Workshop-1

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Standard Line up誕生の裏話はこちらです

Workshop 1.「Standard line up」
・必要最低限のレンズ、必須となるレンズについて。
・1本なら、3本なら、と限定したレンズ選択について。
・手持ちレンズの焦点距離を拡張する際の合理的選択。
※以下、レンズの焦点距離はライカ判フルサイズに準拠した値とする。

a.
35mm判(ライカ判)で標準レンズが50mmとされる根拠は諸説あるが垂直画角27°、水平画角40°、対角画角47°で得られる遠近感の描写が肉眼で目視するものに近いため、と考えてよいだろう。なお画角は焦点距離固有のものでなく、フィルム・センサーサイズによって焦点距離と画角の関係が変わる。同じように遠近感描写も焦点距離固有のものでなく、画角固有のものだ。

人間の視野は、漠然と空間を見るとき水平方向に54°以上の広さを持っている。水平画角54°とは35mm準広角レンズの視界だ。ところが、この画角で得られる遠近感描写は実際より誇張され、肉眼で目視した空間より近くのものは大きく、遠くのものは小さくなる。

視野から言えば35mm前後を標準レンズとしてもよいし、実際にこのように運用している人は多い。
だが、人間の感覚は視界の広さより遠近感の感じられ方に敏感であるため、漠然とした空間描写に35mm前後のレンズは向いているが、被写体に寄ったり引いたりすることを考えると50mmがオールマイティーに使え妥当な焦点距離となる。
なお人間の感覚が視界の広さより遠近感の感じられ方に敏感である例はパノラマ写真を思い浮かべれば理解されるだろう。パノラマ写真は水平方向に広大な画角を得ているが、この広がりに対して大きな違和感はない。

50mmレンズの垂直画角27°、水平画角40°、対角画角47°で得られる視界は、ほんの少し何かに注意を向けたとき、ちらりと何かに視線を送ったときに認識できる範囲程である。

b.
仮に標準レンズを50mmとして基軸に据えたとき、広角側、望遠側にどれだけ焦点距離を伸ばせば適切なのだろうか。

必要最低限で、最大効果が得られる広角側、望遠側それぞれ1本を考えると、広角28mm、望遠100・105mmくらいとなるだろう。
スタジオでの撮影から、取材、ルポルタージュまで、28mm、50mm、100・105mmで仕事が可能だ。もちろん、より望遠側が必要なシーン、より広角側が必要なシーンはあるが、28mm、50mm、100・105mmだけでもなんとかなる確率は高い。ことに100・105mmをマクロ(マイクロ)にすると有利である。

なぜ、28mm、50mm、100・105mmなのか根拠を示す。

Standard-lineup

50mmを使用していて縦構図にしたい場合、構図の適切化だけでなく、画角を狭くしたい欲求が心理の根底にあるケースが存在する。50mmで縦構図にしたとき、横構図の垂直画角が水平画角となり27°だが、これは85mmの水平画角とほぼ等しい。
85mmには85mmの画角の必然性があり無用なものではないが、50mmでワーキングディスタンスを詰めたり、縦構図で対応できる可能性もある。

85mmで得られる画角は50mmの画角から情報を整理し、そぎ落とし、主題を引き立てたいときの画角と考えられる。

対して100・105mmとなると、85mmにはない遠近感の圧縮効果が現れはじめ、50mmと85mm以上にワーキングディスタンスが遠くなる。つまり50mmとの差が明確になる領域に入るのだ。

次に広角側への拡張を考えたい。
先に35mmの画角は人間の生理感覚に近いが、遠近感の誇張がみられオールマイティーに使いにくいと指摘した。35mmの画角で広々とした空間を中距離から無限遠にピントを置いて撮影する場合は、さほど遠近感の誇張は問題とならない。しかし近距離にピントを置いた場合、中景、遠景との物体の大きさの比率が気になりはじめる。

ただ50mmで画角が狭いと感じ35mmにレンズを交換しても視界が広がる度合いがすくない。50mmの対角画角を垂直画角とする28mmが、50mmと85mmの関係と相似しており、さらに準広角では得られない遠近感の誇張が明確にはじまる焦点距離と言える。

50mmと85mmでは、50mmで代替できる可能性と、85mmでは遠近感の圧縮効果が薄い点を挙げ、最小構成・最大効果の望遠側を100・105mmとした。28mmの場合、画角と遠近感の誇張のバランスが50mm、100・105mmと相性がよく、明確な描写の差を生み出せる。

では24mmはどうだろうか。
28mmの画角は、人間が漠然と空間を認知する際の35mmの画角より広いが、認知の周辺部=見えているが集中できない広さまでカバーしている。24mmとなると、見えているが集中できない広さを超え、見えていない、雰囲気だけ感じる領域まで画角に入る。
これはこれで好みの問題であるが、最小構成・最大効果を考えるとき、広角くささを消したい場合もあり、28mmは35mmに近い撮影も可能となる。

28mm、50mm、100・105mmの3本のレンズの画角は中判にも適応される。中判の標準レンズは70〜80mm程度でライカ判換算にすると40数mm〜それ以上であるので、これに順次広角側、望遠側に拡張すればライカ判と同等の効果が得られる。
もちろん人それぞれ、さらに広角側、望遠側に拡張しているが、まずこの画角があればほとんどの仕事はこなせる。

c.
では、「Standard line up」からの拡張を考えていく。

まず、35mmのほうが50mmより生理的に合っているのであれば、50mmの位置に35mmを置き、「Standard lineup」の考えかたで広角側、望遠側を選択すればよいだろう。24mm、35mm、85mm、といった具合だ。
ただし、この選択ではマクロレンズを入れにくくなる。
上記の85mmを100・105mmとしマクロにすると、35mmとのつながりが悪くなるが、ここは人それぞれである。

同様に動物、鳥類の撮影を基本としている人にとって標準レンズは400mm相当となるだろう。
このように特化した撮影では、「Standard lineup」の理念は通用しなくなる。

繰り返しになるが、「Standard lineup」は最小構成、最大効果を狙ったもので、この3本だけ所持して撮影に出かけて過不足ないものにしようとする狙いがある。

「Standard lineup」に則り、広角側に拡張するのであれば24mmを飛ばし20mmのほうが変化がつき、同時に広い画角を得るという目的にもかなっている。
20mmの画角は人間が目玉を左右に動かしたり、軽く首を振る程度で見渡せる範囲を撮影できる。見えてはいないが記憶で補完されている領域を撮影できると言え、このような場所であったと一枚の写真で報告するのに好都合の画角だ。

20mmを単焦点とする割り切りもよいし、17・18mm程度から35mm程度までのズームでもよいだろう。
17mmとなると記憶で補完される領域外まで写し込めるが、歪曲収差や高さ方向へのパースの補正を行うと、トリミング同様の操作が行われるため結局は20mm程度の画角となりがちだ。
もちろん歪曲が小さいか、気にしないか、気にならない場合は17・18mmの画角をいっぱいに使える。

次に望遠側に拡張しようとするとき問題となるのは、100・105mm以上の望遠単焦点が大口径で重厚長大なものになり、価格も跳ね上がることである。また最近はズームに圧され、単焦点レンズの選択肢が狭いのも頭が痛い。

100・105mmの隣に並ぶレンズは135mmであるが、200mmに飛んだほうがワーキングディスタンス、遠近感の圧縮効果ともに変化がつき、遠くの被写体を引きつる望遠本来の目的にもかなうだろう。

だが200mmを単焦点で所有するより、70-200mmズームを所有するほうが一般的な時代となった。これはこれでよいのではないだろうか。
意外な感じがするかもしれないが、「Standard lineup」で定義した28mmとの相性もよい。レンズ2本での撮影では70-200mmズームと28mmが何かと便利である。

なお70-200mmズームに限らないがインナーフォーカスレンズ(レンズ全体を繰り出してフォーカスを合わせるのでなく、レンズの一群のみ動かしてフォーカスを合わせる機構)が一般的となり、無限遠では文字通り70-200mmのレンズであるが最短撮影距離に近づくほど画角が広くなる点は留意しておきたい。
つまり70-200mmズームで中距離から近距離にかけてピントを合わせたとき、レンズは200mmは135mm程度、70mmは50mm程度の画角だ。

d.
「Standard line up」を軸にし、この中にマクロ(マイクロ)レンズを入れて、基本形はできた。
ここから拡張した場合、

20mmあるいは17・18-35mmズーム
28mm
50mm
100・105mm(マクロ・マイクロ)
70-200mmズーム

となる。これだけあれば特殊な撮影でなければ事足りるだろう。
標準ズームを入れるなら、さらに簡素化できる。ただし、ズーム全盛の時代とはいえ単焦点の旨味は相変わらずであるし、単焦点を扱えない限りズームも自在に扱えないのは事実なので、できる限り核心部分は単焦点レンズを揃えておきたい。

ただ商売だけで考えるのは野暮であり、好きな画角が人それぞれであるから、「Standard lineup」にこだわらず、拡張の方法論を利用してもらえればと思う。事実、私もライカ判フルサイズでは105mmはマイクロとF1.8大口径、さらに85mmなどと「Standard lineup」を基本としつつも用途に応じてレンズを用意している。

 

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