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workshop 7. 目測撮影、ノーファインダー撮影の実践
1.
ライカM4-P、M6を使用して得たものは、距離の目測法とレンズの画角同様のフレームを頭に叩き込めた点だけだったかもしれない。それほど一眼レフはいろいろな意味で便利なのだ。逆の言い方をすれば、距離計連動式カメラの場合、測距も画角を示すフレームもあてにならないということだ。
「距離を正確に測るための距離計だろう」と言われるかもしれないが、距離計連動式カメラの測距点は画面中心部にしかなく、画角の端にあるものへピントを合わせようとすると、一度カメラをそちらの方向に向けて測距し、また狙い通りの構図にしなければならない。
問題は二つある。
a.カメラの角度が変わることによりコサイン誤差が生じ、厳密な被写体までの距離とずれる。このため常に被写界深度を確保しなければならない。
b.画角の隅のものへピントを合わせるための動作、またもとに戻す動作、これらが時間の無駄である。
つまり面倒でやってられないし、測距誤差が出るのを含んで被写界深度を稼ごうとするのだから、目測で距離の見当をつけヘリコイドを回したほうが圧倒的に仕事が早いとなる。
ライカの場合、各レンズの画角相当のフレームがファインダー内に表示されるが正確性が乏しい。さらにファインダーの倍率次第では広角系のレンズの画角を表示しきれないため外付けの別体ファインダーを使用する。ホットシューに取り付けるアレである。この別体ファインダーは大まかな見当をつけるぐらいの正確さしかない。
と、なると被写体と出会ったら目測で距離を見計らってヘリコイドを回し、ファインダー内を隅々まで見ることなく、チラ見するだけでシャッターを押したり、まったくファインダーに頼らずシャッター押すのが日常的になる。
このような撮影ではピントだけでなく、画角内の構図、水平、垂直も怪しいものが出てくる。そこがライカの偶然性の醍醐味で、一眼レフが存在する時代に距離計連動式カメラに厳密さを求めるのは酷というかそもそもが無理だ。
ただしライカを売り払った後も距離の目測と画角の把握が一眼レフの撮影に生かされているのを感じる。
これは一眼レフで写真を始めた私が、ある段階までさほど意識せず曖昧に運用してきたもので、不便なライカと出会って意識的になり、その重要性がやっと理解できたのだ。
2.
まずAFが一般的となりMFにスイッチを切り替えたままにしている撮影者は多くないだろう。だがAFが動作しようとするとき、そのレンズはどこまで繰り出されているだろうか。もし直前の撮影で1m先の被写体を撮影したとすると1mの距離にピントがあった状態になったままだろう。このとき例えば5m先の被写体へ、寄れるレンズであれば30cmまでAFでレンズ群を移動させることになるかもしれない。そしてAFは時としてピント位置を探して迷う。
超音波モーターが採用されているレンズなら被写体発見と同時にヘリコイドを自ら回し、そのあとの微妙なところをAFに任せれば圧倒的に撮影が早くなる。さらにはAFより、目測で概算した位置までヘリコイドを回しMFするほうが早く正確となるだろう。
また装着しているレンズ、携帯しているレンズの画角が頭に入っていれば目標物を前にして移動しなおしたり、ファインダーを覗きながらズームを寄り引きさせて迷うことが減る。減るどころか、かなり正確に切り取られる範囲が頭に浮かぶ。
最近はスナップショットで人物を撮影するのが難しい事情があるとはいえ、出会い頭に格好の状況が目に飛び込んできたとき、画角と距離の概算が把握できれば(ある程度は被写界深度に頼るとはいえ)露出だけオートにし即座にシャッターを押すことも無理ではない。
スナップショットに限らずスタジオで◯◯を撮影する、屋外で誰々を撮影するとなったとき、レンズの選択に迷いがなくなり、被写体の位置決めとフレーミングからシャッターまでの時間が大幅に短縮される。つまり被写体をどの位置に置き、ワーキングディスンタンスをどの程度取り、そのとき背景がどのようになるかが直感的に把握でき、その予測は大きくはずれない。
3.
画角の見当を頭に入れるのは単焦点レンズだけで撮影していれば、ものの数日で画角が理解される。すべての単焦点レンズで理解への道のりを経ずとも、1本の代表的なレンズ──標準レンズ近辺──の画角が直感的に視界と重なるようになると他の焦点距離も関連付けられるようになる。
人間の感覚は柔軟で、しかも意外なほど正確なのものだ。
考えてみてもらいたい。距離計連動式カメラ登場前のピントグラスを持つ大型カメラ以外の機種、登場後もいくつもの機種で距離合わせに目測を採用していたのだ。しかも(口径比が暗く開放でも比較的被写界深度が深かったと言えども)50mm以上のレンズで目測撮影は珍しくなかった。
距離の目測は自分の体や、あるいはどこにでもあるもので距離感、幅感を憶えるだけだ。
自らの身長は誰でも知っている。ここにまず身長◯◯◯cmという基準がひとつある。次に自分の片腕の長さ、いわゆるリーチを知ればこれも基準になる。
日本の障子やサッシの規格は一間180cm。片側だけのとき90cm。一般的なデスクの高さは70cm前後。畳のサイズは地方ごとに違うが、身近な六畳間の縦横の長さを知るとこれも基準になる。6m幅が道路の規格となっているケースがあり、これが上下線であれば12mとなる。このほか身の回りに存在し常に視界に入れられるもので距離感、幅感を把握し、実際に目測だけで撮影をしてみる。撮影コストが掛からないデジタルなら、いくらでも実写可能だろう。
ただしこのとき、あまり厳密かつ神経質にならないほうがよいだろう。絞り開放で撮影し、さらに中庸な絞り値で撮影したものを比較して、中庸な絞り値で概ね満足できる状態なら合格くらいに考えたほうが気が楽だ。
その次に距離を目測、画角も目測、つまりノーファィンダーで撮影してみる。レンズは標準から広角がよいだろう。標準では無理と感じるかもしれないが、繰り返すうちになかなか正確な範囲を写せるようになる。遊び感覚で試してみればよいだろう。
成功したか失敗したかはどうでもよいとし続けることで、カメラの操作のうちファインダーの機能を肉体化するレッスンとなる。もしかすると意外な様子が撮影でき、新たな発見につながるかもしれない。
一通り実践してみると、いかにAFが便利か理解されると同時に、AFがいかに不便かも思い知らされるだろう。また、いつまでもファインダーを眺めてシャッターが切れない、シャッターチャンスを逃すことも減るだろう。撮影を急がなければならないときであっても、杜撰な仕事にならず、正確さが増すのも事実だ。
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