず、限られた色だけで描くことにより遠近法を取り入れても平面的な傾向を帯びる点から発想したものだ(実際には階調を完全な段階にできないので、かぎりなく段階的に見えるようにしている)。
この方法論を応用すると、混色は可能だが限られた色数だけパレットに用意し描く油彩画に似た像をPhotoshopなどのエフェクトを利用せず生成できる。
下に示した画像は、フルカラーでは写真的すぎる生々しい表現になりがちなところを、わずかな違いではあっても色数を制限し階調の癖で全体をまとめ過剰なリアルさを回避させた作例だ。画像全体をオレンジ系の特定色と色域上で隣り合う緑、赤を多少加え画像として成り立たせている。色域を細分化させないなら、オレンジ系の範囲のみで構成されているとも言えるが、写真であり更にデジタル撮影であるから現像作業前のRAWデータにはRGB各要素がまじりあっている。階調に与える癖次第で、アウトプットされる画像の性格がかなり変わるのだ。
_DSC5823-22.
これらは恣意的に階調の在り方を変えた画像と言える。

前者の画像生成までの過程は以下のように整理される。
(1.)で被写体に対する階調の感じられかたが変わる点、可変するポイントは三つあるとした。
最初は、人間が目視して見てとったものと現実の階調の違いを知る過程だった。ここでは人間の感覚ではなく、絶対的な状態を反映するライティングを組み立てた。
これを次の撮影段階で、可能なかぎり余すことなく階調として保存した。
最後はRAW現像で、自然な階調(と同時に色)を間引いて人工的な状態に変えた。

階調の在り方はガンマ値を可変させることで変えられる。画像加工ソフトや現像ソフトでガンマ値を変える際は次のようなユーザインターフェイスを使う。
ガンマ1直線で表されてる部分の左下側が暗部、右上側が明部だ。暗部から明部に至る、変化を望むポイントを上げ下げする。グラフの縦軸、横軸は0から最大値255を表しているので、0または255に達した部分は完全黒色または完全白色になる。
また下辺にある暗部側と明部側双方にあるスライダーを移動させる量しだいで、それ以下の暗部、それ以上の明部を切り捨てることができ、切り捨てることで黒つぶれ、白飛びを人為的につくれる。このスライダー本来の役割は黒つぶれ、白飛びをつくるためとするより、階調全体の幅を縮めるためと考えたほうが適切だ。
こればかりは実際に操作し、実感してもらうのが理解への近道だ。

ではガンマ値とは何か。ガンマ値は「応答性」の値だ。
応答性とは、入力されたデータに対して出力する側がどのように反応するか、入力信号と出力信号の関係を表す際に用いられる言葉だ。
これは音楽や音響の世界で使われるイコライザーを思い浮かべるとわかりやすいだろう。イコライザーはiTunesにも実装されているので、以下のようなインターフェイスを呼び出せるはずだ。
equalizerCDを音源としたとき、CDに記録されているデータそのものは変えることができない。だが、CDからアンプやスピーカーに入力される信号は同じでも、個々のアンプやスピーカーの特性によって聞こえる音が変わる。これは同じ音源であってもアンプやスピーカーの応答性が機種により異なるため違いが音となって耳に届いている状態と言える。
iTunesのインターフーフェイスを見れば一目瞭然だが、イコライザーは周波数帯を区切り、それぞれを任意の値に変えることができる。耳に届く音を確かめながら周波数帯の出力値を個々に上げ下げし調整することで、アンプやスピーカーによって応答性が変わっても違和感を小さくできたり、音源そのものの音をさらに自分好みに変えることができる。
低音部が強調されすぎるスピーカーならイコライザーで気になる低音域の周波数帯を下げる操作をし、高音域が強調されすぎていれば同様に気になる周波数帯を下げる。この操作はスピーカーの応答性に合わせて入力してやる信号を可変させ音を理想に近づけているのだ。

画像に話を戻せば、人間の目と脳の特性、カメラの特性、ディスプレイの特性は、応答性がばらばらと言える。
人間は恣意的にものを見ているだけでなく、目視の感覚は均一に推移する階調=グラデーションが存在しても中間調が広く明部と暗部側が詰まったものとして認識される。
人間の応答性をわかりやすくするため誇張したのが以下の階調性の違いだ。上のような階調が実際に存在しても、人間には下のように見える傾向がある。
contrast3contrast4このためディスプレイは入力に対する出力を1:1(ガンマ値1)にせず、あえて1:2.2(ガンマ値2.2)をデフォルトにしている。したがってディスプレイでこのページを見ている人には上下二つのグラデーションのうち、上が一様になめらかな階調の推移となって見えているはずだ(JPEG圧縮にともない細かな段階が生じている点は無視していただきたい)。
ガンマ値2.2とは下の図の赤線のように中間域の応答性を下げたものだ。これはイコライザーで中音域の出力を下げた状態と同様に理解してよい。緑の線はガンマ値2.2を1に可変させる操作だ。

暗部から明部にかけての人間側の応答性は、中間部が高く、中庸な明るさで感度が高い。このため中間部の明るさをより強く感じる。つまりディスプレイ側で中間部の出力を落としたガンマ値2.2もしくはガンマ値2.2近辺の値にしないと、なだらかに推移する階調が映し出されても人間にはなだらかな階調に感じられないのだ。
ガンマ
これはライティング作業中の私にも言える特性だ。
被写体や背景などを見て中間域が広いものと脳が認識し、さらに主観的な心の働きが加わった状態で物体を見ているのだから正しく明暗を把握しにくい。具体的には、中間部の明るさの中に存在する無視できない明暗の差を認識しくい。これは私に限らず人間共通の特性と言える。

人間の偏った応答性を適切化する指標が、露出計が示す値である。
ストロボは瞬時に光る光源なので露出値を知るため露出計が必要なだけでなく、人間の視覚特性(応答性)が平均的なものではないので機械的な指標が必要なのだ。
こうして限りなく素直な特性をもった画像を撮影し、RAWデータとして保存する。限りなく素直な特性をもった画像を保存したのは、現像時に使える階調を増やすためで、手持ちの絵の具を増やすのに等しい意味を持つ。
もし明るい部分、暗い部分が白飛びや黒つぶれしていてはディティールが描けない。ディティールが描けないと、その明るさの領域は使い勝手が悪い。あとで白く飛ばす、黒くつぶすとしても、素材としてはディティールが残されていたほうがよいのは、あとからでも簡単に白飛びや黒つぶれさせられる一方で、存在しないディティールを復元するのは無理だからだ。

元のCDが低音と高音だけレベルが高く中音域の周波数帯がかぎりなく少なかったとしたら、いくらイコライザーを使用して高音から低音までを任意に調整できるとしても、調整可能な幅は狭い。高音から低音まで素直なレベルで録音された音源なら調整範囲は広い。
録音技術者が演奏を録音し、この素材からミックスダウンを経てCDをつくるとき素材の音源を癖のないものにしようとするのと、撮影しデータを記録するまでは階調を自然なものにしておこうとするのはとても似ている。
使える階調と色を豊富にもった状態は、先に述べたように色数が多い絵の具のセットを手に入れたのに等しく、自由度が高い中間素材を手にしているといえ、ここから必要な絵の具を数種類だけ選ぶのも、すべての絵の具を使うのも現像者に決定権が委ねられている。

3.
デジタル写真を撮影する際、三つの応答性に注意を払いたい。
・人間の感覚
・記録
・現像
の3ポイントだ。

人間の視覚が感じ取る階調は、明るさの中間域が実際より広い。これで何も問題ないように感じるかもしれないが、脳が「見たいように、ものを見た」結果の中間域が広く明部と暗部との差が大きい視覚は実態とかけ離れ、露光値を適切化する上であてにならないものだ。

人間の視覚の癖を知らないまま、あるいは頓着せず、光線状態を把握したつもりになったり、ライティングをかたちづくるとどうなるか。ここまでに説明してきたとおり、RAW現像時に可変できる範囲が狭いデータしか記録できない。
見た目でなく露出計を正確に使用し、明部、中間部、暗部を素直かつディティールを残し記録しておけば、あとはいかようにも階調の在り方を変えることができる。

RAW現像では階調の幅を狭く、広く、あるいは間引くなど応答性を変えられ、むしろ変えないのであれば撮って出しのJPEGやTIFFとさほど変わらない画像しか得らず、わざわざ現像する必要性はない。
RAW現像のメリットは露出の失敗を補える点にあるのではなく、画像の性質を変えられるところにある。その変えられるもののひとつで、最大の効果とも言えるのが応答性の可変だ。彩度やコントラストはカメラ内の設定で撮って出しのJPEGやTIFFに反映させられるが、細かなガンマ値の変更はRAW現像でなければ不可能だ。

三つの応答性を三位一体のものとして写真を考えなければならない理由は以上のとおりだ。

RAW現像でガンマ値を変える際は、画像が変化する様子をディスプレイで確認しつつ行うのは当然だが、同時にヒストグラムの変化に注意を払いたい。画像だけを見ていると階調の飽和、色の飽和を見過ごすことが多い。またここでも脳の「見たいように、ものを見る」特性が悪さをしている。アウトプットして冷静に観察したら眠いしまりのない画像であったり、逆にどぎつい画像、ある特定色が埋没した画像であったり、逆に突出した画像になっている場合がある。

ガンマ値の可変は、S字、逆S字、U字、逆U字型と定型とも言えるものがあるが、階調上のどの位置を中心にどれだけ応答性を上げ下げするか注意深く探らなければならない。
こればかりは各自が求める状態に近づけるため試行錯誤するほかないが、失敗をしてもデフォルトの状態に戻せるので気を楽にして作業してもらいたい。そして試行錯誤することで、これまでPhotoshopなど画像加工ソフトでしかできないと思い込んでいた状態を生成できるのを体験してもらいたい。
原理を知り理詰めで方法を探ると、案外簡単に独自の画像が得られるはずだ。

 
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