workshop11. ライティングを設計する(2

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1.
前回、ライティングの概要について説明した。
今回もまた一灯ライティングで光を設計する話を続けたい。

「一灯で光を設計する」では矛盾しているのではないかと思う人もいるだろう。だが一灯でもライティングは設計できるのだ。と同時に、一灯で光を設計できないと多灯は無理だ。

2.
スタジオを使用するには料金の問題が立ちはだかり、そうそうテスト撮影のためのみで利用していられないだろうから、狭い空間で実験を兼ねられるブツ撮りをしてみたらどうだろうか。狭い空間なら簡単と感じるかもしれないが、広大な空間と違い光源ごとの光の分離が困難で、だからこそなるべく一灯でやりくりしないと撮影者自身が混乱を来すことになる。

私はときどき自分が使い慣れたライティングから程遠いものや、撮影用品が実現してくれるものを敢えて別のもので再現する遊びをしている。嫌いな光の状態であっても、いろいろ学べることがあるものだ。

次に示す画像もまた自分自身に強い制限と課題を与えて試みに撮影したものだ。

制限と課題は次のものだ。
限りなく短時間に、限られたものを使い、ライティングは一灯のみで「グラデーションを配し背景に広がりを持たせた写真」を撮影する
つまりテーマは「グラデーション」だ。
グラデーションをつくるには、ホリゾント型をした撮影台の天井部にトレーシングペーパーを張り、背景側(ホリゾント形状側)のトレペに黒ケントを置く方法がある。だが、そこまでやるだけの時間と、ホリゾント状になった撮影台そのものがない中でグラデーションを実現しなくてはならない状態と仮定した。
取材ものの撮影現場で、予期しないブツ撮りが要求されるケースがある。しかも設営から撤収まで時間が限られているのは珍しくない。
test1[第一回]でソフトボックスではなくアンブレラでよいだろうとしたので、言った以上は責任を持つため私自身もストロボにはアンブレラ+ディフューザーを使用した。光源の位置は向かって左側上部、ほんの少しだけ逆光ぎみに配置。
グラデーションはA3程度の厚紙を図のようにカールさせただけである。したがって撮影スペースはA3程度の紙をカールさせたものを載せられる台の面積だ。奥行きがあるように見えるが、カメラ背面から数センチでカール部が始まっている。
以上でとりあえずグラデーションは完成する。

だが、これだけではレンズにコーティングの反射によるハイライトが入らないため、鏡をレフとして配置しカメラとレンズ下の影消しにも使用している。このとき反射の影響を受けボディ上部が明るくなりすぎないよう鏡レフの角度を調整している。また煩雑になるので図では省略しているが、カメラ前についたて状に白レフを立て、レンズの描写に寄与させた鏡の担当領域以外に作用させるよう角度等を調整した。
test本心を言えば多々不満があり、これでは商売の撮影としては失格なのだが(ストラップ留めの金具が明後日の方向を向いているのを除いても。ここは笑ってやってください)、ストロボ設置から15分で「グラデーション」の課題はとりあえず満たすことができた。またボディ各部のスイッチ類もとりあえずつぶれることなく描写した。
モノクロ化した場合も背景との分離に問題はない。
test2

これが第一カットめで、ここから詰めて行くとしたらレンズに入るコーティングの様相の描きかたを改善したい。このハイライト描写では見栄えがしない。またボディ向かって右側の軍幹部が、向かって左と異なる様相になっているのを平均化したい。等々が頭の中を駆け巡ることになる。この場合の対処も一灯増やすのでなく、レフ等の工夫で乗り切ることになる。

3.

短時間、限られたスペースと道具だてで「グラデーションを配し背景に広がりを持たせた写真」とする課題は、撮影の直前に思いついたもので、どう対処したらよいかまで考えていなかった。さらに手元にカメラくらいしか被写体がなかったのでカメラを撮影することにした。たまたまカメラを被写体にしたが、面倒このうえないものを被写体にしたと正直なところ後悔した。

ここから撮影準備に入ってからの私なりの思考が「ライティングを設計する」になる。

グラデーションを描くのも、被写体を描写するのも同じ光源だ。このときグラデーションだけ描けても、被写体の立体感や細部が描写できなければ本末転倒になる。両者を満たすには被写体であるカメラの軍幹部がハイライトになるライティングを選択しなければならなかった。

もし被写体正面斜め上部に光源を位置させるとグラデーションが描きづらい。描けないこともないが、この狭い空間上では背景が明るくなりすぎる懸念があった。ハレ切りのようなものをストロボ前に部分的に設置することも考えたが道具立てを減らす条件からはずれるため却下した。また主光源を正面側に位置させると、ペンタブリズム全面の「Nikkon」のロゴの背景が明るいグレーになり、白文字のロゴとの分離が悪くなるだろう。ここははっきりロゴを浮き立たせたいところだ。

ただここで問題になるのは、被写体であるカメラ正面とレンズ部の描写だ。グリップ部が凸状であるため奥まった部分がつぶれる可能性が高く、同様に向かって右側の奥まった部分もつぶれるだろう。
さらにレンズにコーティング独特の反射が入らず、のっぺりしたガラスとして描写されるのが目に見えていた。
そこで通常のレフではなく鏡を用いかなり強い反射光を被写体であるカメラ前面に当てている。反省点としては丸い形状の鏡を使用したが四角形のほうがよかったかもしれない。またレフだけでレンズ部の描写ができなかったか検討の価値はある。
ただし、被写体前面の描写のためだけに追加の一灯を加えなくても済むのは事実だ。ここでは鏡の角度は重要となり、これはモデリングランプの光を頼りに探るほかない。
光源のやや反対側に位置するボディ向かって右側は、カールさせた紙と紙を乗せた台(白色)の反射を受け、これらがレフの代わりになっている。

ライティングと言えばストロボ、あるいは複数のストロボの配置や光量の増減と考えがちだが、このケースでは鏡とレフがもう一灯の役割を果たしている。

4.
この課題を巨大化させ、ホリゾントがあるスタジオで、それなりのサイズがあるものを撮影し、このときホリゾント独特のグラデーションを求められたらと考えてみる。

この場合、一灯だけでは光源が足りない。
だが、ホリゾントにグラデーションを描くための光源、被写体を描写するための光源の大きく二郡に分類されるだけだ。このように二郡に分けてライティングできるなら、被写体側のライティングの自由度が格段に広がる。[第一回]から読み進めた方には、どうしたらよいかストロボの配置が目に浮かんでいることだろう。

スチル撮影の場合、ラティングのスタイルはそうそう何パターンもある訳ではない。基本は[第一回]に示したもので、あとは今回のようにやや逆光気味の斜光線を使用したり、料理写真では正面上部45°をひっくり返した逆光にするなどだ。
そのほかは「おまけ」で、ガラス器に注がれた飲料の透明感や爽やかさを演出するためハニカムなどで集中させた光を透過させたり、ガラス器や宝石など乳白アクリの撮影台の下からライティングしたり、この方法で被写体の影を消すなどだ。
人物撮影の場合も似たようなものなのだが、時流、今どきの表現としては簡潔なライティングが好まれている。

私はブツ撮りの専門家でないので、この分野を詳細に説明できないのだが、なるべく簡潔に撮影できるライティングを設計しなければならないことと、その被写体らしさを写し止めるため質感、反射をどうコントロールしたらよいか熟慮が必要な点だけは理解しているつもりだ。
モデルがいないからライティングの実習ができない、スタジオが借りられないから実習ができない、などということはない。自宅で、たとえばA3サイズよりやや広めの撮影台があれば様々な実験が可能で、これらは応用の元となる重要な要素を含んでいる。

誰もが簡単に撮影できるブツ撮り用のキットが販売されているが、ストロボ、トレペ、レフになるもの、鏡、遮光用の黒ケントなどで一度でも工夫をしてみると、ライティングとは何か自分なりの定義が生まれるだろう。
またポートレイトでもブツ撮りでも、雑誌やカタログに様々な写真があるはずだ。なかには私の作例のように手抜き写真もあるが、よい写真なら観察してどのような方法で撮影しているか考える習慣を持つと得をすることがたくさんあるはずだ。

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