workshop25. 劇薬的効果に注意して写真に補助線を引く

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アンリ・カルティエ=ブレッソンのスナップも木村伊兵衛のスナップも、それぞれ構図が黄金分割や幾何学的均衡に支配されている。スナップに限らず写真は勢い、好奇心、被写体を発見するための注意、撮影への意欲が第一なのだが、名作と言われる作品が名作たる理由のひとつに、美的緊張感が欠かせないひとつの証明と言えるだろう。もちろんブレッソンも木村伊兵衛も、ライカのファインダーを見ながら黄金分割などを計算していた訳ではない。瞬時に背景を含め画面の緊張と弛緩を肉眼の時点で(カメラを構える以前に)見極め、レンズの画角やパース描写にふさわしい位置に移動していたのだ。これはふたりについての証言を読めばわかる。

ふたりの巨匠のあとに我がことを書くのはおこがましいかもしれないが、私の実経験をここに示す。下の写真の撮影地は四川省自貢。日が落ち始めた繁華街の目抜き通りに、露天商が続々と集まりはじめたところを撮影している。成功か失敗か。ボツにはならず、このサイトにも掲出している写真だが私としては失敗作だ。どこが失敗かと言えば、主題である男性が担いでいる天秤棒の先の荷物が撮し取れていない。だが、構図的には面白いとは思う。24mmをノーファィンダーで撮影した。ノートリミングである。後付けではなく、この構図の構成を狙ってシャッターを切っている。問題は、レンズの選択に対するワーキンクディスタンタスと腹の位置ではカメラがやや高かった点だ。

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Editorial ❏ Reportage

 

構図

補助線・赤は全体を支配するパース。補助線・緑は男性の重心位置と画面内の関係。補助線・青はパースと拮抗する流れだ。このように補助線を引くと、自分が撮影した写真に潜む幾何学的要素に気づく。

画面を支配するパースは写真の基底部に動感を与える。このパースに拮抗するもうひとつの流れは、角度しだいで静けさにも、喧騒の表現にもなる。この例では喧騒に貢献している。男性はかなり右側に位置しているように見えるが、腕を含むと重心は横1/3の位置。左から1/3の位置には背後の洋服屋と彼が陳列しようとしているズボンがある。そして、左隅に雑踏を示す男の後ろ姿。彼の頭頂部は、パースと拮抗する流れの頂点。これだけ左側に重心が寄りながら、右隅の空白が気になりにくいのはパースと拮抗する流れの余韻、残心のようなものが持続しているからだろう。

自分の写真、あるいは写真集の写真などに補助線を与える作業はとても有意義なもので、構図がうまくない理由、うまくいった理由が一目瞭然になる。補助線はパース、重心位置と画面内の関係、パースと拮抗する流れに限らず、どのような要素があるか自分自身で考えながら見つけてもらいたい。だがこの手法は劇薬なみの効果があると同時に、副作用に気を付けなくてはならない。

幾何学的効果にがんじがらめになると、勢いが構図から削がれ、撮影意図が幾何学的構成だけの写真を量産しがちだ。スナップなどでは「瞬時に背景を含め画面の緊張と弛緩を裸眼の時点で見極め、レンズの画角やパース描写にふさわしい位置に移動する」こと、静物では対象を決めた段階で「瞬時に……」と直感と撮影準備が結びつかなければならない。したがって、補助線引きはこれらを獲得する自習にすぎない。構図決めのためいつまで経ってもファインダーをにらみ、シャッターが押せないのでは表現が写真である必要性がまったくないだろう。無意識の領域に、確固たる構図への美意識が確立されればよいだけだ。

 

Fumihiro Kato.  © 2016 –

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